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5月20日

 二日後。 光の前に一枚の蝶の形をした紙がまるで生きているかのようにひらひらとゆっくり舞っていた。 一見光は遊んでいるように見えるが、これはれっきとした魔法の修行方法である。


「魔法も一日にして成るものではありません。 そして、最初の一ヶ月が特に一番大事なのです」


 フルーレはこう光に告げて魔法の手ほどきを始めた。 細かい話が多数あったのだが、話を大雑把に纏めると大体こうだ。


1、魔法は魔法回路と呼ばれる回路を開通し、その回路に自分の意思で魔力を流し意思を載せる事で発動させることができる。 回路の開通は、すでに魔法を使える者が特定の資格を取り習得することで開通させることが出来る能力を得る。 (光はフルーレによって魔法回路を開通させてもらった)


2、回路の強さ、太さなどは開通してから一ヶ月の間に、少しでも多くの魔力を回路に通わせることができるかどうかで決まる。 その後どんなに努力をしても強化されることも弱体化されることもないため、その一ヶ月は忍耐の一月と言われる。


3、回路が細かったり弱かったりすると、それに比例して魔法も弱かったり使えなかったり、最悪暴走させてしまい自爆することすらある。 逆にしっかりと最初の一ヶ月で回路を強靭に鍛えれば強力な魔法を使いこなすことが可能になる。


 という事であった。 そのため、フルーレたちの世界でも魔法を習うのは最初の一ヶ月に耐えることが可能な心身を得る、こちらで言う高校生あたりで始めるらしい。 先生が生徒の魔法回路を開き、生徒はそれから一ヶ月ありとあらゆる状態において魔法を流し続けるのだ。 もちろん大変だし、うっすらと汗も滲んでくる。 しかしそこでサボると将来魔法がまともに使う事が出来ない、という現実が容赦なく待ち受けているので、よっぽどのことがない限りサボる人は居ないそうだ。


 例外として病弱な者、大怪我を負っている者などは回路を開かないこともある。 回路を開くのはいつでも良いのでそういった者達も、体が回復すれば回路を開く者もいる。


 そして魔法回路に魔力が流れ魔法が流れていることの確認として最もお手軽なのが、今光もやっている蝶の形をした紙を落とさずに微弱な風魔法で浮かべ続けるという物だ。 これならば周りに危害を加えることもなく、一番安全な訓練方法であるとされている。 光の周りを飛ぶ蝶型の紙を見た魔法部隊の隊員は、訓練がんばって下さいと光に声をかけることも多かった。


「今日は視察に向かう。 フルーレ、ゴーレムを運用できる人数はこれで全員だな?」


「はい、私たちに同行したメンバーではこの10人で全員です」


「よし、では早速今日の目的地に向かう、光陵重化学の工場へ向かってくれ」


 光、フルーレ、ゴーレムを運用できる魔法部隊10名は一路光陵重化学工業のとある工場を目指す……そこに光が今後日本防衛に必要であると踏んでいる、ある物が密かに作られていることを忍の沢渡大佐からの情報で掴んでいたのだ。


 ────────────────────────


「これはこれは、総理直々の視察、ようこそいらっしゃいました、光陵重化学07番工場を預かっている如月と申します」


 60になるかならないか位の男が握手を求めてくる、この如月という男に会うことが光の目的の一つだった。


「いやいや、お仕事中申し訳ありませんな」


 そう言いながら、光は如月工場長と握手を交わす。 だが和やかな空気はここまでだった。


「して、わざわざ総理が直々に視察にいらっしゃった理由をそろそろ伺ってもよろしいでしょうか?」


 如月工場長の仕掛けてきた会話の切り出しに、光は速攻でのカウンターをかけた。


「そうですな、RS─001─KAMUI、直接拝見させていただきたいですな」


 如月工場長が一瞬で凍りついた。 RS─001─KAMUIとは、光陵重化学工業が今までの長い日本の奴隷として苦しんだ歴史を破壊するための秘策である二足歩行が可能で、多種多様な武器を運用し動き回ることが出来るという人型の機械仕掛けのバトルウォーリア、その試作品である。


 戦闘機は補給が困難であること、船では陸上での運用が出来ないこと、戦車などは地形による行動が左右されること(特にキャタピラが枷になる)、そうした理由もあり、人型で五本指を持ち武器を運用できるというアニメーションさながらの戦闘機体を作るという結論が下されたのが実に300年ほど前。


 それから試行試作を重ね、機密での専用OSの作成、ならびにアップデート。 機体の製作、問題点の洗い出し、あらゆる状況から生還する装甲に機動力、これらの条件を満たすための材料の確保など、多くの人間の血と屍を吸いながらも難題を乗り越え、ようやく形になったのがRS─001─KAMUIなのである。


「──総理は……どうやって存在を……いや、あの我々の血を奪うおつもり……なのですかな?」


 如月工場長は絶望の二文字が自分の目の前に立ちふさがっていくような錯覚を覚えた。 300年の成果がここで消えてしまうのではないだろうか? しかし、光の言葉は如月工場長の予想とは違う方向に向かいだした。


「いいえ、むしろ、もっと強化して欲しい。 そして、私専用の機体の製作、ならびに量産を推し進めて欲しいために、今日私はこの場所を訪れたのです」


 光は予想していた。 今日本を覆って保護してくれている魔法陣だが、おそらくAIを搭載した機械には無力であろうと。 AIならば幾らでも嘘をつけるからだ……AI達の意思とは無関係に。


 例えばだ、AI達に日本人が疫病で苦しんでいる為に救助に向かえという指示を下し、薬を持たせた場合は? 救助のため悪意に反応せず、その体は機械ゆえに魔法陣の人間の拒絶に反応しない。 そして薬の中身が実は麻薬であったり度を越えた栄養剤だった場合は? 麻薬も麻酔手術に必要となるため必要な面があるし、栄養剤も毒ではないため悪意にはならないだろう。 だが、そんな物を大量に体に一度に注入された場合はどうなる?


 格言にこういう言葉がある。『人が一番頭を使う事とは、他者の殺し方の研究をする事である』と。 故にいろんな人の殺す方法が世の中には存在しているのだ。 苦痛が少ない、多い両方を含めて。


 これらの考えを光はフルーレ達魔法部隊、如月工場長に語った。


「──今の世界は、こちらを攻撃できるのならどんな手段でも使えるだろう。 その時、フルーレ達ばかりに頼っていては、物量で押されかねない。 ならば質で立ち向かうしかないのだ。 それ故に、RS─001─KAMUIを母体とした強力な……あえて言おうか、スーパーロボットの戦士が必要なのだ」


 沈黙がしばらく場を支配したが、口を開いたのは如月工場長だった。


「──分かりました、魔法科学マギサイエンスに挑戦させていただきましょう! その代わり、もう我々がここで機体を作っていることは……」


 光も答える。


「責はすべて私が負う。 時間は少ない、やってくれ。 魔法部隊の皆も、ゴーレムの優秀な部分を提供し、より強い戦士を生み出してくれ」


 すかさず敬礼する10名のゴーレムを扱える魔法部隊の面々。 ここに新しい日本の戦力となる搭乗する機械仕掛けの戦士が生み出され始めた。


 ────────────────────────


「光様、本当にそんな恐ろしい未来が来るのでしょうか?」


 フルーレとの帰る道すがら、フルーレは不安そうな表情で光に問いかけてきた。 彼女の思考からかなり逸脱する話になってきていたからである。


「残念ながら現実にそうなってしまう可能性はかなり高いと言わざるを得ない。 今の世界は生産能力は全体的に見ると低いが、それでも唯一高い部分があった、それが軍事関連だ。 そして予想できることは現実になる可能性があるという事だ。 おそらく、今年の年末、転移する少々前に戦力を整えて仕掛けてくるだろうと予想している。 願わくばそれまでに……機械仕掛けの戦士が完成していてくれれば……」


 世界の方は日本の予想外の反撃によってかなりの混乱に陥っている。 それを纏めるには日本をもう一度悪党にして討てばよい。 静かに送ってくれる優しい世界ではないことを嫌と言うほど分かっている。 時間は後どれぐらい残っているのか……浮かんでいる蝶型の紙が不安定な動きを見せるのが、まさに今の世界情勢に見えて来る光であった。

話が進まない……でも何とか一話更新です。

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