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君が好き過ぎて終わらないRPG  作者: ものもらい
1.そんな選択
14/44

14.後悔はしていない(キリッ



「国光くん、……おはよう。疲れはとれた?」



絶賛寝惚け中の俺に、文は温かい食事を持って来て……あれ?真っ当な食い物だ。

しかも、湯気の立つマグカップからは……。


「それ……」

「ん?――ああ、…実はね、インスタントの味噌汁を気まぐれで買っていたことを思い出してね。昨日まで散々だったし、故郷の味で落ち着こうかと…」



ああ、そうか。家の食料はだいたい文が買ってた。

俺は荷物持ちで、家計簿付けてたのも文。でもご両親の遺産とか遺族年金だとか保険金とか…えーっと、たくさん金はあったな……確か学生だから控除―――ええっと、難しい話はよく聞いて無かったから分からん…。


『大事に使おうね』


そう言って、新鮮な野菜やら肉を一生懸命見極めてたな。割と質素な奴だよな……って、思い出してたら頭痛が。


「お米じゃ無くてパンだけど…これとお肉は僕たちの物だから質は大丈夫。食べようか」

「ん…モールたちは?」

「モールはデステアと一緒に食べるようだよ。ブスは…この国の人と食べるみたい」

「ふーん…でも意外だな。姫様ってモールじゃなくて文と食べると思ってた」


毛玉用に柔らかくしたのだろう肉をフォークに刺して一口一口食べさせると、少し言い辛そうな顔で話した。


「…昨夜、デステアの部屋に男の人が入ろうとしたらしくて―――まあお姫様とは言え彼女も魔法使いだし、侵入者を問答無用でふっ飛ばしたそうだけど――でもパニックになって、モールの部屋に慌てて逃げて…そしたら彼の部屋から出るのが怖くなったそうでね……」

「うぇぇぇぇぇぇ!?何それ、お前そんな危険を知って―――!?」

「彼らは僕の部屋に勇者きみがいると知っていたから、この部屋は襲撃されなかっただろう?だから僕も知らなかったんだ――デステアから聞いたときは背筋が凍った…」

「ほんとに怖ぇぇぇ…じゃ、じゃあ、姫様が言ってたあの噂も本当かよ!?しょ…あ、あぅ…若い子にあれそれしてマジで病気治ると思ってんの!?」

「…君、昨日は強姦って大声で言えてたくせに…カマトトぶらないの」

「うっせー!あの時はノリだったの!!」

「はいはい。…まあ、識字率も悪いみたいだってモールが地図を見ながら言ってたから、あまり良識は期待できないな。これからは男女ペアで行動するようにとのことだ」



一体これどこの国の話だよって言いたいが、今現在俺がパンを咀嚼しているこの国の事なんだよな……。


嫌過ぎて溜息が出そうになって、文が温めてくれたインスタントの味噌汁を一口飲む。

……昔はどうせインスタントだろって、侮ってたけど……美味しい。


すっごくホッとする。安心する――俺の足下には文の体温があって、チラッと見れば文も味噌汁を飲んでて、ちょっと嬉しかった。

視界の隅で毛玉が鼠を喰ってるような気がしたけど、ほんわかしたよ。



―――だから、頑張ろうかな。……貞操を守るためにも。













「―――撃て」



建物の陰に隠れながら、銀の錫杖を鳴らして文は毛玉に命じた。


毛玉は羽があるのに四つん這いでかさかさとすでに移動しており、錫杖の軽やかな音と文の静かな声に応えてビームを放った。

モンスターの片割れは目の前で血を噴き出して倒れる同族を助け起こさず、攻撃してきた毛玉に向き直ると咆哮を上げて襲いかかって来た―――が、毛玉が出す燐紛でくらりと傾いた所を鋭い爪で喉を切り裂かれた。


文は慣れる為かその生々しさを近くで見ていて、俺の手を強く握った。

心配してそわそわと文を見ていると、気づいたあいつは微笑み、「行こうか」と声をかける。俺は重々しく頷いて門を突破した。

そして文の手を引き、「真っ直ぐ走って」と地図を見ながら走るモールの指示に従ったのだった。


しばらく走り、光景は特に変化もないのに違和感がある所で姫様が"ラビリンス"をこじ開ける。

「来ますわ」と姫様が身構えた瞬間、俺達を囲む景色はがらっと変わる――――。



(……一面、白……?)


ずっとずっと、純白の白だ。200m先では左右の分かれ道があるようだけれど。

どうすんだと無言でモールを見上げれば、「ラビリンスの核を壊した迷路も消えるんで、帰り道は心配しないでガンガン進みましょうや」と投げやりな返事が。

すでに考えるのも面倒臭いらしい。…どうでもいいのか?


不信感を顔中に出していたら、文が毛玉に頼んでペンを数種類出していた。


「毛玉、ペンで数メートル置きに×印を描いて。別れ道の時はどっちに行ったのか矢印を。出来るかな?」

「な゛――!」

「うん、よろしくね」


流石……!文は本当に頼りになるわ。これで撤退しても迷うことは無いな!


でも毛玉の服にポケット無いよな……どうやって出す―――


「ぎりぎり…///」


すすす、とスカートの裾を持ち上げて、恥じらいながらペンを出す毛玉―――いや、



「もうちょっとマシな出し方あんだろーが!」

「国光くん、折角のサービスシーンだぞ。イチャモンは止めたまえ」

「こんなサービスシーンいらねーんだよ!ていうか恥じらう必要性あるか!?」

「男の人は恥じらいが好きだろう?…ほら、見たまえ、毛玉が君の暴言に傷ついて……」

「えっ―――へばっ!?」

「んっあ゛――――!」

「厭らしい目で見ておいて最低!…とのお言葉だ」



急なぬこビンタに、思わず頬を押さえる……何これ痛い。

見れば毛玉あん畜生はワッと泣き出して文の足に縋りついている…俺が縋りつきたいわ!


何とも言えないこの気持ちを抱えたまま、俺は毛玉を引き離した後、さっさと歩きだした。

慣れた手つきで腕を横に薙げば空中で光の粒子が集まり、剣の形になる。

くるくると宙で回転するそれをパッと手に取ると、剣先を前へと向け、


「まずは右な!行くぞっ」

「んなー!」


勇者らしく仕切る。

無意識に鞘から剣を少し抜いては戻しを繰り返すと、安心した。


「…国光くん、剣を抜いたり戻したりするのは感心しないぞ」

「ちょ、ちょっと待って下さいませ…!あっ」

「姫様ったらドジっ子ー。モールは昨日から寝て無いんだから面倒かけさせないで下さいよー」

「………」



―――……結局、俺達はいつもの通り、呑気に出発したさ。


そしたらアレだよ、わんさか出てきやがった。

それだけならまだしもこのラビリンスは旅の道中と違って「紛れてこっそりブスっと」作戦が使えないわけで、俺はたじたじと攻撃したわ。

もう押さえきれないと撤退の二文字が俺の頭を過ると、文が毛玉に命じて特大ビームで葬ってくれた。……やだ、頼もしい。



けれど俺が何とか体を慣らすまでには文と姫様のMPが死にそうになって、魔法で四方八方から武器を出して標的を針鼠にした所で、姫様は倒れた。


現在モールが背負って面倒を見てるが、これでまともに動けてるのは俺とブスくらい。文は火鼠を当初五匹出していたのに今や一匹。毛玉も何度か螺子が切れたように倒れては噛みつき切り裂いているが……。


「う……ぅ、…」

「文っ!?」


錫杖を支えにして立っていた文が膝を着くと、ついに火鼠が消えてしまった。文を守っていた毛玉も、スピードも何もかも落ちて、よろりと落下した所を殴られて血が出て――も、敵の喉に喰らいついて離さない。……いや、むしろ文が倒れてから攻撃的になった。


俺は剣を思いっきり振りおろして、文をモールの方に押しのける。

……さあ、どうする?


ギリギリと痛む心臓に眉を顰めていたら、不意に、何ともこの場に似つかわしくない…清廉な……ハープの音が――ハープ?


「おい、ハープがある……」

「おっ、じゃあそこに向かって走りましょうや!そのハープは安全地帯であるうえに回復も出来ますよ!」


ハープはこの先の左角にうっすら見えてるんだけなんだが、行けるか…?


動けるのは俺とブスだけで、全員でまごついてる間に襲われそうだ―――が、それでもモンスターの脇を刺して、俺はじりじりと先へ進んだ。


―――現在五体の屈強なモンスターが目の前に居る…ああくっそ、絶対無理だろ…!



「んんん……んっあ゛――――――――――!」



嫌な気配というか予感でさっと身を伏せた俺の頭上で、特大ビームが発射されてモンスターが掃討された。


「えっ」と同じ顔をしている俺とブスはとっさに毛玉と文を見ると、文は目を閉じて肩を上下させて荒く呼吸をしており、毛玉は足下が透けていた。―――俺はとっさに文と毛玉を抱えてハープまで走る。


滑り込むように辿り着いたハープの前で、さっきよりも確かに聞こえる音色はゲームでよくあるセーブポイントみたいに体力やら何やら回復してくれるようで、文は何とか呼吸も戻り、毛玉はしっかりとそこに存在している。


「おいっ、仲間を置いて行くとは何を考えている!!」


ほっと息を吐いたのと同時に、ブスが苛々した声で詰る。

「あ、ちゃんと仲間意識あったんだ」と失礼な事を思いつつ、「ごめん」と素直に謝っておいた。……が、多分、どうしようもないとも思う。


だって、お前らと文じゃあ、比べられないだろ。

俺の天秤は余裕で俺の手の方に文を落とすさ。―――それはきっと、青臭い俺の、ある意味大人びた理だ。


もちろん悪いとも思ってる。きっとさっきまでの戦闘で、ブスはしょうがないとはいえ俺を信用して戦っていたのだから。その分、俺も応えないといけないんだが…。



「うぅ…キツイ所ですわね、此処…」

「あ、姫様おっはー?」

「……何であなた、まったく汚れの無い姿ですのよ…皆さん御無事で?」

「大丈夫だよ」

「…ああ」

「俺も―――あれ、毛玉?」



……居ない。どこ行った?


きょろきょろしていると、あのビームが発射される時の焼けるような音と、がたがた騒ぐ音が遠く―――まさか!?


「け…毛玉―――!」

「あ、馬鹿!行くな!」


錫杖をしゃんと鳴らすと、文は火鼠をまさかの十匹出す。だが顔色は変わらなかったから、一気に失くした魔力をハープの音色で無理に回復させたんだと思う。


叫びながら右の分かれ道に走り、文は火鼠を全て放り込んで毛玉を抱きしめていた。

毛玉は文が安全地帯に居る内に片を付けたかったのか、無理をしたばかりに腕が消えかけている。


「んあぁぁ……」


ぎゅぅっと抱きしめられて、毛玉の腕は回復する。ほっとした文だけどすぐに申し訳なさそうな顔になって、「…ごめんね」と俺を窺うように見上げた。


「…心配かけんなよ」


―――「別に気にしてねーよ」って、背中をぽんと叩いてさ、俺はまたも置いてきてしまったパーティーが文句を言いながら追って来てくれたのを苦笑いしながら見て、「一緒に怒られろよ」って文に言ったんだよ。


そしたら文は頷いて、こっそり俺の服の裾を握った―――ら。





《行方不明作戦開始ィ―――!》




どこに拡声器仕込んでんだって聞きたくなるような、金曜日の夕方に何度も聞いたようなだみ声が、悪魔の宣言をして。


ぱきりって、俺と文、モールたちの間に割れ目が走って、ぬるりと黒いゼリーみたいにぷるぷるした腕が文の細い足を掴もうとしたから、俺は。


多分、巻き込むぐらいならと手を引っ込めようとしたあいつの腕を無理矢理掴んで、優しさの欠片も無い投げ方をして、毛玉も一緒に放り投げられて。


代わりに―――俺、が。



「やっ……国光くん―――――!!!」



文が、抱きかかえたモールの腕から痛い落ち方をして、割れた床の破片で怪我をしてるにもかまわず俺の方へと手を伸ばしてくれたけれど。


あの日、手を握れなかった時と同じく、切ない温度が指先に触れただけで、俺は助からなかった。








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