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きれいな海がみえる


雲ひとつない青い空。太陽は、ふたつの影を映す。足元には、石の絨毯が広がっている。形は大小さまざまである。



『うわぁパパー!みてみてー!おおきなうみだぁ』


「これは、海じゃなくて湖というんだよ」


『へぇー!パパはうみ、みたことあるの?』


「あるよ。子供の頃住んでた場所には海があった」


『そーなんだー!あ!とりだ!』


「あ!エブル!走ると危ないよ」


アスランの声を聞かず、5歳のエブルは鳥目がけ走り出した。


アスランたちは2週間前、この街に引っ越して来た。

疲れ切った流木に腰掛ける。青い宝石のような湖。この湖は、海とつながっている。




アスランのいた国は、20年前の戦争により、国土のほとんどを奪われ、滅んでしまった。

抜け出した後、アスランは隣の国へ移動し、船に乗り、少し離れた国で暮らした。持っていたお金は船代に消えてしまい、しばらく道で寝る生活が続いた。

雨の降るある日、段ボールにくるまっていたアスランは、ひとりの男に拾われた。その男は街の工場の社長で、アスランを自分の工場で働かせた。

そこで出会ったエスラと、アスランは恋に落ちた。その後結婚し、ふたりの間には、エブルという女の子が誕生した。



国を抜け出す前、アスランは村に寄り、ジェンギスにこの国の全てを話した。記憶を消す薬のことも。

しかしジェンギスは、自分は行かないと言った。そして、自分の体が末期の癌に蝕まれていることを告白した。

アスランは、行けるところまで一緒に行こうと提案したが、ジェンギスは首を横に振った。



サムとは、会えていない。きっと自分と同じように、どこかの国で幸せに暮らしているだろうと、アスランは思っている。



冷たい風が吹き、目を閉じる。

風は、誰かの少し寂しい声に聞こえた。



『あした、おじぃちゃんくるのたのしみだぁー!』



「本当だね」



『パパのおじぃちゃんは?』



「パパのおじいちゃんは、パパが15歳の頃に亡くなったんだ。病でね」



『えー、さびしいねぇ』



「そんなことないよ。友達がいたから」



『ともだち、いまはどこにいるの?』



エブルの問いかけに、アスランは優しく微笑んだ。



「きっと、空の向こうにいる」



そう言って、両手を前に出し四角をつくり、片目を閉じる。



アスランは、昔、ジェンギスに言われた言葉を思い出した。


"人は目に見えない力を信じ、願う。大切な人が今日も一日何事もなく幸せに暮らせるようにと"


この意味が、今なら少しだけ分かる。


人は、美しい景色のその向こうに、大切な人を見ているのかもしれない。


ジーベル、君が、この空の向こうで幸せに暮らしていることを、心から願っている。



『パパ〜なにがみえるの?』



「きれいな海がみえるよ」






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― 新着の感想 ―
[一言] 序盤と中盤と結末の面白さがそれぞれ違っていて、こう繋がるのかという驚き。強引といえなくもないけれど指向の揃った制御が心地良い力技でした。きれいな海とは。沈んだ暗い秘密をも飲み込んでしまう深さ…
2024/09/13 01:00 輝くものを追って氷ばかり掴んでも
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