7月4日
一連のトイレ騒動は何とか落ち着き、今の日本は前線基地の役目を果たす宇宙ステーションの建設を最大の目標として掲げている。その必要性を世界の国民に訴えるべく、すべての国が協力して一つの番組を放送する事が決定した。
それが今日、生放送と言う形で世界に放映される。 なお今回の公開放送の為に、日本は3カ国に巨大なモニターとスピーカーを始めとした機材を貸し出し、どの国の国民も自分の国でどういう話し合いと計画が立てられているのかを知ることが出来るように配慮した。
当然今各国の国民は用意されたモニターの前に集まっており(日本人だけは各家庭のテレビで見ているが)、視聴率は90%を軽く超えるだろう。
そして番組は最初に、宇宙ステーションの建設目的と完成時期についての説明が行われた。
『ふむ、では計画は予定通りという事で問題ないのだな?』『はい、今から約一か月後に宇宙に向かい、完成は来年の十月末ごろになります。神々の試練を迎え撃つには十分でしょう』
各国からガリウスを始めとした国家の顔と、フレグを始めとした各国の首脳を日本に集めて、宇宙ステーション建設開始に対する最終確認が公開放送と言う形を取って行われていた。もちろん各国の首脳は先に出された計画書を熟読しているので、これはどちらかと言えば、各国の国民に対する今後の対策をどうしているかをアピールする場と言える。
『こちらが完成した宇宙ステーションの姿となります。ご確認ください』
如月司令が、宇宙ステーションの完成予想図を見せる。もちろんこれも各国国民に向けての物だ。巨大な球体の周囲にリング状の外見を持つ姿に、各国の国民達は各々の意見をぶつけ合う。ただ、一つだけでなかった意見は、作れるはずがないという言葉であった。神威というとんでもないゴーレムを作った国なら、こんな事だってやってのけるだろうという期待と信頼の表れと見て良い。
どのような手順で宇宙ステーションが組み上げられていくのか、それはアニメーションによって、文字が分からなかったとしても理解しやすいように説明がおこなわれた。更に工期や完成後はどう扱われるか。転移陣が設置される事で、星と基地との行き来がスムーズである事、今後どのように使われていくかを包み隠さず公開された。
「外見は異様だが、確かに前線基地はあるとないとでは違いがでかい」「神々の試練に打ち勝つためには必要な経費だよな、これは」「ああ、前線に出向く兵士と言えど、休息なしで戦い続けろと言うのは無理がある。休息所、補給所、そして治療院も兼ねている場所があれば、心置きなく戦えるだろう」「スケールは吹っ飛んでいるが、前線基地を作って戦いに備えるという考え自体はおかしくないな、まともだ」
前線基地となる宇宙ステーションの必要性は、こうして国民に広められた。更にここで、各国専用の機体も国民の前に正式にお披露目された。どのような特徴を持ち、どのように戦うことが出来るのかを、アニメーションを交えて詳しく説明された。
「これが俺達の国の戦士が乗る機体なのか。専用と言うだけあって、日本が最初に見せたカムイというゴーレムとはかなり違うな」「なるほど、私達にとってなじみ深い武器と言えばやはり杖ですからね。魔法の増幅や護身用の棒術など、やはり使い慣れた物を持った方が戦いのイメージを持ちやすいです」「おお、あんなごつい銃まであるのか! これは何が何でも正式なゴーレム乗りを目指さなければな!」
お披露目された機体に対する反応は、おおむね好意的。一部で神威の方が好みだったという声も出たが……それは少数に留まっていた。なお、ここで各国の機体に乗り込む人間の表現法がフレグ、ティア、ブリッツから発表された。マルファーレンスは機士、フォースハイムはゴーレムマスター、フリージスティは闘銃士と今後は呼称される事となる。
『これらの機体の完成には、各国から来てくださった戦士、魔法使い、銃士の皆様の協力が必要不可欠でした。この場を借りて、お礼を申し上げます』
如月司令が、各国国民に対して頭を深々と下げた。これにより、各国は代表者がしっかりと仕事をしてきたのだという事を改めて認識するに至った。帰って来る時に少し揉めたという情報は入って来ていた為、代表は実は遊んでいたのではないか? だから帰りたがらなかったのではないか? と邪推する動きもあったため、如月司令が頭を下げた事で、そういった邪推が消えていく事となる。
『今、機体の生産にも全力を挙げており、かなりの数を用意することが出来る見込みです。ですので、この場を借りて告知いたします。各国専用機体に合わせたVR……要は乗り込んだらどう動かすかを体験できる物ですね。それらを1月後に各国に配布させていただきます。それらを用いて訓練をして頂き、来年の夏ごろ、総当たり戦をやって頂きます。その上位入場者から希望する人を、各国専用機体の搭乗員と致します』
この如月司令の言葉に、世界中の人々が大騒ぎの渦に飲まれた。乗り込んで神々の試練と戦いたいという人が非常に多い事は前にも述べたが、その戦場に出ることが出来る切符を手にするチャンスが突如もたらされたのだ。マルファーレンスだけでなく、普段は物静かなフォースハイムですら大騒ぎとなった。フリージスティや日本皇国も当然同じである。
「前のテストメンバーには入れなかったが、今度は入ってやる!」「あのゴーレムがあれば、男も女もない、筋力や魔力の極端な差もきっとない。私が、勝ち取る」「今日はとんでもない日だ、次から次へと驚きがやってきやがる! 熱くなってきたじゃねえか!」
ある意味、この情報が一番各国の国民を熱くさせた。1か月後が待ち遠しいという声や、今から体を鍛えておいて損はないとばかりに、今後の鍛錬のスケジュールを練り始める者など……1か月後を見据えて行動する者が非常に多くなっていく。全ては神々の試練に立ち向かい、そして勝利するという名誉と希望を己が手で掴み取るために。
一方で、必要な情報を流し終えて放送が終了した後の各国首脳達はほっとしていた。伝えるべき情報も無事に流せたし、国民が盛り上がってくれた事も各情報機関から知ることが出来た。これで、神々の試練がやってくるまでの間、世界がより強固な一団となって事に当たれる。
「放送は、上手く行ってくれたようですね。正直多くの人前に直接ではないとしても、顔を晒す事になったので少々腹痛が」「如月司令、ご苦労だった。説明は分かりやすかったし、専用に作ったアニメーションの出来も良かった。これならば全ての国の国民の皆様方にも今後の計画を理解して頂けただろう」
如月司令がお腹を押さえながら発した言葉に、光が労いの言葉をかける。そこにガリウスやフェルミア、沙耶もやって来る。
「うむ、如月司令はよくやってくれた。これで納得しない人はまずおるまい」「ええ、実に分かりやすい説明でした。誤解を生む事もないでしょう」「じゃな。本に見事であったぞ。今日は良く休むがよいぞ」
三者三様の言葉に、如月司令はゆっくりと頭を下げてからこの場を後にした。如月司令はこれからも仕事がたくさんあるので、休める時は休んで欲しいと言うのが光の意見だ。まあ、その意見は光に対して周囲が思っている事でもあるのだが……
「光殿、今後の協力はどういう方向で行えばよろしいでしょうか?」「今まで通りの形でお願いします。各国専用の機体はまだまだ作らねばなりませんし、宇宙ステーションの初期部分を作るための材料も必要ですから」
声をかけてきたブリッツに、光はそう返答を返した。しかし、ブリッツや沙耶はあまりいい顔をしない。
「光殿、今まで通りでよいのか? 正直に言えば、今回の計画は日本皇国に多大な負担を強いておる。必要と分かっている故に反対が出来ないが」「うむ、ブリッツの言う通りじゃな。少々と言う言葉では足りぬほど、日本皇国の皆は上から下まで皆が働く。むろん怠け者よりは遥かに良いのだが、やはり体が心配でならぬ。こちらに手伝えることがあれば遠慮などせずに伝えて欲しいのじゃよ」
さらに、ガリウスやフェルミナも参戦した。
「うむ、我らにはできぬ仕事が多い為に任せる他ないのだが……資金面や物資面での支援は欠かすつもりはないぞ」「私達も最大限の支援をする事に対して何の迷いもありません。神々の試練にここまでの計画を立てて対抗できる日など、日本皇国が来るまでは考えられませんでした。未来を子孫に残すためにも、出来る事は何でもおっしゃってください」
これらの言葉に、光は頭を下げた後に「いざと言う時はお願いする事もありましょう。ですが、今は現状維持で問題ありません。いざ、と言う時に備えて力を温存しておいて頂けると助かります」と伝えた。光にそう言われてしまえば、それ以上言う事も出来ず、彼らは引き下がった。
「さて、ここからが来年の末に待っている運命を左右する大事な時間となるでしょう。神々の試練に打ち勝つ事を皆で誓って、解散と致しましょう」




