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第6話 旗は立つ


「お前、俺とバトルしろ」


「すみません、ちょうどデッキを忘れてきたので出来ません」


「嘘つけぇ!この時代にデッキを持たずに出歩く奴がいるか!」


「おやおや、困りましたね」


 『悪神ウェロボラウス』がお気に入りを全て消費したのでコンビニに買い出しに行った彼は、いかにも怪しい人物ですよと主張する黒ローブの男と出会ってしまった。


 男から感じるのは黒のカードが放つ特有のオーラ。もちろん『悪神ウェロボラウス』と比べたら微弱もいいところだが。


 黒のカードの力に溺れた典型例である。


 強い力を見せびらかすついでにバトルでカードを奪おうと言う魂胆である。


 黒のカードの力に溺れたとはいえ、プレイヤーの意思は残っている。だが、黒のカードにも意思もあるため誘導して自身を強化するためのカードを無理矢理集めさせているのだ。


 これは黒のカード達が愛されないから自分で洗脳してでも愛してくれる人を探している、というのが彼の考察である。


 生まれた時から迫害される立場と理解させられて、同じ黒のカードである仲間にすら出会う機会も少ないため社会性が育まれにくい。


 彼と共に住む『悪神ウェロボラウス』がこの例に当てはまる。


 悪神と名前がつけられた故に自分がどう言う存在かを無理矢理解らされ、役割と共に誰にも愛されるはずもないカード生を過ごすはずだった。


 彼が居たからこそ今があり、彼の全身に28ヶ所の噛み跡を残すくらい依存しているのだ。


 そんな事情はさておき、彼としても本当に困っている。


 コンビニは近くにあるからすぐ帰れるとたかを括った事と、転生者故のカードゲーム世界とのズレのせいで本当にデッキを持っていなかったのだ。


 少し勘が鈍ったかと思うが、昔と比べたらバトルする回数がかなり減っているので仕方ないだろう。


「待て、本当にないのか?」


「ええ、家に帰ったらあるのですが、貴方にとって恐ろしい者が居ますのでお勧めはしません」


「だったらお前の後についていくだけだ」


 堂々とストーカー宣言されたが、彼にとって本気の忠告だった。


 彼にとって最大のレアカードは『悪神ウェロボラウス』なのだから、それを無理に奪えばどうなるかは…………想像にお任せしよう。


 このまま家に帰れば黒ローブの命の方が危ない。ゆったり歩いてどうするか悩んでいたその時だった。


「見つけたわ、黒のカードの持ち主!」


「おや?おやおや、君達は…………」


「何だお前らは!」


「私は管理局6番隊主席神宮寺ソノカです。今すぐ黒のカードを渡せば貴方は無罪になる可能性もしくは罪が軽減される可能性があります、なので投降しなさい!」


 黒のカードで悪さをする人間や精霊がいれば対抗するための組織が作られるのも必然。


 ソノカと名乗った少女は黒ローブにカードデッキと腕に装着された板、いわゆるバトルディスクと呼ばれるアイテムを付けて向き合う。


「無理だと分かってるだろう?俺を捕まえたければバトルだ!」


「尋常に、バトル!」


 黒のカードは管理局のおかげで殆どが表沙汰になっていないが、新たに生まれることが多いため事前情報はアテにならない。


 それでも市民を守るためにパトロールし、命をかけて戦い抜くのが管理局なのだ。


 その実働部隊の6番隊を若くして任せられたソノカは使命感に燃えて今日も戦い続ける。


 そして巻き込まれた彼は何をしているかと言うと…………


「ウェロ、今戻りましたよ」


「遅い!マーブルチョコは買ってきたのか!」


「もちろん、たくさん買ってきました」


 家に戻って『悪神ウェロボラウス』と戯れていた。


 癇癪を起こされたら部屋どころか街が滅びかねないのだから優先順位は当然、彼女との戯れと決まっているだろう。


「くんくん、知らない雌と黒のカードの臭いがするぞ?何があった?」


 見た目が角付き褐色幼女であっても中身は悪神、彼が誰かと接触した形跡を僅かな臭いや付着したオーラで見つけてくるのだ。


「ほう?我の為の買い出しと装って雌と逢引きか?ん?」


 ずいっと瞬間移動したかと思うほどの速度で彼の近くに寄り、顔を近づけようとする。


 しかし身長差で下から彼を見上げる構図となり格好がつかなかった。


 それでも人の目から蛇の目となり、なおかつ光が灯っていないので迫力は満点だ。


「出会ったのは偶然ですよ。最初に黒のカードに飲まれた男が現れて、それを追ってきた管理局の人間が女性だっただけですよ」


「本当か?我に隠れて連絡したとかではないな?」


「もちろん、初対面でしたよ」


 コンビニの袋を持ったまま、成人男性1人には少し広いリビングに配置されたソファに座り、ようやく目線の高さが合う。


 彼が座ったことでさらにずいっと顔を近づけ、横から覗きこむどころかくっついて、しっとりとした肌と硬い角がピタッと彼の顔にくっつく。


「ほーん?それはつまり、助けてもらったと言うことか?」


「バトルを譲っただけですよ。デッキを忘れていたので、結果的に早く帰ることができました」


「つまり助けられたから縁ができたと?ほーん、我、知ってるぞ?そう言う出会い方をしたらフラグ(・・・)と言って出会いやすくなるらしいぞ?」


「彼女は管理局の6番隊主席です。重役でもありますから珍しく外に出たらエンカウントした、つまり何十箱もある弾から残ったラストパックで最高レアリティを引いたようなものです」


「ほーう?我という最高レアリティと出会い手籠にした者ガ言ウト説得力ガアルナァ?」


 流石に本気で怒り始めた『悪神ウェロボラウス』は冗談で済ませられる地点を越えそうになる。


 ぴっちりと頬にくっつけていた肌も蛇の鱗のようなものに置き換わっていき、彼の肌の温度を吸っていく。


 内心は動揺しても対処しなければ命が危ない。冷静を装いコンビニで購入してきたお菓子の袋を開ける。


 『悪神ウェロボラウス』が今一番気に入っているマーブルチョコを一粒つまみ、ギチギチと顔を押し付けて、押し潰すのではないかという圧を放つ悪神の口に突っ込む。


「ムグッ!ハムハム…………」


「ほら、笑って。君は美味しいものを食べて笑っている顔が似合いますよ」


「んふ〜、ちぱちぱ」


「こらこら、指はチョコでは無いですよ」


 物で誤魔化すのが一番である。情緒が育ちきっていない子供相手に通用する手段を迷わずとる。


 指をしゃぶられるのは必要経費として許容し、涎まみれになるのを抵抗せずにいた。


 ただ、顔はぐっと押し付けられてるままなので動きづらいままではある。


 黒ローブが入手したと思われる黒のカードがどのようなものかは気になったが、『悪神ウェロボラウス』の笑顔と比べたら優先度は低いと思っているので気にしないことにした。


 角付き褐色幼女とのイチャイチャで今日もまた1日が終わる。



〜●〜●〜●〜●〜




 翌日、昼過ぎにて。


「申し訳ありません。私は管理局6番隊主席神宮寺ソノカと申します。昨晩のことで、すみませんが事情聴取させていただきます」


『ホラ?ふらぐ(・・・)ガ立ッテイタダロウ?』


 気配を隠しながらキレるという無駄に高度な芸当を胸ポケットから見せつけてくる『悪神ウェロボラウス』と黒のカードを取り締まる管理局の重役との板挟みになり、彼は困った笑顔を見せるしかなかった。


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