3
部屋に戻ったグレースは、ジェットとブルとテレビを観ていた。
そしてマッサージ師を呼んだ。
「この旅館はねえ、出るんですよお」
マッサージ師の老婆は、うつ伏せになったグレースの全身をほぐしていた。
「え、何が出るんですかあ〜?」
グレースはマッサージが心地よいので、半分眠りかけていた。
「ゾンビが」
「え〜、ゾンビ〜?」
「そうですよ、お客様…… この旅館にはねえ、どこかの作家志望のオッサンみたいに、バレンタインに報われない思いをした者の怨念がゾンビになって女風呂をのぞいたりするんですよお」
「へえ〜……」
グレースは夢見心地で答えた。
ジェットはテレビを観ながらスマホをいじり、ブルは酒をチビチビ飲みながらスマホをいじる。
やめよう、ながらスマホ。
大事なものを失う前に。
ホテルの周囲は荘厳なる大自然が広がっている。
山は魂の還る場所である。
だが我欲に凝り固まった魂は、山には入れないだろう。
自然の法則から外れた魂は虚空をさまよう。
自然の法則とは何か、己を捨てる事である……
「す、すげえ数だ……!」
山には特殊部隊が侵入していた。
彼らはゾンビ(生霊?)から人々を守るために戦うのだ。
「やっちまいなー!」
特殊部隊のバスクェスはマシンガンを発砲した。
林の中から次々に現れるゾンビ。
同じく特殊部隊のドレークは、火炎放射器でゾンビ数体をまとめて炎に包んだ。
――キシャー!
猛獣のように襲いくるゾンビに、特殊部隊の隊員が次々やられていく。
「くったばれえい!」
部隊長レックスは、ショットガンの銃口をゾンビの額に突きつけ、引き金を引いた。
ドオン!という銃声と共に、ゾンビの頭部が爆ぜた。
「撤退だあー!」
レックスの号令一下、特殊部隊は撤退を開始した。
二十人以上いた部隊は、今や半分ほどにまで数を減らしていた。
ゾンビに襲われた者もまた、バカップルを憎むゾンビに変わり果ててしまうのだ。
「チクショー、かかってきやがれえ!」
ハドゥスンは尚もマシンガンを乱射し、ゾンビを迎撃するが、ゾンビに足をつかまれて、沼地へと引きずりこまれていく。
「れ、レックスうー!」
「ハドゥスンー!」
レックスが手を伸ばしたが、それより早くハドゥスンの体は沼地に呑み込まれた。
「早く行って!」
バスクェスはグレネードランチャーを発射した。
爆発と共にゾンビ数体がまとめて吹っ飛ぶ。
しかし劣勢だ。
果たして彼らはホテルの客を守り切れるのか。




