5月8日
「では、日本のこれからを……頼む」
光はTV、ラジオなどの媒体を通じ、全ての官僚、国民、異世界人に日本の今後を託す放送を流した。 次期総理大臣は池田法務大臣が勤めることが確定し、光が死亡したことが確定した瞬間、藤堂内閣から池田内閣へと変更される事になる。
そして、今日5月8日、光は日本総理大臣として、飛行機にて国際連合本部に向けて出発する。 実は飛行機で移動するのは日本だけで、他の各国の代表は海上にレールが製作されたジェットマグレブと呼ばれる、リニアモーターカーのより進化した移動手段を用いて非常に短時間で移動する。 ちなみに作ったのは当然日本人であり、その作った日本人だけがジェットマグレブの使用を禁じられている。
飛び立っていった飛行機を見送ったフルーレは、全ての隊の隊長に集合を呼びかけていた。
「これからの活動を発表します、基本的にこのまま日本の防衛行動が中心になることは変わりません。 念のために、天皇陛下を初めとした方々の護衛も怠らぬよう。 そして、1番隊、2番隊、3番隊には特殊任務を命じます。 任務内容は……『散歩』になります」
一瞬静まり返る部隊員、が、2番隊隊長がすぐに理解を示した。
「なるほど、『散歩』ですか。 じゃあ、『散歩』の先に、『たまたま』光殿がいらっしゃって『偶然』ピンチから救われるような『散歩』ってことですかい?」
フルーレはこの答えにうなずく。
「はい、防衛でもなく、護衛でもなく、『散歩』です。 これならば、光様の指示にも引っかかりませんし、困っているところに『たまたま』私たちが駆けつけるのも『散歩』ですから問題はないでしょう、当然私も『散歩』に出向きます」
フルーレのこの台詞に「ずいぶんと偶然が必然と発生する『散歩』ですなぁ」と笑いが漏れる。
「あの方を死なせるつもりは初めからありません」
その時だった。
「──我らとて始めからそのつもりだ」
フルーレの背後から突然数名の男達が現れる。
「我らは日本の特殊部隊の〈忍〉という。 藤堂殿の支援に出向く『散歩』とやらに我々も同行する、『偶然』を装って我らが主を守る手段は多数心得ている。 そちらの技術である魔法とやらを組み合わせれば、よりあの方をお守りできる、故に我々は姿を現した」
フルーレと、〈忍び〉沢渡大佐の無言のにらみ合いは30秒ほど続いたが、どちら側からともなく険しい表情を崩す。
「結局私たちは」
「あのお方を失いたくない、と言うことだな」
そこからは、双方の歩み寄りはとても早かった。 実は光の乗っている飛行機の中には〈忍〉達が自己判断で光に対する護衛行動に当たっていた。 そのことを当人である光は一切知らない。 光の決死の姿を見て、自らの意志で〈忍〉は行動していた。
これらの行動は軍として見るのならば褒められた行為ではない、しかし特殊部隊と言うあやふやな部分を生かして既に独自行動をしていたのである。 彼らの行動理由はたった1つだけ、愛すべきバカと言うべき特攻を仕掛ける主を死なせたくない、これだけである。 いざとなれば自らの命を盾にしても。
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そんなフルーレ&〈忍〉連合が独自行動しているとは露知らず、光は国連会議場にて発言する事の内容を考えていた。 正直どれだけ言っても世界に対しては言い足りないし、そもそもの発言権をこちらに与えられるのかすら分からない。 それでも、それなりの覚悟を決めて日本を出てきたのだから、一太刀でも浴びせてから後は笑って死んでやる。 こんな世界など征服したところで日本にとっては損しかないのだと笑ってやる。
実際、日本が世界征服を成し遂げても日本にとって、うまみは全くないのだ。 新しい技術なんて物には始めから期待できないし、資源の獲得なんかした所で結局その資源から製品を作るのは自分達なのだから、今までやってきたことと何も変わらない、むしろ資源獲得のための労働力が余計にかかる。 世界の人間を奴隷にしたとしても、作業ではその作業をこなすだけの知識がないので使えない。 じゃあ皆殺しにするのか? そんなの時間と手間と道具の無駄使いにしかならない。
結局、日本はそっとして置いてもらうのが一番の得だったのだ。 世界が勝手に思い込み、勝手に脅えて、その思い込みと脅えにつけ込んだ存在が都合のいい嘘を吐き、その嘘を真実として世界が日本に言いがかりをつけてきたに過ぎない。 だがその嘘のせいで1000年も日本の祖先は苦しんできた。 だが、それももう終わる……祖先に向けて、その報告がやっとできる。
「桶狭間に関が原、大阪夏の陣、そして日清日露に太平洋……最後の戦は国際連合会議室か。 それもまた良しだ……」
呟きがつい漏れる、だか心は妙に穏やかだ、死の恐怖も何もない。 ただただやるだけやってやるの覚悟だけがより固まっていくだけ……。 そうして数日後の5月11日、いよいよ国連本部にて、日本にとっては最後の国連会議が幕を開ける。
短いですが更新。
そして光の知らないところで独自行動を行なっている方々がいます。
 




