守護者編 未来への戦い!の巻!
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虚無の中で戦うのは「百八の魔星」である。
「仏陀の力を信じるのだ! そして使命を全うせよ」
長ラン姿の凛々しい青年は、百八の魔星の守護神チョウガイだ。
彼の持つ黄金の剣は、不動明王の持つ降魔の利剣に等しい。
「未来を守る!」
導師服の青年は百八の魔星の一人、天間星「入雲竜」ソンショウだ。
ソンショウは生前、即身仏の修行をやり遂げた。今は冥府で死した勇士を率いて混沌空間と戦っている。
チョウガイ、ソンショウ共にかつては悪でありながら、今は人類の未来を守るために戦っているのだ。
人の意識の及ばぬ混沌空間で……
「楽しかったですな、チョウガイ様」
ソンショウはニヤニヤしていた。「チュパカブラ・ハンター」にて翔を演じたのは、ソンショウであった。
「まあな……」
チョウガイは苦笑した。かつてのチョウガイでは苦笑するだけでも考えられぬ事だ。
ゾフィーの事を思い出すだけで、チョウガイの心は優しさに満たされる。
ソンショウもまた、騒がしくも愛しいギテルベウスを思い出すと安らぎを得る。
「また、B級ホラー風味をやりましょう、チョウガイ様。いや、剴のアニキかな」
「何を言うか、翔。……待て、ところでゴヨウは?」
「さあ」
剴と翔は、いやチョウガイとソンショウは顔を見合わせた。
百八の魔星の一人――
天の機を知る宿星に生まれた天機星「地多星」ゴヨウは、混沌空間の中で戦っていた。
宇宙創生の「十二星座の女神+1」である蛇遣い座の女神から授かった「ウィンドセイバー」を駆って……
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夏真っ盛りであるが、ローレンはハロウィンイベントに向けて準備を開始していた。
ハロウィン・ナイトに現れる妖魔から人々を守ってきた「レディ・ハロウィン」。
その末裔であるローレンは、今年も人々を守るために戦う。
かつてハロウィンの夜には「向こうの世界」から無数の妖魔(得体の知れぬ魔物の俗称)が現れたのだ……
「いくわよ、ゾフィー!」
魔女のコスプレをしたローレンは混沌空間に飛びこまんとする。
「Ok、お嬢様!」
ゾフィーもローレンの傍らに控えていた。
チュパカブラ・ハンターに登場したゾフィーと同一の存在である。
今その姿は、土気色の肌の全身に、無数の縫合痕が刻まれたナースであった。
レディ・ハロウィンに仕える忠実な侍女フランケン・ナース。
それがゾフィーの正体だ。
「ふふふ…… 今年のハロウィンも盛り上がりそうね……」
蠱惑的な笑みを浮かべる美女はギテルベウスだ。
チュパカブラ・ハンターではコミカルな女性だったギテルベウス。
だが、彼女は妖魔である。ギテルベウスが「死者の書」を開けば、この世とあの世が繋がり、無数の妖魔が現れるのだ。
「……」
ギテルベウスの隣には無表情なゴム製のマスクをかぶり、ツナギを着込んだ女性マイマイがいた。マイマイの持つ肉切り包丁は鋼鉄すら切断する(原理は不明)。
もう一人、ギテルベウスの傍らに控える女性がいた。清楚な白いワンピース姿だが、顔は不気味なマスクで隠し、奇声を上げてチェーンソーを振り回している。
マイマイと双璧を為す「プリティフェイス」のヒューイットであった。
「何よ、ハロウィンの前に決着つける気?」
「それはいいわね、あなたの厚化粧も見飽きたわ」
「誰が厚化粧よ!」
ギテルベウスの美しい顔が歪んだ。明るく邪悪で憎めないギテルベウスだが、今の顔は残念だ。
ローレンとゾフィー、ギテルベウスとマイマイとヒューイットの戦いが始まろうとした時だ。
精悍な青年二人が場に現れたのは。
「おーい、腹減ったからメシ食いに行こうぜー」
ギテルベウスに呼びかけたのは、ソンショウであった。
「ゾフィーさんもどうですか?」
「は、はい、喜んで……」
ゾフィーはチョウガイの差し出した手を取って、二人で歩き出した。
「全くさあ、あたしはあんたと違って忙しいのよ?」
「へへ、悪い悪い…… じゃあ俺がおごるからよ、何がいい?」
「美味しいラーメンがいいわね」
ソンショウとギテルベウスも腕を組んで歩き出した。微笑ましいバカップルだった。
残されたローレン、マイマイ、ヒューイットはしばらく呆然としていたが、やがて三人揃ってスマホを取り出した。
「……あ、ヘイゾウ? 私よ私。じ、時間があるなら買い物につきあってほしいんだけど?」
「……ゴヨウ? 部屋の掃除は終わった? あとは洗濯も頼むわ……」
「……みんなでコ○ケに…… うん、あたしも今から行く……」
三人は三人揃って男に連絡した。彼らにしたところで、側にいる誰かは、自身の使命と同等以上に大事なものなのだ。