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虚無戦線  作者: MIROKU
バレンタイン・クライマックス
82/99

9 異世界のバレンタインの余韻



   **


 石畳の街ゼルマン。


 そこは魔物の現れる魔都だった。


 いくつもの馬車が行き交うメインストリートに面したメイドカフェ「ブレーメン・サンセット」。


 そこはランバー行きつけの店であり、謎の美女ペネロペが経営するカフェでもある。


「美味しくなあれ♥」


 メイドのスージーは――そばかすのある可愛らしい少女は――、ランバーの前に置いたオムライスにケチャップでハートマークを描いた。


「どうぞ」


 メイドのラーニップは、ダン!と荒々しくランバーの前にティーカップを置いた。


「今日はバレンタインですわね」


 ランバーのテーブルに来たのは、身長193センチの凄絶なブロンド美女ガーナクルズ(愛称はガーナ)だ。


 ノーメイクのスージーやラーニップと違い、化粧は派手で濃い。


 ガーナは獲物を狙う猛獣のような鋭い眼光で、ランバーを見下ろした。


「あ、ああ」


 緊張した様子のランバーは、長い黒髪の美青年だ。


 一見すれば美女のようだが彼は「魔物狩人」だ。ランバーはゼルマンに現れる魔物を討つのが仕事だ。


「は、ハッピーバレンタインです……♥」


 ガーナはランバーから顔をそむけて、ラッピングされた包みを差し出した。


 ランバーが受け取ると、ガーナは両手で顔を覆ってメイドカフェの奥に退却していった。


「ガーナさん、乙女だなー」


「仕方ないわよ、彼氏いないんだし」


 のんびりしたスージーに、ツンツンしたラーニップ。


 二人の美少女に挟まれて、両手に花のランバー。


 だが、彼は緊張を解いていない。ランバーは魔物狩人だ。


 そして、このメイドカフェで働く少女達は人間ではない。


「ウェルカム♥ 地獄の一丁目♥」


 店の奥から出てきたのは、赤毛のショートヘアの美女ペネロペだ。


 二十歳前後と思われるペネロペは、身長184センチの長身美女だ。しかも線は細く、それでいて女性らしい体型だ。


 真紅のバッスルドレスがペネロペの体型を際立たせる。豊かな胸、細いウェスト、芸術的なヒップライン……


 人間離れした美女だ。肌も青白く、美しい幽鬼が昼の下に現れたのかと思われた。


 そのペネロペは、今にもランバーをぶっ殺しかねない殺意の波動を放っていた。


「な、なんだ、妬いてるのか」


「いいええ!」


 ペネロペは鬼女の形相で吠えた。

 

 あまりの迫力に客は次々と帰り、店員のメイド達も――彼女らも全員が人間ではなかった!――蒼白になって、整列した。


「ぬあんで、わたくしがランバーなんかにヤキモチ焼かなくてはいけないのお!」


 ペネロペの髪が逆立ち、全身からオーラがほとばしる。


 伝説の宇宙最強戦士のような迫力に、スージーとラーニップもランバーのテーブルから離れた……






 夜になった。


 ランバーは小さな酒場で飲んだくれていた。


「くそう……」


 美青年ランバーは酒を飲みながら苦悩する。


 彼が討つべきは、ペネロペ達だ。


 だが彼女らは友好的だ。ましてやランバーはペネロペに好意を抱いてしまっていた。


 最初は敵のはずだったペネロペらと共に、ゼルマンに現れる魔物を討つ――


 ランバーは「光と闇の共闘」を体感していた。


 なのに、ペネロペはランバーの心を乱しに乱す……


「まあいいじゃないの、あんな女ほっといて」


 小さな酒場の女店主オフェーリアは、ランバーを慰める。妖艶で邪悪な彼女の目には、ランバーへの好意がある。


「ハッピーバレンタインよ……」


 オフェーリアの渡した小さな包みを手にして、ランバーは全身を震わせた。


 苦笑するオフェーリア。ランバーは彼女が倒すべき敵であるのに、どうしてこうなったのか。


 世にも不思議な男と女――






 そして、ランバーは異世界の蘭丸という青年と――


 ペネロペは、ねねという謎の女と魂を共有していた。


 蘭丸とねねも不思議な男女の縁でつながっていた。

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