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虚無戦線  作者: MIROKU
バレンタイン・クライマックス
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 バレンタインの守護者(ガーディアン)「バレンタイン・エビル」であるグレース。


 彼女は年明け早々、山ごもりで修行していた。


「うっひゃー、冷たーい!」


 白装束姿のグレースは滝に打たれながら不動明王真言を叫んだ。


「のうまくさんまんだあばあざらだんせんだまかろしゃだそわたやうんたらたかんまーん!」


「姫様、ファイトだモン!」


「姫、自分に負けちゃダメだブル!」


 猿型妖精ジェットと犬型妖精ブルがグレースを叱咤激励する。


 が、グレースは滝に打たれながら半ば失神していた。


 水の冷たさと、降り注ぐ滝の水勢が凄いからだ。


(やだよ、やだよー!)


 決死の形相のグレース。彼女は「悪堕ち」寸前で踏みとどまった。


 親友イブの助言があったからだ。


 ――あのね、悪の女幹部も楽じゃないの。大胆な制服(衣装)だし、ムダ毛処理もしなきゃだし、体型維持のために食生活改善しなきゃだし。


 イブは短大の親友であり、元・悪の組織の女幹部であり(義母が首領)、宿命のライバルでもある。


 彼女が悪の女幹部の厳しさを教えてくれたので、グレースは悪堕ちせずに済んだ。


「持つべき者は友だモン!」


「イブ嬢、ナイスだブル!」


「も、もう限界だよー!」


 グレースは滝から飛び出し、サウナへと駆けた。


 実は滝行を体験できる観光旅行に来ていたのだ。


 滝行の後はサウナで暖まり、更に温泉にも浸かった。


 夜はホテルの広い食堂で、美味しい食事(バイキング式)を堪能する。


「ぷはあー、旅行最高だねー!」


 浴衣に着替えたグレースは食べながら飲酒もする。


 女子中学生に間違われがちなグレースだが、彼女は飲酒可能なお年頃だ。


「いやあ、料理がうまい!」


「平和が一番だ……」


 ジェットとブルも元の姿に戻り、グレースと同じテーブルで料理を楽しんだ。


 そんな三人を、他の観光客が奇異な目で見ていた。






「これどうかしらね」


 リリースは照れ臭そうに笑った。


 白い割烹着姿のリリースは、昭和の婦人――


 いや、日本の母を思わせた。


 今は料理の試食会を兼ねた夕食だ。


 リリースの悪の組織は解散し、代わって四月からは名門男子校の寮になるのだ。


「うまいな唐揚げ」


 狼男の外見のアローンは、唐揚げばかり食べている。


「ちょっとアローン、唐揚げばかり食べないでよ! ちゃんと感想と意見も出さないと!」


 イブの小言にアローンは苦笑した。いつもの事だ。もう慣れた。


「まあ、あれだなあ。男子高校生だろ? 肉か魚は毎日欲しいけど、揚げ物ばかりじゃ飽きられちゃうし、値段も考えねえと……」


 アローンは自分の考えを述べた。リリースとイブの二人は(義理の母娘らしい)、アローンの話に耳を傾けている。


 妖魔のメイド少女三人は、アローンらへの給仕に回る。


 五人の女性に囲まれているアローンは、本人は気づいていないが幸せ者だ。


 だからこそバレンタイン・エビルの討伐対象だろう。

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