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第2話 色が悪いんじゃない


「今日も行くのかー?昨日も行ったではないかー?」


「ええ、今日もどのような戦いがあるか、君に合う新しい戦略を探しに行くのですよ」


「やだー!たまにはずっと家にいてほしいー!」


「おやおや、ウェロは可愛いですね」


 しがみついて来て駄々をこねる少女(悪神)の頭を撫でて宥めておく。


 角が腹にめり込んでいるが、現地の人間の頑丈さをあまり理解していない悪神に言うのは酷だろう。下手したら泣いて暴走する可能性があったりする。


 撫でられただけで御満悦の『悪神ウェロボラウス』は「うえへへへ」と威厳のない笑顔で甘えきっている。


「確かにここ最近、君は外に出てなかったですね。とはいえいつもの姿も今の姿も目立ちますから…………」


 今はご機嫌でも家で留守番している間に不機嫌になられたら困るのだ。


 今はまだ予想される中で最も最悪なシナリオは起こってないが、保管していたカードを荒らされた事はあったのでより気をつけるようになったのだ。


「私のここに、どうですか?」


 彼は自分の胸ポケットを指した。


 『悪神ウェロボラウス』もカードに宿る多いなる力を宿す精霊の上位存在。カードになるということはとても容易いのである。


「そうしよう!《small》本当は隣で見てまわりたいが《/small》…………」


「どうぞ、こちらへ」


 彼は彼女に手を伸ばして甘く囁く。


 『悪神ウェロボラウス』はニッコリと輝くような笑顔で彼の手に自分の手を重ね、幼い体を禍々しいオーラを放つカードに変えていく。


 そして彼の手のひらに収まった『悪神ウェロボラウス』のカードを大事に胸ポケットにしまい、そのまま家を出た。


 スリーブは必要ないのかと言われたら彼女自身のオーラで傷から身を守れる上に、そもそもスリーブが抑制具みたいで嫌らしい。


 こういう界隈にも好き嫌いがあるのだなと思いつつ、意見を尊重してスリーブは付けない。


 胸を変にぶつけたりしないよう気をつけ、いつものカードショップに歩みを進める。


 道中でも『ライジングイリュージョン』をプレイする子供や大人がちらほら見られるが、コレ平日の昼過ぎの光景である。


 仕事とかどうしたと言いたいところだが、バトルの結果で商談の行方を左右させることも良くある。


 興味本位で立ち見する機会もある。昼のカードショップは人が少ないので野良試合を見るのもいい。


『有象無象の戦いを見て楽しいか?』


「ええ、勝負とは分からないもの。あっけない終わりだけでなく奇策、逆転を見られるのが楽しいんです」


 胸ポケットからテレパシーで会話してくるが、外に出る際はこのような形になるので片耳にイヤホンをして誰かと常に会話している風を装っている。


 別にカードに何か宿る事は珍しくない。そう言う光景を彼は何度も見て来ているし、なんなら『悪神ウェロボラウス』が実例なので特別驚くほどでもない。


 たまに、野良でもそういう精霊的存在を見かけるので野良試合も馬鹿にできないのだ。


「おやおや、緑と光の混合デッキですか。コスト確保と展開を主軸にしたいいデッキですね、相性は悪くないでしょう」


 緑はコストを大量に補充する色であり、光は1枚のカードから大量にトークンを呼び出したりデッキからモンスターを呼び出したりすることが特徴の色である。


 この組み方はよく見られる混合デッキであり、手札切れのリスクを背負うが状況が整えば一気に畳み掛けることができるデッキなのだ。


「対して…………ほう、火の単色デッキですか。この展開速度、畳み掛けること前提のデッキ構成でしょう」


 火は大火力もしくは速攻を決めることがメインとしている狙いが分かりやすい爽快なデッキが多い。


『となると、緑と光の方が不利か。ザマァないね』


「こらこら、速攻のいい点は短期決戦ですが、カウンターカードが増えたことでライフが減るのと同時に使用可能コストも増えるんです。特に光のカウンターは強いですからね」


「なんか外野の人が言ってるけどその通りです!コストは溜まりました、どうしますか!」


「ぬぅ、いや、使わせるだけ使わせる!行け、『烈火の爪マン』!」


『ずっと思ってたが名前ダサくないか?』


「初期から火の速攻を支えているカードですよ。皆から愛されてますね」


『むむむ、黒のカードだって負けて無いが?全員強い子だらけだが?』


「彼らも制約の関係上、使うタイミングもあります。それを踏まえて全員強いですよ」


『我も?我も?』


「もちろん、1番の強敵でした」


『えへ、うぇへへへ、げひひひひひひ』


 少女が出していい声ではない汚い声で照れている悪神を気に留めておきながら試合の行方を見守る。


 案の定、カウンターカードによって火のモンスターの攻撃は全て止められ、返しのターンで大型モンスターを2体並べて火のモンスターは一掃されて決着がついた。


「素晴らしい。やはり新弾は環境を変える力を持ちますね。今後も混合デッキが増えてくるでしょう」


「よし、商談成立ということで!」


「ああ、私も精進して次の商談を阻止できるよう頑張るよ」


『我の勘違いでなければ、あやつら手段と目的を違えていないか?』


「互いの利益があってこその商談の筈ですが、彼らが納得しているので部外者は口を出さないようにしておきましょう」


 バトルが優先すぎて内容を全く確認していない事もしばしばあるこの世界。彼も土地や株の取引で内容を確認せずに不利な契約をバトルで結ばれそうになったことが多々あったので色々諭しながらやったと昔を思い出す。


「では、観戦はこれくらいにしてカードショップに行きましょう」


『我の眷属は居るか?』


「一般の市場に黒のカードは出回らないので」


 そもそも売ると言うよりも何処かで拾われた黒のカードをバトルで奪うというのが一般的だ。


 それに表沙汰になった殆どの黒のカードは政府に厳重に管理されているので入手手段はかなり少ない。


「黒のカードも良いですが、君には色とりどりで鮮やかなカードが似合いますよ」


『本当?君が選んでくれるなら楽しみだなぁ』


「当てられなかった最新のカードも一緒に確認しましょう」


 通話と偽装して会話する彼は、どこまでも人の良さそうな青年にしか見えなかった。


 誰も胸ポケットにこの世から憎まれる『悪神ウェロボラウス』を共にしていると知らずに。


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