表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚無戦線  作者: MIROKU
バレンタイン・クライマックス
74/99


   **


 年は明けた。


 だが世界中の人々に活気がなかった。


「当然じゃ、欲望は長続きせん。人類に待つのは、傲慢が招いた自滅の未来じゃ」


 虚無の闇に屹立する「蛇遣い座の女神」。


 彼女は宇宙を創生した「十二星座の女神+1」だ。


 今、蛇遣い座の女神は右手の平にゴヨウを乗せていた。


 それは戦女神アテナが、右手に随神を乗せているのに似た。


「さて、お前はどうする?」


 蛇遣い座の女神は、右手の平に立つゴヨウを見下ろした。


 百八の魔星の一人――


 天の(はたらき)を知る宿星、天機星「知多星」ゴヨウ。


 彼はどうする気なのか。


「今年はネットで『蛇と美女』の組み合わせイラストをたくさん見かけましたけど…… あれは、ひょっとして?」


「もちろん、わらわのイメージじゃ! 御利益あるぞ!」


 蛇遣い座の女神はドヤ顔だ。


 宇宙創生の超弩級女神の可愛らしい一面だ。






 虚無戦線で戦うチョウガイとソンショウ。


 彼らには味方もいる。ゾフィーとギテルベウスだ。


「ゾフィーさん……!」


 満身創痍のチョウガイは、ゾフィーの姿を見て微笑した。


「来てくれたのかよ……!」


 同じく満身創痍のソンショウは、鼻をすすりながら後ろを向いた。


「さ、一緒に未来を創りましょう!」


「気合入れてやんなさいよ!」


 ゾフィーとギテルベウスの微笑。


 二人の笑顔は、勝利の女神が微笑んだに等しい。


 彼女達の思いを背負い、チョウガイとソンショウは尚も戦う。


 全ては人類の未来のためだ。


 未来は男と女が手を取り合った先にあるのだ。






「……バレンタインに向けて〜」


「イメージチェンジだモン!」


「やってやるブル! マッドなブルだブル!」


 グレース、ジェット、ブルの三人はイメージチェンジした。


 劇画調だ。顔が濃ゆい。グレースはまるで紫ナコ◯ルのようだ。何のこっちゃ。


 彼らはバレンタインの守護者(ガーディアン)と従者だが、とにかく人間がイヤになったのだ。


「善を語って悪を為す事の当たり前」


 暗い表情でつぶやくのはブルだ。


 彼はほとんどの人間が自分を【善】としながら、悪を為しているおぞましさに吐き気がしているのだ。


「全ては公平だ……」


 ジェットもつぶやいた。


 彼は知っている。


 死した者は、生前の行いを全て見させられる事を。


 いや、見るではない。聞くでもない。魂が知るのだ。自分自身というものを。


 死んだ後に自分自身を知り、絶望よりも深い闇に堕ちる者がほとんどである。


 彼らは、はるかなる闇の底に沈む。


 そこから浮き上がるには意志が必要だ。


 即ち償いをするという決意だ。


「今年のバレンタインは悪役になっちゃうぞー!」


 グレースは明るい笑顔で叫んだ。


 輝くような笑顔で、悪役をやるとは。何か違和感がある。


「さ、では姫様に新たなコスチュームだモン!」


「おお、これは実に解放的だブル!」


「え、ちょっと待って…… こ、こんなえっちい衣装なの? お尻、Tバックじゃん……」


 グレースは耳まで真っ赤になりながら、引きつった笑みで新コスチュームを手に取った……






 グレースの従者アローンは、今ではイブとリリースの元にいた。


 彼は和平の使者だった。


「悪の組織は解散じゃ」


 組織の首領リリースは言った。


 そして女性構成員の大半は新たな職に就き、あるいは辞めて故郷に帰ったりした。


 それでいいのだ、悪の組織が長続きするわけがない。


 このアジトは男子校の寮になるという。全国でも著名な全寮制の私立男子校の寮だ。


 ここには全国から猛者が集まり、梁山泊のような様相になるに違いない。


「私は寮母さんになるのだ」


「ふうん」


 アローンには今ひとつ想像がつかない。


 妖魔のメイド少女三人も寮で働くという。


「俺はクビかな」


「何を言ってる、おぬしにも働いてもらうぞ…… 何せ相手は男子学生じゃ、女を襲わぬ保証はない。アローンがおれば安心じゃ」


「はあ」


 何が何だかわからぬまま、アローンは曖昧にうなずいた。


「アローンは私のお婿さんになるんでしょ?」


 はにかんだ笑みのイブがアローンに歩み寄った。


 以前は「うっせーわー!」と叫んでいた危険な女だったイブも、今はなんとも可愛らしい。


「ふ、お前のおかげじゃ……」


 リリースも熱い眼差しでアローンを見た。


 妖魔のメイド少女三人もアローンを見つめて微笑している。


 アローンによって何かが変わったのだ。


 だが、アローンが特別だったわけではない。


 彼は異世界の犬型妖精であり、本来はこの世界に存在しないものなのだ。


(怖えなあ……)


 アローンは心中の震えを苦笑で隠す。


 数年前の星辰の乱れ、地球を覆う病魔、大海からの試練、食の未来、それらをもたらしたのは混沌(カオス)だ。


 危機をもたらした反面、混沌は人類を成長させてもいる。


 そして旧約聖書に記された「始まりの女性」と「始まりの男の肋骨から創られた女性」、その名はリリースとイブに酷似している。


 また、リリースとイブは本当の母娘ではないという。アローンをめぐる恋敵には違いないが。


「何がなんだかわからねえ……」


「どうしたのじゃ、疲れた顔をして?」


「ねえママ、お茶にしましょうよ」


 アローンをリリースとイブが労う。それもまた女性の愛なのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ