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階段が現界しました  作者: 水無月 一
第001章 階段、現界する
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第002話 予想可能回避不可能

 あれから我が家の守り神————とりあえず『あきら』と名付けた————をウチに入れて掃除洗濯に夕飯の準備やらをしたんだが、あの野郎ずっと暴れ回ってたから全然作業が進まずに寝たの結局夜の三時だったよ。でもなんとか始業式には間に合ったから良しとしよう。


 そして新学年になってから三日が過ぎ、授業も新しいものが始まって委員会の構成員も刷新され、部活動に入っている奴は進級に伴って心機一転、いずれ来る後輩をリードしていく立場になった。まあ部活にも委員会にも所属していない俺には関係ない話だ。


「はあ……」

「どーしたリョーマ。企み事なら誰かに相談しろよ」

「いや企み事って。それに『オレに相談しろ』ぐらいは言えないのかお前は」


 俺が悩んでいるのは玲の処遇についてだ。別に家にいる分にはそこまで困らないのだが、ギャーギャーとやかましいからストレスが溜まる一方だ。かといって階段に還らせようにももう階段を造ってしまったからどうしようにもない。それにたまに昼夜問わずフラリと外出してしまうから無駄に心配させられて面倒だ。どうしたものやら。


「そーそー知ってるか? 今日新しく転校生が来るって噂らしーぜ。しかも女子! どんな娘なんだろーなー?」


 そう言いながら隣席の同級生にして幼稚園からの腐れ縁、くすのき嘉隆よしたかが目を希望に輝かせながら身をくねらしている。キメェ。


 嘉隆は昔からこと女が関わるとやる気がうなぎ登りする男で、幼稚園の頃にあったお昼寝タイムで女子と隣り合ったら『同衾どうきん』と呼んで発情こいた伝説の男だ。黙っていたらそれなり以上にモテそうなんだが、性的にクズな言動がすべてを台無しにするスペックブレイカーであることがもったいなさすぎる。


「夢見すぎだ嘉隆。絶対嘘っぱちだろうし来るにしてもむさい男だろ絶対」

「夢見なさすぎだリョーマ。絶対本当だろーし来るとしたら超絶絶滅拒絶絶倫美女だぜ絶対」

「この学校が男女別棟であることを忘れてそこまで舞い上がれるお前がうらやましいよ」


 だから女子かと思っただけでもう有頂天なんだろうな。実際はあり得ないが。


 まあ誰が来ようが仲良くしたいものだ。この学校で一緒に勉強していくんだ、そうしておいて損はないだろう。


 ……実際に俺と向き合って仲良くできる奴なんてほとんどいないだろうけどな。この顔だから。


「はーいさっさと席に着きなさいあなたたちーSHR始めるわよー」


 ちょうどその時担任の占部うらべゆう先生(二十歳と百八十ヶ月。♂。もう一度言う。♂だ)が入ってきて、それに合わせて教室内のクラスメイトたちが慌てて自分の席に戻った。


 全員が席に着いたのを確認して占部先生が出席名簿を開いたところで、


「おっと忘れるところだったわ。今日から転校生がこのクラスに入るから仲良くしてあげなさいね」


 ……まさか本当に転校生がいるとは。嘉隆を含めるクラスメイトたちもこれには驚きを隠せないようで、ザワザワと色めき立っていた(嘉隆の場合は男子か女子か気になって気が気でないだけだろうが)。


「はい、じゃあ転校生ちゃん入ってらっしゃい」


 占部先生の呼び声が終わったと同時に引き戸が開かれ、入ってきたのは————






「おお、やはりここにおったか。ヤッホーなのぢゃ!」






 男どもの歓声が聞こえる中俺は黙って席を立つ。そして転校生のところまで全速力で駆けつけ、そいつの手を引いて窓際まで行き、


「どっせいや!」

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ…………」


 開けた窓から思いっきり背負い投げした。


 巨乳であることとちょっと背が低くて髪が長いことを除けばほとんど俺と同じ造形の女だった。あいつは五歳前後の姿だったはずだしここは男子棟で女子は入れないはずだしそもそもあいつは守り神でアパートにいなくちゃならないはずとかで頭が追いつかない。


 周りからクイック転校生いびりだの三階からのユーキャンフライだの聞こえるがこっちはそれどころじゃない。なぜだ、なぜ玲がいる!?


「ひどいのう。いきなり投げ飛ばすとは何事ぢゃい」

『『『うおっ!?』』』


 俺の脳みそに玲のハスキーボイスとみんなの驚く声が突き刺さる。ゆっくり振り返るといつの間にか出入り口付近に血みどろの玲が立っていた。


「面倒だから私が紹介するわね。この子は荒垣玲ちゃん。気づいた子もいるかもしれないけど、涼馬ちゃんの妹よ」

「よろしくなのぢゃ皆の衆!」

『『『えええええええええええええええ!?』』』

「リョーマに妹とか初耳だぜえええぇぇぇ……」

「一番驚いてんの俺だってのおおおぉぉぉ……」


 先生のしてのけた説明に誰もが驚愕し、俺と嘉隆は床に手をつけてうなだれる。


 それにしてもまさかの妹設定。あいつは俺に何をさせたいんだ。


「で、でも先生、彼女はここに転校はで、できませんよ」


 みんなが驚く中でビクビクと異議を唱えたのは、クラスメイトからイインチョと呼ばれているマジメ委員長キャラの藤堂とうどう智哉ともやだった。


 イインチョは周りをキョロキョロ見ながら怖々(こわごわ)といった調子で話し始めた。


「こ、ここは男子棟のクラスですよ? 荒垣さんが転校するには女子棟のクラスでないとい、いけませんのでは?」


 よく考えたら当然の質問だ。高校生ほどに体が大きくなっていることは百歩譲って見逃すとしても、玲は女だ。入るとしたら女子棟のはずだ。


 この質問には困るだろうと占部先生の顔を見たら、さもありなんといった調子で鼻を鳴らした。


「それなら大丈夫よ。そしてあなたたちのこれからはバラ色の日々となるでしょうね」

『『『???』』』

「出席は面倒だからもういいわ。今日のSHRは放送朝礼だから寝るなり玲ちゃんと語らうなりしなさい」


 おい聖職者。


「玲ちゃんはそうね、お兄ちゃんの隣の席に着きなさい」

「あい分かった」


 玲が頭からだらだら垂れる血を拭いながら、俺の隣の席に向かってくる。


 あいつの顔や体を構成するパーツは本当に俺そっくり。というか俺そのものだ。だというのに、第一印象としては『ちょっとキツイ感じのする絶世の美女』で、俺の極悪氷河フェイスの要素がほとんど感じられない。


 ……うらやましい! そして妬ましい! そして殺したいほど憎いぃ!!


(「涼馬くん、その、あんなきれいな妹がいるなんて聞いてないよ!」)


 前の席のイインチョが振り返ってメガネをクイクイしながら小声で息巻いてくる。今日も相変わらず性別が迷走している顔つき体つき声つきをしているな。ああ可愛いなコンチクショウ。


 イインチョは対人恐怖症だけどなぜか極悪氷河フェイスの俺と仲良くしてくれる数少ない友人で、以前どうして俺を恐れずに友人であってくれるのかを聞いたら、「そ、その顔だと友人の大切さを分かっているんじゃないかなと思って……」とビクビクしながらももっともなことを言った、人を見る目がある男だ。……男、だよな?


(「そりゃオレだって同じだぜイインチョ。幼稚園の頃からこいつと一緒だってのにんな気配は一切なかったんだぞ!」)

(「……留学してたんだ」)

(「「留学……だと……!?」」)


 そういうことにさせてもらおう。玲がボロを出さなければいいが……。


 三人で話してるとすぐに俺の不安など微塵も感じていない玲がやってきた。


「ニッヒッヒッヒ。親父・・が心配だから来てもうたわい」


 早速地雷踏み抜きやがったコイツ。


「オヤジ、ってなんだい……? まさか親父のこと……?」

「落ちつけイインチョ。玲ちゃんは『おじや』っつったんだ。つまり猫まんまのことだ。オレ猫まんま大好き。要するにオレ玲ちゃん大好き」

「お前が落ち着け。なんていうか、玲は俺のことをお兄ちゃんって呼ぶのが苦手なんだ。だから代わりにってことだ」

「へ~そーなのか~」

「……それ本当なのかい?」


 バカの嘉隆は騙せたがイインチョは疑いの目を向けてくる。さすがに学年トップクラスの頭脳を簡単には欺けないか。


 まあそれはいいとして、だ。問題はこいつだ。


「玲、どうやってここに入れたか納得のいく説明してもらおうか」

「身体操作をしているからこれぐらい簡単ぢゃよ」

「「シンタイソウサ?」」

「し、新体操! こいつ子供のころから新体操してるんだ!」

「なぬ!? リョーマテメーガキの頃からこんな美女のレオタード姿を見ていたのか!?」

「涼馬くん、さすがにそれは引いちゃうよ……」

「…………(グリグリグリグリ)」

「ああッ! もっと、もっと頭を万力のように締めておくれ! 痛みで昇天してまうくらいに強く……強くぅうあっはぁあああん!」


 やばい。こいつといるとみんなの俺への評価がねじれてしまう。いつか排除イジェクトするしかないな。


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