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5月25日

 そんな事など全く知らない光は、久しぶりに少々疲れた表情を浮かべていた。尤もその表情は彼だけでない。長門と大和の分体も同じである。その理由は先日渡した通信機越しに話しかけてくるソウル・ガーディアンである。多少話をするだけならば、と思って渡した通信機だが……まあ、その、久しぶりに話が出来たことが嬉しかった&見知らぬ技術に対する知的欲求が高まってしまったために、非常に多く通信機越しに話しかけてきていた。


『ふむふむ、ふうむふうむ! なるほど、あのゴーレムは、私の知るゴーレムとはここまで逸脱しているのだな! 実に興味深い!』


 その一方で疲労なんて物がないソウル・ガーディアンはまだまだ満たされぬとばかりに、数日に渡ってマシンガンのごとき速さで光に対して質問を投げかけ続ける状態であった。流石に夕方にもなれば自重したのか知りえた事をまとめる為なのか話しかけてくるような事は無かったが、逆に言えば日中は頻繁に、と言う言葉が陳腐になるレベルで話しかけてきていた。


「気持ちは分かりますが……もう少し自重してほしかったですわ……」


 ソウル・ガーディアンであり疲労というものがないはずの長門が、光の机の上に正座しながらそう呟いた。そう、気疲れである。老魔術師の知的な興味は当然長門と大和にも向けられた。サイズが規格外&話が出来る人間が一定数いて意思疎通ができるという点で、彼の興味を引かないはずがなかったのである。


「で、でもよ、やっと話をする時間が短くなったんだから良しとしようぜ……体は疲れてねえけど、精神的にはめっちゃ疲れた……こんな疲労、味わったのは初めてだぜ……」


 普段は元気いっぱいな大和の分体すらもぐてっと光の机の上で寝っ転がっていた。普段はそんな姿を人前で見せると叱る長門が、一切触れない。それほどまでに精神的な疲労が両者ともに溜まっていたという事である。


「幸い忙しい仕事がない時で助かったがな……向こうも聞きたい事は聞けたからしばらく研究に没頭するって話だから、後は落ち着いてくるだろう……そうであって欲しい。悪い人ではないのだがな……」


 なんて事を、光は分体の二人に話しかける。その光の言葉に、そうであって欲しいという考えを隠さず長門と大和の分体は頷いた。その後ちょっとした沈黙が場を支配するが……そこに通信が入る。通信の送り主は、如月司令だった。


『総理、報告がございます。現在開発中のソーサラーとランチャーですが……まず、ランチャーは素体の開発が完了しました。ですので機体の量産に入ります。追加のアーマーの方はもう少しテストを重ねる予定です。


 そしてソーサラーの方なのですが……先日フリージスティ王国の方から面白い素材が運ばれてきまして……それを利用して、ソーサラーにちょっとした変更を加えたいのです』


 面白い素材、か。ならばその素材とやらは何なのかを知らなければならないだろう。なので当然光はその素材という物はどういう物なのかを如月司令に問いかける。


「ここに来て更なる素材か。如月司令、それはいったいどういう物なのかを教えてもらえないか? それを知らなければ変更を認めるも認めないもない」


 光の言葉に、当然ですねと前置きをした後に如月司令は説明を始める。


『その物質は、一定の魔力を与えると非常に柔らかくなるんですよ。鋼鉄が魔力を与えられるとスポンジぐらいになる、と想像して頂ければ。そしてここからが肝心なんですが、魔力が切れて元に戻る時、自分の周囲にある鉱石関連の真似をするという特性があります。真似、と表現しましたが……実際は全く同じになると言って差し支えないでしょうか』


 如月司令の説明に光はまたとんでもない素材があった物だな、と内心で思う。して、その素材を何に使うのだろうか? 光は話の腰を折る様な事はせず、如月司令の話を待つ。


『そしてこれを何に使うか、ですが。すでに実験の結果、これらは神威やブレイヴァー、ソーサラーやランチャーに使われている装甲にも適応することが判明しています。もちろん装甲の強度テストも行い、3桁に渡るテストの結果は装甲強度は非常に良好、修繕前と変わらないという結果が出ています』


 この説明で光もこの素材の使い道を察した。現場での簡易リペアとしての仕事をソーサラーに与えようというのだ。装甲が傷ついただけで、他の異常が出ていない機体を一々帰還させる必要がなくなる。当然腕が千切れたり弾切れを起こしたりした場合は補給の為に帰還させる必要が出るだろうが、装甲を現場で修繕できるだけでも大きく変わってくるのは間違いない。


「その装甲修繕素材は、ソーサラーでなければ運用は難しいのか?」


『はい、既にそちらもテストしていますが……ソーサラー以外では上手く行きませんでした。恐らく、これはフォースハイム連合国の方々の持つ魔力の性質が素材に影響を与えていると考えられます。研究は続けていますが、現状ではそれ以上の事は分かりません』


 如月司令の言葉に、光は椅子に深く腰掛けた後に顎をさすりながらしばし考える。有用性は分かる、しかしもっと調べてから実用化したい。だが時間はあるようでない今の状況では、そこまでやる時間があるはずがない。ソーサラーにこの機能を搭載するとなれば、全機に乗せるのが当然だろう。現場であのソーサラーは持っている、こっちは持っていないとなれば混乱が起きる。


 色分けする、と言う手段もあるが……ひたすらやってくる隕石に対して攻撃を加え続けなければならないその時に、いちいち色を確認する余裕が戦っている真っ最中の戦士にあるだろうか? ない、と考えた方が良いはずだ。やはり、載せるか載せないかのどちらかに統一した方が良い。


「如月司令、一度その素材を使って機体の装甲が回復する所を直に見たい。今からそちらに行っても問題ないか?」


『ええ、問題ありません。むしろ一度見て頂いた方がよろしいでしょう。我々も初めて見た時は理解が追い付きませんでしたから』


 と、話がまとまったので光は急遽光陵重工へと移動した。出迎えを受けて、すぐに実験を行っている現場へと向かう。


「総理、お待ちしていました。実験はすぐに始められるようになっています。まずはこちらへどうぞ、防護服を上に着用して頂きますので」


 如月司令の指示に従い、光は現場に入った後に防護服を身に纏う。目の前には神威・弐式、ブレイヴァー、ソーサラー、ランチャーの腕が複数置かれている状況だ。その腕に如月司令と一緒にリフトに乗った光は触れ、ちゃんとした装甲がつけられている事を確認する。


「ふむ、装甲は問題ないな」


「では、いったん我々を載せたリフトを離してこれらの装甲にダメージを与えてへこませたり切り傷をつけます。我々が離れた後、手筈の通りにやってくれ!」


「了解しました、それでは実験を始めます!」


 光と如月司令が十分に離れた後、各種道具……と言うよりは武器で各腕に切り傷が入れられる。当然この作業はかなり大変だ。現時点で作り出せる最高の装甲に傷を入れる、矛盾と言う言葉が浮かびそうな状況での作業となる。それでもさすがに何度も刃を変えながらダメージを与え続ければ当然装甲も歪んだり切れたりしていく。


「止め! 司令、傷の具合はこれでよいかと思われます。確認をお願いいたします」「ええ、総理もどうぞ」


 双眼鏡を用いて、光は各機体の腕部に入ったダメージを確認する。全ての腕にはしっかりとしたダメージが入っている事が確認でき、この光を呼んでの実験に手加減をしたり誤魔化しを仕掛けているという事は無い様である。十分に確認をした後、光は双眼鏡から目を離して頷く。


「うむ、確かに全ての腕部パーツに傷が入っている事を確認した。さて、ここからが本番だな?」


「はい、おそらく驚きますよ? では、よろしくお願いします!」


「了解しました、これより例の素材を使った装甲修繕テストを行いますね!」


 如月司令の後に聞こえた女性の声と共に、一機の杖を持ったソーサラーが姿を現す。如月司令によると、リペア装置を搭載した試作一号機であるとの事。そのソーサラーが左手に壺の形をした容器を持ち、右手の杖を振るう……すると、壺の中から蒼色の液体に見える物が次々と飛び出してきて、傷が入った各種腕部パーツに付着していく。


 付着すると、見る見るうちに各腕部のダメージが入った部分に付着し、一体化していく。そうして付着してから30秒も経たずに、すべての腕部パーツは元の姿に戻っていた。


「そんなバカな!? あれらは鋼材だぞ!? 人の体の細胞とは違うのだぞ!?」「総理が驚かれるのも尤もです。しかし、これらは現実です。もう一度近くで確かめてください」


 如月司令の言葉通りに光は再びリフトで腕部パーツに近寄り、自分の手で装甲がダメージを受けていた場所に触れる。その触れた場所の感覚は、最初に触れた時と寸分の狂いもなかった。


「──あれだけのダメージを受けた装甲が、この速度で修繕されるというのか。まだ信じられん……だが、確かにこれは搭載したいと言ってくるだけのものはあるな……そこの、ソーサラー試作型に乗っている方。一つ質問をさせて頂いても?」


『はい、なんでしょうか?』


「この修理行為を行うと、どれぐらいの魔力を消費したのかを教えて頂けませんか?」


 光の問いかけに対し、帰ってきた返答だが。


『そうですね、そこそこの魔法を放った時に減る魔法とだいたい同じですね。これぐらいの消費なら、極端に乱発しない限りは魔力切れによる失神や戦闘不能に陥る心配はない、と言わせていただきます。もちろん個人個人による多少の差はありますが、魔法使いとしての修練をきちんと積んできた者ならば、大した負担にはなりません』


 との事だった。使うと極端な負担がかかるというのならば問題だが、大した負担ではないと聞こえてきた声からも無理に取り繕った所はない。世界の一大事だからと言って、酷使するような真似をするべきではない。


 使うとしても、本当にそこで踏み止まらなければ全てが無くなるという時だけだ。逆に言えば、そう言う時に最後の力を振り絞れるように、普段は余裕を残しておくべきなのだ。


 最初から全力を出させるように指示を飛ばして、関わっている人員が常に疲労困憊状態になっているのは──あえて包み隠さず言おう。馬鹿の極みであると。


「──分かった、如月司令。搭載する方向で行こう。前線で装甲を修理できるというのは大きい」「はい、ではその方向で。もちろんギリギリまで改良を重ね、搭乗者の負担を減らすように致します」


 これで、ソーサラーも設計が完了し、細かい問題点が修正された後に量産が始まる事となった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 破壊された近接武器も行けそうね
[一言] グランゾートのバイメタルだ
[一言] スパロボ定番の修理装置、リペアパーツがきたなー。 ますます、スパロボ参戦きてほしいかも
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