3月18日
鉄とブレイヴァーがVRで模擬戦を行ってから一週間。如月司令の元に、マルファーレンスの戦士の代表者10名が分厚い報告書と要請書を持って現れた。もちろん事前に如月司令に対してこの日戦った事で考えた事を報告書としてまとめる旨の連絡は入れてからの行動である。
「これが報告書……とブレイヴァーの改造要請書ですか」「いかにも。その報告書を読みながらで構わないので、ぜひキサラギ司令殿にはこちらの話を聞いて欲しい」
そうしてマルファーレンスの代表者10名は、今までのやり方を変える必要性を強く感じた事。そしてそのために特に遠距離に居る対象への攻撃手段の増加や防御能力を高める必要性を強く感じた事。そういった報告を如月司令へと伝えた。報告書を読みながら、如月司令はそれらの話を聞いた上で頷いた。
「なるほど、鉄との一戦でも遠距離射撃能力などがあればこうも一方的にはならなかったと強く感じられたようですね」
「そうだ、我々の考えはあまりにも近接戦闘に偏り過ぎている。近距離戦闘の強みを捨てる必要は無いが、遠距離に対する対応力を上げねば、神々の試練を迎えた時に同じような結果を出して役立たずになりかねない。そうなっては皆に申し訳が立たん」
内心で、如月司令は良かったと思っていた。確かにブレイヴァーと乗り手のマルファーレンスの戦士達の動きは良好だが、彼らの言う通りあまりに近距離戦に偏っている点は危惧していた。なのでブレイヴァーの機体を母体とし、神威・弍式のようにオプションパーツや追加装甲を付ける事で、遠距離に対する対応力を上げる必要があると考えていた。
しかし、それをこちら側が伝えた所でマルファーレンスの戦士達が受け入れてくれるかどうかは未知数。しかし光が駆った鉄との模擬戦で得意の近接戦闘をほとんどさせてもらえず、一方的に殲滅させられたことで彼らの方から遠距離攻撃の必要性を訴え出て来てくれた。そうなって欲しい、という展開をまさに今迎えていたのだ。これならば話がしやすくなる。
「実はですね、皆様からそういう要望が出てくると予想してこちらも新兵器の図面を引いていたのですよ。今のブレイヴァーにさらなる鎧を着せる、というイメージを持ってください。その追加する鎧に、さらなる兵装を身につけさせています。その兵装に対して、皆様の意見を伺いたいのです」
ざわり、とマルファーレンスの代表者は騒めき立つ。こちらの要望書を見る前から、すでに一定の要望をかなえうる可能性がある物を用意されていた事に対し、驚きと、感心を覚えたからである。そんな彼らを半ば無視して、如月司令はスクリーンを立ち上げて、最初の追加アーマーと武装の説明に入る。
「まず、現時点での名前はブレイヴァー・ランサーフォームとしています。追加装甲により全体的に一回り大きくなっていますので、かなり見た目の印象が違うと感じると思います。そしてこのランサーは、背中に2本の槍型射撃兵装を備えています。使うときはこの背中から腰に降りてきますので、それを脇に挟むような形で腕で持つ形になります。皆様のイメージなら、長いパイクと呼ばれる槍を抱えるような感じでしょうか」
如月司令の説明と共に画像も動き、ブレイヴァー・ランサーフォームの背中にある長槍がメカニカル・アームによって腰のあたりまで下ろされて、それを左右一本ずつ手に持って構える姿が映し出される。
「そして、槍の突きをイメージする動きをもって射撃を行います。射程の長さもそうですが、この武装による射撃は貫通性を重視しています。複数の隕石を刺し穿つことによって一気に破壊する事を可能とする。それがこの機体に期待される仕事となるでしょう」
動きを取り入れているのは、戦士であるマルファーレンスの人達でもできる限り動きをイメージしやすいようにしているからだ。事実、如月司令の説明と画像に映し出されたブレイヴァー・ランサーの動きを見て、その動きをイメージして体を動かしている戦士が数人いる。
「なるほど、我々からしても遠くの相手を槍で突き刺して倒すという動きは分かりやすい。不慣れな銃器を持たされるよりも、使い勝手が良いかもしれない」「今までの修練が無駄にならない武装だな、確かにこれなら少しの慣らしをすれば十分に使えるようになるだろう」
そんな言葉が、戦士達の間から出てきた事で如月司令は方向性は間違っていないと安堵した。いくら優秀な兵器でも、使い手が使いにくいと感じる様では欠陥品に成り下がってしまう。そうなったらこうして計画して作り上げるためにかかった時間が丸々無駄になるのだから。
「キサラギ司令殿、この新武装をぜひ我々でも試したい。出来る限り早くVRで装着し、動かせるようにしてほしい! そうして、より我々が使いこなせるように調整していってほしいのだ」「分かりました、こちらとしても動かしてもらって問題点を洗い出したいですからね。出来る限り早く使い勝手を確かめられるように動きましょう」
代表者達は、如月司令の返答に満足そうに頷いた。だが、如月司令が提唱する追加アーマーはランサーフォームだけではなかった。
「では、次に参ります」「次!? まだ追加の案があると?」「ええ、あと2つ程此方で考えていた案がございますので席にお着きになられてください」
如月司令の言葉につい立ち上がってしまった代表者の面子だが、如月司令の言葉を受けて再び腰を下ろす。その動きを確認した所で、如月司令は次の追加アーマーの案を出す。
「先ほどのランサーは射程、貫通性がありましたが、点の攻撃という問題があります。つまり、一回の攻撃で攻撃できる範囲が狭い。ですので次の追加装甲につけた武装は線の攻撃が出来る物となっております」
その如月司令の言葉と共に映し出されたブレイヴァーは、腕が特にマッシヴになっていた。ランサーフォームが全体的にバランスよく大きくなっていたのとはかなり違う見た目である。そして、大きさから両手剣サイズと思われる剣が2本、クロスする形で背負われていた。
「バーサーカーフォーム、と現時点では呼称しています。追加装甲によって腕が特に大きくなっていますが、これは背中に背負っている2本の巨剣を十分に振るう為に必要な装置を組み込んだが故にやむを得ず巨大化しました。この巨剣による近接攻撃は破壊力が十分にありますが、それは本当の狙いではなく──」
如月司令がここでいったん言葉を区切って、画像に映ったブレイヴァー・バーサーカーフォームを動かす。その巨大な腕から次々と振るわれる巨剣からは、ウェーブ状の攻撃が次々と発射される。その剣を振り、発射される速度はなかなかのもので、マルファーレンスの戦士達も感嘆の声を上げる。
「このように、剣を振る事でウェーブ状のエネルギー攻撃や魔法攻撃を繰り出すことが出来るのです。射程こそランサーには劣りますが、こちらもそれなりの射程を持っています。それに加えてウェーブ状の射撃が行えるため、複数の相手を一気に薙ぎ払う事が可能となります。ランサーでは数が多すぎて対処が追い付かない状態でも、バーサーカーならば打破できるでしょう」
説明を受けて、代表者たちは再び感嘆の声を上げる。剣の使い手はかなり多い。そんな剣の使い手ならば、こちらのフォームもある程度慣らせば問題なく使いこなせると踏んだからだ。何より、剣を振るうなんて動きは今までもう数えきれない程やってきた事。その経験をそのまま生かしたうえで遠距離への攻撃も出来る。まさに彼らが望んだ形の一つを体現していると言えよう。
「なお、剣をここまで巨大化させたのは威力と射程と攻撃範囲をすべて持たせたが故です。研究が進めばもっと小型化できるのでしょうが、現時点ではこれが精いっぱいでした」
本来ならもっと剣を小型化させる予定だった。しかしどうしても今の技術、制作レベルではこれ以上の小型化は叶わず、その剣を振るう為に腕も巨大化させなければならなかった。まだまだこのフォームは改良の余地がある……が、今は時間が限られている以上、出せる形で出すしかないという妥協点を含めて形にしたのがこのバーサーカーフォームである。
「槍、剣と来たが……司令殿、最後の一つはどんなものなのだろうか?」「最後の一つは、この要望書の中にも動かしてみたい、使ってみたいとありましたが……鉄も使っていたビット形式の物となります。まずは見ていただきましょうか」
映し出されたブレイヴァーは、腕が4本あった。機体の両肩の上に、更に巨大なガントレット状の腕が付着しているのだ。その異様な姿に、代表者達からむう、とかほう、といった声がいくつも上がる。
「腕が4本ありますが、うち2本は今まで通り皆さんが武器や盾を持って戦うための腕ですので説明はしません。このフォームは残り2本の腕にこそ意味があります。では、画像を見ていて下さい」
如月司令の言葉と共に、最後のブレイヴァーが動く。最初は剣や盾を使ってオーソドックスな動きを見せていたが、途中から腕が外れ、個別に動いて攻撃を繰り出し始めた。殴るのはもちろん、敵を掴んで他の敵に向かって投げつける、手のひらに仕込まれたビーム射撃発生装置で射撃を行う、掴んだ相手に密着射撃専用の短距離パイルバンカービームを撃って風穴を空ける、などなど。
「これは、そうだ、鉄の使ってきたあの攻撃に似ている!」「この自由さ、融通の利き具合、悪くないな!」「4本の腕か……見た目の威圧感もすごいが、こうして戦っている姿を見ると何と恐ろしくも素晴らしい……」「しかし、これは先の2つと違って動かし方が全く想像できんぞ?」「構うものか、俺はこれに挑戦する。この武器は使える、極めれば一人で数人分の仕事ができる」
こうして、今までのブレイヴァーをベースとした3種のオプションウェポン付きのアーマーが提示されたことで、要請を出したマルファーレンスの戦士達の要望は一定レベルで、一部に限ってはそれ以上のレベルですぐに叶う事になった。そしてその後、すぐさま戦士達がVRで配信された直後から3種のアーマーを試し、自分に合ったものを見つけて訓練に励んだのは言うまでもないことである。
久々の更新です。




