3月1日
そして2日後。フォースハイムのティアとフリージスティのブリッツが数人の供を連れてやって来た。挨拶を軽く交わした後、早速光陵重化学のブレイヴァー開発の視察に移る。ティアもブリッツも、もう待ちきれないとばかりに気が逸っている様子を隠しきれていなかったのだ。フレグがかなり二人を煽ったのかもしれない。
さて、そんな二人がやってきて、先日光も見て驚いた新型試作機であるブレイヴァーデルタの模擬戦をさっそく見学。今回は4VS4の団体戦が行われており、どちらかのチームが5回機体を行動不能に陥らせたら勝ちになるというルール。行動不能にされたブレイヴァーは、アームにひっつかまれて後ろの補給所に戻されて修復、再出撃となる。なお5回という回数は、各自一回はダウンする事を許される設定だからである。
さて、そんなブレイヴァーデルタの模擬戦を見たティアとブリッツだったが見始めてから数分でもう視線は釘付けとなり、席から立ち上がってモニターに張り付く勢いでブレイヴァー一機一機の動きを見逃さぬとばかりに見つめている。
「信じられない……ゴーレムは鈍重であるという事が常識だった今までの歴史は何だったのか……神威を見た時も驚きましたが、今回は人と同じ、いやそれ以上に滑らかに動いているではないですか! あのマルファーレンスの戦士達の技が、動きが、ゴーレムで再現──いいえ、違いますね。それ以上です。これは、フレグ殿がぜひ己の目で見て来いと言う訳です。ここまで、ゴーレムは進化できる可能性があったのですか!」
ティアは興奮を全く隠さず、目の前で行われている模擬戦に夢中になったまま、言葉を発した。尤もそれはティアだけでなく、ブリッツも、そして彼らについて来たお供の人達も同じであった。
「信じられない……ここまで動かせるのであれば、我々の国の銃士たちの動きも容易く再現できるでしょう。そうすれば、各自の持つ得意な銃撃、戦い方をこのゴーレムに乗ってもそのまま使える……これは大きい、今まで磨いてきた技術を何一つ捨てる事なく神々の試練に挑める……いや、一刻も早く自分の手で動かしてみたいですね。実際に触って、動かして、どのような感触なのかを知りたい!」
ブリッツの興奮具合もティアと同じくらい、いや、それ以上かもしれない。目の前で滑らかに動くブレイヴァーデルタが動き、剣を振り、盾で防ぎ、ボウガンを放ち、吹き飛ばされた後に受け身を取って着地する……その一挙動ごとにティアとブリッツとお供の人達は歓声と驚愕の入り混じった声を上げる。光は2日前に見ているためそこまで声を上げる事は無かったが──
(こうして改めて見ると、やはり進歩が素晴らしいな。後はこの動きを維持したまま神威シリーズと同じ大きさの試作機を作って、そちらのテストに早く取り掛かりたくなってくる。今、この世界に必要なのは分かりやすい希望だ。そしてこのブレイヴァーはその分かりやすい希望の一つとなる。神威との違いは、実際に自分達が動かせるという点にあるからな)
戦士たるもの、護ってもらうのではなく戦ってこそ価値があるという空気をマルファーレンスから来た人々は纏っている。そんな彼らが宇宙で戦うための新しい剣と盾となるブレイヴァー、これはマルファーレンスの人達にとって神威よりもさらに分かりやすい希望であり、希望があれば活力を生む事に繋がる。ブレイヴァーが正式にマルファーレンスの人々の前に姿を現したその時こそ、これからは神々の試練に立ち向かえる新しい時代が幕を開けるのだと声高にガリウスも宣言できるだろう。
さて、模擬戦も終わり……大声を張り上げて応援に夢中になっていたティアとブリッツの両名は気が抜けたかのように椅子に腰を掛けて呆然としていた。お供の人達も半分魂が抜けたような状態でぼうっとしている。余韻が抜けないんだろうか──そこに差し出される冷たい飲み物。二人はためらうことなく飲み物に手を伸ばし、一気に飲み干した。飲み物を口にしてようやく熱くなっていた心身がある程度クールダウンしたのか、二人は小さく息を吐き出した。
「大変失礼しました。ヒカル様を置いてつい目の前の光景に夢中になってしまいました……」
ティアがそう申し訳なさそうに光に謝罪する。
「お恥ずかしい姿をお見せいたしました。できれば、その、忘れていただけるとありがたいのですが……」
ばつの悪そうな表情を浮かべて、ブリッツも光に頭を下げつつそんな事を声に出す。数分前までの自分の姿を思い出し、恥ずかしくなってしまったのだろう。
「いえいえ、お気になさらず。それで、いかがでしたでしょうか? これが最新の試作機、ブレイヴァーデルタと呼称している機体です。これで大まかな機体の設計は終わりましたので、いよいよ実際に人が乗り込める大きさのものを開発する動きになります。我々の機体開発の進み具合は順調であるという事が、お判りいただけたのではないでしょうか?」
光の言葉に、ティアもブリッツも首を縦に振る。何せ目の前で食い入るように、嘗め回すかのように夢中になってしまったのだ。否定などできようはずもない。
「はい、今日は直接視察に来てよかったと素直に思います。あのマルファーレンスの戦士の方々の動きを、ゴーレムが対応できる姿をこうして見る事が出来るとは思ってもいませんでした。正直に言って、まだあの動いている光景が脳裏に焼き付いて離れていません……」
ティアの言葉にブリッツも続く。
「夢中になってしまいましたよ。ええ、まるで子供に戻ってしまったかのように声を上げてしまいました。そして、この機体ならば、我々の動きにもきっと応えてくれる。そう実感させてくれる貴重な時間でした。本当に、ありがとうございます。希望の輝きが増し、恐怖が薄れていく事を今私は感じています」
両名の言葉に、お供の方々も次々と同意の声を上げる。そのタイミングを見計らって、如月司令が姿を見せた。
「我々の開発と研究の成果がこれになります。そして、成果を見せた所でフォースハイムのティア様とフリージスティのブリッツ様にお願いがございます。ブレイヴァーの開発はひと段落し、次の研究に取り掛かるべくこちらは動きたいと思っております。そう、フォースハイムの方々とフリージスティの方々が乗る国別の専用機体の開発です。そのために少々の、支援を頂きたいのです」
如月司令の言葉に、ティアとブリッツはその要求する支援内容を教えて欲しいとの問いかけが当然出るので、如月司令はその内容を明かす。人員が両国から500人。これはマルファーレンスと同じで魔力の流れなどを見ながら機体のテストをしてもらう為。マルファーレンスより100人少ないのは、ある程度のデータがとれているためである。
そして、試作機を作るにあたっての資材提供。最初はマルファーレンスと同じようなサイズから作るので大量に必要という訳ではないが。それでもフォースハイムやフリーシズティの顔を立てる為にも要求を出し、3国が日本と密に協力しあっている事をアピールできるようにもしておきたいという狙いもある。
「なるほど、分かりました。その要求を断る理由はありませんね。国に戻り次第すぐに手配を行います」
「こちらとしても、むしろ望むところと言った話です。人員もすぐに手配しますし、支援物資もすぐに届けさせましょう。こんな素晴らしいゴーレムに関われる絶好の機会なのです、すぐに募集人員の枠は埋まりますよ」
ティアもブリッツも二つ返事で了承した。というより、むしろこの話を振ってくれて助かったというのが二人の内心である。マルファーレンスで募集がかかった事を当然フォースハイムやフリージスティの国民は知っており、我々にも声が掛からないのか? という問い合わせは多くやってきていた。なので、これで国民への説明ができるので都合が良かったのだ。
「むしろ、私がその枠に入りたいぐらいです。見ていて思いましたよ、実際に私が動かしてみたいと」「ティア様もそう思われましたか。実は私もそう思ってしまいました。立場が恨めしくなるとはこういうことを言うのでしょうね。ぜひ乗り込んで、あのボウガンを構えていた機体を動かしたい!」
二人の言葉に、お供の人々も続いた。「気持ちは分かります、どういう物なのか体験してみたいですな」「実際に動かすとどういう世界を見ているのか、興味深いです」「新しい技術に触れたくなるのは、皆同じですな」と言った感じである。その話し合いに笑みを浮かべる光と如月司令。
「その願いが出来るだけ早く叶う様に、こちらも努力いたします。ですが、それには皆様の協力が必要不可欠でございます。どうか、よろしくお願いいたします」
光の言葉に、再び頷くティアとブリッツ。そしてお供の皆様方。こうして、フォースハイムとフリージスティの国別専用機体の開発がスタートする事となった。なお、この為に日本が要求した人員500名の中に入るための選抜は、マルファーレンスの時よりもより過酷になってしまったと、後にティアとブリッツの両名は語っている……。
何とか今週も、無事更新できてほっとする一瞬。




