5 慶安の守護者!の巻!
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時間も空間も越えた彼方――
慶安の江戸に現れる人知を越えた魔性。
その魔性と戦う者がいた。
魔を滅ぼすという過酷な使命を与えられたのは、蘭丸という青年だった。
夜の闇に浮かび上がる無数の赤光。
それは魔性の瞳の輝きだ、夜の闇には無数の魔性が蠢いているのだ。
「行け、紅!」
蘭丸が投げた刀は、自由自在に宙を舞い、魔性を斬り捨てていく。
刀身に無数の女の裸身が彫りこまれた妖刀・紅は、回転しながら蘭丸の手に戻った。
紅の刀柄を握って魔性の群れを見据える蘭丸。
長い黒髪を無造作に後ろで束ねた、着流し姿の美男だ。
「あちきもいるでやす!」
蘭丸の隣に立つ女は、魔性の群れに向かって口から炎を吹きつけた。
褐色の肌に奇妙な紋様を全身に刻んだ白髪の美女――
彼女は黒夜叉と名乗っている。着崩した胸元がセクシーだ。
黒夜叉の業腹火炎を浴びた魔性が、次々と夜の闇から去っていく。
「福は内でやす!」
黒夜叉はドヤ顔だ。蘭丸も苦笑して紅を鞘に納めた。
今日は節分、魔を滅する日だ。だから豆をまくという。
「久々の登場だな」
「蘭丸の旦那あ、もう少し暴れとかないと、もったいないでやすよお」
「いや、いいさ」
蘭丸は夜空の三日月を見上げた。
中性的な美男の蘭丸は微笑していた。
「今夜は月が美しいからな……」
「……くっはあー、蘭丸の旦那ってばー!」
興奮した黒夜叉は鼻血を吹いた。彼女はギャグとお色気を担当していた。
「も、もうあちきは、旦那のところに永久就職するしかないでやす!」
「……その前に、お前は何者なんだ?」
「あちきは黒夜叉でやす!」
黒夜叉は胸を張って鼻息を荒くした。
口から炎を吐くなど、明らかに人間ではない。
蘭丸を助けるヒロインの一人には違いないが。
「……わかった、わかった」
蘭丸は苦笑して夜道を歩き出した。
黒夜叉も慌てて蘭丸に駆け寄り、腕を絡ませた。
「旦那のためなら、たとえ火の中、水の中でやす!」
「そうか、じゃあ明日は湯屋に行こう。お前、少し匂うぞ」
「い、いやでやす! 湯屋はイヤでやす!」
「俺が背中を流してやる」
「そ、それなら行くでやす……」
黒夜叉は頬を赤らめた。この褐色の肌の少女が何者か、それはわからない。
が、蘭丸にとっては心安らぐ存在である事には違いない。
「ふおおお……!」
夜の闇に響き渡る気合の一声。
蘭丸と黒夜叉は同時に震え上がった。
二人の前方には麗しい人影が道を塞いでいる。
それはねねだ。
蘭丸の押しかけ女房ねね。
彼女もまた謎に満ちた存在だ。
「久々の登場だからって、やりすぎたわね!」
ねねから殺気がほとばしる。蘭丸も黒夜叉も気圧されて動けない。
ねねこそ蘭丸の真の助力者だが、同時に作品の雰囲気を大いに破壊した。
人気はナンバー1であったけれども――
「蘭丸様のむっつり助平ー!」
ねねは両目から光線を発射した。
次いで爆音が夜闇にこだまし、黒煙が沸き起こる。
ねねが暴れれば、江戸は火の海になるかもしれない。
(させん!)
ねねの破壊光線から逃れていた蘭丸は、素早く踏みこみ、ねねに抱きついた。
「あーいーしーてーるー!」
蘭丸は顔を真っ赤にしながら叫んだ。
本心か偽りか、それは蘭丸にもわからない。
「そこに愛はあるんかー!?」
ねねも蘭丸に抱きしめられながら叫ぶ。彼女がやると、何でもギャグになる。
「チャンチャン♪でやす……」
黒夜叉が苦笑して物語をしめた。彼女は自分が準ヒロインという事を理解していた。
「あ、ばれんたいんはどうするでやす?」
「「ばれんたいん??」」
蘭丸とねねは異口同音に目を点にした。阿吽の呼吸だ。そういうところはよく似ていた。




