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第15話 石を混ぜる


「『荒野のガンマン』の効果、手札を捨てて相手に一打点与えます。これで貴女のライフは0です」


 ある時は効果ダメージで倒されて。


「ターンエンド。おや、貴女の山札がなくなってしまいましたね」


 ある時は山札からカードを引けず。


「これで私の墓地にコストとカード名が違うモンスターが10体揃いました。『バラバラソウルのエネルギー砲』を詠唱し、この効果で私は特殊勝利します」


 ある時は一度も戦闘されずに敗北した。


 鋼マキコは彼女が通う学園の中でも常に上位を争うほどの実力者である。


 面と向かって相手のモンスターを殴り倒してライフを削る王道スタイルにおいては同年代の追随を許さない。


 管理局三番隊主席の叔父が居るとはいえ、彼女自身のバトルに対する自信は揺らぐことは全くなかった。


 だが、今日は違う。


 ありとあらゆる手段で初動を潰され、『金剛拳法』モンスターを的確に除去されて、大型を出すころには大型がカモになる状況になる。


 既に10戦したのだが、一向に勝利のビジョンが見えない。


 何をしたらいいのか分からない、相手が何をしてくるのか分からない!


 次はハンデス?効果破壊?バーン?墓地利用?モンスター奪取?


 分からない、分からない、分からない!


 相手の手札が分からない!


「今日はこれくらいにしておきましょうか」


 混乱して戦うことが難しくなってきているマキコを見て彼は11戦目を開始しようとしていた手札を伏せて言い放った。


 それも完膚なきまでに叩きのめされて何もできなかった彼女は無理矢理にでも必死に考えていた思考を止められなかった。


 全戦全敗、叔父とのバトルでも基本的には負け続きだが僅かな突破口を見出して勝つこともあった。


 今回はその突破口すら見えない。完全に闇の中に立たされて、抵抗のやり方も分からず絶望するのはこのような感覚なのか。


「マキコさん、大丈夫ですか?」


「あ、え、あぅ、多分…………?」


 初対面の時の元気はどこへいったのやら。完全に意気消沈してぺしょぺしょになっている。


 まるで散歩ではしゃいでいたのに突然の雨で濡れた犬の様なしっとり具合だ。


「これが純正デッキでカード入れ替えをしない弊害です。このように対策されてしまえば相手の事故以外で勝てる手段が見つからなくなってしまうのですよ」


「れ、例外でしょう?だって、師匠のデッキって…………」


「同じカードが一枚もない、ですか?」


 皆薄々気づいていただろう、彼のデッキ構成が異様であることに。


 同名カードが一枚もない、ハイランダーと呼ばれるデッキタイプ。


 一部例外があるとはいえ、同名カードは3枚まで積むことができるがあえてしない。


 僅かなミスで全てが台無しになる狂気に満ちたデッキと言わざるを得ない。


「何をどうしたら、そのような、妙に手数の多いデッキになるんですか?」


「研究を重ねたからと言っておきましょう。どのカードから始まり、どこを着地点として考え、それが破綻しそうであれば次のプランを考えて動いているだけです」


「だとしても必要なカードが多くなるはずです!それを全部把握するだけでも」


「把握していますよ?少なくともネット上に情報が出てるカード全てを」


 何事もなく言うが、この世界の人間は割と情弱な部分があり、新弾でも知らないカードがあったりして驚いたりすることが多々ある。


 彼はそのことを疑問に思うが、そもそも公式がテーマっぽいものだけを発表して詳しい情報は放置しているので無理はないと思う部分は合ったりする。


 ホビーアニメだから許されているようなものだが、普通に不備だろう、これ。


「まず第一に、マキコさんの構築は間違ったものではありません。純正デッキを組むにあたって明確な着地点とやりたいことがはっきりと分かるものです」


「……………………」


「ですが、その分だけ打点を持つモンスターがいません。全くいないという事は相手がモンスターを出すまで動けない事と同意義でもあります。それはお分かりですね?」


「…………はい」


「この場合、相手がモンスターを出さざるを得ない盤面を作ることが役目です。毎回攻撃するような、それこそ『烈火の爪マン』や、属性で一致するなら『土くれの小人』を入れるといいでしょう」


「…………え、それだけでいいんですか?」


「ええ、それだけです。どうしましたか?もしかして高額なレアカードを積めばいいと言われると思いましたか?」


 低コストのモンスターを入れたらいいと助言したら目を丸くされた。


 彼としては真っ当にバトルに勝利するためのカードを言ったつもりなのだが、転生者というやや次元が違う考えを持っているため世間とズレることがしばしばあるのだ。


 そう、低コストモンスターは特定のデッキでのみ注目することはあれど基本的に壁と認識されやすい。


 それによりレアリティが高いエースを入れる事こそ正義!という風潮も廃れていない。


「マキコさん、いいですか?王道は当然のことながら、純正デッキにとって邪道や外道の構築はさけられないものです」


「単純に強くなる、というのは出来ないものなのですね」


「何事も地道にです。小さなことを見直して、こつこつ足場を固めることも大事ですよ」


 焦燥も少し和らいだマキコに対して彼は微笑みながら言う。


 勝利が見えない強者だからこその余裕か、それとも似たような道を歩んだことがあるからこそのアドバイスか。


「ストレージコーナーにいくらか使えそうなカードがあるはずです。少し探してみましょうか」


「あ、は、はい」


 彼は椅子から立ち上がり、マキコのデッキに合うカードを探すためにストレージへと向かう。


 もちろん彼にとってのメリットは特にない。しかし世間からしたら強いプレイヤーが一人でも増え、黒のカードや悪事に対するカウンターとなる人物が増えるのはいい事だ。


 子供が戦う、というお約束も心苦しい所がある彼は一人の少女を戯れ感覚で鍛えてみる。


 自信をへし折られて心に小さな火種が燻る鋼マキコの心も鍛えられると信じて。


 そして帰りに猫カフェか犬カフェに寄って匂いを上書きする姿を目撃されたり、されなかったりした。



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