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9月18日

 ガリウスの一件でごたごたした事があってから数日後。宇宙から現状の報告が如月司令の元に入ってきた。情報を受け取った如月司令は、共有するためにそれらの情報を光に伝えるべく通信を開いていた。


『と、いう事です』「そうか、宇宙の方は順調か……特に一番大事な転移陣を敷いている部分はほぼ完成したか」


 宇宙からの報告は大雑把に言えば、中央となる転移陣エリアはほぼ完成し、後はテストを行ってから本格的に始動する事。宇宙の鉱石をいくつか回収し、洗浄方法を確立した後に地上に転送を開始する事。現状特に問題は起きておらず、この調子で行けば今年の年末には全体の40%弱まで建築が進む事などが上げられていた。


『今年の年末に、各国に対してこれぐらい進みましたという報告を入れる予定となっています。40%弱まで建築が進めば、それなりに見れる規模になっているはずですので』


 如月司令の言葉に光は頷く。前線基地となる宇宙ステーションの建築に問題が発生していない事はとても喜ばしい事である。ここが躓くと、色々とヒューマン・トーカー作戦に支障が出てきてしまう。


「あとは宇宙で採れる鉱石の質などが気がかりだな……出来る限り洗浄方法を早く確立して、サンプルを多くの技術者たちの前に見せてもらいたい所だが」


 使い道があるにしても、採れた鉱石をどう使えばいいのかを調査する時間は必要だ。装甲向きなのか、それともフレーム向きなのか、もしくは別の使い道があるのか……合金にしたらどうなるのか、とにかくそこら辺の情報は必須である。


『宇宙で活動しているメンバーである程度の解析は進んでいます。装甲に使える部分が多いが、一部は貴金属に近い性質を持つという報告が上がっています。そちらは精密機械の素材として使えるのではないか、と期待しています』


 既に鉱石の調査はある程度進んでいたらしい。やっぱり専門家のやる事に畑違いな人間が意見を言って邪魔するのは良くないな、と光は考えを改める。


「そうか、流石宇宙に飛び立った優秀な者達だ。私の考える事などお見通しか……頼もしい」


 光の言葉に、如月司令も笑みを浮かべる。手塩にかけて育てた部下をこうして褒めてもらえれば、それは先達として誇らしい。


『また情報が入り次第、共有するために連絡いたします』「頼む。それから宇宙にいる者達に伝えて欲しい。君たちの働きは素晴らしい、その調子で頼むと」『心得ました、それでは』


 通信が終了し、少々ぬるくなった紅茶を光は口に含んだ。ちょっとしたドタバタこそあるが、全体としての流れは非常に順調である。このまま行ければ、宇宙空間での演習を何度かやれるぐらいの余裕を持って事に当たれる。それぞれの仕事に携わっている人々は十二分な成果を上げてくれている、と言うのが今の光の評価だ。


(だが、トラブルは予想していない所から起こる物だ。来年の戦いが終わるまでは、しっかりと心の紐を引き締めて緩まぬようにしておかねば。来年の戦いさえ何とか切り抜ければ、後は穏やかになるのだから)


 光はそう心の中で己を引き締めているが、これは何も光に限った事ではない。如月司令達もそうだし、当然マルファーレンス、フォースハイム、フリージスティの上層部もそうだ。いつ何時、予想外の横やりが入っても良いように気を引き締めていた。今までの神々の試練とは全く違う状況にある事が、より一層そうさせる原因だったが。



 一方で3国の国民は、次々と納入される機体を目にしてこれならついに勝てる、被害をゼロに抑えられるという希望をより大きく膨らませていた。でかさもそうだが、剣、杖、銃、そのどれもが凄まじい大きさを誇り、その大きい武器を難なく振り回すことが出来る各国の機体の雄姿に、心を奪われる者が続出した。


 もはや、日本皇国がやってくる前に誰もが心の内を塗りつぶしていた絶望感はどこにもなかった。特にマルファーレンス帝国の人々はその感情の変化が顕著である。光を始めとした日本人は知る事の無い事だが、首都に神々の試練が落ちるという予言が出た時のマルファーレンス帝国の落ち込み様と絶望感はひどいものであったのだ。


 そんなマルファーレンスの人々にとって、毎日完成して納入されてくるブレイヴァーはまさにただの機体ではなく護国の為に立ち上がる戦士の理想像その物と化している。崇める者すら出る始末である……


 だが、どんな理由であろうと人は希望があるのであれば前を向ける。絶望に塗り固められていても一筋の希望があれば、歯を食いしばって立ち上がれる。何より精神論ではなく、ブレイヴァーという実物が存在する事は、100の言葉よりも遥かに重みがある。日本がやってくるまでに進んでいた治安の悪化も一転して安定し、戦士の誇りを取り戻した人も数多い。


 当然マルファーレンス上層部は、その状況の移り変わりに心から安堵し、日本皇国に感謝していた。マルファーレンスの人々は戦士としての訓練をするのが日課な所があるため、暴徒になれば鎮圧するのにも大きな負担がかかる。しかも鎮圧する側にも、神々の試練で吹き飛ばされる場所を護って何になるという虚しさからくる意欲の低下も起きていた。


 だが、そんな悪い雰囲気は日本皇国が打ち出した巨大ゴーレム(と言う認識が、日本皇国以外ではまだ強い)を用いて星々の世界に乗り込み、迎撃するという話が持ち上がって──実際に動く神威・参特式や神威・弐式を見た時から一変する事となった。更にブレイヴァーが完成し、国民に正式にお披露目されてからは更に風向きが良い方に変わる。


 まさに今、マルファーレンス国民の心を支えているのはガリウスやフルーレと言った象徴の人々でもなく、フレグを始めとした上層部でもなく、ブレイヴァーと言う星々の世界で戦える巨人であった。ガリウスが先日ブレイヴァーに乗り込んで戦いたいと言ったのはそういう側面がある。ガリウスだって戦士の誇りがある、どうしてただ結果を待つことなどできようかと言う考えだったのだ。


 だが、フェルミアと沙耶のお仕置きによって泣く泣く諦めると同時に、後継者育成に力を入れる切っ掛けにもなった。今回は諦めるが、神々の試練は50年ぐらいに一回やってくる、その次回までに後継者を育てて自分は引退し、一戦士として宇宙に飛び立って戦ってやるという事が目標になったのだ。


 そのため、後継者候補であるガリウスの長男と次男は地獄の特訓を受ける羽目になる。2人ともブレイヴァーに乗りたいと口にしたが、ガリウスが無理やり黙らせた。ガリウスからしてみれば、お前らは若いんだからまだまだチャンスがある。俺はそこそこ歳食ったんだから、こっちが先だと譲らなかった。


 そしてその後、後継者を40年かけて育ててガリウスは国の象徴としての座を譲る事となるのだが、それはまた、別のお話となる。

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― 新着の感想 ―
[一言]  そういや、後継の人あまり出てきませぬな。
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