2月27日
明けました。今年もよろしくお願いします。
それから少し時間が経ち、ティアとブリッツが日本皇国にやってくる2日前となった時、光は突如如月司令に呼び出された。
「如月司令、一体に何があった? 直接来てほしいという事だったからやって来たが……何か大きなトラブルでも発生したのか!?」
光の声には、緊張感が多分に含まれている。あと2日後にはティアとブリッツがやってくるのだ。ここに来て大きなトラブルは起きて欲しくない。だが、そんな光に如月司令は微笑みを浮かべながら口を開いた。
「はは、総理。総理のご心配になった様な出来事ではありませんよ。いい意味で驚いて頂く為にも、今回はお越しいただいたのです。こちらへどうぞ」
如月司令の先導の元、やって来たのは研究所の庭。庭と言っても、ある程度の傾斜やプールのような水場、低い木がそれなりに立ち並び林を模していると言った疑似的な戦場となるように作った場所である。
その庭に光を案内した如月司令は「では、始めて下さい。勝った側にはボーナスを出します!」との声を上げると同時に出てくる二機の小型ブレイヴァー。持っている武器は、片方が片手剣と盾。もう片方が大剣なので前とパイロットは変わっていないのだろうと光はあたりを付けた。
「総理、ブレイヴァーの性能が大きく上がりました。どう変わったかは……これからの戦いを見て頂ければお判りいただけます」
如月司令の言葉を聞いて、光はこの小型ブレイヴァーがどういう動きを見せてくれるのかを見逃さないように見つめた……その瞬間。2機とも相手に向かって走り出した。その走る姿は実になめらか……人の走る姿と大差なく走ったのだ。
「あの動きは……神威シリーズよりもはるかに滑らかに動くな! しかも走る速度も速い。なるほど、これが最初の改善点か」
音こそ機械の音を立てているが、その動きはほぼ人間の物と大差ないと言っていいだろう。そして2機のブレイバーが接近したかと思うと、片手剣を持ったブレイヴァーがその走る勢いを殺さずに大剣持ちに向かって剣を振り下ろす。その動きは淀みなく行われ──大剣持ちのブレイヴァーはその片手剣による攻撃に対してさらに斜め前へと踏み込んでから大剣を盾にする事で受け流した。
「何という攻防だ。数日前とは雲泥の差ではないか……動かしているパイロットの腕もさることながら、その動きに応えているあの2機の動きも素晴らしい。なるほど、これは確かに大きく上がったという言葉にも頷ける」
光の言葉に満足そうな笑みを浮かべる如月司令。さて、そんな二人をよそにブレイヴァー2機の戦闘は続く。大きく懐に踏み込まれてしまった片手剣のブレイヴァーであったが、大剣の柄による攻撃をひらりとかわし、宙に舞った後に着地して仕切り直す。大剣を持ったブレイヴァーも今度は剣を正眼に構え、様子をうかがう。
そんな様子見も短時間で終わり、今度は大剣持ちのブレイヴァーが得物を左から右に薙ぎ払う。すると片手剣のブレイヴァーは再び跳躍。大剣持ちの頭上を越えて背後に回る──を読み通りとばかりに、薙ぎ払いの勢いを殺さぬままに大剣持ちのブレイヴァーがその着地を狙って得物を当てに行く。
片手剣のブレイヴァーはこの大剣の攻撃を盾で防御。しかし、しっかりと足を地につけた状態ではない為に吹き飛ばされて地面を2回、3回と転がって──その回転の勢いを生かして跳ね起きる。だが、大剣持ちのブレイヴァーはそこに向かって突貫。剣を前に構えて体を貫かんとばかりにチャージを掛ける。
片手剣のブレイヴァーはこの大剣を再び盾で防御。しかし今回はもろに受けた訳ではなく受け流す形だ。一撃必殺の大剣による串刺しチャージ攻撃が泳いでゆく……そこを逃さぬとばかりに片手剣で頭部を狙った攻撃を繰り出した。この攻撃を、大剣持ちのブレイヴァーは体を人間のように捻って頭部への直撃だけは回避した。攻撃を受けはしたが、致命傷ではない。
「攻防の展開が早いな。もしかすると、生身の状態よりも早いのではないだろうか?」「ええ、この試作機のパイロットも、今の状態になって動きが良くなったことで生身を超えた攻防戦が出来る時があるという報告を上げています。さて、どちらも一定のダメージを被っています。幕は近いですよ。今回はどちらが勝つでしょうかね」
光と如月司令の会話は聞こえていないのだが、2機のブレイヴァーは決着をつけるべく再び動く。盾を前に出して突進する片手剣ブレイヴァーと、腰溜めに得物を構えて突進する大剣ブレイヴァー。間合いが詰まり、大剣ブレイヴァーが右下から左上へと渾身の力で斬り上げる。その斬り上げは盾を跳ね飛ばした──が、その先の視界に片手剣ブレイヴァーが居ない。
「あんな動きまでするとはな……」「勝負ありましたね」
第三者視点で見ていた光と如月司令はよく見えた。片手剣ブレイヴァーがどこに行ったのか……片手剣のブレイヴァーは大剣ブレイヴァーが攻撃を仕掛けてくる直前に盾を前方に押し出す形で投げていた。そして地面に這いつくばるかのように姿勢を低くして……得物を振り上げた事で動きが止まった大剣ブレイヴァーの横を、片手剣を両手で持ちながら駆け抜けて胴体を斬り裂いていったのである。そしてビービーとブザーが鳴って終了を告げる。
「なるほどな……如月司令。確かにこれは性能が大きく上がった事が良く解る。先日フレグ殿と見に来た時とは完全に別物だ。どのような改善を行ったのか、大雑把で良いから教えてもらいたいな」
光の言葉に、頷いた如月司令はどういった点を改善したのかを口にする。
「まずは関節回りですね。神威シリーズよりも関節の可動域や数を増やし、ある意味人間以上に滑らかに動けるようにしてあります。そして、やっとですが魔力の流れを機体各部に届ける仕組みが形になりました。その2点が大きいですね。その結果どうなったかというと、見て頂いた通りです。戦士であるマルファーレンスの皆様からも、この新型試作ブレイヴァーデルタは上々の評価を貰っています。早くこれを神威シリーズの様に大きくしたものに乗りたいという言葉も、かなり出てくるようになりました」
自分の動きに応えるどころか、それ以上の動きすらできるようになったこの新型ブレイヴァーはマルファーレンスの戦士達の心を捕らえていた。こういう動きが出来れば良いのに、こういう動きをしたくて修行を積んだが、まだ形にならないと言った鬱憤を、この新型試作機は晴らしてしまったのである。
そして、この新型試作機に乗った後に今度は己の体で再現しようとすると、上手く行くことが増えていた。頭の中で考えていたことが新型試作機で動きとして再現でき、それが経験となっているのである。そのため、少しでもこの新型に乗ってイメージを構築し、そして己の体でできるように訓練を積むという流れすら出来つつあるのだ。
「そうか、乗ってもらう人達からも良い評価が出ているなら何よりだ。使う人が動かしにくい、扱い辛いでは話にならないからな」「総理の仰る通りです、現場の不満を無視しては、碌な事になりませんからな。そこは徹底していますよ」
どんなに火力がある武器でも、どんなに強い防具であっても、使い辛いとなるとその魅力は大きく減じてしまうなんて事は言うまでもない。そんな扱い辛い物を使いこなす変態は確かに存在するが、兵器がそれでは困るのだ。訓練を終えた兵士が、十全に使える事でこそ価値がある。ロマン武器などが許されるのはゲームの中や、本人専用のチューンアップを施した物のみである。
「なんにせよ、これなら2日後にやって来るティア殿とブリッツ殿にも満足して頂けるだろうな」「ブレイヴァーがほぼ形になったので、そのお二方出身の人に合わせた機体の試作機もそろそろ取り掛かろうと考えています。その点も交えて話し合いを行いたいですね。戦い方に合わせた調整をしなければなりませんから」
この動きを見れば、あの両名が次はうちの国に合わせた機体をいつ作ってくれるのですか? という話をして来てもおかしくない。その辺りは如月司令を交えて話し合わねばならないだろう。だが今は、ブレイヴァーがここまで進化したことを喜びたい。これなら近接戦のメインはブレイヴァーに任せてしまっても良いぐらいだろう。
「総理、そしてこのブレイヴァー開発で得た知識と技術は、神威シリーズにも一定レベルで反映させる事が決定しております。神威弍式・改とでも命名いたしましょうか。より柔軟に動け、その上で装甲は落とさぬようにする改善案もほぼ固まってきました。それと同時に神威・零式はお役御免という事で解体し、神威弐式・改の生産材料に回す予定となりました。零式ではこれ以上の性能向上が望めませんので」
ここで、地球では大勢の訓練を受けた一般人を載せて戦ってくれた神威・零式は、その姿を消す事が確定した。だが、そのパーツは一度解体された後に再生成された後に神威弐式・改となって甦るため、その魂は受け継がれるという事になるだろう。
「そうか、神威・零式は弐式には使えないパーツを流用した即席に近い機体だったからな……ここでお役御免となるのも仕方なしか。あの機体もよく頑張ってくれた、もちろん乗り込んで共に戦ってくれたパイロット達もな」
光は目を閉じ、神威・零式に対して感謝の意を思う。共に同じ戦場で戦った仲間として。
「神威・零式のパイロット達にもこの事は後程伝えます。ま、当分神威の出番はないでしょうから当分はVRによる訓練で十分でしょう。その後、彼らも神威弐式・改のパイロットへと昇格ですね」
こうして、ブレイヴァーの開発によって神威もまた性能向上が図られる。これによって戦闘力が確実に高まり、神々の試練へと立ち向かう準備がまた一つ進む事となった。
神威弐式は、改になっても頭部はバイザータイプです。
ツインアイはごく一部の機体に限っております。
 




