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君が好き過ぎて終わらないRPG  作者: ものもらい
1.そんな選択
11/44

11.恋は盲目



※暴力表現注意+R-16程度のアレ注意。









「陛下!またこんな軟弱な物を創って……もっと強いのを創って頂かなければいけませんのに」

「な、『軟弱』じゃないっ、『綺麗』なんだ―――それに、強いのは母上様がいっぱい…」

「足りませぬ!人間を絶望の淵に放り込むには足りませぬ!…それでもお創りになりたくないと言うのならば、支配下に置いた人間共の国の娘を魔物に犯させて孕ませますぞ!」

「そ――そんな酷いことは俺が許さない!…つ、創ればいいんだろっ、分かったよ……えーっと、母上様が書かれた設計図なんてものがあったような……」

「あの方は気分で創っておりましたから、よっぽど暇じゃないと書き残しませんでした」

「えぇ……じゃ、じゃあ先々代の…」

「先代様が捨てられました!」

「う……じゃあ俺!ちょっとデザイン考えてくる!」

「あ、陛下!!」



――――誰も、綺麗なものを認めてくれない。


恭は綺麗なものが好きだ。繊細なもの全てを守ってあげたい。世界が全部美しくなったら、きっとみんな争いなんてしなくなる。


今も昔はそう思ったし、自由に言えたのに……魔王になっても、彼が創るのは花に蝶に愛玩用のモンスターばかり。それも全て―――桃色の。



(だって、)


『泣き虫め』


(あの時、とても―――)


『迎えに来た。これで家出は終わりだよ、恭』



目に、焼きついたのだ―――王子様のような格好だった、あの日の彼女を。



今は女性らしく振舞っているけれど、公での澄ました顔の彼女も、素が出て荒くなる彼女も可愛くて格好良い。

もう恭の方が背丈も高いし、案外腕もがっしりしてるけど、でも彼女は彼の王子様だ。彼の創る綺麗な世界を、守ろうと頑張ってくれる。


勇者が現れて、今は皆と同じく「強いモンスターを創れ」と言うけれど、それでも相変わらず繊細なものを創っては叱られるけど―――彼女は、「甘いことばかり言う自分」が好きなのだと、知っている。



「……でも、本当に…そろそろ、強いモンスターを創らないと……」



――――自分の幸せの為に、勇者だれかの命を奪うのが辛い。


今まで王として生きている以上、殺してきた命もあったのに。

全ての命は平等で、しかも自分を殺しに来ている相手なのに、恭は勇者を思うと胸が痛くなる。


彼らは異世界――きっと平和で、歴代の魔王討伐失敗の数々を考えても、争いとは縁のない世界から連れ去られたのだと思う。そのまま生きてゆけば、手を汚すことなんてきっとなかったのだ。


自分の生まれ育った世界でもないのに剣を取らされ、右も左も分からない世界で魔王じぶんを探しに来る。その道中。

―――きっと彼らは生まれ育った世界を懐かしく思い、孤独に苛まれただろう。家族を恋しく思って枕を濡らしただろう。ある筈だった未来を、夢見ては何度も覚めるのだろう……。


そんな、彼にとっては幼子のような歳の勇者を、殺す。殺さねばならない―――陽乃を守る為に。


歴史上、魔王が討たれれば共に戦う王妃も討たれる。だから世襲制では無いのに、恭は王位を望んだ。彼女と死ぬのは自分であろうとした。……死なせないけれど。


この戦いは、一人の魔王につき一組の勇者だなんて優しい仕様ではない。最悪、何人もの勇者を殺すのかもしれない。そう考えると、彼らには申し訳ないのに。

彼女の花嫁姿を―――…いや、彼女の安心した笑顔を見る為に、残酷な死神であり続けなくてはならない。

それを悲しいと思っても、躊躇ってはならない。



全ては、不変を愛するあの子との未来の為に。
















「く、国光くん……毛玉が、見つからない…」

「だ…いじょうぶだって!猫だしなんかこう……隠れるのが上手なだけだって!」

「でも――でも、毛玉がもし轢かれたり襲われたりでもしたら…!」

「だから大丈夫だから!とりあえず外は雨降ってるから出るな!」



毛玉が飛び出て二時間。……宿中を探しても近場を探しても、まったく見つからない。


文は召喚してからすぐに毛玉と熊の戦いが起きたせいで消耗してるし、そんな状態の文を急な土砂降りの雨の中に出したくない。


モールはまだ帰って来ないし…捜索は明日までかかるだろうか?

だけど食い意地張った毛玉が空腹でいられるかって言われると……うん、見つかるのに時間はかからないな。


でも何か文の気を紛らわす事でもしないと文が潰れちまう。何か……あっ、


「そうだ。文、毛玉の絵を描いてみろよ。あの……明日の聞きこみ用に」

「僕が?」

「お前、美術部だし賞もとったんだろ?猫くらいならお手の物だろ」

「で、でも―――僕は、その…最近は人物画しか描いた事が無いんだ。そっくりに描けるかどうか…」

「だいたい似てればいいんだよ。ほら、紙とペン」

「一発描きしかないじゃないか……」


のろのろとペンを握った文は、一回空中で間隔を探るような動きをした後、そっとペン先を紙に触れさせる。


す、すと一筆一筆入れていくその顔は、懐かしそうで寂しそうで、



「おい、そんな顔すんなよ…見つかるから」

「うん…いや、僕は……絵を描くと、いつもそう言われるんだ。こういう顔なんだよ」

「なんだそれ、しみったれた美術室だな」

「僕だけさ。周りは賑やかだったもの―――…こんなの好きじゃないんだよ、本当は……絵も、人も……」



―――不謹慎だけど、見惚れた。


まるで大人の女のひとのようで、ドキドキした。

きゅ、と噛まれた下唇がとても艶やかに見えて、伏せがちの目を見れない。ペン先は夢見るようで、思わずくらりと、文の手―――の、近くに、手を置いた。……ヘタレだ。


「国光くん?」


―――ああ、こんな時に本当にごめん、今、俺の目は。


お前の唇に、留まってる。


「くにみつ、くん…?」

「文――――」







「すいませーん、毛玉居なかったんですけどー」



………。

…………ドンドンと、モールが扉を叩く。目の前の文はその言葉に悲しそうだったが、俺は不謹慎にも文をそういう目で見てしまったことに死んでしまいたくなった。むしろ殺してくれ。


きっと雨のせいだ。もっというと小学生以来、文が絵を描いてる所なんて初めて見たから、ちょっとこう……あああああああ俺の馬鹿!!


絶対文にもなんかそういう…エロイ?厭らしい雰囲気を悟られた!うわああああああもう生きていけない……――そう俺が身悶えていると、文はダッと飛び…出すなぁぁぁぁぁぁ!!!



「馬鹿!待て、……モール!絶対開け―――このっ、役立たず!」

「酷い!?」

「僕は森を見てくる!もうそこしか無い!」



三者の声に、不思議そうな顔のブスが顔を覗かせたが、誰も何も声をかけない。


文は雨だっつってんのに傘も差さずに外に飛び出し、モールは今更「傘要ります?」だ。

俺は「要る!」と奪うように受け取って文を追いかける。


……嫌な予感しかしなかった。











―――その頃、毛玉は「んな゛ぁぁぁ、んな゛ぁぁぁ」と鳴きながら街中を彷徨っていた。


雨宿りにしていた路地裏のゴミ箱は新たなゴミが追加され、ゴミに埋もれかけた毛玉は不満やら何やらで喚きながら這い出て今に至る………どこにも、毛玉の居場所は無かった。


「んな゛ぁぁ…」


……さびしい。

毛玉はずっと、それこそ国光よりも文の傍にいたのに。誰よりも近くに在ったはずなのに、文は自分以外を愛でる。


あの手は自分だけを撫でる手。あの唇は自分とお喋りをするためのもの。――それを誰かに譲ったのは、「彼ら」が文を守り、幸せにしてくれるだろうと思ったから。

そうでなければ誰にもあの子を譲らないのに。新参者の下等な生物に奪われるなど、あってはならない。


「んな゛ぁぁぁ……」


―――わかっている。

文が生きるため、国光を守るため、「戦力」は必要なのだ。

手駒は多ければ多いほどいい。文の考えは間違っていない―――でも。


せめて、教えてくれたなら。あんな、衝動的に壊したりしなかったのに。

だから文が悪い。自分に隠れてあんなのを愛でていた文が悪い。

そこだけは、文が悪いのだ。


―――そう、文が叱り飛ばしたなら反論してやるつもりだった。なのにあの子は予想を裏切り、召喚した生き物の残骸を悲しそうに見つめ、拾い上げるだけ。

全部拾い上げると祈りを短く捧げ、黙って床を掃除したあの子。一旦落ち着いた後、静かに言った。「話がある」……と。

そこがあの子の好きなところで、嫌いなところだ。あの子は毛玉を縛り付ける力を持つのに、それをせずに毛玉の気持ちを尊重する。だから「話し合おう」と冷静に言えるのだ。


毛玉は文の「家族」だから。だから、崇めもしないし見下したりもしない。―――いっそ、毛玉に「無礼」であるならば、文をここまで好きになったりしなかったのに。

大切にされず、いっそ殴り飛ばすような人物であったなら、毛玉はこんな気持ちにならずに済んだ。見切りをつけ、楽になることだってできたのだ。



「んあぁぁぁぁ……」


―――それに、一緒に話をつけに来てくれた国光の顔を見上げるのが怖くて、叩いてしまったことも毛玉の心を重く苦しめる。


国光はぎゃーぎゃー怒るけど、毛玉が食べ過ぎてもコップを壊してモールに叱られても、「まあしょうがない」と庇ってくれる。自分がやったと嘘をついてくれたこともある。文がいない時、一緒に謝ってくれたこともある。

文を自分から奪った子だけれど、優しい子だから。文を愛してくれる子だから。毛玉は国光が好きだ。愛している。



―――と、そこまで気持ちを認めて、毛玉は今更ながらに自分のしでかした事が怖くなった。


今から宿に引き返しても、扉を叩いて出て来たのが見知らぬ召喚獣だったら?文に「帰って来たのか?」と眉を潜められ、国光に「もう用無しだ」と放り投げられたら。

そんな想像が毛玉の頭から離れない―――…。






「―――ああ、居た居た……もう、探したんだぞ。君がいなくて…寂しかった…」

「んな゛っ!?」



しょぼしょぼしていたら、「おいで、」と手招く"文"が森の中にいた。


雨に当たっているせいか顔色は悪く、声は小さい。毛玉は釣られるように「ととと」と近寄ると、笑顔の文が広げた腕の中に飛び込んだ。


「ぎりぎりぎりぎ」


照れて、「迎えに来てくれたの?」と言えば、文は表情も変えずに毛玉を抱き上げて森の奥に進んだ―――抱き上げ方は俵のようで、毛玉はまだ怒ってるのかなと尻尾をぽてぽて揺らした。



「向こうに、必要なアイテムがあるんだ。一緒に付いて来てくれるね?」

「な゛―――」



ああ、なんだ、と毛玉は安心した。

きっと言葉少ないのも緊張しているからなのだろう―――毛玉は名誉挽回の機会に感謝した。


―――だけど、不意に。



「んな……?」



「くすくす、」と哂う声の方を見れば、珍しい桃色の髪に白の和と洋の混じったドレスを着た女が、雨に濡れて毛玉を見ていた。


そして、手入れの良く行き届いた指先を、唇に当てて―――。


「んなー!」


毛玉がすぐさま「変なのがいる」と文に知らせて顔を上げた。

するとまるで風でヴェールが捲れたように、文の顔が美人な女になり、髪色は先程の女と同じく桃色に変わる。それからまた滲むように文の顔に戻ったが、毛玉は―――、



「んああああああああああ!!んな゛ああああああああ!」

「きゃっ」


―――騒いで、その手に噛みついた。

文は思わず毛玉を叩き落としてしまい、慌てて捕まえようと手を伸ばす―――が、その時点で毛玉の中で真実が確定した。これは文では無い。


毛玉にとって、主にして愛し子の「文」の姿で騙されるのは、元々長くない気に簡単に火を点けるものだった。

もう、騙していた向こうに怒りを感じるのか、騙された自分に怒りたいのかぐちゃぐちゃになって、毛玉は口元に光の粒子を集める。


「文を騙った女」が慌てて背を向けた頃には、毛玉の口からビームが発射され、腹を射抜かれる―――すると文の姿は解けて、小さな妖精が身悶えていた。



「う――げほっ、…うぅ……な…んで。わたしは、わたしは、一族でも一番の…―――こんな、嫌よぅ…!…あと少しで、あの方の…魔王様の……―――ひっ!?」



ぶつぶつと虚ろに呟いていた妖精をマジマジと見つめていた毛玉は、ふるふると震える羽に"本能的に"じゃれてしまった。



「痛い!!やめて、お願いッ!羽は、羽は妖精にとって大事なの。髪も、引っ張らないで、髪は――――」


「女の、命なのよ」



「猫ちゃん」――と、くすくす笑いながら見ていた女は、そっと毛玉の頭を撫でた。


本当は「触るな」と拒絶したかったけれど、まだ文も成長しておらず、それゆえに「本来の力」が解放されない毛玉にとって、目の前の相手は強すぎた。


女の無礼な行動に対し沈黙を守った毛玉は、女が妖精の髪を掴み、帯に差していた小刀で「命」を刈りとるのも、ずっと黙って見ていた。



「ひ、ひの、さま。申し訳ありません、わたしが、わたしが愚かでしたぁぁぁ…おねがい、持って行かないで。助けて、許して……!」


泣いて縋る妖精に、「ひの」という女は「嫌よ」と返事をする。妖精が一層激しく泣き出すのも心地良いと言わんばかりの顔の女は、不意に毛玉に振り向くと、



「これ、御駄賃ね」

「な、な……?」

「本当は今のあなたたちじゃ手に入れられない勇者アイテムなのだけど、別に手に入れてもこちらには害も無い。どうせお金を貰っても嬉しくないでしょう?手土産これを持ってご主人様の元に戻れば、もっともっと大事にして貰えるわよ…?」

「なぁ………!」



女の言葉に、毛玉は嬉しそうにアイテムの「指輪」を二つ受け取る。

文同様、毛玉もこの世界の理屈はよく分からないが、これくらい綺麗な指輪ならば大した「力」が無くても売れば良い値が付くだろう。

―――顔を輝かせて受け取った指輪を見ていた毛玉だが、雨の滴が当たるのに気づいて慌ててポケットにしまい込んだ。


「それじゃあ、ね」


ほくほく顔の毛玉を見た女は笑うと、ヒールに泣き縋る妖精を思いっきり蹴飛ばす。


べしゃ、と水溜りに落ちた妖精が慌てて身体を起こした頃にはもう、女の姿は霞みと消えていて、目の前には、腹を空かした毛玉がいた――――…。










「――――だま、毛玉ぁ…っ!」

「な?…んっな゛あああああああ!」

「おいぃぃぃぃぃ!!俺が傘持って走ってる意味分かってんのか!?」

「な゛ぁん、な゛ああああ……!」

「毛玉っ、毛玉ごめんね、決して、君を仲間外れにしようとしたんじゃないよ…ごめんね、もっと君の気持ち、考えれば良かった……」

「んあああああ……」

「大好きだよ、本当だ。……だから、もう部屋へ帰ろう?お前もこんなに濡れてしまって……風邪を引いてしまう。早く温まらないと」

「お前もな、……って毛玉、その格好どうした?妖精さんみたいな羽付けて…うわああああ動いた!本物?本物なの!?」

「ななな!んあ゛―――!」

「…え?妖精を食べたから、その力も手に入れた?つまりレベルアップ…?……毛玉、妖精さんはね、愛でるもので食べるものでは無いんだよ?」

「んっあ―――!」

「ええ?悪い妖精さん?やられそうだった?……じゃ、じゃあ、仕方ない、のかなぁ…」

「返り討ちにしたんだろ?良いじゃねーか。…んなことよりさっさと帰ろうぜ。飯が待ってるわ」

「んなな――」

「おおっ、すっげー!あいつ飛べ……あ、落ちた……」

「まだ慣れないのかな…毛玉、せっかく可愛い服になってるのに汚れ―――」

「ひぃぃぃぃ馬鹿―――!G先輩みたいにカサカサ移動する奴がいるかよー!」

「G先輩って君……もう、毛玉、抱っこしてあげるからこっちおいで」

「んなー!」











―――

―――――

――――――――



「僕が拉致つれてきしたあの妖精、死んだんですか」

「あら、好きな子だったの?」

「いえ、ただ陛下に何て言うのかな、と」



主の部屋の雑巾がけをしていたコロは、上機嫌で濡れて帰って来た陽乃に蹴飛ばされ「すぐお風呂入りたい」と我儘を抜かされ、現在部屋にある浴室で編み仕事中だ。

対する主の陽乃は猫足バスタブから白い腕を垂らし、胸まで乳白色の湯に浸っていた。


―――その顔は、一仕事終えたような爽快さがあった。



「"友人に誘われ人間界で遊んでいたが、勇者の使い魔と運悪くも遭遇し、食べられた"――って、後で言っとくわ」

「わあ、嘘半分本当半分ですね」

「全て「本当」でしか喋らないのは、恭ちゃんだけよ」



「後でワインね」と注文した陽乃は、湯のせいなのか頬を薄ら染めて、例の妖精がコロに連れられて来た時の顔を思い出す。


今更になって何のイチャモンを付けられるのかと怯えた妖精に、「一緒に勇者の使い魔を潰さないか」と話を持ちかけ、成功した場合「恭に側室の件を勧める」とまで言い切った陽乃に無邪気に騙された妖精。


きっと、"陽乃と同じ髪色だと言われなければ"ここまで酷い目に遭わなかった妖精――。



哀れに思ったコロを見透かしたように、陽乃はくすくすと笑いながら桃色の髪を一房弄った。



「私の髪は特別なのよ、デブ」

「…へえ、そうですか」

「この世で最も美しくて、恭ちゃんのお気に入りの色。彼が『創造』するものの大半がこの色―――そんな彼に愛でられる特別な私の髪と、あれのを一緒の色だなんて一括りにされて……許すと思う?」

「別に、主の好きなようにすればいいじゃないですか。……ただ、あんまりやり過ぎると幻滅されますよ」

「されないわ」

「絶対されますって」

「されない―――吸血鬼はね、幻想うそを身に纏うのが上手なのだもの」



かり、と爪を噛んで、陽乃は続けた。



「それにね、恭ちゃんは私に対しては盲目だもの。バレたって私を罰しないわ。私を愛しているから」

「うはぁ……」



―――そう、バレなければ。


今頃具合が悪いと部屋から出て来ない陽乃にやきもきしつつ、書類にサインを書き殴る仕事が終わっていない彼にバレなければいい。

陽乃と長く共に居るのに、陽乃を「優しい」だなんて思える彼に、知られなければいいのだ。


(……いや、確かに優しいけどね)


正しくは、彼女は「優しい」のではない。「彼に甘い」だけだ。

そして恭以外の「お気に入り」には少し寛大なだけ。



「―――…んで、こんな髪の毛を僕に編ませてどうするんです。ミサンガにでも?」

「纏めておきたかっただけよ。それは髪の毛フェチにあげるの」

「うわぁ…仮にも、自分と似た髪なのに……」

「似てるだけだもの。別にどうなろうと気にしないわ」

「いやはやまったく、あの子可哀想に…あの世で自分の髪がこんな目に遭ってるなんて知ったらブチ切れますよ」

「は!…ブチ切れようが泣こうが喚こうが――あの子は何も出来ないわよ。そしてあの世にも行けない」


ざぱぁっと白い足を湯から出してまた沈めて、陽乃は笑った。


「何故?」

「髪は―――女の命なのよ。魂が宿っているの。だから大事にしなきゃね」

「はあ、主もよくそう言っては手入れに力入れまくってますもんね」


コロが思わず思い出したのは―――陽乃が実家に帰った時、髪の毛を梳いていた侍女が誤って彼女の髪に傷を付けたばかりに、陽乃のその日の"おやつ"として居なくなってしまった事件のことだ。


「……これからその髪をあげる奴は本当に気持ち悪くてね、べっとりと気が済むまで舐めてたり自慰の材料にしたりなんだりするような奴でね――きっと、汚し尽くされてしまうでしょうね」

「うわぁ……ドン引きしました」

「誰に?」

「主とそのフェチ野郎に」

「ふん……まあ、甘んじて受けようじゃないの」


これ以上は逆上せちゃうわと風呂から上がった陽乃は、その際に濡れたコロが編んでいた桃色の毛の束に、目を落とす。


………小さな懇願の声が、聞こえた気がした。



「……ふふ、」



いい気味だ―――これからお前は、逃げたくても逃げられず、長い時を汚され続けるのだから。


気が済んだら返せとあの男には言ったから、帰って来るのは短くて百年、長くて三百と半分。……さあ、その頃のあなたはどうなっているのだろう。きっと触るのもためらうほどに汚なく、「もう気が済んだ」と思わず思う程度には、無残だろう。



「ふっ……ふふ、ははっ」




―――さあ、天にも昇れず地にも彷徨えず、ただただ虐げられ続けろ。それがお前の罰だ。





「……逃がしてやーんない」



その、地獄から。











補足:


毛玉は相手のモンスターを食べる事で強制的にレベルアップ(?)出来ます。


なので低級モンスターであるピンキー熊さんを食べた時は姿はそのままでも爪が半端ないことになったり。


今回の妖精さんぺろり事件では花飾りのついたふりふりのお洋服にお着替えしました。羽は本物。

追加能力は幻覚を見せる事が出来て飛行可。ただし体力面は下がる。ぬこビームは変わらず出せるよ!


あと、一回食べた物ならクラスチェンジしてもまたそのクラスに戻れる。けれど別のクラスの時そのクラス特有の技は受け継がれない。ノーマル状態のぬこビームは別だけども。


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