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虚無戦線  作者: MIROKU
バレンタイン・クライマックス
78/99

5 慶安の守護者!の巻!


   **


 時間も空間も越えた彼方――


 慶安の江戸に現れる人知を越えた魔性。


 その魔性と戦う者がいた。


 魔を滅ぼすという過酷な使命を与えられたのは、蘭丸という青年だった。






 夜の闇に浮かび上がる無数の赤光(しゃっこう)


 それは魔性の瞳の輝きだ、夜の闇には無数の魔性が蠢いているのだ。


「行け、(くれない)!」


 蘭丸が投げた刀は、自由自在に宙を舞い、魔性を斬り捨てていく。


 刀身に無数の女の裸身が彫りこまれた妖刀・紅は、回転しながら蘭丸の手に戻った。


 紅の刀柄を握って魔性の群れを見据える蘭丸。


 長い黒髪を無造作に後ろで束ねた、着流し姿の美男だ。


「あちきもいるでやす!」


 蘭丸の隣に立つ女は、魔性の群れに向かって口から炎を吹きつけた。


 褐色の肌に奇妙な紋様を全身に刻んだ白髪の美女――


 彼女は黒夜叉と名乗っている。着崩した胸元がセクシーだ。


 黒夜叉の業腹火炎を浴びた魔性が、次々と夜の闇から去っていく。


「福は内でやす!」


 黒夜叉はドヤ顔だ。蘭丸も苦笑して紅を鞘に納めた。


 今日は節分、魔を滅する日だ。だから豆をまくという。


「久々の登場だな」


「蘭丸の旦那あ、もう少し暴れとかないと、もったいないでやすよお」


「いや、いいさ」


 蘭丸は夜空の三日月を見上げた。


 中性的な美男の蘭丸は微笑していた。


「今夜は月が美しいからな……」


「……くっはあー、蘭丸の旦那ってばー!」


 興奮した黒夜叉は鼻血を吹いた。彼女はギャグとお色気を担当していた。


「も、もうあちきは、旦那のところに永久就職するしかないでやす!」


「……その前に、お前は何者なんだ?」


「あちきは黒夜叉でやす!」


 黒夜叉は胸を張って鼻息を荒くした。


 口から炎を吐くなど、明らかに人間ではない。


 蘭丸を助けるヒロインの一人には違いないが。


「……わかった、わかった」


 蘭丸は苦笑して夜道を歩き出した。


 黒夜叉も慌てて蘭丸に駆け寄り、腕を絡ませた。


「旦那のためなら、たとえ火の中、水の中でやす!」


「そうか、じゃあ明日は湯屋に行こう。お前、少し匂うぞ」


「い、いやでやす! 湯屋はイヤでやす!」


「俺が背中を流してやる」


「そ、それなら行くでやす……」


 黒夜叉は頬を赤らめた。この褐色の肌の少女が何者か、それはわからない。


 が、蘭丸にとっては心安らぐ存在である事には違いない。


「ふおおお……!」


 夜の闇に響き渡る気合の一声。


 蘭丸と黒夜叉は同時に震え上がった。


 二人の前方には麗しい人影が道を塞いでいる。


 それはねねだ。


 蘭丸の押しかけ女房ねね。


 彼女もまた謎に満ちた存在だ。


「久々の登場だからって、やりすぎたわね!」


 ねねから殺気がほとばしる。蘭丸も黒夜叉も気圧されて動けない。


 ねねこそ蘭丸の真の助力者だが、同時に作品の雰囲気を大いに破壊した。


 人気はナンバー1であったけれども――


「蘭丸様のむっつり助平ー!」


 ねねは両目から光線を発射した。


 次いで爆音が夜闇にこだまし、黒煙が沸き起こる。


 ねねが暴れれば、江戸は火の海になるかもしれない。


(させん!)


 ねねの破壊光線から逃れていた蘭丸は、素早く踏みこみ、ねねに抱きついた。


「あーいーしーてーるー!」


 蘭丸は顔を真っ赤にしながら叫んだ。


 本心か偽りか、それは蘭丸にもわからない。


「そこに愛はあるんかー!?」


 ねねも蘭丸に抱きしめられながら叫ぶ。彼女がやると、何でもギャグになる。


「チャンチャン♪でやす……」


 黒夜叉が苦笑して物語をしめた。彼女は自分が準ヒロインという事を理解していた。


「あ、ばれんたいんはどうするでやす?」


「「ばれんたいん??」」


 蘭丸とねねは異口同音に目を点にした。阿吽の呼吸だ。そういうところはよく似ていた。

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