第13話 武者のような修行
「たのもー!」
カードショップに快活な声が響き渡る。
声がした入り口を見れば柔道着を着た少女が仁王立ちしていた。
「噂の人物がここに入り浸っていると聞いて参った!噂の人物はどこか!」
紅色のポニーテールを揺らしながらズンズンと小柄な体躯に似合わぬ足音を鳴らしながら店内を見渡す。
赤髪、青髪、金髪、紫髪、ピンク髪と色とりどりの髪色から彼女は何か考えていたようだが一人の男に目をつけると近寄っていく。
「お前か、噂の人物は!」
「え?違います」
「あれ?」
『なんだあいつ、面白い奴だな』
「こらこら、笑ってはいけませんよ」
『悪神ウェロボラウス』を胸ポケットに仕舞う彼とは全く違う人物に話しかけていた。
見た目は正当な柔道少女なのだがポンコツ味が隠せていない。何か事情があってこのカードショップに来たのは分かるが態度が悪すぎる。
それに噂の人物というのが誰かも分かっていない節も見られる。
あのような態度で手当たり次第に声をかけていくのを彼は黙って見ていた。
あんな舐めた態度とポンコツな態度を見せつけ続けていたら喧嘩を売っているのと同じだ。いずれ誰かとバトルするだろうと思っていた。
「おや、ユウキ君とバトルになりましたか。これは楽しみですね」
『いつもの小僧と生意気な雌の戦いか。はー、くだらん争いだな』
ため息をつきながら、しかし本能では催し物は大好きな『悪神ウェロボラウス』は嗤っている。
ユウキにも舐めたような態度で接したためユウキが怒り、少女とのバトルに発展した。
少女の名は鋼マキコというらしい。ユウキとのバトルの前に堂々とそう名乗りを上げてバトルを始めたのを、彼は眺め続ける。
「おや、彼女のデッキは『金剛拳法』ですか。モンスターを殴り倒す際に相手にも打点を与える戦闘マシーンのようなテーマですね」
「おじさん、知ってるの?」
「2つ前に発売された弾のカードです。殴り合いをするだけなら上位に入りますよ」
空手家のようなモンスターを展開しつつ、ユウキの盤面にいるモンスターを殴りつつ効果でライフを削っていく王道の殴り合い専門のようなデッキである。
戦闘してから効果ダメージでライフを削るというコンセプトのもと、か弱いプレイヤーを直接攻撃できなかったり自身の打点が0で固定されているテーマなので、相手の場にモンスターが居なかったら棒立ちせざるを得ないのだ。
そういった強力なデメリットがある訳だが、殴り合いが王道なこの世界では大したデメリットにはならない。
「いっけえ!『ボンバードラゴン』、デッキ爆発だ!」
「何と!?一気にモンスターが5体!それも速攻を付与するモンスターまで!」
「いくぜ!殴り合いなら俺も負けないぜ!」
「受けて立つ!かかってこい!」
モンスター同士の熱い殴り合い、お互いの効果によってライフが削れていく。
「この勝負、一見マキコさんがライフの数で有利に見えますがユウキ君の方がモンスターのパワーが高い。『金剛拳法』はバトルに勝たなければ効果を使えないのでユウキ君に風向きが向いてきましたね」
彼はバトルの近くで解説する。戦闘で勝ちさえできればいい『金剛拳法』はパワー負けしたら泥沼に沈むように敗北への道をたどっていく。
本来なら前半でライフを多く削り取っていきたかったが、『ボンバードラゴン』による高パワーモンスターを展開されてしまい押され始めたことで戦況は大きく傾いた。
『金剛拳法』モンスターが戦闘によって全滅したため、ユウキが残りのモンスターでマキコのライフを削り飛ばす。
「くっ!まだ、私は…………ドロー!」
何とか粘ろうと気合を入れたドローを見せたが、勝利の女神はユウキに微笑むこととなる。
「ターン…………エンド」
「俺のターン!ドロー!このまま皆で総攻撃だ!」
相手の攻撃を防げるカードがなく、ユウキの一斉攻撃によりマキコのライフは全て無くなり勝敗が決まった。
「まさかこんな所に猛者がいたとは…………未熟!」
「何かが少しでも違えば俺が負けてたかもしれなかった。いいバトルだったぜ!」
お互い気持ちよくバトル出来たことに満足したのかガッチリと握手をして和解した。
バトルを終えたら仲良くなる、この世界ではよくある事だ。
ただ、黒のカードだったり悪の組織がらみだとすぐに和解とならず蟠りが出来ることも多々ある。
バトルで全てを解決できる訳がないというのが世知辛い所だ。
「で、誰だよ噂の人物って?」
「ここら辺に出現する『ライジングイリュージョン』の知識が豊富な人です!この前に商店街の福引配信に出てた人です」
全員の視線が彼に向けられる。
しれっと最前列でバトルの解説をしていたのも相まって、いや、いつもこんな調子なので周囲の人間は特に気にしていなかったのだが、該当する人物は1人しかいなかった。
「おや、私に用事があるのですか?」
『は?消すか?潰すか?』
「はい!叔父から見聞を広めろと言われここを勧められました!バトルもそうですが、カードの知識と戦略について相当深く理解していると叔父も太鼓判を押していました!」
「なるほど、その叔父が誰なのかはあえて聞きませんが…………」
彼は考える。別にバトルのことを教えるのはいい。
問題なのは胸ポケットで気配なく怒りと不安が渦巻く『悪神ウェロボラウス』だ。
ただでさえ彼の異性関連に敏感なのだ。彼の目の届かない、もしくは知らぬ間に呪い殺すなど息をするように容易く行える。
だが、熱血という意味での熱い眼差しで彼を見るマキコの強くなりたいという思いを無碍に出来ない。
そして今日は早めに帰って『悪神ウェロボラウス』と遊ぶ予定も入っている。
「分かりました」
「ありがとうございます!それでは早速…………」
「ただし、ユウキ君とショウマ君、カイト君を攻略してからです」
「手合わせ…………えっ!?」
1発で教えを乞う事ができると思っていたマキコと突然巻き込まれた3人は驚いた。
「ユウキ君は先ほど戦った通りです。ショウマ君はそれに並ぶ強者で、カイト君は前回の店舗大会で優勝しています。越える壁として十分でしょう?」
考えた結果、先延ばしにすることにした。
「おっさん、勝手に決めんなよ!」
「僕たちだって都合があるんですよ?」
「まあまあ、彼女も間違いなく強いことはわかってるでしょう。君達の修行にもなりますよ」
悪びれもせずにこやかに彼は言う。
実際、強者と強者との戦いは互いを成長させる。あながち間違いではないが、マキコの目的とはややズレているのは否めない。
「申し訳ありません。私にも予定があるのです。今日は思う存分3人とバトルしてください」
「あ、ちょっと、待ってください!」
マキコが止めにはいるが彼は足早に去る。
もう相当胸の同居人の機嫌がすこぶる悪くなっているのが唸りでわかる。
もう幼女とか人とか、文字ですら表すことができないレベルの唸り声が彼の頭の中で響いてるのだから相当キてる。
また帰ったら甘噛みコースなのだろうなと彼は思い、新たな登場人物の対応をどうするか考える日々が続くことになる。
今日のカードはコレ!『ボンバードラゴン』!
高コストだけど高パワーで打点も高い優秀なヤツだ!
さらに『大爆発』という固有効果を持っていて、場に出たら山札の上を一枚めくって『ボンバードラゴン』よりコストが低かったらタダで出せる!
しかも他モンスターが出た際に山札の上を一枚めくって、そのモンスターのコスト以下のモンスターが出たらまたタダで出せるぞ!
今回のバトルは5枚めくれたけど、ユウキ君は最大7枚めくったことがあるぞ!まさに大爆発だ!
運も味方につけて、みんなもバトル!




