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6月8日、10日

 3日後にフリージスティから。その1日後にマルファーレンスから。さらにその2日後にフォースハイムから宇宙ステーションの建設を認める親書を持った使者が日本にやって来た。各国から許可をもらった事で、宇宙ステーション建設計画が正式にスタートした。が、これに関する詳しい話をするのはしばらく後になる。


 緊急性のある仕事がなくなり、穏やかな表情を浮かべながら日々の仕事をする生活に光は戻っていた。重要な来客が来る予定もなく、厄介な仕事もない。無論総理大臣としての仕事は山盛てんこ盛りではあるが、去年の2月から始まった怒涛の展開から比べれば数段穏やかである。


(来年の秋以降はまた騒がしくなるだろう。今のうちに休んでおかねばな……そうでなければいざと言う時に無理が出来るだけの体力が無いまま挑まなければならなくなるからな。肝心な時に動けない人間など、何の役にも立たん。だからこそ休める時はちゃんと休まなければいけない)


 ──本人はそう思っているが、普通の人から見れば激務以外の何物でもない。慣れているからこそ光本人はその様に考えられるが、周囲から見ればもっと休んで! と言いたくなる所が多い。


 書類に目を通し、内容に可否を判断しながら仕事を進める事しばし……突如静かな政務室に通信が入った。通信を送って来たのは如月司令である。何か起きたのかと訝しみながらも、光は通信を繋げた。


「もしもし、こちらは藤堂。如月司令、何か問題が起きたのか?」『総理、お仕事中申し訳ございません。少々相談したい事がございまして……先日、ブレイヴァー、ソーサラー、ランチャーが正式に完成し、量産に入った事は報告したと思います』


 その報告は光も当然受けている。


「では、その量産に何か問題が?」『ああ、いえ、量産自体は速度、品質共に問題ありません。不良品が出る数もこちらの想定を遥かに下回っており、順調に各パーツが量産され、組み上げられております。そちらの方は問題ないのですが……問題は、日本にやってきて、今宿泊している各国から選抜されてきた人々なのです』


 各種データを取るため、日本にやって来てもらった3ヶ国出身の人々が問題と言われ、光は首を捻った。


「一体何が起きている? 彼らと日本が揉めたという報告はどの情報網からも入っていないのだが」『はい、そういった人間関係的な問題は確かに起きておりません。お互いに敬意をもって接することが出来ていますから。しかし、その……各国の人々専用の機体が出来上がった今、帰りたくないという意見が多く来ておりまして』


 なんでも日本の食事、生活に慣れてしまったら帰りたくなくなってしまったんだそうだ。食事はもちろん、用を足した後にお尻にお湯をかけて洗う装置や、気軽に入れる風呂、そして布団の眠り心地などに魅了されてしまった人が多数出ており、それらを持ち帰って自分の国でも使うという行為が難しいという事を理解した結果、帰りたくないという意見を出すようになってしまったのだ。


 むろん、彼らはタダで日本に居座ろうなどとは考えていない。仕事を見つけ、金銭を稼いで税金や家賃をきっちりと納めると言う考えを持っていた。さらに、日本の有事には率先してその身を盾とする覚悟も備えている。不法移民になるつもりなど全くなかったのである。


『とはいえ、彼らがこのまま日本に居続けたいというのであれば国籍を取ってもらわねばなりませんし……こちらが3ヶ国の国民を一方的に奪い取ったなどのうわさが立つような事になれば、今後の連携に余計な問題を生じさせるのは火を見るより明らかです。総理には申し訳ないのですが、どうか3カ国の代表の皆様とこの件に関して話をして欲しいのです』


 如月司令の言う事は尤もである。国民が少ないという問題を抱える3ヶ国にとって、さらに国民が移住して減ってしまうという事態は避けたいはずだ。日本皇国の一人勝ちなんて事態になれば、未来に暗雲を呼び込むような物だ。そんな未来を回避するために動くのは国のトップとして大事な仕事であると言えよう。


「分かった、確かにこれは放置できないな。彼らの意見も尊重したいが、各国代表にこの話をしないわけには行かない。今すぐ通信で呼びかけてみる事としよう」『お願いいたします。私達の方でも帰国するように説得しているのですが……彼らの意思もかなり固いのです。ですので、各国の首脳から帰国するように動いて頂きたい状況になっております』


 如月司令がこういう言葉を吐かねばならないレベルにまで、事態は進行していた。協力してくれた彼らを無碍に扱いたくはない。かといって彼らの要望を丸呑みするわけには行かない。そんな事を考えながら、光は各国への代表である、フレグ、ティア、ブリッツへと話したい事があるため時間を取っていただきたいと呼びかけた。



 そして2日後。一同が通信越しではあるが話し合いの場についていた。もちろんお題は日本から帰りたがらない3カ国の国民をどう説得するか、である。


『まず、日本の皆様にお詫びを申し上げる。まさか我が国の戦士達がそんな事を言い出してしまうとは、思いもよらなかった』


 フレグが真っ先に頭を下げた。彼にとっても、この話は寝耳に水状態で、事が終わればさっさと帰って来ると考えていたのだ。ところがどっこい、蓋を開けてみれば帰りたくないと言い出す始末。フレグも頭が痛かった。


『私としても予想しておりませんでした……日本の皆様には多大なご迷惑をかけてしまっております』『ええ、まさかこんな事になろうとは。しかし、認めるわけにはまいりません。彼らを認めてしまえば、第2、第3の彼らが出てきてしまい、人口流出が止まらなくなってしまう可能性が否定できません』


 ティアの謝罪に続いて、ブリッツがこの一件に関しては認められないという意見を出す。


『ブリッツ殿の言う通り、戦士の皆には申し訳ないが認めるわけには行かない』『そうですね、ブリッツ殿の危惧している事が起きてしまってからではいけません。最初が肝心ですから』「こちらとしても、異議を唱える点はありません」


 フレグもティアも、ブリッツと同意見である事を口にする。3人の言う通り、最初の1回を認めてしまったらそのまま2回目3回目の要望が出てくるのは想像に難くない。だからこそ、国民の要望と言えどもこの話は飲めない、と言う意見で全員の意思は統一された。


「では、意見の一致が見られた所で……彼らをどう返しましょうか。力尽くなどの血が流れかねない方法は最終手段にしたい、と言う意見も一致すると思います。そのような手段を取れば後々において碌な事にならないという事も、意見が合う筈です」


 光の言葉に、誰からも否定する声は上がらなかった。力ずくが碌な結果を生まないなんて事は、彼らも重々理解している事である。


『彼らの要望を見る限り、やはり家に関する事が多いようですね。しかし、風呂やトイレに関する要望は個人的には盲点でした。風呂は皆で入るもの、と言う考えが強かった私にとって、個人でゆっくりと入れる風呂が気持ちいいという声が自国の戦士達から上がるとは』


『私の国から出した魔法使い達は、特にトイレにご執心なようです……むう、手を使わずに用を足した後綺麗にできる装置ですか。出した物をあまり見たくない、と言う人も多いですからね。そういう人達にとっては非常に良い物だったのでしょう』


『問題は、電気が無ければ持ち帰っても使えないという事ですね。唯一布団だけは持ち帰れば使えますが……やはり、浴槽とトイレも何とかしなければ彼らは嫌がるでしょう』


 その点をどうにかできれば、懐柔は難しくない。だが、その点が一番難しい。


『魔力でも使える風呂やトイレがあればよいのではないでしょうか』『無茶を言わないでください、一つの技術を作るのにどれだけ時間と資金がかかるのかわからない訳ではないでしょう?』『しかし、普通の説得では通じないだろう。こっちは最悪私と戦って勝てばいいという力技も使えるが……』


 いい考えがそう簡単に浮かぶはずもなく、ああでもないこうでもないと話は一向に進まない。帰りたくない! と言っているメンバーの要望を叶える方法が今すぐ用意できない事が全ての足かせとなっている為、話し合いを行っている全員が頭を抱えている。


「協力してくれるのだから、出来る限りの環境を。そう思って行動したのがまさかこういう形で問題を引き起こすとは……思いませんでした」


 光が漏らした台詞に、3ヶ国の皆は責めるような事はしない。


『その行為そのものは間違っていない。我らとて同じ事をするだろうな』『協力を仰ぐ時はどの国でもできるだけの好待遇をするものですから』『ええ、光殿がその点において苦悩なさる必要はありません。こちらとしてもまさか送り出した皆が帰りたくないなどと言いだすとは思っておりませんでしたから……』


 フレグ、ティア、ブリッツの順に光を慰める。そこから話は再開したが……時間をかけても、更に人を呼んで知恵を絞っても、この日の話し合いでは良い解決法は出なかった──

一つが終わったと思ったらまた一つ問題が。

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― 新着の感想 ―
[一言] 高層マンションでも各国に建てれば問題ないんじゃないかな?旧世界でも他国のインフラ整備やってたことだし。それに依存されるとマズイけど。
[一言]  シャワー機能必要??  構造設計書送って魔法で再現は任せればよいのでは?
[一言] 一難去ってまた一難? 笑うべきか頭を抱えるべきか…。
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