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5月6日~11日

(私は総理大臣なんだがなぁ。本来なら今も働いている国民を横に置いてこうもポンポン他国に行けるような立場ではないはずなんだがなぁ。しかもこんなきれいな青い海が見えるビーチでのんびりとさせてもらえるなんて、贅沢が過ぎるな)


 先日より4日後。今光はフリージスティ王国が誇る観光地の一つであるビーチにて、ビーチパラソルの日陰に入りアロハシャツに海パンというラフな格好でビーチチェアに座りくつろぎながらもそんな事を考えていた。まだ海水浴などは早すぎるだろう……なんて事は無く、日本の8月ごろの気温がここにはある。


「光殿、色々と思う所はあるかも知れぬが今は出来るだけ頭を空にして休んでおいたほうが良いぞ? もちろん話をする相手としてわらわを構って欲しいがの?」


 そして、沙耶が光の隣に同じくビーチチェアの上に座ってくつろいでいたりする。光と沙耶以外にはガードマンと給仕を務める面子がいるだけで、他には誰もいない。見事な貸切状態である……VIPである光が来ている上に国の象徴である沙耶が居るのだから、当然の対応と言うべきなのだろう。


 ブリッツは当初観光をしてもらうつもりだったが、光の疲労の状況が通信越しよりもよろしくないと感じ取った。そのため疲労を抜くことを最優先してもらった方が良いと考えて、急遽ビーチを貸切にして光には何も考えずのんびりとしてもらう事を決めたのだ。


 なお、このブリッツが見抜いた疲労だが──これはまだ光が地球に居て、フルーレと出会う前の事。世界からやってくる理不尽かつ我儘いっぱいな要望の数々に対し、苦心を重ねながらもなんとかこなしていた時の疲労である。光の体を心身両方面から確実に蝕む形で蓄積し、溜まり切ったところでどうしようもない病となって吹き出す筈であった。フルーレとの出会いがなければ数年後あたりに。


 その疲労が、ここ最近の光を取り巻く状況が改善した事もあり、奥からゆっくりと噴き出してきたのである。だが、ここでこの疲労を抜くことが出来れば、光の体はかなり健康体へと近づくのは間違いない。その神がかり的なタイミングで開かれた各国の会議で光の体調の状態に気が付くことが出来たフレグ、ティア、ブリッツは、自国に招いて休ませることを即座に脳裏で計画した。そして行動が一番早かったのがブリッツ、という事である。


「ええ、せっかくのお誘いですから無駄にしないように休ませてもらっています。しかし、波の音が実に穏やかでいいですね。眠気を誘います」


 さらに言うなら、自国に引っ張り出すのも理由があった。日本国内に光を置いておけば、休んでほしいと伝えても光はまた仕事をするだろうという予想が3人にはあった。だから、仕事が出来ない場所に無理やりにでも運んでしまえば休むしかなくなる。だから誘った。


 ブリッツが言った、ここで光に倒れられたら世界は混乱するというのは決して誇張ではない。すでに光の名前は世界的に広まっており、頼れる男の上位に入っている。そんな男がここでもし倒れてそのままコロッと永遠の眠りにでもついてしまったら、世界が感じている希望の光がまた消えてしまう事になりかねない。


 もちろん光が居なくなっても、ブレイヴァー、ソーサラー、ランチャーの開発は止まらないし、次の総理が選ばれて仕事をするだけである。だが、人の心という物はそんな簡単に割り切れるものではない。希望を生み出す男が死ぬという事は、また神々の試練に我々がなすすべもなく負ける事を意味するのではないか? という考えを民衆が持ってしまう可能性は高いだろう。


 そんな心境を民衆が皆その胸の内に抱えてしまったら、フレグ、ティア、ブリッツがいくら鼓舞したとしてももう一度希望を胸に抱いて民衆が立ち上がる事は非常に難しい。どんな武器が出来ようと、どんな防具が存在していようと、結局のところ使うのは人だ。その人が動かなければ、どんな武器や防具があっても輝かしい成果を上げることは出来ない。


 神々の試練は、地球の戦争のように他国へ宣戦布告をしたら、ミサイルを主要都市などに射ち込めばいいという戦いではないのだ。戦う人達の士気がとても重要となる、そして、地上から見守る人たちが自棄を起こさずに諦めずにいられる希望が必要なのだ。その両方を、今の光は持っている。肝心の本人はあまりその辺りを自覚していないのだが。


「寝てしまっても良いぞ? 今はただ穏やかにある事だけを考えておればよい。食事の時間が来れば起こすからの、気にせず寝てしまえ」


 そんなパレオ姿の沙耶の言葉がきっかけになったのか、やがて光は寝息を立て始める。その姿を確認した後、沙耶はガードマンや給仕達に静かにするようにと目で伝え、ガードマンや給仕達も静かに頷く事で応えた。波の音と、心地よい風。その二つに抱かれるようにして光は眠った。その穏やかな眠りは、光の奥底に溜まっていた疲労をゆっくりと溶かして消し飛ばしていく。


(ふふ、眠っているときの顔はまさに幼子の様じゃ……愛おしいものよ……それだけに、光殿が苦しめられていた地球という星にある他の国々が許せぬわ。もう過ぎた事とはいえ、やはりそれでもう良いとは行かぬわ。むろん、そんな事を口に出すつもりは全くないがの)


 沙耶は眠っている光の顔を穏やかな笑みで見守る一方、光を苦しめていた地球の国々に怒りを覚えていた。それらは胸の内に秘めているが、消え去る事は無いだろう。もちろんこの事を光に伝えるつもりはない。そんな事をしたら光を悲しませてしまうかもしれないから。彼らは最後の戦いで悲しみや憎しみを全て置いて来たとの事だから、それを蒸し返すような無粋な真似など沙耶にはできようはずもない。


(夫の苦しい所を献身的に支えてこそ、妻になれるというものよ。うむ、ブリッツも良い仕事をしてくれた。礼を言っておかねばならぬのう)


 なお、この考えは沙耶の個人的な考えであるという事を念押ししておく。夫婦の形は十人十色、様々な夫婦が居ていいのだから。もちろんDVなどは論外だが。


 そんな沙耶に温かく見守られながら眠っていた光が目を覚ましたのは、日がある程度傾き美しい夕日が海とビーチを染め上げる少し前の頃だった。目を開けた光はビーチチェアからゆっくりと立ち上がって伸びをする。


「──っ、久しぶりに深く、ゆっくりと眠れた気がする。ここは……そう言えば、沙耶さんは……」


 頭の回転が戻って来たところで光が振り返ると、そこにはニヤニヤ顔を浮かべる沙耶と温かい笑顔のガードマンの方々が。


「起きられたか、ちょうどいい頃合いじゃ。うむ、お主の可愛らしい寝顔を見ていたら時が過ぎるのはあっという間じゃったな。食事前に軽くビーチを散歩せぬか? 砂の上をゆっくり歩くというのもいい物じゃぞ?」


 沙耶の申し出の光は頷き、共に連れ立って夕日に染まって行く海を眺めながら波打ち際を歩く。しばし無言の二人だったが、夕日を眺めながら光がぼそりと呟く。


「こんなきれいな景色を、私は今まで知らなかったのか……」


 今までいろいろな事に追われ、仕事は山積みで、次第に憎しみに駆り立てられて、それらを押し殺してきた。フルーレとの出会いを経て状況は一変し、今では仕事量は格段に減ったが……こういう時間は今まで持った事が無かった。いや、そうではなく……このような穏やかな時間は永遠の眠りにつくまでは持てないと思ってきた。


 そんな事を光は思いだし、そして頬に雫が伝った。沙耶はもちろんその事に気が付くが、指摘はしない。そしてそのまま歩き続け、再び光は足を止めてから呟いた。


「──美しいな。ただただ美しい」「そうじゃな、美しい。この美しさは何度見ても変わらぬ感動を与えてくれる」


 沈みゆく太陽、その紅の日を反射して輝く海。夜の帳が下りてくるこの瞬間だけ見れる美しい景色。二人でそのまま眺め続け──


「ブリッツ殿のお誘いに乗ってよかった。この様な時間を頂けたからこそ、気が付くことが出来た物がある」「っふ、それは良かった。さて、そろそろ今日の寝床となる場所に向かおうではないか」


 そんな会話を交わしたのちに、宿泊施設へと移動して海産物をメインとした料理に光と沙耶は舌鼓をうった。こんな流れで光は短いながらも充実したバカンスをフリージスティ王国で楽しんだ。沙耶は沙耶で光との距離を大いに縮める事に成功。沙耶の機嫌が一気に良くなったことで、ブリッツとしても今回の誘いが成功した事に満足する。


 関わった者が皆満足する形で光のバカンスは無事終了する。一方で誘い遅れたマルファーレンス帝国とフォースハイム連合国は、次の光のバカンス先として選ばれる様に水面下で火花を散らす事になってしまうのだが……

何とか書けた。コロナ騒ぎで気がめいってしまって、なかなか筆が進まないです。

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