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第4話 部活

 今日も五人で登校。駅から学校へ向って歩く。あすかちゃんは、私の腕を取って歩く。

「今日は弥生先輩ですね」

 あすかちゃんは意味ありげな事を言う。他の三人は当然気付いていない。

「今日演劇部の稽古あるんだけど、みんなで、見に来ない?」

 葵ちゃんが演劇部の見学を誘ってくれている。

「いいわね。行ってもいいの?」

「私も葵先輩の演技見たいです」

「弥生とあすかちゃんは来るのね。歓迎するわ」

「私は生徒会の仕事が終わったら行くわ」

「如月お姉ちゃんは大歓迎よ。演劇部の予算増やしてね。新しい衣装欲しいから」

 お姉ちゃんは、うふふふって笑っている。予算を増やす気は無いらしい。妹である私にはわかる。

「寧々はどうする?ソフトボール部の練習あるんでしょ」

「寧々は最近スランプだから練習しないとね・・・・・・大会近いし。寧々はパスだよ」

 三人で演劇部の見学に行く事になりました。



 そして放課後。あすかちゃんと一緒に体育館へ行く。定期公演会が近いから、舞台で練習している。

「失礼します」

「あっ、いらっしゃい。見学の人だね。こっちへ」

 三年生の部長さんが舞台の下にパイプ椅子を用意してくれた。二人で座る。即席の観客になったみたい。

 もう、練習は始まっている。舞台の上で、葵ちゃんが一生懸命演技している。

「今回の定期公演は二年生がメインで実施するのさ。後輩に跡を継いで貰う為にね。残念なのは、二年生に男子部員がいないことだよ。松平さんに男役をお願いしているのはそう言う理由なのさ」

 部長さんが説明してくれる。私と葵ちゃんはふんふんと頷いて聞いている。

「この劇は徳川家の将軍が城下町に降りて悪を懲らしめる劇なんだ」

 舞台の上では腰に刀を差した葵ちゃんが悪役の三年生を前に迫真の演技をしている。

「摂津の守、貴様の悪事は白日の下に晒された。潔く、腹を切れ!」

 葵ちゃんが叫んだ。カッコいいわ。

「ええ―い!こ奴は上様に有らず!曲者だ!出会え!出会え!」

 葵ちゃん、普段とは全然違う顔をしている。凄いな葵ちゃん。

 葵ちゃんがスラリと刀を抜いた。ギラリと刃が光った。模造品と解っていても迫力満点。

「俺の名前は引導代わり!迷わず地獄に落ちるがいい!」

 ジャーン、ジャージャン!ジャジャ、ジャーン、ジャーン、ジャーン。

 荘厳なBGMが体育館に鳴り響いた。否応にも殺陣のシーンが盛り上がる。

 葵ちゃんに斬り掛る悪役の先輩。葵ちゃんはバッサ、バッサと斬り倒して行く。凄い、見入ってしまう。

 ズバッ!バッサ!

 効果音が葵ちゃんの演技に迫力を付ける。本格的だわ。

『うーん、葵の刀の握り方は間違ってるな・・・・・・今度、教えてやろう』

 えっ?今のは羅刹さん?羅刹さんも見てるんだ。

「ぐあわああ!」

 悪役の先輩が派手に斬られている。

 ぴーっ!

 部長さんが突然ホイッスルを吹いた。

「ちょっと失礼するよ」

 部長さんが舞台に上がり、演技指導をしている。部長さんが演出してるみたい。

「葵先輩凄いですね。別人みたいです」

 あすかちゃんが小声で話しかけてくる。舞台の上はなんとも言えない緊張感がある。

「じゃあこのシーンもう一度!ここは一番のクライマックスだ!気をぬくな!頑張れ!」

「はい!」

 凄い迫力。演劇って半端な気持ちじゃ出来ないのね。私とあすかちゃんは演技に見入ってしまった。

『弥生、気をつけろ。キナ臭い・・・・・・人成らざる者がこの体育館にいる』

 羅刹さんが小声で話す。

「キナ臭い?人成らざる者?どう言うこと?」

『まあ、何もなければ良いが・・・・・・念のため、見ている間だけでも身体を借りるぞ』

 オレは妙な殺気を感じていた。何かわからんが・・・・・・オレは戦場暮らしが長かったから、殺気に関しては敏感になっている。

 舞台の上では演劇が続いている。まあ、何もなければそれでいい。

「殿!いけませんぞ、城下に降りるなんて、この越前の守が許しません」

「爺、固い事を申すな。世も治世の為、城下の民の暮らしぶりが気になるのだ」

 松平葵の演技が続く。

「そのような世迷言・・・・・・それよりも早く奥方を娶られよ。治世の為にはお世継ぎも大事ですぞ」

「爺・・・・・・またその話か・・・・・・耳にタコが出来るぞ」

 その時、オレは殺気が明確な殺意になったのを感じた。ヤバイ!

 カシャーン!

 葵の頭上にある照明器具が落下した。葵に当たる!オレは椅子から飛び上がり、舞台上の葵の所へ飛んだ。

『間に合え!』

 オレは葵に飛びつき床に伏せさせる。

 ガッシャーン!

「きゃああ!」

『がっ!』

 照明器具の落下から葵は護った。が、オレの右足に照明器具の破片がザックリ刺さってる。血が流れている。痛いと言う事より、弥生の身体に傷をつけたのが許せん!

 オレは痛む足を(かば)い、身体を起こす。周りは騒然となっている。顔を上げる。

『?』

 まだ、殺気は消えていない。何処だ!ふと、観客席のあすかを見る。あすかは立ち上がりこちらを見ている。

 カシャーン!

『なにぃ!』

 今度はあすかの頭上にある水銀灯が落ちてきた。あすかに当たる!まずい!

 オレはそばにあったパイプ椅子を落下する水銀灯目掛け、放り投げる。

『当たれ!』

 ガッシャーン!

 パイプ椅子は見事落下する水銀灯に命中。水銀灯の軌道がそれ、あすかの背後に落下した。あすかは呆然としている。

『命中だ・・・・・・くそったれ』

「大丈夫?弥生!」

 葵が慌てて、自分の袖を千切り、オレの傷口を押さえる。押さえている袖が見る見る赤く染まる。

「えーと曲者だ!出会え!出会え!じゃなかった!担架!担架よ!保健室へ!」

 葵は動転して演技と現実が混じっている。焦んなくていいよ。

「はい!担架!」

 あすかが担架を持ってきてくれた。一人で。小柄な割には力あるじゃん。

 オレは担架に乗せられ、保健室まで運ばれた。ボディビルクラブの男子生徒二人に。

 彼らは軽々とオレを運ぶ。そりゃそうだろう。逞しい身体している。演劇部の部長さんが担架でオレを運んでくれと頼んだようだ。

 保健室で手当てを受ける。保健室に着いた頃には、出血は止まっていた。保健医が傷口を消毒し包帯を巻いてくれた。まだ、少し痛むが、さっきより、だいぶいい。ベッドに寝かされた。

 葵とあすかと如月が保健室に来ている。

「羅刹さんの事、バレるとまずいから、私が表に出たほうが・・・・・・」

 弥生が提案する。オレは却下する。

『今、表に出ると、傷が痛むぞ。痛みが引くまで、オレが身体を操った方がいい』

「じゃあ、どこかで交代しましょう。痛みは分かち合わないと。私の身体だし」

『わかった。弥生。ありがとう』

 弥生は意外に根性あるな。見直したぜ。

「弥生大丈夫?」

「弥生、痛い?」

「弥生先輩大丈夫ですか」

『心配してくれて有難うよ』

 オレはベッドを降りた。

『さあ帰ろう。もう、大丈夫だから』

「私、弥生の鞄、取って来るわ。一緒に帰ろう」

 オレは痛む足をヒョコヒョコ引きずりながら帰った。途中転びそうになる所を女の子三人が支えてくれる。女の子に支えられるなんて、みっともないなオレ。ああ、今は女だっけ。電車では席を譲ってくれたし、あすかは鞄を持ってくれた。みんな優しいな。とても有り難い。



 家に到着。居間のソファに座らされた。葵が包帯を換えてくれる。如月はお茶を持ってきてくれた。

「もう大丈夫。身体を戻して、羅刹さん」

『わかった。無理するなよ。痛くなったら交代だ』

 私が表に出る。

 包帯を換え終わった葵が不思議そうな顔をしている。

「弥生。ごめんね。ちょっといいかな」

 そう言って、葵は私に抱きついて来た。

「な、何?葵ちゃん」

「葵先輩!どうしたんですか?」

「うーん。やっぱり違うか。」

 葵ちゃんは腕を組み、考え込んでいる。

「いやあ・・・・・・弥生に飛びつかれて、抱かれた時、何て言うか、その・・・・・・ドキドキしたのよ。ふわふわして、気持ちいいって言うか・・・・・・そう男の人に抱かれたのってこんな感じかなって。で、今改めて抱きついて見たら違った。気のせい見たい」

 私はびっくりした。そしてまたバレたんじゃないかとドキドキした。あすかちゃんは・・・・・・顔を真っ赤にしている。

「葵先輩ひどいです。弥生先輩は私の恋人です!」

「あはははは。ごめんね、あすか。大丈夫、私はそっちの趣味ないから。二人の事は全然平気よん」

「もう。葵先輩のイジワル・・・・・・・」

「どうしたの?私の妹を取り合っているの?お姉ちゃんも混ぜて」

 それから三人でお喋り、演劇部の出来事は、ただの事故って扱い。私はそう思わない。羅刹さんが何かに気付いていた。後で聞いてみよう。



 葵ちゃんとあすかちゃんは家に帰った。お姉ちゃんは自室で勉強中。私も自室に戻って勉強・・・・・・しようとしてたんだけど・・・・・・・羅刹さんに聞いてみよう。演劇部の事件の事を。

 私は鏡の前に行く。羅刹さんに話しかける。

「ねえ。演劇部の事だけど」

『ああ。俺も話さなきゃならんと思っていた』

「羅刹さん、何かに気付いていたわね」

『そうだ。餓鬼の類が葵とあすかを狙っていた』

「なんで葵ちゃんとあすかちゃんを狙ってるの?」

『それは、オレにもわからん・・・・・・・明日、体育館を調べてみるか?』

「えっ?また体育館へ行くの?いやだなぁ・・・・・・お化けがいるんでしょ」

『いまさら何いってんだ?まあ、あいつら地縛霊みたいなもんだから、体育館からは出られないはずだ』

「わかったわ。葵ちゃんたち、演劇部が安心して練習できるようにしなきゃね」

『そうだな・・・・・・・』

 私って、こんな正義のヒロインみたいな事、やりたかったのかな?自分でも不思議だわ。何か義務感あるし。

『弥生。治癒魔法使ってみろ。脚の怪我が治るぞ』

「大丈夫かな?この間見たく大変なことにならないかな?足がもう一本生えたりして」

『真ん中の脚だったりして・・・・・・』

「下品よ!」

 私は控えめに治癒魔法を使った。傷口がどんどん塞がって行く。もう痛くない。薄く傷跡が見えるくらい。どうやら成功したみたい。

 私はテスト勉強を始めた。なんとか乗り切って、有意義な夏休みにしたいな。



 時間は飛んで翌朝の二年C組の教室。

「おはよう」

 私は教室の扉を開いた。

 パチパチパチパチ

 拍手?以前こんな事あったような。

「正義のヒロイン登場!」

「身体を張って、親友を助けるなんて、凄いわ!」

 な、なにこれ?クラス中が私に喝采を送っている。私は軽くパニックを起こしている。

 黒板には『正義のヒロイン』なんて書いてある。いろいろ混ざってるんだけど。

 パシャ!

 突然目の前でフラッシュが焚かれた。

「新聞部でーす。インタビューをお願いします」

 新聞部って書いた腕章をつけた二人の生徒が近寄って来た。一人はマイク、一人はカメラを持っている。

私が一番恐れていた『学校での有名人』になってしまった。



 放課後、私は寧々とソフトボール部の部室へ向った。寧々にある物を借りる為。

「弥生ちゃん。金属バットなんて何に使うの?」

「えっ?ちょっと運動不足だし、ダイエットしようかなって」

「えーっ?弥生ちゃん、運動神経抜群じゃない?」

「そうかな。えへへへへへ・・・・・・・」

 うっ。下手な嘘はつけないな。笑って誤魔化しました。金属バットは羅刹さんが必要と言ってせがむから、借りる事にした。

「古いバットでいいのね・・・・・・ハイ」

 寧々ちゃんは部室から金属バットと・・・・・・ヘルメットを持ってきてくれた。

「ヘルメット?」

「そうだよ。バッティングするときはヘルメット被んなきゃ駄目なんだよ」

「ありがとう。後で返すね」

 私はヘルメットを被り、体育館を目指す。これからお化けと会うんだから、少しでも防具があった方がいいよね。

 金属バットが必要なのは「鬼に金棒って諺あるだろ」って羅刹さん。あの人の冗談は全然面白くないわ。

 体育館の入り口には《立入禁止》の張り紙があった。昨日の照明落下事件の影響。今朝のホームルームで「体育館は立入禁止です」って教師が言ってた。

 扉には当然鍵が掛かっている。私は『開錠の魔法』を使う。泥棒みたいで気が進まないなぁ。

 ガラガラガラ・・・・・・。

 扉を開け、体育館の中に入る。扉を閉める。

『ここから、オレに代わろう』

 羅刹さんが出てきた。

「お化け・・・・・・・いるの?」

『ああ。いる。間違いなくいる。』

 オレは、只ならぬ気配を感じていた。入り口の扉の前から、静まり返った、体育館全体を見渡す。

 カシャーン!

 天井の水銀灯が落ちてきた。

『同じ攻撃を何度も食らうかよ!』

 オレは落ちて来た水銀灯を金属バットで打つ!

 ガッキイイイーン!

 打ち込む先は・・・・・・敵の気配がする場所!

 ドグワシャ!

 バスケットゴールに命中。黒い影が、床に落ちた。あいつは・・・・・・。

「何あれ?珍獣ベローシファカ?」

 弥生にはそう見えたのであろう。

『やはり餓鬼』

 オレは金属バットを振りかぶり、餓鬼のところへ飛ぶ。

『とう!』

 金属バットで、餓鬼をぶった切ろうとした。が、近寄る前に逃げられた。結構すばしっこい。餓鬼は天井に張り付いた。

『弥生・・・・・・今日はスカートだけど、暴れて良いのか?』

「うん。いいわ。今日は見せパン履いて来たから」

 見せパンって何だ?あんぱんの親戚か?

 シュッ!

 天井から餓鬼がオレたち目掛け、飛んでくる。手に光る物!ヤツは武器を持っている。あれは鉈だ。

 オレも飛ぶ。空中で迎撃だ。間合いを合わせ、空中で餓鬼の胴を薙ぐ。餓鬼はオレの顔に鉈を刺そうとした。

 ビキイイイ!

 オレは首を傾け、鉈を避ける。鉈がヘルメットに当たり、かすめて行く。

 バッサッ!

 オレの金属バットが餓鬼の胴を薙いだ。確実に薙いだ。だが、薙ぐ瞬間、餓鬼の身体は水のような液体になり、金属バットがすり抜けた。

『??』

 オレは床に着地。再び餓鬼と対峙する。ヘルメットのひさしの部分が半分無くなっていた。寧々に感謝しなきゃな。

『今の見たか?弥生・・・・・・』

「見たわ!何あれ?金属バットがすり抜けた」

 シュッ!

 鉈が飛んで来た。

 ギン!

 オレは鉈を金属バットで打ち返す。狙いを定め、餓鬼の顔に打ち返す。

 バッッシャ!

 餓鬼の顔に鉈が突き刺さった。がやはり、液体となって、鉈はすり抜けた。

『参ったな。餓鬼は元々あんな能力は持っていない。強力な魔道士が背後についているようだ』

 どうするか?金属バットじゃ餓鬼を捕らえる事は出来ない。

『弥生。魔法が必要だ。餓鬼を燃やしてくれ。今のあいつは水属性だから、火に弱いはずだ』

 シュッ!

 再び鉈が飛んできた。オレはさっきと同じ用に打ち返す。

 ギン!

 結果も同じ。鉈は餓鬼の身体をつき抜け、床に刺さる。餓鬼は・・・・・・悔しいが無傷だ。

『弥生。良く聞いてくれ。どうやら魔法じゃないと餓鬼は倒せない。ヤツに炎の魔法を掛けろ!』

「でも、私が魔法を出すまで時間が掛かるわ。その間に餓鬼が鉈を投げたら、私避けられないわ!」

『餓鬼が積極的に攻撃して来ないのは、魔法を警戒しているからだ。餓鬼は魔法が飛んできたら避けて反撃する気だ。ここでヤツを倒さなければ、葵達はまた狙われるぞ!』

「ううっ・・・・・・それを言われると、逃げられないじゃない」

『餓鬼が逃げ切れない、でかい炎を頼む』

 オレは弥生に託し、裏へ引っ込む。

「もう!どうなっても知らないから!」

 私は餓鬼を睨む。お願いだから、大人しくしていて。魔法が外れるから。

 炎をイメージする。私の足元に赤色の魔法陣が出てきた。魔法陣から炎が舞い上がる。どんどん炎が大きくなって行く。

 ゴオオオオオオオオオ!

 私を囲んで巨大な火柱が上がった。制服のスカートが捲くれ上がる。見せパンでよかった・・・・・・

「いっけえええええ!」

 私は火柱を右手で押した。餓鬼に向って巨大な火柱を押し出した。

 餓鬼が後ろに飛び退くのが見えた。だけど、炎が余りにも巨大で逃げ切る事が出来ない。

 ドゴオオオオオオオオオ!ンンンン!

 大音響で大爆発。餓鬼と体育館の半分がなくなった。

「はあはあはあ・・・・・・やったわ・・・・・・」

 半壊した体育館に夕日が差す。

『弥生!まだ終わっていない。気をつけろ!』

 オレは強引に弥生の身体を奪う。餓鬼が持っていた鉈を投げる。殺気が立ち込める方へ向って。

 ガスッ!

 鉈が空中で止まった。見えない壁に突き刺さったようだ。鉈は床に落ちた。

 空中に突然男の姿が現れた。黒ずくめのスーツに黒いネクタイ。

「やはり見つかりましたか・・・・・・」

 黒いスーツの男が喋る。こいつは・・・・・・・。

『死神か?』

「そうです。あなた達二人を冥界へ連れ戻しに来ました。大人しく付いてきて頂きたいのですが・・・・・・」

 死神は飄々と喋る。

『嫌なこった。無理に連れて行くので有れば、一戦交えるか?』

 オレは金属バットを構える。

「今回はこれで引き揚げます。羅刹殿が相手であれば、私一人では勝ち目が有りませんから」

『一つだけ教えろ!何故、関係のない人間を襲った』

「今月のノルマ・・・・・・達成するのが厳しいのです。貴方達は一人で二人分ですから、効率が良いですし、ノルマがクリアとなります。それに・・・・・・」

 死神は薄笑いを浮かべている。憎たらしい・・・・・・。

「貴方達の人間と鬼神が融合した魂は、凄い貴重品です。是非入手したい」

『頭に乗るな!死神ごときが!』

「まあ、このような回りくどい方法を採っても、羅刹殿には通用しないとわかりました。安心して下さい。今度は直接魂を頂に参ります・・・・・・ぶほっつ!」

突然死神の顔に靴がめり込んだ。黒いローファー。そうか、弥生が自分の靴を投げつけたようだ。

「黙って聞いてりゃいい気になって!人の命を何だと思っているのよ!覚悟しなさい!返り討ちにするわ!」

 死神は自分の顔にめり込んだ靴を取り、床に置いた。

「威勢のいいお嬢さんですね。また会いましょう。御美足の匂い、忘れません」

 死神はゆっくりと空中に舞い上がって行く。

「逃すものかぁ!」

 弥生は金属バットを引っ提げ、この場から去ろうとしていた死神に殴りかかった。オレは弥生をアシストする。危なっかしくて見てられねえ。

「わああああああああ」

 弥生が叫びながら、死神を金属バットで殴った。

 ブン!

 死神が金属バットの太刀筋を読み、かわす。思いっきり空振り・・・・・・だが、オレはそんなに甘くないぜ。弥生が空振った勢いを利用して、そのまま浴びせ蹴りを死神にお見舞いする。弥生の素足が死神の肩口を裂いた。

「こ、こいつ」

 オレは床に着地した。

 死神の黒いスーツは肩口からバッサリと裂けていた。

『オレの大事な人を傷つけようとした。許さんぞ』

「ばかな。女の身体となって、弱くなったはずだ、羅刹天」

『弥生の事をなめて掛かるから、噛み付かれるんだ。覚えておけ』

 ウーウー!

 サイレンの音が聞こえる。

「チイ!邪魔が入った。この勝負預けたぞ!」

 死神は脱兎の如く駆け出し、逃げ去った。

「ばか!あほ!変態!おとといきやがれ!」

 弥生は興奮冷めやらぬ状態だ。

『弥生!面倒な事になる前にずらかるぞ!』

「また、やり過ぎちゃった・・・・・・」

 オレは靴を履き、体育館から学校の屋上までジャンプする。

 屋上に着地した途端、昇降口の扉が開き、先生や生徒が大勢出てきた。みんな体育館を見ている。携帯で写真を撮っている生徒もいた。

「弥生!」

 おっ。葵と寧々も来た。野次馬根性丸出しだな。葵は軍服姿。寧々はソフトボールのユニフォーム着てる。部活の最中だったみたいだ。

「葵こんな所で、何やっているの?」

『いやあ。寧々に借りたバットで素振りしてたんだ。最近ケーキの食べすぎで体重増えちゃって・・・・・・いてててて』

 オレは尻をつねられた。自分で自分の尻をつねっている。弥生のヤツだ。

「良かった。弥生の姿が見えないから、心配しちゃった」

 葵が抱きついて来た。寧々は・・・・・・遠巻きに見ている。寧々に違和感を感じる。

「あっ。そう・・・・・・こんな感じ。この匂い」

『うっ!』

 葵は顔をオレの胸に押し付けて、ぐいぐい押す。どうしんだ?

「弥生・・・・・・私、変な感じ。ドキドキする」

 葵の顔は真っ赤になって、目が潤んでる。病気か?

「まずいわ、羅刹さん。私と代わって!」

 弥生が飛び出してきた。

「大丈夫よ葵」

 私は葵の頭を撫でた。

「うん。あれ?私ドキドキしてたんだけど、なくなっちゃった」

「弥生ちゃん」

 寧々も抱きついてきた。一緒に頭を撫でる。

「おー、よしよし。いい子だね」

 私は葵の行動を見て、羅刹さんの弱点?を発見してしまった。これは間違いないと思う。

 体育館は昔の不発弾が爆発したと言う事になった。危険なので、生徒は全員帰宅させられた。

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