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3月5日

 ティアとブリッツの視察が終わって数日後。光は大臣達と会議室にて、今までの報告と今後の日本の進むべき方向性についての話し合いを行っていた。


「──という感じで、日本人と他国の婚姻数は1万に到達しました。まだ交流できる場所が少ない現時点においてはなかなかの滑り出しであると思います。ただ各国からは、もっと日本人との出会いの場を増やしてほしいという要請もちょくちょく飛んできておりますが……」


 まず入って来たのは日本人と各国の人との結婚数。これは他の大臣が中心になって進めていたが、先日1万人を達成したという事である。ただ、もっともっと結婚し、子をなし、新しい血をもって子孫を繁栄させてほしいというのが日本以外の3国共通の願いであり、この数字にはまだ満足するという意見は全く出てこない。


「仕方があるまい、まだ間口を広げようにもやる事が多すぎる……その間口を広げると言えば、通貨の話はどうなった?」「はい、そちらの方も報告させていただきます」


 光の言葉に別の大臣が挙手をし、通貨の単位をどうするかという各国とのやり取りの結果を発表する。


「日本皇国の出現による希望を願うというお題目で、今後この世界の共通通貨はエン、にする事で決定しました。ただ、我が国以外の通貨は硬貨でのやり取りがメインでしたので、その点は変えないそうです。それで、見ていただけますでしょうか? すでに硬貨を試作しております」


 大臣はそう言って前方にいくつかの硬貨を置いた。色合いからして銅貨、銀貨、金貨。さらに銅貨と銀貨は大きさが二種類ある。小さい方は100円玉、大きい方は500円玉のサイズに近い。


「この小さい銅貨を1エン。大きい方を10エン。銀貨の小さい方を100エン。大きい方を1000エン。そして金貨は1万エンという形に定めました。5円や50円はなくしております。こちらの世界もそういった通貨にはなじみがないとの事ですので」


 光や他の大臣も、試作された硬貨を手に取って形を確かめる。硬貨にはマルファーレンス、フォースハイム、フリージスティの国旗が上、右下、左下に描かれ、中央に日本皇国の国旗である日の丸が入っている。


「我が国の国家が中央かつ一番大きく描かれているな……それだけ、我々に対する期待が大きいのだという事を表しているのか……気を引き締め直さねばならんな」


 そんな光のつぶやきに、大臣達も無意識のうちに背筋を伸ばした。期待が大きい分、外れた時の失望感もまた大きくなる。その失望感が大きくなれば、この新しい通貨も呪いの通貨となりかねない。そんな未来を迎えるような事が無いよう、一層の努力をしなければならないのが今の日本である。


「なんにせよ、円という通貨単位を使い続けていいというのであれば、こちらに反対する理由は無いな。後は、この新しい硬貨を識別できるよう設備の更新が必要となるな。そちらの方も早めに国民に発表し、理解を求めよう。この硬貨が問題なく日本国内でも流通するようにしなければ、潤滑なやり取りという物は望めない」


 新しいものが出たら、それに対応するよう設備を整えなければならないのはいつの世も変わらない。特に今回はお金に関する事なので、更に大変な作業となる。しかしこれは絶対に必要な事であるのは言うまでもないため、やらないという選択肢は初めからない。


「なんにせよ、確実に物事が前に進んでいる事が分かったのは嬉しい話だ。もう一つ、間口を広げるために他国の人が日本に入国する際どうするかという問題もあったな。まず、他の3国が今まで国境を超える時などはどうしていたかの話は聞けたのか?」


 光の問いかけに、担当していた大臣が口を開く。


「はい、その点は抜かりなく。過去は分厚い通行手形に近い物を使っていたようですが、今はこのカードを提示するやり方になっているそうです。我々が分かりやすいものでたとえるのであればパスポートでしょう。ただのこのカード、3国の魔法技術を結集して発行には慎重に時間をかけて作られるものであるという事なので……これについては、日本がこのカードのやり方を受け入れるのが良いと思われます。郷に入れば郷に従えの精神でしょうか」


 カードが各自に回され、皆が直接手に取って眺める。見た目は金の太めのラインが二つ入った銀色のカード。しかし手でなぞってみればぱっと見では気が付けない細かい細工がいくつも入っている事に気が付く。暫くカードを確認していた光だったが、やがて大きくうなずいた。


「うむ、この点は確かにこの世界のシステムを我々が受け入れる方が良いだろうな。通貨という大きい所でこちらの顔も立ててくれたことだし、この世界で動いてきたシステムなら導入した後の混乱も小さいだろう。皆、その方向でい良いか?」


 光の確認に、これと言った反論は出なかった。新しい世界単位での共通貨幣を作るという事はかなりの手間がかかる。だったら、それ以外の事はこの世界で使われているシステムに乗っかる事で世界にかける手間を減らしたい。そういう考えで一致したからである。


「さて、後は私からだが……これは今すぐという話ではない。だがいつか将来において復活させたい物がある。それは選挙だ」


 光の言葉に、大臣達が皆注目を向ける。選挙という響きは日本が地球に居て奴隷とされていた時代にはなかったものだ。大臣達にとっては、懐かしいではなく新しいとすら感じる響きに内心で色々と思う所がある。


「今はまだ地盤が固まっていない状況だ。こんな状況で総理大臣や各大臣を入れ替える様な事をしたらとんでもない事になる。だから今はやるわけにはいかない。しかし、だ。この状況もいつまでも続かない。皆が努力し、国家としての土台が固まり、神々の試練を乗り越えて国民の皆に余裕が生まれてきた時、国政に関わりたいと思う者はきっと出てくるだろう」


 光の言葉に、大臣達も各々の頭の中で未来をシミュレートし、その結果から頷く大臣が出てくる。その大臣達の反応を伺ってから光は話を続ける。


「そうなれば、今までのような世襲制による国家運営は様々な場所から不満が出てくるし、何より余裕が生まれる事で我々の中から腐敗した考えが生まれてくる可能性を否定することは出来ない。これは歴史が物語っているからな……だからこそ、状況が落ち着き、国民の皆が今よりももっと先の未来を考えることが出来るようになったその時、国民の皆には選択肢を与えたいのだ。国の腐敗を防ぐためにも」


 新しい風は常に必要なのだ。風が無くなれば場が澱み、その澱みは腐敗を招く。腐敗は腐らせ、破滅への導き手となってしまう。国家がそうなっては困るのだ。国家が澱めば、その影響は国民はもちろん他国へも伸びる。日本が遠い未来そんな事にならないようにする為にも、選挙に関連する物事の復活は必要であると光は考えていたのだ。


「そう、ですな。いつか我々が新しい世代にバトンを渡す方法としても良いでしょう。国民が自分達の顔である国家の主導者を自分の意志で決める。今までは確かに世襲制にして回すしかなかったという状況でしたが、これからは違う。新しい命、新しい風を古い考えが、命が遮ってはならない……」


 そんな一人の大臣が呟いた言葉に対して「確かに、世襲制でやって来た今までのやり方はもう捨てるべきか」「これからの日本は、新しい日本となるのですから……過去の風習は良い所は残し、問題のある部分は改善していくべきでしょうね」などの意見も上がる。


 未来を創るのは新しい命……なら、その未来を『創った』命はそこから先、何をすればいい? それは新しい命に未来を見せる事、そして自分達がなりたいと思わせる未来予想図への指標を残す事ではないだろうか? 自分もそうなりたい、自分ならこうしていきたい。そういった新しい命が考え、一歩を踏み出していく切っ掛けを創っていく。それこそが『先』に『生』を受けた者達全体の仕事なのではないだろうか?


「もちろん、最優先事項は迫りくる神々の試練に打ち勝つことだ。これに勝てねば未来も何もない。だが逆に言えば、打ち勝つことが出来れば世界の未来を一気に明るくすることが出来る。そこまでは我々の仕事だ……そこから先は新しい命にバトンを渡しやすいように道を作っていこう」


 この光の発した言葉に、大臣達が力強く同意の声を上げる。それだけでなく、この場に居る皆の瞳に新しい意思が宿った。これから生まれてくる新しい命が、未来に夢を持って生きていけるような世の中にしていくという誓いを新たにしたからだ。こうして各大臣は、より精力的に己の仕事を進めていく事に繋がっていった。

考え方は私個人の考えに過ぎません、その点はご了承ください。

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