1-2.大人な君
「それっ」
「きゃっ…もうっ!こんな所でからかわないで下さいな!」
「ああ、デステア、ここ解れたが」
「え……あー!モールの馬鹿っ」
「いやー、すいません」
「そうだ、僕が繕うか?」
「でも……」
「なに、得意だから」
「じゃあ、お願いできます?…モールも!文に謝って頼んで!」
「へいへい、さーせん。で、頼めます?」
「ふふ、任せてくれ」
「なー!」
ブスと朝の手合わせをして帰ってきたら、三人と一匹が仲良さそうにお茶を飲んでいた。
もうこの時点で俺の胃は限界だったが、後ろにはブスがいるし、また喧嘩にならないうちに先手を打っておく。
「おはよ」
「おーっす」
「…おはようございます」
「な゛っ!」
「…………」
文 か ら の 挨 拶 が 無 い 。
…終わった。もうやだ、詰んだ……。
「………」
「………」
「…………」
「……おはよう、国光くん」
「!」
「お、茶。飲む…?」
「の、飲む!」
多分、傍から見たら俺は犬みたいに尻尾を振ってんだろう。
でも、それでも。……僅かに触れた文の手は温かくて、ちょっと泣きそうになる。
姫様が「ご飯にしましょうか」と声をかけて、モールとブスで食料を取りに行ってたけど、正直どうでもよかった。
「ふ、文っ、今日の具合はどうだ?」
「大丈夫」
「そ、っか…よかった」
「んあー」
「あ?あんだよ。この茶は譲らねーぞ」
「んあーっ」
「…ふふ、"汗臭い"って。嫌がってるよ?」
「」
「もう少し陽が高くなったら、身体を拭くといいよ」
「……な、なあ、文も、その、臭いって思うか?」
「ううん?…国光くんの香りだもの」
くす、と文が笑う。笑って……くれたああああああ!!
も、もう怒ってないのかな。許してくれそう?まだ、見限られてないよな……?
「…文、向こうに着いて、医者に診せたら、さ。……一緒に、出かけないか?」
「え?」
「俺もお前も、偶にはガス抜きしねーと。な?」
「でも……」
「そうですわ。最初から根を詰めるのも如何なものかと思いますわよ」
「デステア……」
意外とデステアも俺の援護をしてくれた。
二回目の旅で俺との仲は良くないが、文との仲は変わらず良いし、……気にかけてたんだろうな。
「文、遊ぼう?」
「……うん」
今度の微笑みは、一回目の最初の頃の文と同じ物だった。
嬉しそうな、ほっとしたような、そんな笑顔。―――よかった。不貞腐れないでくれて…。
――――だけど、文は熱を出してしまった。
俺は氷を砕いて砕いて、毛玉はよいしょと小さな手で袋に詰めて文の頭の下に入れる。
「……お嬢さんは病弱な方でしたかな?」
「いや…」
「ふむ、召喚獣に慣れていないのか……薬は出しておきますが、個人的には神殿で診てもらうのをお勧めしますよ」
そう告げて帰って行った医者の爺さん―――神殿って行ったこと無いんだけど。
モールに相談しなくちゃな、とタオルで手を拭いていたら、文が俺の服の袖を引っ張って、
「やだ」
「…文?」
「やだ。国光くんと、……約束したのに」
…出かけたい、って事か?
でもなあ……うーん、流石になあ…………ちょ、そんな目で俺を見るなよ。駄目だって、無理だって。
「……文?」
「…………」
「どーした?」
「…国光、くん。……僕のこと、嫌いになっちゃった…?」
「えっ」
「僕、寝てばっかだし、何の役にも立てない。…こんな僕より、たくさん動けるブスの方が、いい?」
「な――んなわけないだろ!?馬鹿言うな!!お、俺は、俺は……」
「……?」
「ふ、みが。……文だけが、好きだ」
「!」
はっずかしいいいいいいいいいいい!!!
くそ、でも言わないと文落ち込むだろ!?うあああああああでも恥ずかしいいいい!!
「ほんと?」
「お、おう…」
「……じゃ、じゃあ、また誘ってくれる?」
「もちろん!…だから、早く元気になろーぜ?」
「うん……」
前髪をくしゃりとすれば、熱い文のおでこが分かる。
文は氷で冷えた俺の手が気に入ったようで、中々俺の手を離さない。
やがてゆっくり瞬きすると、熱で浮かされた目で俺を射抜いて、
「国光くん。………キスして?」
その、瞬間。
俺は。その衝動に身を委ねて。
壁に頭を打ち付けた。
「く、くにみつくん…!?」
「アア、ウン、チョット虫ガイタンダ。ゴメン」
「虫……手でやればいいじゃないか……」
なんかエライもったいないことをしてしまったような……。
で、でも、文とそういうイチャイチャするのは元の世界に帰ってからだ!こんなクソみたいな世界でヘラヘラできるか!!
鉄臭い匂いがするけどまあいい―――俺がもう一回、文のおでこを撫でると、文は無邪気に笑った。
熱のせいかおかしかったからなのか、その頬は林檎色だ。……生きてる色だ。
「ふふ、国光くんだ」
「……なんだよ、それ」
「だって、大人っぽくなっちゃうんだもの。……寂しかった」
「!」
「もしかして、国光くんじゃないんじゃないかって、色々疑ってたんだ―――ごめんね…」
「い、いや!俺が勝手に動き回ってたから……」
「……」
「その、これから俺、お前を不安にさせる事ばかりだろうけど。…でも、お前が好きなのは変わらないって、それだけは信じててくれるか?」
「…うん。ずっと、信じてる」
そっと小指が差し出されて、俺は思わず口を緩ませて小指を絡ませた。
少し痩せた気がするけど、でも、確かに文の意思がある、大切な小指だ。
「元の世界に帰って、誕生日を祝って、デートに行こうな。……絶対だ」
「うん、絶対行こうね……」
そうして小指が離れてしまう、その刹那の体温が、やっぱり切ないんだ。
*
なんかフラグを踏んだ気がする話。




