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第3話 黒のカード


『何故どこにも黒のカードがないのだ!』


「全部のカードに意思があって乗っ取られやすいですからね」


『君みたいに意志が強ければ飲まれない頼れる者しか居ないというのに!これだから人間は「いしよわ種族」なのだ』


「いいえ、意思が脆いからこそ団結し、新たな可能性を見つけるのですよ」


『シャーっ!黒も活躍させろー!』


 胸元で不機嫌になる『悪神ウェロボラウス』を撫でて宥めながらカードショップに入る。


 昼過ぎであり、まだ学校も終わっていない時間帯なので客は少なく閑散とした雰囲気を醸し出している。


 ストレージに数人居て、プレイスペースでデッキ構成を悩んでいる1人くらいだ。


『久しぶりにこの場所に来たが、生気が少ないな。潰れるか?』


「時間帯が合ってないだけです。さあ、ショーケースをみましょうか」


 昨日買った新弾のパックは最高レアリティは出なかったが小回りが利きそうな準レアやカウンターカードを数枚当てることができた。


 ただ、もしデッキを組むとして枚数が全く足りない。最大3枚まで投入する事はできるので1枚だけ投入するのはエース級くらいなのだ。


 彼は新弾が発売されると先ずパックから購入する。いつの時代でもランダム性があるパック開封に心が踊るからだ。


 ただ、我々が知る世界より価格が10倍、20倍も高く、トップレアなど下手したら数億と行く場合もある。


 単純に需要に対しての供給量が相当少ないこととトップレアになるカード群はこぞって精霊になるからという理由で限られた人間に、然るべき人間に渡るよう設計されているのだ。


 いくら小金持ちの彼でもトップレアを気軽に購入できない。変に購入したらシャークトレードや賭けバトルを相当数仕掛けられるので厄介な事になる。


 パックから当てた場合は狙われたりするが、ある程度までは運命力の補正を受けて奪われないようにカードの方が抵抗することもしばしばある、らしい。


 何故なら彼が知るトップレアを持つ人間は全員強者であり、彼自身も強者である故に詳しく知らないのだ。


 なお、『悪神ウェロボラウス』もトップレアである。


「ほう、素晴らしい。自らのデッキを削る闇のカードがありますよ。墓地を利用する人に合いますね」


『つまり我の眷属と同じということだな!買え!買って!』


「値段は…………ふむ、今月の予算の1/5を持っていきますね。最優先として他のものを見ていきましょうか」


『我、あいつ気に入った!買って買って買ってー!』


「君は可愛いですね」


 コレが悪神の姿か?事情を知らない者がこの会話を聞いたらそう思うだろう。


 ただ、神の名を冠する割には精神が幼いのは理由がある。


 黒のカード、周囲から禁断のカードと表されるカード群を示しており、1枚1枚が強大な力を持ち使い手を狂わせるという物とされている。


 大きな力を持つ性質上、普通に産まれることは無く、それに宿る精霊は尊大であり容易く使用者を操れるほど魔力があるのだ。


 故に禁断のカードとされ保有しているだけで罪となることもある。


 『悪神ウェロボラウス』はその中でも特に強く、そして群を抜いて個を持ちつつ、さらに自身のデッキを持っているのだ。


 もちろんデッキは全て黒のカード。初見かつ初戦だったとはいえ、彼が必死になって、尚且つウェロの方は初めてのバトルの上に彼に黒のカードをこれでもかと褒めちぎられた事で調子が狂い、結果は彼の勝利となった。


 驚くだろう、醜いキメラのカード達が1枚1枚丁寧に褒められるなんて、初めての経験だったのだ。


「おや、このカードは手札交換ですね。3:2交換ですか、コストは低くなく高くなく、中盤で切り札を引き込むためのカードですね」


『我のカードだな!買って!』


「検討しましょう」


 1枚1枚着実に効果を読み上げて強さを確認し、そしてまた次のカードをじっくりと見る。


 ネット上でも効果は確認できるが、やはり直に見る楽しみとウェロを暇にさせないためのコミュニケーションとしてこの作業をやっているに過ぎない。


 色の違うカードでそれぞれの分野で力を発揮しているが、黒のカードはメリットとデメリットが分かりやすく浮き彫りになっている。


 そもそも、黒のカードは『黒』という属性ではなく多くの色が混ざった結果、黒色になったという考察を彼はしている。


 そうでなければ単一ながら各々の色の効果を1枚に閉じ込められないからだ。


 ただ、現れ方がキメラという混沌の魔獣みたいなものばかりで自我が強い奴らしかいないので危険視されるのもやむなし、と言ったところだろう。


 語った全てが正しいか分からない。悪神と呼ばれるウェロも持っている力に対して精神は幼い部分が殆どを占めており、丁寧に接したら分かり合えたくらいなのだ。


 長年迫害された恨みつらみが彼女に蓄積され、いざ人類侵攻となったのかもしれない。


「おやおや、あの時のカウンターカードはこの値段でしたか。どのデッキにも入れられる汎用性が高い分、価格も高いですね」


『我が場にいたなら無力だな!』


「制約上、君しか場に立てませんからね」


 相手の攻撃時に相手モンスターを動けなくする光のカード。攻撃モンスターは止められないという弱点はあるが強力なのは間違いなく、ただ値段がウェロが欲しがるカードの3倍ほど値段がするので今回はやむを得ず見送ることとなる。


「ひとまず候補は揃いましたね。どのカードを買いましょうか」


『全部だ!全部我のだ!』


「おやおや、欲張りさんですね。ふむ、予算をもっと捻出すれば何とか…………」


 しれっと予算オーバーを許容してでも購入しようとするカードゲーマー根性を見せつける彼だった。


 まあ、『悪神ウェロボラウス』に駄々を捏ねさせるのは普通に不味いので、数十万ほどの金で世界を守っていると考えたら安いものだろう。


「あ!いつもカードだけ買ってるおっさん!」


 後ろから声をかけられる。すごく失礼な声のかけられ方だが、いつもカードだけ買ってるおっさん(当社比)なので否定はできない。


「おや、おやおや。ユウキくんじゃないですか。学校は終わったのですか?」


「ああ、速攻で来た!」


 ふんす、と粋がってる赤髪の少年に対してずっと元気だなぁ、と彼は思う。


「ところで、呼び止めたのは何か用事があるのでしょうか?」


「ああ、一回おっさんとバトルしてみたいんだ!」


「おやおや、元気いっぱいですね」


『おおん?我が先にデートしていたが?邪魔する赤虫か?』


 胸でざわつく悪神を撫でながら、彼はにこやかに言葉を濁すしかなかった。


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