2月13日
もう1つ新作をやってみます、こっちも更新は遅いかと。
時は西暦4027年。 日本首相官邸。 その首相専用ルーム。 今日は2月13日で時間は午後11時半を回った所。
「ふざけんな、本当にふざけるな!」
1人の男の絶叫が響く。 彼は藤堂 光。 第1894代目の日本首相である、年は43歳。 首相としては若すぎる年齢だが、これには訳がある。
2000年程の昔とは違って、一番日本で就きたくない仕事のトップに位置するのがこの『日本の首相』なのであったりする。 要は誰もやりたがらず、しぶしぶ若造にもかかわらず手を上げたのが新米議員の光であったというだけの事である。 とんでもない話なのだが、それがまかり通っている訳は……。
「また金の請求かよ! こっちは技術提供かい! 日本人の汗と血と涙と魂で必死に作り上げた物を湯水のように扱いやがって!」
現時点での日本の立場は、『世界の奴隷』なのである。 侵略されない代わりに、ありとあらゆる物、金、技術を非常に安い値段で提供させられている。 日本が反論すれば、日本が全く関与していない事件や、明らかに日本の責任ではない歴史の嘘を持ち出し、お前達は、こう言う過去の償いをせねばならないのだと『世界』から責められる。
この理不尽に対し、天皇陛下もお心を砕かれ、ありとあらゆる場所に出向き、改めてくれるよう行動なさって下さったが、それも虚しく功を為さず、歴代の陛下も悲しみにくれるばかり。
更に腹立たしいのが、提供したお金や技術を使い、植林をしたり、学校を建てたり、畑を生み出したりしても、数年で世界は平然とだめにするのだ。 具体的には、植林をした場所は木が育ったら伐採して薪にしていまい、学校を建てても暫くすると解体し、その学校製作に使われていた材料を横流ししたり、畑を作ってもその管理を怠りだめにする。 そしてこれらの結果を『日本がしっかりしないからだ』と責任を押し付けてくるのである。
「てめえらが無駄にしてきたものが、どれだけ日本の国民が必死になって、作り上げたものだと思ってやがる……! くそったれめ!」
国連においても日本は空気に限りなく近い。 発言権もほぼ無く、勝手に日本の負担が決められていくのだ。 ちなみに国連運営費用の75%が日本一国の負担である。
「いっその事、日本の国土と国民だけ持ち出して、異世界でも宇宙の果てにでもいければな……」
そんなメルヘンな呟きが漏れる。 これはここ1000年日本の首相が無意識に呟く独り言のトップであったりする、それぐらい日本は苦しめられている。
しかし、そんな状況でも日本人は耐えた。 物を生み出し、食料を作り、仕事の後に飲む一杯を糧に翌日も頑張るのだ。 その汗と血と涙と魂は磨かれ、日本がこんな無茶苦茶な状況にさせられているのになお、日本と言う城を支え続けている。 日本人の笑顔は、まだそこから失われてはいない。
「国民だって頑張っているんだ、俺がここでめげちゃ笑われちまうな」
そう、気を取り直して、各国から届く無茶な要求を少しでも抑える方法を思案するために書類に目を移す。 そしてまた仕事を始める……ハズだった。
「その願い、聞き届けましょう!」
誰も来ないはずの首相官邸の首相専用ルームに女性の声が響く。 光は当然身構える。 都合が悪い首相を暗殺しに来る連中なんていうものは山ほどいる。 現に日本歴代首相で『世界』の横暴な要求に徹底抗戦を取った首相は、全員暗殺されているのである。 世界が敵なのだから暗殺者やスパイなんて防ぎようが無いのだ。
「誰だ! とうとう俺も暗殺対象になっちまったか……な?」
その目の前には白を基調として、ところどころに赤いラインが入ったローブを着た女性が1人。
「暗殺なんてしませんよ?」
殺意が無いその声に光も警戒を解く、と言うより毒気を抜かれた。
「ずいぶんと綺麗なお嬢様だが。 何の用かな?」
その声に彼女は答えた。
「私はフルーレと申します、貴方から見れば異世界人ですね。 貴方の願い、異世界へと、この国と国民を連れて逃げるお手伝いをいたします」
その言葉に光は胡散臭げな目を向ける。
「おいおい、そんなこと出来る訳が無いだろう。 それが叶うのならぜひやって欲しいがね。 それにそれが万が一できるとして、報酬は何を要求するんだい?」
行動があるなら、報酬の要求は当然あるだろう。 移ることが万が一出来たとしても、その先でまた奴隷であっては何の意味もないのだから。
「私達の要求はこの国が誇る、とても高い技術力。 あ、もちろんその技術に対する報酬は当然支払いますし、この国が今受けている不当すぎる報酬の様な卑怯な真似も致しません。 それともう1つは、血が欲しいのです」
技術はまあ分かるが、血の要求? 随分物騒だが……?
「血と言いましても、遺伝子の方です。 貴方達の言葉で言えば遺伝子に不具合がある状態が、私達の世界にいる人間全体に広まってしまっている状況なのです」
この言葉を受けて光は考える。
「ふむ、此方でいう近親による血の濃度の上昇で子孫を残すことが困難になっているということか?」
その返答にフルーレは頷く。
「そう考えて下されば結構です。 此方の魔術……貴方達では研究者ですか、その研究により、後数世代で此方の子孫を残すことが出来なくなる……と言う研究結果が上がってきています」
なるほど、お互い崖っぷちということか。 そう光は頭の中で考える。
「ですので、私達の世界に新しい血を入れてくれる人達を探しておりました。 もちろん1人2人ではだめです、それこそ1千万以上の人が必要です」
ちなみに4027年における日本人の人口は、約7500万人である。
「そして色々な場所を渡り歩き、私達と交わって子孫を残すことが出来る人類を探し回りました。 その適合者が、貴方達日本人です! 他の国の人ではダメです、日本人の方とだけ子孫が残せると研究結果が出ているのです」
光はここまで大人しく聞いていたが「なるほど」と声を出す。
「此方からそちらの世界に移るにしても、色々問題があると思われるんだが、そういった転移に対しての問題はどうなっているのかね?」
フルーレはすぐに返答する。
「基本的な魔法陣の構築は許可さえいただければ、今すぐに展開できます。 また、魔法陣を展開することにより、暴力行為を防ぐことが出来るという効果も出ます。 なので、暗殺などの心配も消えます」
暗殺の恐怖から解放されるのは大きいな、と光はつい考えてしまう。 暗殺の恐怖は常に強いストレスを産むからだ。
「また、そちらに移ったあと、我々はどういう扱いになる? また奴隷ではかなわんぞ?」
この質問にもフルーレは素早く回答する。
「はい、それについては、第4の皇国扱いとなります。 また、島国であるという事も維持されますし、四季が無事訪れるような場所の選定も終わっております」
──荒唐無稽かもしれぬ。 が、今のままでは間違いなく日本人は世界に使いつぶされる。 ならいっその事……。
「すまないが、事が重大ゆえ、俺だけでは決められん。 話をお伺いせねばならぬ方がいる」
そうフルーレに告げ、電話とをる。
「……藤堂 光だが? ああ、そうだ、首相のだ。 今陛下はどうなさっておられる? ……そうか、緊急に陛下のお耳に入れなければならぬ出来事が発生してしまった。 済まないが、謁見させていただける時間を用意願いたい」
無理やりなアポを取りフルーレに告げる。
「今の話を、この国の象徴とされる、天皇陛下の前で語っていただけるだろうか?」
フルーレは笑みを浮かべ……。
「はい、包み隠さずお話させていただきますわ」
そう、言った。 そして天皇陛下の前にて、深夜の謁見、ならびにこの話に乗るかどうかが話し合われた。 そして、話が纏まったときには東の空が明るくなってきていたのである。
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時間は流れて翌日の、2月14日の午前8時。 会社へ出社する人達、学校に通学する人達などでごった返す日常。 その日常で突然、全てのテレビ、およびラジオ、等と言ったメディアに首相の言葉が流れ出した。
『えー、どうも。 第1894代目の首相である、藤堂 光です。 今日は国民の皆様にお知らせがございます。 今年の12月31日午後11時59分59秒に、我々日本人と日本の国土は、異世界に出発することが決定したことをお知らせいたします!』
先ほどまで色々な音が騒がしかった朝の日常がとたんに静まり返る。 その後……
「「「「「「「「「「「「「「「ええええええええええええええ!?」」」」」」」」」」」」」」」
と言う国民の戸惑いが日本全土を揺らした。
『そして、その証拠の1つとして、日本はこれから特殊なエネルギーにて包まれます。 これはドッキリでも妄想でもございません。 事実であります』
光の声が響いたかと思うと、薄いながらも間違いなく視認できる薄い青い色の膜が空を覆っていくのを誰もが見た。 当然国民は全員あっけに取られている。
『国民の皆様は今までどおりに生活なさっていただければ問題ございません。 もう我々は十分世界に尽くしました。 理不尽な要求にも祖先の代から耐えに耐えました。 もういいでしょう。 これからはちゃんとこの国を正当に評価する世界に行くだけです』
光の声はその後細かいスケジュールを国民に説明していく。
『これらの情報は首相専用HPでも確認できますのでご安心を、そして、海外に出張している日本人の皆様、すぐに帰国して下さい。 この特殊な膜は日本人なら問題なく通過できます』
そして、最後になりますが……と光は前置きをしてから……。
『全世界の連中! そんなに日本が嫌いなら、国ごと地球から出て行ってやる!』
と宣言して首相の言葉とは思えない終わり方で終了し、国民を大混乱に陥れた。 この宣言が、第三次世界大戦を引き起こす引き金となるのだが……それを予想したのはこの時点ではごく一部だった。