第18話 やっぱり怪しいって
それは、いつもの光景の筈だった。
胡散臭くもどこかカリスマがありそうな男が歩いている。
だが今日は違った。
「んーふふーん、んふーん」
褐色肌の幼女が彼と手を繋いでいたのだ。
たまにすれ違う人間は見た事がない幼女が通り過ぎると振り向いてしまう。
それほど幼女が可愛らしく、そして美しいからだ。
ただし、中身は『悪神ウェロボラウス』という愛に脳を焼かれた邪悪な存在なのだが。
彼は小さな幼子の歩幅に合わせながらゆっくりと歩く。
幼女の姿をした『悪神ウェロボラウス』は当然それに気づいており、愛されていることを実感する。
「どうですか?自分の足で歩くのはいいものでしょう」
「うむうむ、手を繋いで歩くのはいいな!」
その空気を感じながら歩く姿はまさに親子…………いや、よく見たら髪の色も肌の色も違うため誘拐かもしれない。
町民も遠巻きに彼と喜びながら歩く幼女の姿を見るしかない。
というか、発言が引きこもりか監禁していたような相手に対する発言すぎる。
通報するかどうか悩んでるあたりで彼らの姿が見えなくなるのだ。
楽しい散歩をしていると、気づいたらいつものカードショップにたどり着いた。
楽しい事があれば時間は早く進むもの。何故時間は有限なのかと思う『悪神ウェロボラウス』はともかく、そのまま手を繋いだまま入店する。
彼らの目的はウインドウショッピング、ショーケースに飾られているカードやストレージを覗いて新たに目星をつけて購入を検討するのである。
彼は不労所得を持つとはいえ無限に金があるわけではない。『悪神ウェロボラウス』にも人間的な金銭感覚を改めて覚えさせる事で人間社会に紛れ込みやすくしようという魂胆があっての行動である。
「誰だアレ?」
「知らないよ、初めて見る顔だ」
「可愛い…………可愛すぎないか?」
「ここら辺にあんな子いたっけなぁ?」
「めっちゃカード積み上げてる…………」
ストレージからするするとカードを出していく様は富豪の娘のよう。
いや、富豪ならストレージではなくショーケースの中身を丸ごと購入しているだろう。
彼だって無限に金があるわけではない。やりくりしなければあっという間になくなってしまうのだから。
それでも少なくない数のカードを積み重ね、そして購入する姿は小金持ち。
明らかに大人にあやかって楽をする子供であった。
「どうですか?いい感じに仕上がったでしょうか」
「うむ!そこそこの仕上がりだぞ!」
「それは良かった。では、一度回してみましょうか」
しれっとスリーブも購入した彼と『悪神ウェロボラウス』は自身が選んだカードをその中に入れてシャッフルし始める。
謎の組み合わせが始めようとするバトルは一体何が起きるのか。その様子を一般人は遠巻きに眺めることしかできなかった。
「では、ここからです。『踊りの従者 クロコ』を召喚。他モンスターから防御されず攻撃を受けませんので殴り続けさせてもらいましょう」
「なんの!そやつはパワーが弱い、焼き払えばお陀仏よ!『線香花火爆弾』!」
「おやおや、黒子に目を向けるより主役を見ましょう。『ワキヤーク』で攻撃です」
「どうみてもモブだろう」
冷静で的確な指摘であった。何故なら『ワキヤーク』は顔のない地味な人形のモンスターなのだから。
ぽこぽこと低レアリティで殴り合う様子は微笑ましいのだが、いい年をした大人が子供をいじめてるように見える、が子供の方は楽しそうだ。
それでもかなりコテンパンにやられている。泣かないのがおかしいくらいに。
低レア同士の戦いでもこうまで差が出るのかと周囲は感心した。
純粋に彼のプレイングが上手すぎて、下手なプレイヤーがレアカードを入れたところで太刀打ちできないような気がしてならない。
でも幼女の方も楽しそうに、そしてそこそこうまく対応している。彼の猛攻を受けたらすぐにライフが尽きそうな所をほぼ的確に防ぎ耐え忍んでいる。
握るデッキが幼女専用の物であれば輝く宝石になるだろうと誰もが思った。
「あ、おっさんなにしてるんだよ!」
「おや、ユウキ君ではありませんか。こんにちは」
「おう!ってその子は誰だ?」
「チッ、余計なのが来たか」
「えっと…………え?あ、うん」
舌打ち、睨みつけ、悪態と少なくとも初対面に向けてはいけない三点セットを叩きだす幼女であるが、ユウキ君はその態度を一瞬で忘れた。
それどころか、顔が少し赤くなっている気がする。
そう、この幼女の中身は『悪神ウェロボラウス』である以上は性格はかなり悪いが見た目だけはとてもいい。
黙ってさえいれば全てが美しく、可愛らしく済んでしまうのだ。
「この子は事情があって預かっている子です。色々あって引きこもりでしたが、ようやく外に出られるようになったんですよ」
「嫁だぞ」
「まだマシな方です」
「これで…………?」
何を拗らせておじさんにガチになってしまったのか、前はどれだけ他人に悪態をついていたか彼にべったり過ぎて大変なことになっていたのかは外野からは分からない。
ただ一つ言えることは彼にロリコンのレッテルが張られた事だろう。
「えーーーーーっと、名前は?」
「お前に名乗る名前などない」
「気軽にウェロと呼んであげてください」
「気軽に我の名を呼ばせるでないぞ!?」
「よ、よろしくねウェロちゃん!」
「殺すぞ貴様」
「こらこら、人に悪態をつくのはやめましょう。これから皆にお世話になるんですから」
「ふん!我は我とお前さえいればいいのだ!」
若干危険な思想ではあるが、実力行使に出たら実現できるかもしれないというのは『悪神ウェロボラウス』と彼しか知らない。
そんなことを知らない一般市民らは『ああ、かなり高飛車でやんちゃなんだ』という認識だった。
こうして、初めてのカードショップデビューは若干マイナス気味な印象で幕を閉じることになる。
「あ、もしかして、手とかについてた傷って」
「マシになった方です」
「あっ(察し)」
もし付き合うことになったら噛みつきに注意しないと、という無駄な考えがユウキの脳に残り続けることになり、そして後日に脳がめちゃくちゃに破壊される未来が待ち受けるなど知る由もなかった。




