男の世界!の巻!
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懺悔の時間だ。
「翔、懺悔しろ」
凱は弟分に懺悔を促した。応援団団長たる凱は長ラン姿だ。
そして、主に扮した知多星ゴヨウが、十字架に磔になっている。
そのゴヨウを前に、文化祭実行委員会会長の翔はひざまずき、手を組み合わせて祈る。
寺の息子である翔は微妙な気分だろう。また凱は神社の息子である。
「せ、先日は彼女を『さくら』と間違って呼んじまった……」
磔にされたゴヨウの表情が歪んだ。嫉妬しているのだ。
ちなみに、さくらとは文化祭実行委員会副会長だ。
「だ、だってよ、さくらは大学で一緒にいる時間長えし」
「翔、懺悔になっていないぞ」
「そりゃあ、さくらは美人で、大学でもモテモテで、この前も終電逃した時に泊めてくれて……」
翔の告白は続く。ラッキースケベ連発のラブコメ展開な毎日を過ごしているらしい。
ただ、翔を弁護するならば、彼はさくらには手を出していない。
ナンパなチャラ男の翔だが、彼女のギテルベウス一筋だ。
「うーむ、一人暮らしの女子大生に泊めてもらうというのはな……」
凱も考えこんだ。絶滅危惧種の熱血硬派男子の凱。
恋愛に興味のなかった凱も、ゾフィーという彼女が出来て変わった。
「いや、だけどよ兄貴。さくらの部屋に泊まった時は、あいつもこゆきもいたんだぜ?」
また新たな名前が出てきた。
こゆき、彼女は翔とさくらの後輩に当たる。
「風呂借りたり服洗ってもらったり、朝まで酒飲んだりしたけどよー…… それに、あいつらだって仲良いし……」
翔によれば――
社会人のギテルベウスは二歳年上。
さくらは同い年、こゆきは一歳年下。
三人娘に囲まれてラッキースケベなラブコメ展開の毎日を生きている翔は、そんな生活に辟易しているという。
「あいつ、狂気的な彼女だからな」
「懺悔ではなく、告白だな……」
凱はため息をついた。
「……死刑!」
主に扮して十字架に磔にされていたゴヨウは、拘束を引き剥がして、翔に飛びかかった。
嫉妬のあまり血涙を流しながら、翔に向かってフライングボディプレスをかますゴヨウ。
モテない男の気もちがわかってたまるか!――
ゴヨウの血涙が雄弁に語っていた。
野郎たちの気もちを一身に背負ったゴヨウ、彼のフライングボディプレスは外道(リア充)の翔を押しつぶした。
「いってえなー、何すんだゴヨウ!」
「だ、だ、だ、だまれ!」
翔とゴヨウの関係は深い。
翔は「百八の魔星」の一人、天魔星「入雲竜」ソンショウでもある。
ゴヨウは百八の魔星の一人、天機星「知多星」ゴヨウだ。
ゴヨウから見れば、ソンショウは組織の相談役ともいうべき目上の存在だ。
そのゴヨウが、目上の翔に嫉妬のフライングボディプレスとは――
「死刑だー! リア充ばくはつしろおー!」
「なんだテメェー、やる気かコラァー!」
「お前ら落ちつけ……」
ゴヨウと翔をなだめる凱。
彼は百八の魔星の守護神「托塔天王」チョウガイでもある。
いわば代表取締役だ。
「いいよなあー、巨乳で美人で年上の彼女でー!」
血涙を流しながら暴言を吐くゴヨウは、気の毒すぎて直視できない。
「硬派な兄貴も女できて変わったなあー!」
翔は思いっきり皮肉を言った。
彼とギテルベウスとは違い、凱とゾフィーはたまにしか会えない。
が、それゆえに「不滅の愛」でつながっていた。
凱もゾフィーも、互いに相手のためなら死を覚悟できるのだ。
だが、あまりに強い思いゆえか、運命は二人の間に距離を設ける。
まるで彦星と織姫のように……
「なんだと? 貴様ら、わしのことならともかく、ゾフィーさんを侮辱する気か?」
「侮辱なんかしてませんよ、美人だって言ったじゃないですかー!」
「なんだよ兄貴! 俺だってな、たまには怒んだよ!」
凱、ゴヨウ、翔の三人の間に殺気が満ちた。
いや、これは彼らのガス抜きかもしれない。
四千年の間、共に戦ってきた同志が初めて衝突したのだ。
「覇王飛龍剣!」
凱が振るった黄金の剣は、超音速の衝撃波を生み出した。
「出でよ異界の王よ、古の龍神よ!」
翔は異世界から巨龍を召喚した。
「ストオオォォーム・サンシャインンンンン!!」
ゴヨウは最強の必殺技、ストーム・サンシャインを放った。
三つの超打撃がぶつかり合い、時空が歪み、ねじれ、振動した。
それは意図せず混沌の波動を怯ませた。
知多星ゴヨウ、托塔天王チョウガイ、入雲龍ソンショウ。
百八の魔星たる彼らならば、あるいは人類の未来を守れるかもしれない。




