レディ・ハロウィン5 守護者
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時間と空間を越えた世界でも戦いは続く。
概念や存在意義を守る戦いだ。
レディ・ハロウィンも守護者の一人。
そして守護者は一人ではない。
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寛永の江戸。
夜の中で七郎は魔性を見た。
内裏の林の中に浮かぶ巨大な繭が割れ、そこから出てきたのは、美しくもおぞましき魔性だ。
「ふふふふふ……」
妖しき魔性は背に蝶のような羽根を持ち、頭部には蠢く触角をそなえていた。
それは人間と蝶が融合したような姿だ。人知を越えた魔性だ。
「お前を斬る」
七郎は鞘から刀を抜いた。
月光に反射した刃が淡く輝く。
月ノ輪(後の明正天皇)という少女から賜った一振りは、刀鍛冶師の村正が世の平和を祈って打った刀、妙法村正だ。
かつては春日局から三池典太を賜り、今また月ノ輪から妙法村正を授かるとは。
どちらも魔を斬る剣だ。
七郎が邪悪を討つのは宿命か。
「……参る!」
七郎は妙法村正を手にして魔性に斬りかかった。
輝く刃が闇を斬り裂いたかに見えた。
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慶安の江戸の夜空に巨大な蜘蛛の巣が広がっていた。
その蜘蛛の巣を這う不気味な人影。
それは人間と蜘蛛が融合したような姿をしていた。
そして女だ。蜘蛛女だ。背からは巨大な蜘蛛の脚が生えていた。
「いけ、紅!」
地にある人影は手から刀を投げた。
投げられた刀は宙を飛び回って蜘蛛女を襲う。
蜘蛛女の背に生えた長い脚が刀を打ち払う。
刀は回転しながら人影の元へ戻った。刀身に無数の女の姿が彫られた刀は意志を持つのだ。
「あんた何者だい!」
蜘蛛女は蜘蛛の巣から吠えた。
人影は――
着流し姿の美しい青年は刀を手にして言った。
「――蘭丸」
彼は元は人斬りと呼ばれた用心棒だ。
だが今は紅を手にして、江戸に現れる魔性と戦う日々だ。
それは蘭丸の償いかもしれぬ。




