1月13日
3国との国交樹立、これが無事正式に行われた事はフリージスティの晩餐会が行われた翌日に国民へと発表された。この発表を聞いた国民は、これから新しい時代が始まる事を強く感じたという。そんな国民が新しい時代の風を感じ取っている最中に、光は大臣を集めて会議を開いていた。
「今日国民にも通達されたように、国交樹立の調印は無事に終わった。また、常識的な範囲で支援を今後も受けられる事も取り付けた。なので、来年の末にやってくるという神々の試練に対抗する事を、今後の最優先課題とする。ここまでは良いだろうか?」
光の声に、大臣たちは皆頷く。反論する理由もないからだ。
「なので、今後の流れを大まかにここで決めておきたいと思う。我々がやらねばならぬことは、神々の試練に立ち向かう神威・弐式の強化、およびマルファーレンスの人々が問題なく動かせるようにチューンアップをした新しい神威の生産。マルファーレンスの人々の中で、避難したいと申し出てくる人達を受け入れることが出来る収容施設の建設。この2つは急がなければならない。もちろん通貨のすり合わせも必要だろうし、交流も深める必要がある。仕事は山ほどあるが、先にあげたこの2点が最優先事項である、という事だ」
大臣達も、当然日本に求められる役割はその2つに加えて、子孫を作って濃くなってしまった血を薄める事であると分かっているので光の意見に同意する。通貨の細かいすり合わせなどは神々の試練を乗り越えてからでもいいし、交流も地球に居た時からある程度進んでいるので急ぐ事は無い。
「3国とも、ちゃんと渡した資材などの支援がどのように使われているのかを此方が透明性を確保して報告すれば文句は言ってこないはずだ。また、マギ・サイエンスをより発展させるために、3国の技術者も受け入れて意見交換を行わせる必要がある。地球に居た時と違って、今は技術のブラックボックスを作っている場合ではない。神々の試練に打ち勝てねば、この世界に生きる人々の未来は暗いままになってしまう」
もちろんこの世界に生きる人々は、日本皇国も含まれている。
「総理、話は分かりましたし反対する理由もございません。国益の面から考えても3国から一定の信頼を得る事は必要ですし、そのためにも神々の試練に我々は打ち勝たねばなりません。結果を出さねば誰も納得はしないでしょう。ですので、まず最初の一手はどうなさいますか?」
池田法務大臣の言葉に光は……
「うむ、まずは神威の製作に当たっている研究者と、マルファーレンス王国の戦士の中でそれなりに強い人々。この両者に会ってもらい、神威を動かした時に行われるという魔力の流れをより詳しく調べてもらう事から始めようと思っている。そして、彼らが違和感を感じる事無く神威を動かせるようになれば、そこまでに集まったデータで新しい神威の製作に取り掛かれるようになるだろう」
この光の答えに、疑問を呈する大臣が声を上げた。
「総理、一つ質問が。なぜマルファーレンス王国の人々を優先するのでしょう? 3国とも神々の試練に打ち勝てるのであれば、ぜひ参戦したいという声が上がっているはずです。その中でマルファーレンスの人々を優先する理由を教えて頂きたいのですが」
この質問に対し、光はすぐにその理由を述べる。
「まず一つ目は、今回の神々の試練がやってくる場所がマルファーレンス王国国内であるという事だ。一番必死になり、一番戦いたいのは間違いなくマルファーレンス王国の人々だろう。だから優先する。そしてもう一つだが……彼らは戦士の国だ。という事は当然、ほかの2つの国よりも体を動かす戦い方をすると思われる。そしてそれだけ動く戦い方を神威で行うとなれば、より多くのデータが取れると私は予想する。それらのデータが取れれば、フォースハイムやフリージスティの人々専用機体の製作にも応用が利くだろう」
3国の人々が使う専用のチューンを施すにしても、同時に開発するのでは人手が足りないのは間違いない。だから絞って開発する。地球に居た時にも神威に乗って戦ってもらったが、当時の異世界から来たメンバーは神威・零式をスムーズに動かすことは出来無かったがために、後方からの射撃戦に徹してもらったという事もある。魔法や射撃を重視した機体であればそれでも何とかなる部分はあるが、戦士として前衛に出て戦いたいとなれば、当然ここは改良しなければ始まらない。
「そう言う事ですか……それならば説明もつきますね。マルファーレンス王国の人達が、自分のやり方で戦いたいとなれば地球の時にやっていただいた射撃戦では満足など出来ないでしょうな」
「それだけではないでしょう、もしかすると神々の試練でやってくる隕石は、射撃攻撃があまり通じない物があるやもしれません。その時には直接斬ったり殴りつけるといった方法を取らねばならない可能性が出てきます。その時には戦士の訓練を積んでいるというマルファーレンスの皆様の駆る神威が主力となる可能性もあります」
「そうですな、神々の試練についての情報があまりにも少なすぎます。各国から情報を入れつつ、あらゆる可能性を探らねばなりますまい。いざ本番と言う時にやり忘れがあるというのは一番危険ですからな」
光の言葉を聞いて、各大臣が各々の意見を出す。何せ日本皇国にとっては初めての試練だ。分からない事が多すぎる。
「今までの神々の試練についても、情報は提供して貰う予定ではある。しかし、先程大臣の一人が言っていたように、直接殴ったり斬ったりしなければ砕けない隕石が存在する可能性はある。むろん自衛隊が駆る神威でも近接攻撃は可能だが、全体的に見れば射撃重視のチューンがされている事が多い。その点は確かに不安要素の一つと言っていいだろう」
光が発した言葉に、大臣たちは皆同意する。とにかく今まで自分達が居た地球とは何もかもが違う。今までの常識で考えていては、決して上手くはいかない事をここに集まっている大臣達はちゃんと理解していた。
「なら、この会議で出た話を持って、3国への資材の支援要求。並びに技術者とマルファーレンスの戦士の方々へ新しい神威を作るためのデータ集めに協力を仰ぐという事でよろしいですか?」
池田法務大臣の言葉に異論は出ない。最初に光が言った通り、日本皇国が最優先にするべき事は神々の試練に対しての対抗策を作る事。時間は限られているうえに開発をするとなればあまりにも短い。だからこそ取りまとめるべき事が纏まれば、すぐに動き出さなければいけないのである。
「では、各国への報告は私がやろう。早いうちに特使などの整備も整えねばならないだろうが、それは追々だな。それに重要な報告と物資の支援要請を出すわけだから、総理である私が顔を出して報告した方が向こうも納得するだろう。とにかく今は神々の試練を乗り越える。それが終わらねば独立国家として整えねばならぬ法の整備や選挙の復活などがやれん」
今までの実質奴隷国家であった時と違って、今は立派な独立国家である日本皇国は大きく法を改正しなければならない。ハッキリ言えば憲法の改正だ。今までの法が通じないのは当たり前だが、何せ国ごと異世界にやってきたのだ。地球の時の常識など通じない部分の方が圧倒的に多いと考えねばならない。
それらをスムーズに行い、他の3国にも滞りなく了承してもらう為に神々の試練で躓くのは避けたい。期待が期待通りになるか、期待外れになるかで日本皇国に対する視線という物は大きく変わる。そしてその視線が今後の長きに渡って日本皇国の立ち位置を決めるものとなる。
日本皇国は頼りになる国だと見てもらえるのか、ただの大風呂敷を広げるだけの国だと見下されるか。どっちがいいかなんて考えるまでもない事だろう。それに、後者になってしまったら国益にも大きな影響が出る。50年、100年後を考えて、国益を大きく悪化させるような事態を避けるのは、総理大臣を始めとした政治家の仕事である。
(やるだけやりましたが失敗しました、では許されない。日本皇国はそれだけの期待と、チップを3国から掛けられている。期待に応え、勝利して守り切ったというチップを3国に対して返せなければこの先の日本皇国にとって大きな痛手だ。そんな結末にする訳にはいかん)
国交が樹立し、足元が最低限ではあるが何とか固まったこの日。日本皇国は神々の試練に向けての対策を最重視する形で動き始めた。
 




