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虚無戦線  作者: MIROKU
ラグナロク
90/99

男の世界!の巻!


   **


 懺悔の時間だ。


「翔、懺悔しろ」


 凱は弟分に懺悔を促した。応援団団長たる凱は長ラン姿だ。


 そして、(ナザレ)に扮した知多星ゴヨウが、十字架に磔になっている。


 そのゴヨウを前に、文化祭実行委員会会長の翔はひざまずき、手を組み合わせて祈る。


 寺の息子である翔は微妙な気分だろう。また凱は神社の息子である。


「せ、先日は彼女(ギテルベウス)を『さくら』と間違って呼んじまった……」


 磔にされたゴヨウの表情が歪んだ。嫉妬しているのだ。


 ちなみに、さくらとは文化祭実行委員会副会長だ。


「だ、だってよ、さくらは大学で一緒にいる時間長えし」


「翔、懺悔になっていないぞ」


「そりゃあ、さくらは美人で、大学でもモテモテで、この前も終電逃した時に泊めてくれて……」


 翔の告白は続く。ラッキースケベ連発のラブコメ展開な毎日を過ごしているらしい。


 ただ、翔を弁護するならば、彼はさくらには手を出していない。


 ナンパなチャラ男の翔だが、彼女のギテルベウス一筋だ。


「うーむ、一人暮らしの女子大生に泊めてもらうというのはな……」


 凱も考えこんだ。絶滅危惧種の熱血硬派男子の凱。


 恋愛に興味のなかった凱も、ゾフィーという彼女が出来て変わった。


「いや、だけどよ兄貴。さくらの部屋に泊まった時は、あいつもこゆきもいたんだぜ?」


 また新たな名前が出てきた。


 こゆき、彼女は翔とさくらの後輩に当たる。


「風呂借りたり服洗ってもらったり、朝まで酒飲んだりしたけどよー…… それに、あいつらだって仲良いし……」


 翔によれば――


 社会人のギテルベウスは二歳年上。


 さくらは同い年、こゆきは一歳年下。


 三人娘に囲まれてラッキースケベなラブコメ展開の毎日を生きている翔は、そんな生活に辟易しているという。


「あいつ、狂気的な彼女だからな」


「懺悔ではなく、告白だな……」


 凱はため息をついた。


「……死刑!」


 主に扮して十字架に磔にされていたゴヨウは、拘束を引き剥がして、翔に飛びかかった。


 嫉妬のあまり血涙を流しながら、翔に向かってフライングボディプレスをかますゴヨウ。


 モテない男の気もちがわかってたまるか!――


 ゴヨウの血涙が雄弁に語っていた。


 野郎たちの気もちを一身に背負ったゴヨウ、彼のフライングボディプレスは外道(リア充)の翔を押しつぶした。


「いってえなー、何すんだゴヨウ!」


「だ、だ、だ、だまれ!」


 翔とゴヨウの関係は深い。


 翔は「百八の魔星」の一人、天魔星「入雲竜」ソンショウでもある。


 ゴヨウは百八の魔星の一人、天機星「知多星」ゴヨウだ。


 ゴヨウから見れば、ソンショウは組織の相談役ともいうべき目上の存在だ。


 そのゴヨウが、目上の翔に嫉妬のフライングボディプレスとは――


「死刑だー! リア充ばくはつしろおー!」


「なんだテメェー、やる気かコラァー!」


「お前ら落ちつけ……」


 ゴヨウと翔をなだめる凱。


 彼は百八の魔星の守護神「托塔天王」チョウガイでもある。


 いわば代表取締役だ。


「いいよなあー、巨乳で美人で年上の彼女でー!」


 血涙を流しながら暴言を吐くゴヨウは、気の毒すぎて直視できない。


「硬派な兄貴も女できて変わったなあー!」


 翔は思いっきり皮肉を言った。


 彼とギテルベウスとは違い、凱とゾフィーはたまにしか会えない。


 が、それゆえに「不滅の愛」でつながっていた。


 凱もゾフィーも、互いに相手のためなら死を覚悟できるのだ。


 だが、あまりに強い思いゆえか、運命は二人の間に距離を設ける。


 まるで彦星と織姫のように……


「なんだと? 貴様ら、わしのことならともかく、ゾフィーさんを侮辱する気か?」


「侮辱なんかしてませんよ、美人だって言ったじゃないですかー!」


「なんだよ兄貴! 俺だってな、たまには怒んだよ!」


 凱、ゴヨウ、翔の三人の間に殺気が満ちた。


 いや、これは彼らのガス抜きかもしれない。


 四千年の間、共に戦ってきた同志が初めて衝突したのだ。


「覇王飛龍剣!」


 凱が振るった黄金の剣は、超音速の衝撃波を生み出した。


「出でよ異界の王よ、古の龍神よ!」


 翔は異世界から巨龍(バハムート)を召喚した。


「ストオオォォーム・サンシャインンンンン!!」


 ゴヨウは最強の必殺技、ストーム・サンシャインを放った。


 三つの超打撃がぶつかり合い、時空が歪み、ねじれ、振動した。


 それは意図せず混沌(カオス)の波動を怯ませた。


 知多星ゴヨウ、托塔天王チョウガイ、入雲龍ソンショウ。


 百八の魔星たる彼らならば、あるいは人類の未来を守れるかもしれない。

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