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虚無戦線  作者: MIROKU
クリスマスまでだからね!
73/99

クリスマスの余韻の余韻


   **


 大晦日、グレースはマンションの自室でコタツに入ってぬくぬくしていた。


「おそばも食べたし…… はあ〜、幸せ〜……」


「姫様、紅白にビージュが出てるモン!」


「すごいサプライズだブル!」


 グレースの側には猿型妖精ジェット、犬型妖精ブルもいた。三人?で紅白を観ている。


「もう何にもしたくな〜い」


「姫様、そう言いつつミカン三個目モン!」


「まあ今は束の間の休息ブル…… 次はバレンタインが待ってるブル!」


 そう、グレースはバレンタインの守護者ガーディアン「バレンタイン・エビル」だ。


 エビルと名乗るのは、彼女が決して綺麗事だけの存在ではないからだ。


 バレンタインをないがしろにし、愛を傷つける者は決して許さない。


 彼女の必殺技「バレンタインの鈍色刃」は、罪人を両断するデーモンスレイヤーなのだ。


「だあってさあ、バレンタインを祝福するだけのはずなのに、クリスマスまで祝福したんだよー? 疲れるよー、お姉様もバテバテだったじゃん」


 グレースは唇を尖らせて不満をもらす。そんな仕草が可愛らしいが、彼女は短大生だ。女子中学生ではない。


「ローレン様も立派だったブル……」


 ブルは感動すら覚えた。


 ローレンはグレースの従姉妹であり、ハロウィンの守護者「レディ・ハロウィン」でもある。


 本来ならばハロウィンを祝福するローレンが、サンタクロース不在のために、グレースと共にクリスマスを祝福したのだ。


 サンタクロースである「完璧商人始祖」の白銀マンは、狂信者によって動きを封じられている。


 他の完璧商人始祖も動きを封じられているために、昨年のクリスマスにはローレンとグレースの「ハロウィン・シスターズⅢ」が動くしかなかったのだ。


「あたしは? あたしは〜?」


 グレースはブルをにらんだ。ちょっと恐かった。そうして主従は年を越した。






 一方、悪の組織では大掃除も終了し、組織のメンバー全員で年越しそばを食べた後、ほぼ全員が解散となった。


「新幹線に遅れちゃうよ!」


「空港までタクシーね……」


「いいなあー、私は船だよ船!」


 悪の組織も年納めだった。


 構成員は全員が女性だ。


 彼女達は年末年始は故郷に帰るという。


 まるで全寮制の学校だ。


「さ、風呂にしよう。背中を流しておくれ。まさかビビっておるのか、チェリーか?」


 組織の女首領リリースは人間サイズだった。体のサイズを自由に変化させられるらしい。


 普段は威厳を保つために巨大化しているのだそうだ。


「そ、そんなわきゃねーだろ!」


 狼男アローンは叫んだ。彼の反応にリリースはクスクス笑う。とても短大生の娘がいるとは思えない。妖魔だからか、リリースの外見は二十才前後だ。


「では……」


 というわけでリリースはアローンと共に浴室に入った。


 湯気が邪魔だ、湯気が。


 だが、湯気でよく見えないのだから、十八歳未満お断りにはならない。


「ほれ、頼むぞ」


「へいへい……」


 アローンはブツブツ言いながらリリースの背中を流した。


 すると不思議な事が起きた。リリースは緑色の肌をしていたが、洗い流すと人間と同じような肌が現れたのだ。


「あ、あれ?」


「女に過去を聞くな……」


 リリースは顔だけ振り返って寂しく笑った。


 その表情は娘のイブにも似ていた。


(ん、待てよ)


 ここでアローンは、ハッとした。


 思い出したのは旧約聖書だ。


 始まりの人間、その最初の妻。


 エデンの園の伝説……


(ま、待てよ、待ってくれ……)


 アローンは急に寒気を感じた。


 リリース。イブ。


 旧約聖書にも、よく似た名前の人物が出てくるのではなかったか。


 彼らは何をしたか。


 なぜ今、アローンがそれを感じるのか。


 アローンは見てはならぬ宇宙の深奥をのぞいてしまったのではないか、と恐怖に震えた。


「なんじゃ、手が震えておるぞ。やはり、いい年して童貞か」


「童貞ちゃうわー!」


 アローンは虚無の中から立ち直った。


 リリースは助け舟を出したのかもしれない。


「……さ、上がったら宴会でもしよう」


 リリースの笑顔にアローンは救われたような気がする。


 もう一度、旧約聖書をしっかり読もうと思った。


 そして、リリースの娘のイブは、妖魔のメイド少女三人と共に、除夜の鐘見物に出ていた。


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