第八部
昨夜と同じバーで、ルクはフィーズと落ち合った。
彼はすこし、焦れたような、疲れたような、そんな表情をしていた。
「アリィ、何て言ってた?」
グラスを受け取ってすぐ、フィーズの口を突いて出たのはこんな言葉。
「なにも。悪魔さんだってことは、わかった。いつもと同じ」
「そうか……」
ちびり、とフィーズはグラスを傾けた。
アリィとフィーズ、二人がどういう関係なのか。それを勘ぐる気はルクにはない。なんとなく想像はつくものの、それは二人の問題だ。
「……アリィはさ。なんか、昔のお前みたいに見えたんだよ。最初」
「……」
「お前と会えば、なにかが良くなるかもしれないって。そう思ったんだ」
「それは俺も、おんなじだよ」
ルクはこれまで、何人かの『悪魔さん』に会ってきた。アリィやルクのような人間はそれぞれ違う種類の呪いのようなものを持っている。
そしてそれが何故なのか、まったく分からない。
「……俺も、お前と一緒に行きたいと思ってた」
「それはダメだよ」
「わかってる。それに、今はアリィのこともあるし」
フィーズは真っ直ぐ、ルクを見た。
「協力はしていく。お前が、悪魔さんが元に戻れるまで」
それは途方もない大海原にいかだを漕ぎ出すようなものなのかもしれない。
「分かってるよ。俺自身のことでもあるしな」
世界は歪んでいる。
歪んだ者の存在を許している。
だからルクは、旅をしている。
「とりあえず、今日は飲め」
いつものような顔に戻ってフィーズがグラスを掲げた。
「うん」
ルクもグラスを掲げる。
ちん、とガラスの音が鳴った。
いろいろと説明の足らないところだらけでしたが、これで一応の締めです。
酷評でもなにか感想をいただけたら、幸いです。




