4月24~29、5月2日
先週はお休みしてすみませんでした、目いっぱい楽しんできました。
今秋からはまた再開します。
3国からやってきた選抜者達による新機体のテストは、大部分では問題なく進んでいた。製作にあたって一部の問題点はあれど、VRによる仮想訓練ではそれらの問題が解消した、という仮定の下でテストが行われ、パイロットを務める彼らの意見を集めていた。
神々の試練に関する資料を基に状況を再現して、迎撃作戦を実際に行うという訓練もすでに行われている。これにはすでに3国からやってきた人達だけではなく、自衛隊の神威・弐式パイロットも混じって行われている。現在の状況では迎撃成功率は──完全成功が2割、被害軽微が2割、被害甚大が5割、完全失敗が1割となっており、満足のいく結果は出ていない。
だが、だからこそこういう部分をこうしてほしい、対処するためにこういった武器が欲しいといった意見が集まり、それを元に色々な武器の試作データがVRで実装され、使われる。なお、現時点では神威・弐式とブレイヴァーの成績が優秀で、まだ基本フレームしかでき上っていないソーサラーとランチャーの戦績はイマイチ芳しくない。
だからこそ、ソーサラーとランチャーに搭乗している人達は、光陵重工へこういった追加アーマーが欲しい、追加武器が欲しいと要請をバンバン飛ばす。全体的に見て、ソーサラーパイロットはより一撃の大火力を求める傾向が強く、ランチャーパイロットは威力の向上はそこそこでいいからとにかく手数が欲しいという要望の違いがあった。
「くっそ、今日の試練迎撃は失敗に終わってしまった! みな、反省会だ!」
そして本日のVRで行われた迎撃作戦は地上への被害甚大という結果に終わった。神威・弐式やブレイヴァーは奮闘し、かなりの隕石を砕いたり消し去ったりしたのだが、ソーサラーとランチャーの活躍が今一つであったために多数の隕石が地上に落ちてしまっていた。
「と言っても、神威・弐式を動かしていた日本の自衛隊の人々はいい仕事をしていたと思う。ブレイヴァーに乗っていた人達も、かなりいい仕事をしていた。やっぱり、ソーサラーの火力とランチャーの射撃の手数が足りてない」
現状では、ソーサラーのパイロットが最初に隕石に大魔法を叩き込んで隕石を脆くし、神威・弐式が砕き、ブレイヴァーがすり潰し、ランチャーが消し炭にするという動きで試練に対抗する流れを作っていた。しかし、途中から隕石の数にソーサラーの魔法が追い付かなくなり、神威・弐式とブレイヴァーへの負担が重くなって取りこぼしが増え、ランチャーが処理しきれなくなってしまうのが失敗の流れである。
「ソーサラーは火力もそうだが、魔力切れが辛そうだ。ある程度魔法のランクを落としてでも魔力を安定して維持できるようにした方が良いのではないだろうか?」「いや、それも考えたが……その形にすると隕石があまり脆くならん。そうなれば結局神威とブレイヴァーに負担がかかって失敗する流れになってしまう」
結局はここに話が戻ってきてしまうのだ。だが自衛隊に所属している男性が口を開く。
「しかし、だ。ソーサラーとランチャーはまだ基本しかでき上がってない状態でこれだけやれているというのは明るい材料なのではないか? これから先、オプションパーツや追加装甲で火力や手数は追加する事は十分に可能だ、ブレイヴァーのようにな。だから、それがまだない現状で4割ほど迎撃に成功するのは十分な数字だろう。10割成功を目指すのは、ソーサラーとランチャーの完成を見てからでも遅くはない」
この見方も正しい。まだソーサラーとランチャーにおける真の性能は発揮できずにいる状況なのは間違いない。にも関わらず被害軽微を含めてはいるとはいえ、迎撃成功率4割は高い方だと言えた。だが、ソーサラー乗りの一人が首を横に振る。
「その見方も分かるが、やはり長い歴史で神々の試練に対抗できず苦しんできた我々が成功率4割で良しとするという考えは持てないのだ。もちろん、日本の方々が来てくれなかったらこのような抵抗手段を持ちえなかったのだから、感謝はしている。しかし、仮想空間であったとしてもこうして神々の試練の前に膝を屈するというのは、悔しくてならんのだ」
このソーサラー乗りの言葉に、他の機体に乗っているパイロット達も頷く。神々の試練で様々な物を失ってきたという記憶と歴史の積み重ねがある彼らだからこそ、仮想空間だと分かっていても、失敗して隕石が地表に落ちていく姿を見るのはとてつもない苦しみを覚えるのである。
「だが、こうして抵抗する手段が手の内にあるからこそ、希望もまたある。その希望を不意にせぬためにも、訓練を積み重ねよう。その訓練は、新しい装備が出来上がった時にも生きる筈だからな!」
一人の女性の言葉に、集まった皆が頷き再び迎撃作戦のVRを起動する。本番に備え、彼らは訓練を積み重ねる。そしてその訓練で行う動きがデータとなって如月司令達の元に届き、追加装甲の案が固まっていく。
それから更に数日の時が経ち、ソーサラーとランチャーの追加装甲、追加装備案が固まる。
ソーサラーの追加装甲案は、火力強化、かつ範囲強化を施した大きな隕石に対抗するための一撃必殺タイプ。威力を上げつつも、消費を抑えたそこそこの隕石に対抗する連射タイプ。更に魔法により他の機体に対して特殊な支援が出来る手段を手に入れたタイプが考え出された。
ランチャーは、大型ガトリングガンを肩に2基、普段は背中にマウントされており使うときには切り離して有線ケーブルで周囲に浮かべながら動かす2基を備えた合計4つのガトリングガンを運用する手数型。火力の高いレーザーを長遠距離まで射撃できる狙撃銃を右肩に備え、もう一つの肩には大量のミサイルが詰め込まれたコンテナを発射する装置を備える事で手数を補う遠距離対応型。自律兵器を両肩、背中、両足に装備し、あらゆる方向から射撃を行えるビット型が採用された。
あとは、ソーサラーの杖による問題だが……これは杖とコックピット周辺を有線ケーブルで繋ぎ魔法の伝達率を向上させることによって一定の解決を見た。実際に小型の物を制作し、フォースハイムの人々に扱ってもらったが誤作動回数はゼロ。使用者からも、これならば普段の魔法運用と感覚が変わらないという返答も多数あったため、開発者とパイロットの話し合いを行った上で現状ではこれでひとまずの完成とした。
この後は細かい調整を行いつつも機体を量産しなければならない。すでに形が出来たブレイヴァーの量産は始まっているが、ソーサラーとランチャーはまだだ。時間は待ってくれない、そしてギリギリの状況という物はミスを引き起こす。ただのミスではなく致命的な奴をだ。だからこそ、まだ余裕がある内に完成させ、作り始めなければならない。
当然こういった情報はすべて光に届けられる。そして光を通じて3国の首脳達にも情報が伝えられた。
「なるほど、こういう形になりましたか」「追加装甲次第で機体の大きさがかなり変わるのですが……」「ええ、残念ながら今の技術ではどうしてもそういった点が解消できませんでした。しかし、来年に間に合わせるためにはやむを得ません。次の試練前にはかなり改良も進むと思われますが、今はこれが限界となります」
光から渡された情報を見たフォースハイム連合のティアとフリージスティ王国のブリッツは、敬意半分、驚愕半分で資料を眺めていた。正直に言ってこの短期間で作り上げられる物ではない。しかし、それを日本皇国はやってのけて見せた点に対して敬意と驚きの感情を同時に持った。
大きさが変わるというのはティア個人の単なる感想で、特別ケチをつけようと思って発した言葉ではない。その点に対し、光が頭を下げた事で内心申し訳なくも思っていた。嫌味を言ったような形になってしまったからである。だが、この話し合いにはフレグもブリッツもいる。ティアが光に謝罪を述べるのは後回しになるのも致し方ないだろう。
「いよいよ、これで4国が動かす機体が出揃ったわけですな。ヒカル殿、数はどれぐらい用意できますか?」
フレグの言葉に光は資料を確認しながら計算し、出てきた答えを口にする。
「そうですね、まだはっきりとは言えませんが……ブレイヴァーは今の状況から鑑みて、少なくとも2000機は作れると思います。神威・弍式の方はあと1500機は追加されます。ただ、まだソーサラーとランチャーの方は……1000機は間違いなく保証できますが、そこから先は何とも。製作者の方もこれ以上の無理はさせられませんし」
ある程度は自動で製造させることが出来るが、工程の過程で人のチェックを入れなければいけないところがある。作っているのは守護を担う騎士だ。決して適当に作って動作不良を起こしても構わないという、鉄の棺桶ではない。だからこそ、人の目と手で厳しくチェックをしなければ鋼鉄の騎士に魂が吹き込まれない、と制作班は考えている。
「そうか、しかしあの鋼鉄の騎士が2000人も並べばさぞ壮観だろうな。戦いに出る前に民に見せてやれば、きっと希望を捨てないでいてくれるだろう。ただ、その一方で乗り込む戦士の選定が大変だ。皆乗り込んで戦いたいと連日声を張り上げている」
光の言葉を聞いて、一定の数が揃う事に安堵すると同時にパイロットの選抜も行わなければと悩みもするフレグ。そんなフレグに光はこう持ち掛けた。
「なら、私達が行った手段で行ってみますか? 一定期間、ブレイヴァーのVRをそちらに貸し出します。そしてしばらくの間自由に練習をさせて、その後に帝都で大々的にトーナメントを行うんですよ。参加者に制限はなし、実力があれば老若男女一切問わない。分かりやすいと思いますが? 席が欲しいなら実力で掴み取る、それはマルファーレンスの戦士達に一番納得して貰いやすい方法ではないでしょうか?」
光の提案にフレグは飛びつく。そのままとんとん拍子で話は進み、VR3万台をできるだけ早くに貸し出す事が決まった。もちろんフォースハイム、フリージスティからも要望が来たため、同じ数が貸し出される事が決定。人口から考えれば数が足りない所ではないが、何とかやりくりしてもらう他ない。
「そう言えば光殿、近いうちに私の国に来ませんか? 以前来ていただいた時にはろくに観光もして頂けませんでした。光殿は少々働きすぎて顔色に陰りがみられます。ですから休息を兼ねて如何でしょうか?」
と、ここでブリッツが話の方向性を大きく変えた。一方でフレグとティアは出遅れた、というような表情を一瞬浮かべた。話を振るタイミングを伺っていたのだが、ここでまさか話の方向性をバッサリ切ってブリッツが持ち出してくるとは思わなかったのだ。
「そうですか? しかし、今は皆と一緒に我慢と努力を積み重ねる時ではないかと思うのですが……」
歯切れの悪いヒカルの言葉に、ブリッツは首を振る。
「いえ、だからこそいざと言う時に働けるように早め早めに休息をとるべきなのです。ここでもし光殿が倒れられたら、世界が混乱しますよ? そんな未来を、迎えるべきではない。フレグ殿やティア殿もそう思われますよね?」「そこは同意ですな」「ええ、光殿がここで倒れる様な事はあってはなりません」
ブリッツに続いて、フレグ、ティアからもそう言われてしまい……半ば言いくるめられる形で、光の休暇スケジュールが決まってしまった。なお、如月司令や大臣達はこの話を聞いて、安堵の表情を浮かべたという。




