第007話 病院に来ただけで得した気分になるそこの君! 今すぐ学校に行きなさい!
投稿です。
俺と玲は近所の病院にいる。別に体調が悪いわけでもお見舞いに来たわけでもない。あることを調べてもらうために来たのだ。
「ほえ〜今時の病院はきれいぢゃのう。ワシの頃はもっと犬やタヌキが院内を堂々と闊歩しておったと聞いていたがのう」
「野戦病院どころじゃないぞそれ」
『番号札十三番でお待ちの荒垣さま、荒垣涼馬さまー。三番診察室にお入りください』
「よし、行くぞ」
「ほいほい」
アナウンスに導かれるままに引き戸を開けて中に入る。そこには診察してくれるおじいちゃん先生と看護婦さんがいた。二人とも俺の極悪氷河フェイスを見ても恐れる様子はない。良かった、この人たちなら話を聞いてくれそうだ。
俺と玲は用意されていた椅子に座って先生と向き合う。
「はいこんにちは。今日はどういった症状でしょうか?」
「いえ、別に病気を診てもらいに来たわけじゃなくて、調べてほしいことがあるのです」
「ほう、それはいったい?」
「それは……」
俺が神妙の面持ちでうつむくと先生と看護婦さん、あとなぜか玲がごくりを唾を飲み込む。
こんなことを聞いていいのだろうか。でも聞かないと不安だしはっきりさせるためにも必要だよな。……よし、行くぞ!
覚悟を決めた俺は振り切るように顔を上げて玲の肩を掴み、抱える問題を赤裸々にブチまけた。
「こいつが俺の妹か調べてほしいのですッ!」
「末期症状ですね。薬を出しますので余生を二次元とお過ごしください。次の方どうぞー」
「待って!? 待って!? 本気で悩んでいるから話を聞いてください!」
俺の決死の思いを踏みにじらないで!
「いるんですよねーあなたみたいにちょっと似てる娘がいたら自分の妹と思い込んでチョメチョメしようとする人。あなたもどうせ『背徳感を味わいたかったんです……』とか供述して頭にジャケット被せられる口でしょ?」
「誰が性犯罪者だ! あのですね、本当に冗談でも酔狂でもないんです。詳しくは話せませんがこいつはいきなり現れて俺の妹を名乗るんです。しかも先生の言う通り俺とこいつは似てるでしょ? だから真偽を確かめたいんです」
「似ていると言っても宝石工芸品と劣化ウラン弾が両方とも『硬い』みたいなものですよ?」
「誰が人を撃ち殺すほど怖い顔だッ!!」
確かにこいつは宝石みたいにキレイと言われても否定はできないが俺に至っては殺人兵器かよ! いやそれもある意味否定できないけどね!?
ニヒヒヒヒ、と満更でもなさそうに笑う玲を無視して話を続ける。
「とにかく、どうか血液を採取して検査してほしいといった次第です」
「その前にあなたの血液が入ったチューブをその娘の腕から摘出してくださいね。まったく、私じゃなかったら騙されるところだよ」
「あなたにとって俺はなんですか!?」
「じゃかましいぞ若造が! なんで貴様らの世代から『妹萌え』なる文化が発達し出したんだ! 私が若い頃にそれがなかったおかげで私は可愛かった妹に対してなんの感情も抱くこともなくこの年になってしまって、ババアとなった今のあいつではときめくこともできない! そんな青春時代を補おうと医者になって可愛い娘に触診したり可愛いナースを侍らそうと思ったのに来るのはいつもババア、アンド、ババア! 若い娘はどいつもこいつも青二才共のところに集まる! そう、これはいわば代表戦争ッ!! 時代のせいでシスコンになれなかった男と降って湧いた妹とラブラブするクソガキとの一騎打ヂゲボォ!?」
「別室で採血の用意をしますのでそれまで待合室にてお待ちください。それと検査はDNA検査となりますので契約書にサインする判と料金を持って後日お越しください」
「は、はい」
すげえ、後ろの看護婦さん、絞め落とす腕に一切のためらいがなかったぞ……。
俺たちは診察室から出る。先ほどから一言もしゃべらない玲を見るとビクビクと恐怖するように震えていた。採血が怖いのかさっきの先生の剣幕にやられたか?
「ワ、ワシの腕には『ちゅーぶ』なるものがあるのかえ? その親父の血が入った『ちゅーぶ』は一体ワシにどういった影響を与えるんぢゃ!?」
俺の周りはバカばっかりです。