「面白い女」は不本意だけど本命に話しかけるチャンスです!
ダリアは物凄く後悔していた。
時を戻せるなら、遡ってあのときの自分をぶん殴ってやりたい。
残念ながらそんな特殊能力は持ち合わせてないので、出来る範囲で手を打つしかないのだが…。
考えようによってはチャンスだ。
チャンスだと思い込め!
自らに言い聞かせ教室を出た。
「ふーん、あんたが噂の『おもしれぇ女』か」
意を決して呼び出したのは商業科のハルト・シュタイン。
呼び出されたハルトは面白そうに目を細めた。
「その呼び方、やめて!」
ダリアは抗議したが、ハルト一人に言ったところで意味がないことは良く分かっている。
「気にするくらいなら、上位貴族に説教かますなんて目立つようなこと、すんなよ」
「…そ、それは、ごもっともだけど!」
だから、ハルトに指摘されても言い返すことが出来なかった。
――あの時ダリアは本当に空腹だった。
だが、いざ食堂に入ると、高位貴族たちが座席が悪いだの、礼儀がなってないだの、しょうもないことで大騒ぎだった。
そのせいで、いつまでたっても食事にありつけない。
クゥとお腹が鳴ったとき、ついに我慢の限界がきた。
「この食堂は誰でも使って良い場所なの!そんなに気になるなら高位貴族専用のサロンで食え!!」
そしてつい…よりにもよって侯爵令息とその取り巻き達を怒鳴り付けてしまった。
空腹とは恐ろしい。
その結果が、ご令息からの例の言葉だ。
「この俺にそんなこと言えるなんて、お前、面白い女だな?」
面白いのはお前の思考回路だ!
今でもダリアはそう思っている。
だがそれ以来、彼らは暇さえあればダリアを構いに来る。
「よく無礼打ちにされなかったな」
「まぁ…、それはそうなんだけど」
ハルトの言うことには一理ある。
品のない男爵家の令嬢など、いろんな意味で抹消されていておかしくない。
けれど――
「ほら、あたし顔が良いから」
「良いところ、顔だけっぽいけどな?」
指先を頬に当て小首をかしげるダリアに、すかさずハルトの一言が突き刺さる。
「お顔が良いなら、それで十分じゃない!」
「あー、はいはい。じゃぁ、俺はもう行くわ」
ダリアの堂々とした宣言にハルトは肩をすくめて、立ち去ろうと手を振った。
「ちょ、待ちなさいよ!!」
「離せ、嫌な予感しかしねぇんだよ!」
立ち去ろうとしたハルトの制服の裾をガシッとダリアが掴んだ。
「お願い!恋人のふりをして!!」
「初対面の男に頼むことか!!」
ダリアだって必死だった。
のらりくらりとしていたが、そろそろ高位貴族の婚約者達の目が怖い。
男どもは可愛いって褒めてるんだから悪い気しないだろ?って無神経に構ってくる。
構うわ!
女子の間で浮きまくりだわ!
「商人の家柄のあんたなら、お嬢様方も溜飲が下がると思うの!」
「めちゃくちゃ失礼だな!?」
「話だけでも聞いて!お礼はするから!!」
必死で訴えてくるダリアに、ハルトは頭を掻いた。
「あー、もう。聞くだけだからな」
ダリアの手がほっと緩んだ。
微妙に伸びたベストを直しながら、ハルトが目で促す。
「あんたのところの商会って、貴族への販路拡大を狙ってるでしょ?」
「…外堀の埋め方がえげつねぇな」
「お嬢様方へのお詫びの品に、あんたんとこの商品使うから!!」
微妙にハルトへのお礼になるのかどうかも怪しい提案だ。
「…なんで俺なんだよ」
ハルトのため息に、ダリアの反応が一瞬遅れた。
「だ、だって!か、顔がタイプなのよ!頭も良いし、運動神経も!!」
「なんだそれ、ベタ惚れかよ?」
「ち、違うけど!!…でも話しかけるチャンスかなって」
真っ赤な顔でダリアが叫ぶ。
ハルトがきょんと目を丸くした。
ハルトのその顔を見た瞬間、ダリアが口元を手の平で覆い顔を背ける。
「やだっ、なにその顔かわいい!!」
横を向いたまま、耳まで赤くしてるダリアを唖然と見つめた。
「え、高位貴族の好意も利用して俺に近づいたってことか?」
「『高位』と『好意』……ダジャレまで!」
「ば、違うわ!!」
そんなおやじギャグ、使うか!
激しく否定するが、そこじゃない。
「お前、俺が好きなのか?」
「直球!!!」
「いや、お前が直球なんだよ!」
顔を両手で覆い、指の間からハルトを伺っている様子は普通に可愛い。
「そ、それに、ちゃんと優しいもの…」
消え入りそうな声で真っ赤になって、観念したように小さく頷く。
けれどもハルトは呟かずにはいられなかった。
「いや、お前正真正銘の『面白れぇ女』だよ…」
「だって、だって…!!」
ここまでやってオロオロしている。
その様子が可愛いから付き合うことには決めたが、まぁ、この後も面倒は多そうだなと唇の端を持ち上げた。
「はは、ほんと面白れぇ女だな!」




