神に捧げられし少女
―死ぬことなど恐れない
暗くじめじめとした場所。
石造りの牢の中は、ひんやりと冷たい。
手の届かない所にある鉄格子がはめられた小さな窓からは、月明かりが差し込んでいた。
細い足首に重い鎖を付けられた少女は、膝を抱えたままピクリとも動かない。
「なぁ、明日処刑される気分はどうだ?」
重い鉄格子越しに牢番の男が静かに尋ねる。
「死ぬのは恐いだろう?」
「……死ぬことなど、恐れない」
男に対して、というよりはまるで神への誓いのように、少女ははっきりと答えた。
「処刑されるのにか?」
男は少女の言葉に驚いて暗闇が支配する牢の中に目を凝らした。
冷たい牢の中で一人ただ膝を抱える少女は、男の視線に気付き顔を上げた。
「死は恐れるものではない。受け入れるものだから」
鈴の鳴るように静かな、しかしよく通る声が男の耳を打つ。
「私の魂は神のもの。それをお返しする時がきただけ。だから死など恐れない」
迷いのない瞳。
男はその少女の小さな背に大きな翼を見たような気がした。
【End】
ここまで読んでいただきありがとうございます(*^^*)
今回の作品はモデルがあるのですが、皆様お気づきでしょうか?
皆さん一度は聞いたことのあるであろう「ジャンヌ・ダルク」です。
「処刑の前夜」というテーマで作者なりにイメージして書いてみました。
実際の夜は彼女にとって屈辱的なものだったのだと思いますが、私の中では気高く、最後まで神を信じた人というイメージでした。
まぁ信者ではないんですが。
少し暗い話でしたがいかがでしたでしょうか。
また次回、お会いできますよう。