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3月9日、11日

 その日は、光にとって特にこれと言った予定も入っておらず……穏やかな一日になるはずだった。そう、こんな連絡が光に届くまでは……


「如月司令、どうした? 話したい事があるとの事だったが?」『は、はい。その、実はですね……』「司令にしては歯切れが悪いな? しかし、だからこそそう言う事は言ってもらわねば困る」『分かりました、実はですね……』


 如月司令曰く、ブレイヴァーの製作に関わっているマルファーレンス出身の戦士達の中からどうしても一度戦ってみたいという存在がいるので、VRの訓練施設で疑似的にその存在を再現して戦わせてほしいという要望が入ったそうだ。この話に、光は首を傾げる。


「ふむ? 聞き入れても別に構わないだろう? もしかして、その戦ってみたい存在というのは再現する事が難しいのか?」『いえ、その……彼らが言う戦ってみたい存在というのは、鉄の事なのです』


 光の疑問に対し、両目を閉じながらやや弱々しい声で答えを返す如月司令。その返答で、光はなるほどと思った。鉄は地球の転移前にやって来た隕石に対し光と共に突撃。最後は己が身を捨てて隕石を破砕し、宇宙に散った。そんな彼女を疑似的に再現して戦わせるのは如何な物か……と如月司令は考えたのも無理はない、と。


「確かに私としても思う所がないわけではない。私にとっても忘れる事などできない大事な戦友だからな……しかし、だ。ブレイヴァーがより強くなり、高みに上って神々の試練に打ち勝てるようにする為には、そういった戦いも経験させてデータを集め、勝算を高めるように動くべきだろう。彼らが鉄に敬意を払うというのであれば、私は行っても構わない」


 光の答えに、如月司令は『そうですか……では、そのように致します』と告げて通信を切ろうとした。そこに、光が待ったをかける。


「如月司令、一つ確認したい。その戦いは何時ごろやるのだ? 大体の時間を教えて欲しい」



 そして2日後の午前10時。準備が整ったので、鉄VSブレイヴァーの模擬戦闘が行われる事になった。1VS600という数の差が凄まじい戦いであるが……現時点における鉄とブレイヴァーの武装能力の差を考えての話である。さらに最初はブレイヴァーの位置は鉄に教えられるが、ブレイヴァー側はどこから鉄がやってくるか分からないという状況から戦いはスタートする。


『それではVRによる訓練戦闘を開始します。ブレイヴァーに乗っている皆さん、行動を開始してください。隊を組むも単独で動くも、それは皆さんの自由です。これより10分後に鉄が動きますので、それまでに準備を整えて下さい』


 如月司令の言葉に従って、各ブレイヴァーが動く。単独で動く者はおらず、少数で10体ほど。一番多い団体が100体前後の集団を作り、各々が陣を敷いた。なんで一塊にならないのか? という疑問を抱く諸兄がいるかも知れないが、それは鉄の強襲によって一気に混乱させられた状態に持ち込まれて、戦力を一気に削ぎ落されて勝ち目が無くなる展開を、マルファーレンスの戦士達が嫌った結果こうなったのである。


 なお、如月司令は最初の言葉を伝えた後は純粋に見学に徹している。余計な事は何一つせず、訓練開始までの時間を図る。そして9分が過ぎ……残り1分のアナウンスをした後は再びモニターを眺めるだけになる。久しぶりに見る事になる鉄の姿。たとえそれがVR上だけの物であっても、思う所はあるのだ。


(そうでしょう? 総理──)


 そんな思いを如月司令が巡らすうちに10分が経過し、作戦開始を告げるアラームが鳴り響いた──



『7番隊、異常ありません』『9番隊、敵確認できません』『5番隊、こちらもそれらしき影は見えず。警戒状態を続けます』


 開始のアラームが鳴って2分後、まだ彼らの前に鉄は姿を見せていなかった。だが、マルファーレンスの戦士達はそのことに対して不満を上げていない。なにせ自分達は600体。相手は1体。数の力としての優位を貰っている以上、文句など言えようはずもない。


 そもそも鉄と戦いたいと言い出した理由は、鉄の戦いっぷりを動画で見たからである。無数の相手に引かず、恐れず、己が国を護るために盾となって戦う姿は、神々の試練によって首都が危機にさらされたマルファーレンスの戦士達にとって、まさになりたい姿そのものであった。やってくる敵を隕石に置き換え、鉄を己に投影して恐れずに戦う戦士としての力を振るう。


 それが今、このブレイヴァーという機体によって叶う所まで来た。ならば、今の我々とあの時の猛者はどれぐらいの差があるのかを知りたい。戦士として、どうしてもそこが気になって仕方がないのだ。なのでダメ元で掛け合ってみたが……その結果、今回は許可するという返答が返された。が。


「今回は認めます。ですが、あの機体はただの機体ではありません。最大の敬意を払って頂くことが条件です」


 如月司令の普段は感じない強い威圧感を伴った言葉と、本来なら長い戦いを経た戦士でなければ出ないはずの気迫を見せられた。むろんどんな相手であったとしても、よっぽどの下種な存在でない限り敬意を持って戦うのがマルファーレンスの戦士達だ。しかし今回はそんな如月司令の気迫に押され、要望を出した戦士達の代表数名はその場で頷く事しかできなかった。


『あの機体は日本皇国を護ったまさに戦士……いや、騎士と言うべき存在だ。敬意を払え、そして決して油断するな! 物理的な強さ以上の強さが、あの騎士にはある! 数的優位を貰っていても、どうなるか分からん! 連絡は密に取り合え! これは実戦であると心得よ!』『『『『『『はっ!!』』』』』』


 そんなやり取りを行いつつ、警戒していたブレイヴァーに乗ったマルファーレンスの戦士達であったが、ついに鉄と接敵する。


『こ、こちら3番隊! 鉄と戦闘に入りました! 強い、何というパワー、そしてスピードなのだ! 動画で見るのと実際に対峙するのでは違うものだとは分かっているが、これほどとは!』


 一番多い100体の団体を本陣と仮定するのであれば、その本人から右斜め後ろに位置していた3番隊が最初の交戦を行う事になった。


『3番隊に振り分けた数は!?』『15体です! ですがすでに反応が6つほど──いえ、今7つ目が消えました! このままでは3番隊は数分と持たずに全滅します!!』『3番隊に近い部隊はどうした!?』『すでに2番隊、4番隊、5番隊が全速力で3番隊への支援に向かっています!』『了解した、他の部隊にも戦闘区域を伝え、移動を開始させろ!!』


 強襲を受けた3番隊に向かって、他の部隊が全力で移動を開始した。シミュレーション上なので、森林の破壊などを一切気にすることなく突き進むブレイヴァー達。そして彼らの目の前に見た物は、全滅した3番隊と、空に浮いている鉄の姿だった。


『3番隊が到着まで持たんとは……! やはり、クロガネは強いぞ! 皆、全力で今まで蓄えてきた力を示せ! 我々も、星々の世界で戦うことが出来る力を持ちえたのだという事を、クロガネに理解してもらうぞ!!』『『『『『おおっ!!』』』』』


 そして、鉄1機に対して585機のブレイヴァーとの戦いが始まった。ブレイヴァーはまだフライト能力がないため地上から剣波を飛ばしたり、クロスボウ型の射撃武器による攻撃を鉄に放つ。鉄はそれらの攻撃を回避、もしくは防御しながら胸部ガトリングガンやスレイヴ・ボムズで反撃を繰り出す。この射撃戦は鉄の方が優位であった。


『く、今の攻撃はどこから!? クロガネは宙に居るのに真横から……』『クロガネには、複数の同時攻撃を可能とする能力があるんだ! それを知らないとは相手に対する研究と敬意が足りんぞ!』


 特にスレイヴ・ボムズによる攻撃にブレイヴァーに乗った戦士達は上手く対応することが出来なかった。頭上から降って来る胸部ガトリング弾の弾に意識を向けるように仕向けられたところに、横からスレイヴ・ボムズの攻撃が飛んでくる。その理屈は頭では理解しても、やはりまだ体と心が混乱しているせいで対処がまだ追い付いていないのだ。


『1対600でこのザマかっ……皆、このまま終わってはクロガネが我々を共に戦う戦士として認めてはくれんぞ! 奮起せよ!』『『『『はっ!』』』』


 しかし、それでもなお皆が戦意を失わないのはさすがといった所だろう。それにスレイヴ・ボムズの動きも分かって来たようで、考え方を徐々に変える事に成功して対処できるようになった戦士もちらほらと現れ始めた。逆境こそが戦士を成長させる。そしてこの程度の逆境を超えてこそ、鉄が認めてくれるという心境もあって、粘り強い戦いをするようになっていく。


 ブレイヴァーの数は200前後まで減っていたが、逆に生き残っていたブレイヴァーを駆っている戦士達は、ガトリングの攻撃やスレイヴ・ボムズの攻撃に対応しながら反撃できるようになっていた。まさに、それは逆境こそが己が糧になるとの信念で成長した姿であった。そんな彼らの前に、鉄は地面へと降り立った。


『来るぞ、おそらく此処まではふるいに掛けられていたのだろう。そして、今度は直接戦うに値すると考えて降りてきたのかもしれん。総員、心せよ!』『『『了解!』』』


 各々が持つ武器を構え、鉄が何をしてきても良いように身構えるブレイヴァー達。そんな彼らに向かって、鉄はシールドを展開しながらのタックルで突っ込んだ。盾で何とか受け流したブレイヴァーもいたが、巻き込まれて吹き飛ばされたブレイヴァーもいた。即座に大破とまではならなかったが、吹き飛ばされたブレイヴァーはかなりのダメージを受けてしまっていた。そこに……


『避けろ!』


 タックルを回避した戦士が叫ぶ。鉄の手には鉄専用大太刀、影柾が握られていた。その大太刀の刃の先には、吹き飛ばされて倒れたブレイヴァーの姿が。慌てて回避行動を取るが、それよりも影柾の一閃の方が早かった。胴体を斬り裂かれ、3体同時にブレイヴァーが爆発してリタイアする。


『これが、クロガネの本気かっ……!!』


 そんな戦士の誰かが発した言葉に、より一層緊張が高まる。戦いは後半戦へと移行していく──。

後編に続く。

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[気になる点] 誤字報告 >「如月司令、どうした? 放したい事があるとの事だったが?」 →話したい [一言] 総理入り鉄かな? 武闘派総理かっこよす
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