第20話 無一文の権利
『オタマ!』『オタマ』『オタマー』『オタマ?』『オタマッ!』『オッタマ!』『あきたー』『オタマだよー』『オタマなのー』『オタマ!』
『『『『『『『『『『
みんな揃って、オタマ!
』』』』』』』』』』
玄関を開けて、すぐそこの塀の上でちょーんという効果音と共にポーズを決めた黄色い小さな10匹の蛙が居た。
散歩に出ようとした瞬間に珍生物が謎ポーズをとっていたので『悪神ウェロボラウス』はうんざりした顔をする。
たった一回、されど一回。強烈なインパクトを植え付けた小さな10匹は面倒な相手と認識された。
「うわ、出た」
『出たよー』『きたよー』『見たよー』『勝つよー』
「おやおや、オタマ達ではありませんか」
『えへへー』『特定したー』『暇だったー』『お腹空いたー』『宣言通り10話後に来たぞ』
「何を言ってるんだこいつらは」
意味不明な言動に『悪神ウェロボラウス』は半目でオタマ達を睨みつける。
何故なら散歩デートと意気込んでいたのに出鼻を挫かれたのだ。キレる通り越して呆れてしまっている。
「それで、こうして出待ちしていたということは何か用があるということでしょうか。是非とも聞かせてください」
『えっとねー』『えっとねー』『ちょっと恥ずかしいんだけどねー』
『『『『『『『『『『
おかね、ちょーだい!
』』』』』』』』』』
「ぶち殺すぞ貴様ら!」
『悪神ウェロボラウス』、遂に耐えれずキレた。
「さっきから寛容に話を聞いていたら無駄話と要求だけ!他人のことを考えられんのか!」
『でも自分第一だし』『姉弟第一だし』『兄妹第一だし』『僕がお兄ちゃんだから』『僕がお姉ちゃんだから』『は?』『は?』『は?』『は?』『は?』
自分が姉or兄と主張するオタマ達。互いの兄妹、いや、姉弟?どちらか分からないが自分が上と信じて疑っていないのか互いに顔を見合わせた。
そしてぐいぐいと手で押し始める。
『僕が上ー!』『僕ー!』『僕だもーん!』『僕僕!』『僕だって!』
「おやおや、明確な基準がなかったのですね」
『同じタイミングで孵化したもーん』『卵生だもん』『ぼーくーがーうーえー!』
ぺしぺしと互いを叩く大喧嘩に発展してしまった。なお、身体は指先に乗りそうなサイズなので規模はかなり小さい。
喧嘩はいいのだが、彼は最初の要求の意図がつかめずにいた。
金銭、それは法で縛られる人間社会だからこそ有効な道具である。
バトルという例外はあるものの事実上のやり取りとして利用されるのだが、これは精霊にとっては気にすることはない物だ。
パックから出たカードを介して現れる精霊も居るが、黒のカードのような自然発生するタイプの精霊にとっては無用の長物、普通の精霊ですらこの概念を知らない個体も居るくらいだ。
だからこそ聞かねばならない。この小さな生物が何を考えているのか。
「喧嘩はそれまでにして、少し話をしましょうか」
「何故こうも寛大になるのだ?まあ、理由は分かっているが…………」
「だからこそですよ。ほら、向こうも話をする態勢になりましたよ」
「うわっ、いきなり落ち着いてる」
『『『『『『『『『『
落ち着くもーん
』』』』』』』』』』
それはそれ、これはこれとして切り替えが早いオタマ達は喧嘩を一瞬で辞めて物を語る。
『あのねあのねー』『僕たちは寄生先…………』『じゃなくてー』『養ってくれる人探しー!』『でも誰も居ないの』『暇なの』『だからどっかんとー』『一旗揚げようって!』『おっきい大会!』『僕たち参戦!』
『『『『『『『『『『
ママのついでに人気者ー!
』』』』』』』』』
前者も間違いなく考えてはいるだろうが、明らかに下心がある要求だった。
欲望を丸出しなのは別にいいのだが、それに自分達を巻き込まないで欲しいと『悪神ウェロボラウス』は半目で睨みつける。
オタマ達が言っているのは恐らく全国バトルカップ、彼女の悪だくみに対するノイズになる可能性が案件になると思うのだが彼から止める気は全くしない。
「おやおや、全国バトルカップに出場希望ですか」
『そうそう』『でも出るのにお金いるみたい』『戸籍は偽装したー』『でも無一文だった』『自販機の下で探るのも飽きた』『スリもめんどー』『はたらけなーい』『はたらきたくなーい』『だったら知ってる人にー』『お金貰った方が早いの』
「なるほど、話は分かりましたが本当に出られる自信はあるのですか?」
『小細工ー』『細工は得意ー』『えっへん!』
「ですが、全国バトルカップは人の大会です。小さい蛙では相手にされないのでは?」
もっともな疑問であった。10匹乗っても手のひらで収まりそうなサイズでテレパシーで会話してくる蛙を相手にしてくれるだろうか?
と、思った彼だが案外受け入れられるかもしれない。何故なら全国バトルカップは抽選や推薦で参加さえ出来たら身分は基本的に問わない。
明らかにマフィアが参戦していたり、絶対に黒のカードを持っていますよといった黒フードが毎年参戦している(毎回別人)ので正体が何であれ参加はできる。
ただし、少なくとも参加者の見た目は人間だ。
『隠し玉ー』『問題ないもーん』『お金だけないもーん』『虚しい』『どうして貧乏なの?』『ママがどこか行っちゃったもん』『やり方はあるもーん』
「君達がそういうのであれば構いませんが、他人を直接もしくは間接的に苦しませたりしてはいけませんよ?」
『『『『『『『『『『
はーい
』』』』』』』』』』
「何というか、その、やはり子供っぽいのに甘くないか?」
懐から取り出した財布から抽選費用である3万円を取り出す彼に『悪神ウェロボラウス』はめずらしく苦言を呈する。
「ああいう子は要求を素直に受けた方がいいんですよ。あの子達の名前を忘れてはいけません」
「ああ、『猛毒殺両生類』だったか。ふん、そういうところだぞ」
ぷい、と拗ねたように顔を背けた『悪神ウェロボラウス』に彼は苦笑した。
こんなことが続けば相手が調子に乗るのは間違いないが、明らかに暗殺特化の生物が自力で成し遂げようとするならかなりの被害が出そうと思われる。
事実、オタマ達は知り合いからお金を貰えなければ別の無関係な人間をやるつもりだった。
彼も過去に手を差し出さなかったことが切っ掛けで色々と危うい事件に関わった事がある。
昔は今とは違い普通の人間だった。カードゲーム関連の危機により皆に肯定的なスタイルとなったのだ。
「大切に使うんですよ」
『『『『『『『『『『
わーい!ありがとー!
』』』』』』』』』』
3枚の紙をピチッと背中にくっつけてはしゃぎ、そのままピョンピョンと塀から降りていく。
『おじさんありがとー』『またねー』『ぴーすぴーす』『決勝で会おうねー』『また10話後に来るからねー』『バイバーイ』
「それ、やめた方がいいですよ」
謎の発言を含めて去っていくオタマ達を眺め、そして物理的に見えなくなったところで彼は言う。
「ウェロ、あの子達は何の生物なのでしょうか」
「蛙だろう。全く、時間の無駄だったな」
せっかくの散歩デートなのに出鼻を挫かれた『悪神ウェロボラウス』はぷりぷりと怒っている。
「そうですか、蛙ですね。君が言うなら違いありません」
機嫌がかなり傾いている『悪神ウェロボラウス』にとってこれ以上の話は切り上げようと彼は言い切った。
そして二人で手を繋ぎ、町内を歩き回ったり公園に寄ったりするデートを始める。
だが、彼の脳裏にオタマ達のことに関してどうしても引っかかることがあった。
「振った手の指は5本。しかし本来なら4本。何のキメラなら指が5本になるのでしょうか」
その答えは、今のところ明かされない。
~topics~
黒のカードとは基本的に自然発生であり生物と生物が無理矢理くっつけられた怪物の姿をしていることが多い。
だが、ごく稀に人工的に悪いカードを作ろうとした連中が命や精霊の尊厳を無視して作成する事がある。
そしてそれらは必ず外見に出る。『悪神ウェロボラウス』は蛇と『蛇』のように本体は醜悪な姿である。
ではオタマ達は?前足の指が5本あるだけで他はどう見ても黄色い蛙である。




