第六部
合計、五人の男たち。手に手に剣を、棍棒を持ち、下卑た笑みを浮かべている。
馬車の行く手をさえぎって立ちはだかった彼らのうち一人が、馬車から降りてきた少年を見てさらに笑った。
山賊。
「なんだ、ガキか。稼ぎにならねえな」
「そうでもねえさ。馬がある」
この山中に賊が出ると聞いたことはなかった。そうでなければ、護衛の兵が一人でもいていいはずだから。
御者はおびえ切っていた。本来ならここで馬を止めてはいけなかったのだ。
「おい、坊主。まさか手ぶらで旅してるってことはねえだろ。荷物取って来いよ」
一人が歩み寄ってきた。御者がルクのほうを見て、逃げろ、と叫んだ。
「黙ってろ」
剣を突きつけられて、御者は沈黙する。刃はこぼれてもはや斬ることが出来るかどうか、といった武器に成り下がってはいても、凶器は凶器。
ルクは動かなかった。静かに彼らを見据え、微動だにしない。
婦人が心配そうにその様子を見ていた。
「おい、こら」
無造作に、男は剣先をルクに突きつけた。
「できればそのまま、帰ってはくれないか」
ルクの発した言葉に、男は一瞬固まる。それから声を上げて笑い出した。
「はは、お前、かっこいいな!」
その男の笑い声が、ぴたりと止んだ。
ルクがその刃を無造作に掴んだからだ。
「同じことを何度も言いたくない。頼む、帰れ」
「て……てめえ!」
男は剣を振り上げようとした。刃を握った手から血が滴る。
「帰れ」
ルクの手が刃を放す。同時に男は凶刃を振り下ろした。
真一文字の剣閃、後ろに退いてそれをかわす。
「死ね!」
振り下ろされた剣はそのまま横薙ぎにルクを襲った。
切れの悪い刃が、ルクの体に食い込む。
鮮血の迸り、刃は赤に染まった。
そして―
「帰れ」
少年は倒れなかった。斬られ、血を流し、それだけ。
「な……」
男が驚愕を顔に浮かべて、自らの剣とルクを見比べた。
どうあっても立っていられるはずもない重傷を負って、ルクは一歩一歩男に向けて歩み寄る。
「く!」
再びの斬撃。それをルクは、左腕で止めた。骨に食い込んだか、血を吹いて刃は止まる。
全身を血まみれにしながら、ルクは右の拳を振り上げた。
驚きに目を見開いた男の顔面に正拳を叩き込む。
「がっ!」
のけぞって男は倒れた。一撃だ。
男の取り落とした剣を拾い上げ、残る四人に向かってルクは歩き出した。
「帰れ、と言った」
「くそっ! 化け物!」
二人が一斉に襲い掛かってくる。棍棒の一撃を剣で受け止め、突き出された槍をかわす。
槍を持つ手を蹴り上げた。その隙にルクは剣を手放す。棍棒の男はバランスを崩した。
取り落としかけた槍を奪い取り、石突を鳩尾に突き入れる。
間髪入れず振り下ろされた棍棒を穂先で受け止めた。
「な、なんなんだ! お前はっ!?」
「……悪魔」
ぼそり、と呟いた声は届いただろうか。
長い槍を振り、男の首筋を殴打した。吹き飛んで白目をむいた男には目もくれず、ルクは残った二人を睨み据えた。
「帰れ」
山賊は射すくめられたかのように、その場に立ち尽くした。




