7月12日
そして数日後。休暇は楽しめたか? ならもういいだろうと運命だか天命だかが口にしたかどうかは分からない。だが今、光は国会議事堂の前でフォースハイムの代表であるティナとともに頭を抱えていた。その理由は──先日光が話をしたソウル・ガーディアンである大魔導士が日本に急襲したからである。
ソウル・ガーディアンはその場所から動けないんじゃなかったのか、と光はソウル・ガーディアンの在り方を思いだしていたが──残念な事に、目の前に居るのは事実である。ならばなんとか対処しなければならないというのが今の仕事となる。そう考えなきゃやってらんねえ、と言う気持ちも入り混じっているが。
「まことに申し訳ございません……しかし、私達では止められず」「いえ、無理もありません。ソウルガーディアンに関する資料は読ませていただいておりますし、無理に止めようとすればどれほどの被害が出たのかはおおよそですが想像がつきますから……」
二国のトップが頭を抱えながらそんな事を話し合っている間も、ソウル・ガーディアンの大魔導士は同じくソウル・ガーディアンであり、万が一に備えて大急ぎで現地にやって来てた戦艦大和と戦艦長門を見て大興奮していた。
『おおー、これはまたでかいソウル・ガーディアンじゃな! 星々の世界すら駆けることが出来る船か……胸が躍るとはまさにこういう事じゃろう!』
とまあ、マイペースな調子である。とりあえず大和と長門の分体を通じて話し合いをした結果、今日日本にソウル・ガーディアンである彼がやってきた理由は自分専用の機体が欲しいという要望であった。
『見せてもらった後、儂なりにあれこれ研究をしてみたが……どうしてもあのような形にならぬ。神々の戦いにはもちろん参加させてもらうから、専用の機体を一機作ってはくれんかの?』
と、気軽に言われても困るのは光とティアだ。
「偉大な魔法使い様、お気持ちは理解いたします。しかし、今はすでに作られた機体を生産する事と、星々の世界に砦を作る事で日本皇国の皆様の手はふさがっております。どうか、もうしばらくのお時間を頂けないでしょうか?」
このティアの要望を聞いた老魔術師はますます目を輝かせた。
『なんと!? あの神々の世界に通ずる世界に行くだけではなく砦を築き上げようというのか!? よいぞ、実によいぞ! この国の人々は実に面白い! 何とも胸が躍る話がこうも出てくるとは、この国は何でもある玩具箱か!』
ますますハッスルしてしまった老魔術師を見て、再び光とティアが頭を抱える。なので、光はちょっと切り口を変えてみた。
「質問があります、なぜあなた様はそこまで神々の試練に関係する事にこだわるのでしょうか? そのお姿となられた理由が、関係しているのでしょうか?」
光の言葉に、老魔術師は深く頷いた。
『うむ、かつて儂は人であった。神々の試練による被害で友や妻、子を失い、神々の試練に立ち向かえる手段を見つけるのは儂の悲願であったと言っていい。あらゆる魔法を調べた。あらゆる技術を求めた。あらゆる装備を作り上げた。そしてあの日……儂はある街に落ちてくる神々の試練に精一杯抗った』
この話を聞いて、光とティアはお互いの顔を見合わせた。そう、聞いたことがある話だったからだ。ある街を魔法使いが神々の試練から守り、そして息絶えたという話を。
『積み重ねてきた研究の甲斐があって、儂の命の炎と引き換えにその街を何とか守ることは出来た……しかし、そこが限界じゃった。無念じゃったよ、一つの街を護るのが精いっぱいだったのじゃからな……そして死ぬ直前、儂はようやく悟った。護るやり方では今後も試練には打ち勝てぬと。星々の世界に上がって、戦わなければ護りたい物を護れぬと』
光とティアは確信した。このソウル・ガーディアンはある街に神々の試練から護ってくれた英雄として銅像が建てられている魔術師その人だと。しかし、銅像と外見が全く違う為、今日まで本人だとは分からなかったのだ。
『その無念さが、儂をこのような姿にしたんじゃろうな。当然ソウル・ガーディアンの研究もしておったからな、この姿になっても慌てる事は無かった。むしろ研究を続けられると喜んだほどじゃ。しかし、そこからはまた神々の試練で死んでいく者たちを見続けねばならなかったがな……下手に力を使えば儂は消えてしまう。そう感じておったから、体の安定と場所に縛られず移動できる体作りを優先した』
だから、日本にやってくることが出来たのかと光は納得した。この老魔術師は……いや、そう言えば大和も長門も普通に空を飛んで移動していたなと今更ながらに思ったが。
『そうして研究を続けたんじゃがな……お主と会う直前はもうどうすればよいのか分からなくなってきておっての。儂の限界は此処までだったかと諦め始めていたんじゃ。が、それをひっくり返したのがお主との出会いよ。まさか特注のゴーレムに乗り込み、戦うなどと言う発想に儂は衝撃を受けた』
空を仰ぎながら、老魔術師は話を続ける。
『そうして話をして、これこそが儂が求めてやまなかった力であり技であると知ると同時に儂自身が気が付いていなかった慢心にも気が付いたのじゃ。そう、ゴーレムはどうやっても使い物にならない、単純作業をさせるのが精いっぱいの存在だと思い込んでいた事じゃ。しかし、お主たちはそうではなかった。ゴーレムこそ、神々の試練を打ち破れる手段の一つであると気が付き、形にしたのだ』
まるで演説者の様に両手を広げ、老魔術師は話の締めに入った。
『もう我慢が出来んかったよ、儂も戦いたいのじゃ! お主たちが生み出すゴーレムにこの身を移して、神々の試練に立ち向かう勇士の戦列に加わりたい! そして、向こうで待っている友や妻や子供に見せてやりたいのだ、儂らを不幸にした神々の試練を、ついに打ち破った世界の姿を! だから頼む、何とか都合をつけて欲しい!』
最後は深々と光に向かって頭を下げた老魔術師。光は腕を組んで考え始める。
(すでに完成したソーサラーに乗せても、大丈夫なんだろうか? 何せあれはあくまで人に合わせた機体だ。ソウル・ガーディアンが乗るなんて事は想定していない……やっぱり専用のチューンは必要だろうな。しかし、今はすでに光陵重化学を中心として、各地の工場はブレイヴァー、ソーサラー、ランチャーの製作で毎日フル回転の状態だ。そこに更なる仕事を突っ込むのはな……宇宙ステーションの建設だってあるんだぞ?)
光個人が勝手に決めていい話ではない。いくら首相と言っても、好き勝手やっていいわけではないのは当然の話である。という訳で、緊急で大臣達を招集してこの老魔術師の一件をどうしようか話し合う事となった。さらにティアと通信越しではあるが如月司令も参加している。
「またとんでもない話がやってきましたな」「まさか、過去の英雄が姿を変えて現世に存在するとは……我々の地球脱出直前の光景に近いですな」「ですが、如月司令を始めとした多くの人々はすでに機体の製作や宇宙ステーション建築で手いっぱいのはずです、さらなる仕事を積み上げるのはいくら何でも……」
これ以上の仕事を増やしたくはない、と言うのが全体の総意である。しかし、彼がソウル・ガーディアンである事で、もし専用の機体を作ればそれこそ一騎当千の活躍をするのではないか? と言う意見も出る。今回の話を最後に決めたのは如月司令だ。
『まず、来年の神々の試練には間に合わない可能性が高いという条件を飲んでいただく必要はありますが……神々の試練は今後もやってくるのでしょうから、その次の神々の試練に時までには専用の機体を作り上げるという事でいいのではないでしょうか? あとは、機体製作にあたって全面的に協力してもらう必要がありますが、その点はよろしいんですよね?』
如月司令の言葉に、老魔術師からは『もちろん、儂に出来る事は全て全力で協力するぞ。むしろ、そうするのが当然じゃろ』との返答が長門の分体を通じて如月司令に伝えられる。これで話は決まった。
『では、今後は私達の所であれこれ協力しながら動いて頂ければと思います。その見返りとして、こちらも専用の機体を製作する。それでよろしいですね?』『うむ、そういう契約で構わぬ。無理を押して受け入れてくれたことに感謝するぞ』
何とか話がまとまってほっとした半面、また如月司令の仕事を増やしてしまったことに内心皆が申し訳なく思っていた。この判断が今後どう転ぶのかは、もうしばし時を置かねば分からないだろう。吉となる事を誰もが祈るばかりだが、先の事は誰にも見通せない。ただ、今できる事の最善をただひたすらに尽くすしかないのだ。
体調がだいぶ戻ってきました。毎年初夏から8月前にかけて、
異常に調子が悪くなる時期があるんですよね……今年はそれを乗り切った様です。




