表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/219

2月23日

 フレグが来て、見て、触って、体験して、食って満足して帰ってから3日後。光はフォースハイム連合国の代表であるティアと、フリージスティ王国の代表であるブリッツと通信魔道具越しの対話を行っていた。


「フレグ殿が、そのような事を仰っていたのですか」「ええ『今のうちに直接見ておくべきだ、あそこには熱がある。明日につながる熱がある』と。ものすごい熱弁でした」「マルファーレンス帝国の首都に神々の試練がやってくると予言されてから、どこか諦めていた空気が日本皇国の登場でかなり薄れ、そして今回できれいに消えかつての彼が戻ってきていましたからね。ティア殿のおっしゃる通り、力の籠った熱弁でしたよ」


 どうやら彼は帰ってから、他の2つの国の代表であるティアとブリッツに対して相当な弁舌を振るったようである。そうでなければ、こうして二人揃ってこんな話を振ってこないだろう。


「そんな彼が言うのです、見ておくべきだと。通信魔道具越しではなく、己の目で。今年の新年にヒカル様が神威に乗って我が国に訪れ、国民にその存在が幻ではない事を証明してくださいましたが……彼もその点に違いはなかったはずです。実際、神威を直接見る前と見た後では明らかに覇気が違いましたから」


 と、ティアが言う。今年の新年早々、マルファーレンスの象徴であるガリウスの願いを受けて、光は神威・参特式で首都へと乗り込んだ。その時にも神威シリーズが幻ではない事を知った世界がその新しい鋼鉄の戦士を歓迎したが……


「あれは何としてでも見にいけ、そうしなければ分からん! とまで彼は言い切りましたからね。まあ、こちらとしてもぜひどういう風に製作しているのかの現場を知りたいとは思っていました。もちろん機密部分まで触れようとは思いませんが、やはりこちらに合わせて作られたあの巨人がどのような物なのかという事に、興味津々であることは事実ですから」


 こちらはブリッツの意見である。実際に自分達が使うのだから、よく知っておきたいというのはなんらおかしい事ではない。むしろそういう考えを持つべきである。


「ふうむ、こちらも調整が必要ですが、そうですな……6日後であれば、お二人に来ていただき、直接テストを行っている研究施設に足を運んでいただける用意が整います。そこで、フレグ殿が見た物と同じものをお見せできますが、如何でしょうか?」


 光の提案に、ティアもブリッツも即座に食いついた。


「6日後であれば、こちらとしても時間が取れます。ぜひどのような試験が進んでいるのかを見せていただきたいです!」「そうですね、こちらもなんとか時間を作りましょうか。部下に仕事を少々投げる事になりますが、やはり神々の試練に立ち向かう相棒の製作経過を見ておくべきでしょう」


 2人が来る、と宣言した事で光は如月司令に向けて6日後に、フレグと同じような形で施設の見学の許可を出してもらうように要請をメール形式で飛ばした。6日後なら受け入れられることはスケジュール表で分かっているが、何も知らせずに行くような非常識な行為を総理がとるわけにはいかない。


「では6日後にてお待ちしております。それとですね……見学が終わった後、もし我が国で見ておきたいものがありましたら仰っていただきたい。そちらも都合がつけばご案内させていただきますが」


 この、光の申し出にティアもブリッツもしばし黙り込み、思案した。その結果出てきた言葉は……


「「電車を見たいです(のですが)」」


 であった。見事にハモってしまっている。


「電車ですか。それは、普通の運行している物の方ですか? それとも高速の方でしょうか?」


 この時代、電車は各駅停車する物は車輪式、高速の──かつて新幹線と呼ばれた物はリニア式と完全に分かれていた。なので、二人がどちらを知りたいのか。もしくは乗りたいのかを先に知っておく必要があった。


「私は各駅に止まるのんびりとした物に乗ってみたいのです」「私は早い方ですね。魔法を使わず高速で大勢の人が移動できるという部下の報告を受けて、ぜひ一度見て、乗って、感じてみたいと思っていました」


 前者がティア、後者がブリッツ。見事に二つに分かれてしまった形である。


「そうですか、えーっと……この時間帯なら……そうですね。まずはティア殿の希望である各駅停車する電車で3つの駅を乗り継ぎ、その先でブリッツ殿の希望する高速型の方に乗り換えるという方法であればお二人の希望が両方を叶えることが出来ます。それでよろしいでしょうか?」


 この光の提案に「私はそれで構いません」というティア。「そうですね、各駅に止まる電車の速度も体験しておいた方が良いでしょうね」と口にしたのがブリッツ。


「では、そのように。しかし、また何故電車に興味を抱かれたのでしょうか?」


 気になったので、光は遠慮せずに聞いてみる事にした。すると──


「部下曰く、乗り心地がなかなか面白いので乗ってみる価値があるとの話を聞いているのです。魔法を全く使わずに動くとはどういう事なのかを、ぜひ体験しておきたいのです」


 ティアの理由はこうであった。まだ地球に日本が存在していたころに、おそらくフォースハイムの人が何らかの理由で乗って、それが面白かったのかもしれない。


「乗りたい理由ですが……先の話になりますが、もし乗り心地が良いのであれば、日本皇国と我が国であるフリージスティまでの間をつなぐ、魔法に頼らない移動手段として建設してもらう要望を出す可能性があるからです」


 一方でブリッツは、自国と日本皇国との間にレールを敷いて行き来できる交通手段として使い物になるのかどうかを確かめる事を目的としていた。魔力が強い子孫が生まれ、移動手段はほぼ魔法でどうにかなるフォースハイムでは、出てこない考えであると言えよう、それが、二人の要望の差として出てきた。


「なるほどなるほど……解りました。では、ぜひ我が国の電車を体験していただき、その結果次第で次の話をする事としましょう。手配はこちらで進めておきますので」


 二人の乗りたい理由を聞いた光は、3人分+αの乗車券の確保のためにこの後動くとメモを取る。メモを取らなくても忘れるわけではない、ないが……この手の予定は、メモを取っておいた方が間違いがないのだ。


「では6日後にお邪魔いたします」「6日後を楽しみにしております」「ええ、期待に応えられるようにしますよ」


 それが最後の挨拶となって、通信が途切れた。6日後に入った新しい予定をスケジュール表に記載し、光は一息ついた。そこに、如月司令から『先ほどの要請、了解しました。その日は元から予定はありませんでしたので問題ありません。フォースハイム、フリージズティの首脳にも見て頂いた方が後の話し合いが順調に進むでしょうから、協力は惜しみません』という返答が入った。


(よし、これで問題なしか。希望の灯はもっと灯した方が良い。これもまた、総理としての仕事だな……)


 6日後にやってくる重要な客人を出迎えるべく、今後の予定を滞らせずに進めなければならない。幸いにして過密スケジュールとではないため問題はまずないと思うが……想定外の問題というのはそう言う時に限って起きる物。油断はできない……と、気を引き締める光であった。

これで、年内の更新は終わりかも知れません。


来年もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今年も楽しく読ませていただきました。 よいお年を。
[気になる点]  現代日本の国土全て転移しているんですよね? 今問題になっている竹島や北方四島、沖縄、小笠原諸島も、もれなく。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ