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第16話 いつか隣に


「むむむむ…………よし、どうだ!」


 鏡の前に褐色幼女が立っていた。


 彼女の名は『悪神ウェロボラウス』、れっきとしたやべー奴である。


 とある事件により降臨し、ただ悪事をばら撒くための装置として呼び出されたのはいいが、まさか出現してすぐ彼と出会い1戦目で敗北するとは誰もが思いもしなかっただろう。


 いや、正確にはあの場にいた彼を除いた人間が『悪神ウェロボラウス』が勝利すると思い込んでいた。


 対戦相手が管理局のヒラ隊員やそこらのプレイヤー、隊長格でも軒並み倒せると思い込んでいた。


 その結果が今である。


「歯は…………いいだろう。ギザ歯だって需要があるもん。角を隠せばただの人間、可愛くて強くてかっこいい美少女だ!」


 鏡の前でものすごい自画自賛しているが外見は最高(APP18)なので間違っていないのがタチが悪い。


 見た目は良くても中身はかなり悪い。彼の矯正があって嫌なものに対して中指を立てる程度で済むくらいなのだから。


 とっとっ、とステップを踏みながら外出用に彼が購入していたワンピースを引っ張り出してみて着てみる。


「うむうむ、我ながら似合うものだ」


 鏡の前でウンウンと頷き、いつか舞踏会か何かで踊るための練習をする。


 『悪神ウェロボラウス』の本来の姿は腐った蛇の集合体である。その中核になる部分は特になかったが色々あって角付き褐色幼女がその核になった。


 これも全て愛のため。彼に愛されるには幼くか弱そうな姿がいいと考えた結果だ。


 なお、態度が普通に強者なので彼からは弱いと思われていない。むしろやんちゃしないよう保護欲が出るくらいだ。


 留守番という家にポツンと残される行為は耐え難いが、『普通の人として振る舞える』という条件を達成できたら外で一緒に歩くことができる。


 彼が課した条件は、『悪神ウェロボラウス』を胸ポケットから隣に飛び出るための訓練。簡単なようで難しい。


 何故ならこの悪神、滅茶苦茶嫉妬深いのだ。


 悪をばら撒く悪を司る神として生を受けた彼女。もちろん誕生経緯から愛など無縁の存在で利用されるようで利用し尽くし、悪辣な場面で愉悦に浸るような極悪な存在だった。


 それが『愛』で脳を焼かれ切って彼に懐く姿は見る影もない、と思うだろう。


 彼も生物的判定では雄であり、おそらく性的嗜好もノーマルである雌が対象となる、と思ってる。


 角付き褐色幼女の『悪神ウェロボラウス』はどこまでいっても人外、人間の雌に取られかねないのだ。


「ぐぎぎぐがぐぎごごげげげ…………あっ」


 それを想像するだけで体が捩れて乙女が出してはいけない声が漏れる。


 ついでに隠せていた筈の角もニョキっと生える。


 これが問題なのだ。人間のふりをしなければならないのに、少し(・・)嫉妬しただけでこれである。


 誰だ嫉妬龍と言った奴。そもそも龍じゃないし竜でもないし、体と性根が蛇だぞ。


「むむ、人間は何故身体的特徴がないのだ。角の10本や20本あるくらい別に構わないだろうに」


 相当理不尽なことを言っているが、悪の神なので許してほしい。彼以外の他人のことなど本当なら知ったことではないのだから。


 彼のために、自分が明らかな人外であり黒のカードという世間一般では悪とされる存在なのが悪いのだ。


 その認識をいつか根底から覆そうとする彼の為に神様頑張っちゃう。


 でもそれはそれとして妄想で他の女がくっつくだけでも嫌なので訓練が上手くいかないのだが。


 何をすればここまで嫉妬しないようにできる?どうすれば角を出さないようにする?


 角を折るという手段は最初にやった。すぐに再生してしまうお陰で64本もの角が床に転がっているのだが彼女は特に気にしていない。


 この折れた角は全て特級呪物なので彼が後処理に困るだけだ。


「具体的に考えた方が後からのダメージが少ないか?うーん、分からん!」


 床に寝そべりゴロゴロと転がる『悪神ウェロボラウス』は、見た目だけなら年相応なのに大人な恋愛をしようとして困っている。


 万年ボッチで力だけ求められたせいで人との接し方がまだ分かってないのが原因である。


「でも我頑張る!手を繋いでお散歩したい!抱っこされて街を練り歩きたい!」


 ひたすらに彼を自分の物と主張したいが為だけに『悪神ウェロボラウス』は必死に頑張る。


 今日、彼が出かけた理由はあの時の柔道着少女の稽古と分かっているからこそ苛立ちとやる気がもりもり湧いて出てくるから頑張れる。


 神様だって努力は必要、バトルも同じ。何事も万事完璧で居られるわけはないのだから。


 そして女と犬と猫の臭いをつけて彼が帰ってくるまで『悪神ウェロボラウス』は人間のふりをできるように訓練していた。


 帰ってきた瞬間、キリモミ回転しながら彼に抱きついてマーキングを上塗りしたのはいうまでもない。



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