プロローグ 階段が現界してもう限界
階段を見ていたらパッと思いつきました。読んでいただければ幸いです。作者は感想や批評を栄養に生きています。誤字脱字矛盾の指摘が大好物です。それでは、どうぞ!
突然で失礼だが我が家の自慢話をしよう。
東京の一角にある築八十年二階建てボロアパートの203号室。風呂なし和式トイレという文明から絶賛置いてけぼり中の古びた和室ワンルームだ。俺は曾祖父の代から受け継がれるこのアパートの大家としてそこに住んでいる。
色相環のようにカラフルな畳、押入れで家族計画に勤しむネズミ、すぐ詰まるトイレと流し台などと世紀末な部屋で常に俺を飽きさせない。
生活には若干不便だが住めば都、というヤツだろう。一部屋だけというのは動き回らずに済む、和式トイレは下半身を鍛えられると考えればいいし、風呂は銭湯で済ませればいい話だ。おかげで大概のものは手を伸ばせば届く生活を営めるし脚はムキムキになれて風呂上りのフルーツ牛乳の至高さに気づけたりと精神的にも肉体的にもかなりプラスに働いているから、ここでの生活には文句どころか感謝しているぐらいだ。
それにご近所さんは優しいおじいちゃんおばあちゃんばかりでとても心が温まるし、通っている高校まで徒歩で二十分と立地もいい。さらには最寄りのスーパーが年中出血大サービス状態だから回収した家賃と相まって生活費がいい意味でとんでもないことになっている。
耐震構造と定期的に湧くゴキ様に目をつむればこれほどいい物件はないだろう。実際俺はここで暮らせてよかったと心から思っている。
なぜ急に我が家の自慢など始めたのかと聞かれるだろうが、それには家が恋しいからという大きな理由がある。
部屋番号の通り俺の家は二階にある。そこに行くには当然外の階段を登らないといけないわけだが————
「どうしてこんなことに……」
家に帰れないのだ。階段が変形してしまっているから。
「泣くでない親父。ワシもなしてこげんことになったかさっぱりなんぢゃけん」
ジジイ言葉の子供に。
「高校生の俺を親父って呼ぶなって何度言や気が済むんだよ」
「おお、んまい棒サバ味噌味とな。今はなかなかにえっぢが効いているものがあるんぢゃのう。そしてこれは……ほほうこっちはこっちでエッチが効いておるのうヒッヒッヒ」
「人の話を聞け人のおかずとオカズを漁るな親父って呼ぶな肩を組むな階段に還れそもそもお前は誰だ言いたいことがありすぎて俺の頭は扇風機状態だゴラァ!」
これは、なんやかんやで日々を過ごす俺と階段の奮闘記。