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虚無戦線  作者: MIROKU
レディ・ハロウィン
64/99

レディ・ハロウィン5 守護者 



   **



 時間と空間を越えた世界でも戦いは続く。


 概念や存在意義を守る戦いだ。


 レディ・ハロウィンも守護者ガーディアンの一人。


 そして守護者は一人ではない。



   **



 寛永の江戸。


 夜の中で七郎は魔性を見た。


 内裏の林の中に浮かぶ巨大な繭が割れ、そこから出てきたのは、美しくもおぞましき魔性だ。


「ふふふふふ……」


 妖しき魔性は背に蝶のような羽根を持ち、頭部には蠢く触角をそなえていた。


 それは人間と蝶が融合したような姿だ。人知を越えた魔性だ。


「お前を斬る」


 七郎は鞘から刀を抜いた。


 月光に反射した刃が淡く輝く。


 月ノ輪(後の明正天皇)という少女から賜った一振りは、刀鍛冶師の村正が世の平和を祈って打った刀、妙法村正だ。


 かつては春日局から三池典太を賜り、今また月ノ輪から妙法村正を授かるとは。


 どちらも魔を斬る剣だ。


 七郎が邪悪を討つのは宿命か。


「……参る!」


 七郎は妙法村正を手にして魔性に斬りかかった。


 輝く刃が闇を斬り裂いたかに見えた。



   **



 慶安の江戸の夜空に巨大な蜘蛛の巣が広がっていた。


 その蜘蛛の巣を這う不気味な人影。


 それは人間と蜘蛛が融合したような姿をしていた。


 そして女だ。蜘蛛女だ。背からは巨大な蜘蛛の脚が生えていた。


「いけ、紅!」


 地にある人影は手から刀を投げた。


 投げられた刀は宙を飛び回って蜘蛛女を襲う。


 蜘蛛女の背に生えた長い脚が刀を打ち払う。


 刀は回転しながら人影の元へ戻った。刀身に無数の女の姿が彫られた刀は意志を持つのだ。


「あんた何者だい!」


 蜘蛛女は蜘蛛の巣から吠えた。


 人影は――


 着流し姿の美しい青年は刀を手にして言った。


「――蘭丸」


 彼は元は人斬りと呼ばれた用心棒だ。


 だが今は紅を手にして、江戸に現れる魔性と戦う日々だ。


 それは蘭丸の償いかもしれぬ。

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