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君が好き過ぎて終わらないRPG  作者: ものもらい
1.そんな選択
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12.分岐点



毛玉が持って来た指輪は、「砂漠の民の指輪」なのだという。


勇者専用……ていうか、二つしかないからパーティーでも優先的に勇者が付けてるだけらしいが。指輪の装飾自体は綺麗なのだが、琥珀なのか分からん赤茶の石が、少し不気味だ。


文は珍しくこの指輪を通すのが不満だと口に出して、何でだと聞けば「初めては国光くんからの―――」と……ぇ、と。

…いやいやいやいや、待て、ストップ、何でもない。



―――ええっと、「困難を困難と感じぬうんたらかんたら」とモールは教えてくれたが、分かりやすく言うと砂漠などの酷暑を気にしないで済んだりとか毒気の多い所で毒の効果を薄めたり何だりと地味に凄いアイテムらしい。


本当はこんな所じゃ無くて西にあるらしいんだけど……毛玉にどこで手に入れたのかと聞けば、敵から貰ったとしか答えない。一応姫様に指輪を診てもらったが、大丈夫のようだ。




―――そうして、毛玉との仲も戻ったし用意も整ったので俺達の旅は更に東へ進む。


西はあまり魔族に侵攻されず、出てくるものも弱小の魔物ばかりで初心者に優しい旅が出来るのだが――重要アイテムは少ないし、軍を投入すれば駆逐できる程度の魔物ばかりだから、実は西を進撃する必要性は無い。


むしろ急を要するのは東側で、長い間魔族に好き放題されてた(らしい)ので、あちこちの国が疲弊し魔族に抵抗する力も弱まっている。かなり難易度が上がるが、その分この戦いに助かるアイテムも多く在るのだそうだ。

しかしそのアイテムも国も高位の魔族が監視し、支配して魔物たちを統率してるわけで――俺たちはそんな情報も知らずに呑気に東を選んでしまった。


モールがあの時何も言わずに東を選んだのは、あそこでこの情報を流せば臆した俺たちは絶対東に行かないと思ったからなのだろう。……大人って汚いッ!




「―――…文、火の召喚獣をお喚びなさい。頭の中で強く火をイメージして…」

「了解だ」

「姫様―、こっち何とかしてくれないとモール死んじゃうー」

「……あらそう」

「酷い!」



さてそういう訳で、東へ進む道中――今回ので何回目かも忘れた戦闘で、俺は「残念だな、それはもう見切った!!」…という展開は出来ず、超慎重に、すすすと忍者の如く近寄って背後からブスっと刺すという、最低な戦い方をしている。


…これでもまあ、順調に倒せるようになったんだが……正々堂々と拳で戦うブスは俺のへっぴり腰スタイルな戦闘に眉を寄せてる。………俺も寄せたいさ。


モールは相変わらず非戦闘員で、幼い頃の話相手だったからか姫様は文句を言いつつもモールを助けていた。

そんな二人から離れた所で、文は銀の錫杖をぎゅっと握って「―――で、…あれ、えっと…」とすっげー不安になる詠唱をしており、ついにはポケットから手帳を出して読み上げた。

そんな無防備な文を、毛玉は妖精の羽で優雅に飛んで敵を惑わすも落下してカサカサカサと素早くあちこちへ移動しながらビーム発射という攻撃スタイルだ。…割とシュール…。


「―――さあ、来てくれたまえ」


読み切った文が、手帳をしまいながら催促すれば、とすんと音を立てて……小さ!!何アレ鼠!?火の鼠ってお前弱過ぎだろぉぉぉぉぉ!!今回の敵は食虫植物が巨大化してる感じのと動物系モンスターなんだぞ、巨体の!

なのに何これ何の罰ゲーム!?



―――そう突っ込みながら、俺は近くの石を拾ってモンスターの頭に投げて「あん?」となった隙にそそくさと移動して脇を刺した。……なんて見栄えの無い俺の戦い方……でも派手に動きまわろうとすれば文が怒る。泣く(たぶん)、んで毛玉が俺をボコリにやってくる。

……それに派手に、なんて俺のカルメ焼き程度のメンタルじゃあ無理だ。


「せぇぇぇいっ!」


と、やたら野太い声と共に、俺が脇を刺した瞬間ブスの拳がモンスターに入る。


最後のおまけに毛玉の弱ビームで、少しずつスッキリしてきた視界の先では火達磨の鼠が食虫植物みたいなモンスターに飛びかかってた。モールは何故か姫様の足に縋りついてて、姫様は姫様で蛾のでっかいモンスターにあうあう状態。それに気付いた文は、「しゃん」と錫杖を鳴らして蛾に向けると、


「毛玉!あの蛾を!」

「んっ……な゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


命じた文の声に、毛玉はビームで応えた―――瞬殺だった。

俺らのパーティーで最強なのが毛玉なんだが、俺はどうすればいいんだ……。


―――轟々と燃えていく食虫植物を見ながら、俺は内心悲しく思いながらもさっさと剣をしまって文に近づく。



「おつかれ」

「…うん…国光くんも…って、擦り傷付いてる」

「……葉っぱの中に潜んでたからな…」

「困ったな、もうマキ●ン切れてしまって…モール、デステア、何か薬を――」

「い、いいって!ちょっとの擦り傷だろ!」

「擦り傷を馬鹿にしてはいけないぞ国光くん」



むぅ、と顰め面の文の足下にいつの間にか戻って来ていた毛玉まで真似て、微妙に顰め面だ。


「君一人の身体ではないのだからね、」


……え、それを俺に言う?言います?ねえ?


と、俺がそっぽ向けば、毛玉は両手でこっちの世界の薬箱を掲げるように持って来てくれた。

慣れたような手つきの文によって、優しいがたいへん豪快に消毒されて涙目になる。


その傍ではモールが「いやー、おかげで首繋がりましたわ、はっはっは」と姫様の肩をぽんぽんと叩き、姫様に手を叩かれてる。飼い主と猫みたいだ―――あ、


(ブス、誰とも話してない)


馬車の傍で苛々しているのが見える。ただでさえ怖い雰囲気が悪化してる。

俺は流石にこれは良くなかろうと、文に治療してもらいながら「ブス…さん、お疲れです」と声をかけた。……何故かブスには敬語なんだよな…。


「どうでもいいから早く移動するぞ」


…………。

一応言っとくがこれは照れ隠しじゃない。姫様もたまに似たような事言うがそれは同族同士ツンデレなかまだから分か―――いやいやいや、分からんけどね!?同族ツンデレじゃないけどね!!



「…ブス、君、怪我はしてないかい?」


口を噤んでしまった俺の手の面倒を見終わった文が、道具を仕舞おうとする毛玉を止めて尋ねた。

ブスはそれに「ふん、」と言ってからさっさと馬車の中に入る―――何か知らんが、ブスは文の事嫌いだよな……何でだろう。



「―――そりゃ、あれじゃないですかね、文お嬢さんが召喚士だからとか」

「うおっ!?」


さっさと姫様も馬車に戻ろうとしているのに、モールは俺の考えてる事を読んで笑った。

こいつって非戦闘員のくせに気配消すのが上手いわ何考えてんのか分からんわ人の心を見透かすわでちょっと怖い…。



「…ブスにとって、召喚士ぼくはそんなにも嫌なのだろうか…」

「たしかブスの故郷は、魔王さんが直接奪った国でして…今頃魔王さんが生み出した魔物でいっぱいで、文化も魔界のものに変わってるらしいからねぇ。そんで嫌いな魔物を使役するっつったら、やっぱりブスとしては微妙なんじゃないですか」

「…なんだ、やっぱそういう…支配された国って…人間が毎日処刑されたりすんの?食われたりすんの?」

「さーあ?人間ってのは本当に嘘をいくらか混ぜたような話が好きですからね」

「……つまり噂が飛び交っていて定かでないと?」

「友好国の話はそうでもなかったのに?」

「そりゃ、友好国はまだ開かれてますから。魔王の領地ともなると完全に敵国ですから、我が国を始め他国の上の人間が情報を切っちゃうんですよ。向こうの特産物とかは友好国を通じて少しは出回ってんですけどねー」

「ふぅん……次の国ではその特産物をお目にかかる事が出来るかな?」

「ああ、今から行く国を越えたら友好国と魔王の領地化した国だらけですよ。だから勇者っていうのは伏せといて下さいね、面倒な事になりますから」

「……そ…っか、」

「まあ最悪、進路変えるのもありです――けど、今は頑張って先へ進まないとねえ。何といっても食料の問題がありますし…何せ食いしんぼうが一匹いますから」

「んな゛っ☆」

「調子乗るな」



文の肩に引っかかるような格好の毛玉が「どやっ」と片手を上げるのに思わずデコピンしたが、毛玉はぜんぜん応えていない。


さっさと馬車に乗り込んだ際に見た食料の袋は確かに減っていて、今夜分もあやしい…ま、まあ、今日野宿して明日着く予定だしな!


「はいはい、じゃあ行きますよー」


モールは手慣れたように馬を走らすと、毎度のことながら安全運転で手綱を操ってくれた。

焼けた匂いからカタンカタンと離れていく―――内心ホッとしていると、後ろから女子二名の軽やかな話声が聞こえた。



「ねえ文、思ったのですけど、わたくしたちってこうしたら……」

「んん…どう思う?国光くん―――」


体育座りの文の足にすり寄る毛玉と、その隣であれこれと提案する姫様。

呼ばれた俺はモールの隣から文の隣に移動して話の輪に入ったけど……。



(……なんか、仲間外れにしてる気分……)



正直、俺はこういうのが嫌いだ。…いや、ただ居辛さに耐えられないだけだな。


それなりに面識(一二回しか無さそうだけど)ある姫様はその身形や性格を考えても「武人です」なブスとは合わないのが分かる。

毛玉は基本的に俺と文の傍から離れないし、稀にブスの顔を覗き込んでも無表情無反応でスルーされている。文は……最近召喚し続けてるせいか眠そうというか、よく俺と姫様どちらかか両方の間で転寝している。


―――あ、ちなみに「召喚」だが、あの後毛玉が譲歩して「戦闘時のみ」なら召喚してもかまわないそうだ。姫様曰く「仮契約つかいすて」で戦闘に応じてばんばん召喚獣を変えるのはよくあるスタイルらしい。

ただ毛玉のようにちゃんと契約している方が召喚士の危機に自ら喚ばれずとも現れたり、本領を発揮できる。

それに「契約の縛り」なるものが「本契約」と違って「仮契約」だと召喚士の力量次第でゆるゆるになったりするため、下剋上(喚ばれたモンスターにとって召喚士というのは素晴らしいご馳走でもあるそうだ)の危険性もあるため、姫様としてはあまりお勧めしたくないようだったが…。


文の強い希望で「仮契約」スタイルの今――少しずつ戦闘に必要なさそうでも下級のモンスターを喚んで慣れさせているんだが……その結果、よく寝てるんだよなぁ文。


………大丈夫、かな…。


「―――…国光くん?どうかしたかい?」

「へぁ!?……あ、ああ…いや、何でもない…」


話が逸れた。……こんな具合に俺は文の方に注意が行くから、ブスの方にまで意識が行かないんだ。


もう一度チラっとブスを見たら、欠伸をしてる。……うーん、これは何て声をかければ…「次のために作戦パターンいくつか考えようぜ!」とか?


悩み、きょろきょろたじたじしてたら、不意にモールが「あー、いいですかねー」と声をかけてきた。



「実はですね、今から行く所は陛下からのご命令の所なんですけどもぉー……魔物がいっぱいいる国ですんで気をつけましょうねー」

「ええええぇぇぇぇ……もう難易度上がるの……」

「モール、命令の内容は…?」

「いやね、魔族のお偉いさんが創った大型魔法具―――"ラビリンス"のせいで、魔物がぎょーさん溢れて大変なことになってんですわ。そろそろレベル上がって…なくてもレベル上げの為だと思えってね。ラビリンスが壊れたら魔物も生まれなくなりますし」

「やっぱ無理無理無理―――!な、なあ、無理だよな、文!」

「大丈夫だ国光くん。君は僕が絶対に、」

「言わせるか!」

「…あー、イチャつかないで聞いて下さいね。――んで、そのラビリンスの先に"神器"がありますから、それゲットする為にも頑張りましょうや」

「………神器?」

「神様が私たち人間に与えた【力】ですわ。神によって姿は様々で、中には魔の物を討ち滅ぼすものもありますの。どういうわけか"魔法具"に引き寄せられてしまうことが多くて、大掛かりな魔法具ほど上位の神器が飲まれていたりするんですわ―――だから、もし上手くいけば今後の旅も楽になりますわよ」

「……でも………………」

「…――大丈夫だ国光くん、怖くなったら僕が君を抱きしめよう」

「んな゛っな!」

「……一人と一匹に抱きつかれたら熱くて死ぬ…」



そっぽ向いたものの、ちょっと嬉しい……本当は俺がこの台詞を言うべきなんだけどな!


俺は文に握られた手が汗ばむのを感じて、慌てて気付かないふりをしようと―――胸を張っている毛玉の頭をポンポンと撫でた。



「ちょ―――っと治安がよろしくないんでね、気ぃ引き締めてくださいよー」



が、和やかな気分が一転。

モールのその一言のせいか、俺は嫌な予感しか感じられなかった。








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