5月11日
国際連合本部大会議室
「えー、と言うことでありまして、つまり日本は明らかに侵略の意思を見せており……」
光ははもう殆ど次々と発言をしている各国代代表の話を聞いていない。 眠いのではない、やる気がないのではない、怒り狂っているのだ。
でたらめな理由、でっち上げの証拠、そういったものを目の前で積み上げていくだけでも腹立たしいのに、発言をする代表は明らかに一瞬こちらを見たかと思うと『これならどうしようもあるまい?』とばかりにわざわざニヤリと醜く笑うのだ。
こんなブタ共に我らの祖先は、そして我々は苦しめられてきたというのか。 言いがかりでゆすり、たかってこちらの技術を寄生虫のように吸う事で栄えてきた連中。 技術提供の名の下に日本人を酷使し、過労死させてきた者達。 ──だが、もうそれは二度と戻らぬ日々だという事をこの会議にて教えてくれるわ……!
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そんな怒り狂う光の心情など全く察せず、次から次へと『日本にとって一方的に不利な、虚偽のみで作られたまがい物の物事』とやらを更に積み上げていく各国代表。 彼らは疑っていなかった、日本がこれらの条件に屈し、再び自国の為の奴隷として日本人をこき使うことが出来るサイクルが戻ると信じきっていた。
流石に食料こそある程度は自国でも生産していたが、その他のあらゆる物に対しては、ほぼ日本人に作らせることで解決してきた。 実質、各国の武器に使われているパーツの80%は日本製であり、フルーレが率いる部隊の活躍で世界各国が日本人を失ってからは、武器の製造を始めとして、あらゆる生産系統がゆっくりと麻痺し始めている。
特に1番影響が出ているのは水だ。 2000年前より日本が作り続けていた海水をろ過するシートの供給が止まってしまったため、世界のあちこちで非常にゆっくりとではあるが水資源の減少が進んでいる状態である。 それが深刻な事態にまで発展するのに、時間はそうは掛からないだろう。
水を取り戻すため、生産ラインを再稼動させるためにも、『世界』側も日本を屈服させて再び日本人をこき使う状態へと戻さなければならない必要に駆られていたのだ……日本人にばかり物つくりを強いてきた反動で、今の生活水準を維持するために必要な物資を作れるのは日本人しかいなくなっていたからだ。
そのため『世界』各国は、裏で協力し合って日本が悪党であるという三味線を、でかでかと弾くハメになったのだ。 既にもう手遅れでしかないという事にはまだ一切気がついていないのだが。
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「では、日本国首相、ヒカル・トウドウ、何か発言することはあるか?」
議長が「形式上やむなく言うが、お前は黙っていろ」との意味をこめるかのように威圧と声を光へと飛ばす。 だがその威圧は光にとっては何の意味も持っていないに等しい。 なぜなら既に光は怒気を通り越して殺気を放ち始めていたのだから。 殺気の前には威圧などないに等しい。 光はゆっくりと立ち上がる。
「──では、1番前の壇上にて発言することをお許し願いたい」
爆発しそうな感情を抑えてそう発言し、前に進み出る。 議長は渋い顔をしたが、光はそんなもの知った事ではないとばかりに前に出る。 そして壇上に進み、世界各国の代表を一瞥した後、光は口を開いた。
「自惚れるな貴様ら。 この世界など征服する価値は、1セントコイン一枚の価値すらない!」
ダン! と拳を振り下ろしながら光は吠えた。
「散々日本が世界征服に向けて動き出したなどと、色々と下らん理由を上げていたが、そもそも、今の日本にとって世界征服をするメリットは何だ! 答えてみろ!」
各国の代表は予想外の展開にざわつき始めた。
「そして先にこちらから答えを言ってやろう! 無い! 一切無い! それが答えだ!」
この光の発言に流石に反論が上がり始める。
「我らの国に価値が無いというのか!」
「我々はお前達よりはるかに豊かだ! そんな我が祖国に価値が無いだと!?」
怒気が込められた反論が飛び交う、だが光は平然とした態度で反論する。
「下らん。 その豊かさは我々を食い物にし続けたからこそ存在しているのだ! 我々の祖先に嘘の罪をなすりつけ、酷使し、殺し、奪い取ってきたからこそその豊かさがあるのだ! 我々が消えてしまえば、それはもう砂上の楼閣のごとく崩れ去るだけだ! 後10年も持たぬだろうな!」
事実である。 今の4027年の地球にとってはそれは紛れもない事実である。
「今のお前達に1から物が作れるのか? 細かい道具、部品、安全管理、安定した生産、お前達にできるのか!? 出来ないだろう、我々日本人にそういう労働部分をほぼ全て押し付けてきたからな!」
この言葉に先ほどまで怒気に溢れていた会議場が一瞬で静まり返る。
「故に、今更世界征服などしたところで何になる。 正直に言えば貨幣なんて日本にとっては既に紙くずにしか過ぎん。 壊す事と奪うことしか出来なくなったお前達と、生み出すことをひたすらに磨いてきた我々とは、もう既に立っている場所が、世界そのものが違うのだ!」
世界に自分と祖先の怒りを叩きつけると覚悟して臨んだこの会議。 世界は日本を相変わらず暴力でどうにかできると思い込んでいた。 だが、フルーレ達の助けがある今なら、もうこの呪われた鎖を引きちぎって飛ぶことが出来るのだ。
「悔しいか? 憎いか? 思い通りに行かず腹立たしいか? 教えてやる、今のお前等の心境なんてかわいい物だ、お前達の祖先が我々の祖先に対してやってきた嘘とありもしなかった物事に対する攻撃に比べればな!」
謝罪する事すらできぬくせに。 国際的な場では、過去の物事に対してこのような事を繰り返さないというのが限界の癖に、自分達に出来ない謝罪やら賠償やらを日本に要求してるんじゃない。
「き、き、貴様あ!」
激昂したある国の代表が立ち上がり、隠し持っていたビームガンを光に向ける。 携帯する事を黙認されていたのか、ビームガンを向けた代表を会議場の警備員が止めに入る様子が無い。
「し、死にたくはあるまい!? あのバリアも無いのだからここで俺が引き金を引けば「引いてみろ!!」」
わめきだした男の声に光は声を被せた。
「この場所へは始めから死ぬつもりで乗り込んだ! それに今俺が死んでももう代わりは用意してきた! 死ぬことはすでに怖くなど無い! 忘れたのか? 俺は日本人だ、『神風特攻』をした祖先を持つ日本人だ! 貴様のような奴とは、気合も、命の熱さも、魂に背負った重さも何から何まで違うのだ!」
光が吠え、ビームガンを持った男を両目で睨み付ける。 ビームガンを持った男は圧倒的優位に立っているはずなのに、脂汗と冷や汗が入り混じった汗を流し、指をカタカタと震わせるばかり。 今まで数え切れぬほど引いてきたはずの軽いビームガンのトリガーが、まるで鉛になってしまったかのように重く、引くことが出来なかった。
他にも数人ビームガンを持ち込んでいた代表はいたのだが……その者達も光の威圧に完全に飲まれており、震え上がっているだけであった。 彼らにとって、戦争とは遊びであり、絶対的優位な場所から見下ろすだけ。 そのために本当の威圧に対しての耐性が全く無かったのだ。
「交渉は決裂だ、お前達の要求、ならびに日本の世界征服を認める行為、全てにNOと言わせて貰おう! もう二度とここへ日本がくることは無い、故に正式に国際連合を日本は脱退する! 運営資金の大半を出していたのはどこの国であったか、思い出してみるんだな!」
こうして、国連本部で行なわれた日本最後の会議は終わった。 運営資金捻出の大半を失い、資金繰りが出来なくなった事に比例して、行動も次々と取れなくなっていく国連は、自然と力を失っていった……。
そんなに~は、深く考えなくても話が浮かんできます。
時間の9割が文章をこうして書くことのみに使われています。




