レディ・ハロウィン2
ブオーン!という轟音と共にチェーンソーの刃が回転する。
それはハロウィンの悪夢の概念だ。
だが、世の中にはもっと恐ろしいものがある。
「何よ、アンタは邪魔しないでよ!」
「今は大事な話中!」
怪人に振り返ったヒューイットとあやめの目は血走り、直視できない。
二人の女の修羅場に、怪人バベルはオロオロする。
ヒューイットとあやめの中心にいるケンは、青ざめながらも逃げなかった。
それだけでもたいしたものだ――
「コンチクショー!」
怪人バベルは――
生前は伝説的なロッカーであり、最後のライブで数十人のファンをチェーンソーで殺害した妖魔は、怒りの鋒先をケンに向けた。
「ケーン!」
ヒューイットはあやめを無視して、ケンに振り返った。
彼女の真意がよくわかる。
「ヒューイット!」
その時、宅配ピザのバイクが彼らの前で急停車した。
バイト店員はヒューイットの友人マイマイだ。
欧州系美女マイマイのおかげで、宅配ピザの注文が三割増しになったという。
そのマイマイは、バイクの荷台から長大なチェーンソーを取り出した。
それはヒューイット愛用のチェーンソーだった。
「こんな事もあろうかと、あんたの部屋から持ってきたのよ!」
「マイマイ、仕事は!?」
「今は休憩中よ! ヒューイット、受け取って!」
マイマイはチェーンソーを宙に放り投げた。
高く放られたチェーンソーは、放物線を描いて、ゆっくりとヒューイットに向かって落ちてくる。
「はあ!」
ヒューイットは気合と共に高く跳躍した。
スカートがはためき、魅惑の脚線美が夜の中に輝いた。
ケンは鼻血を吹き、そのケンをあやめが支える。
ヒューイットは右手を伸ばし、チェーンソーの挿し込み口に右手を挿入した。
カチャン!という小気味良い音と共に、ヒューイットの右手とチェーンソーは一体化した。
「な、なんだってえ?」
驚愕するバベル。なぜこうなった?
バベルの眼前ではヒューイットがチェーンソーを起動させた。
グォングォン!と凄まじい音を立て、ヒューイットの右手のチェーンソーの刃が回転する。
神をも殺しかねないヒューイットのチェーンソーは、エクスカリバーとも呼ばれている。
「どおおおりやあ!」
ヒューイットはチェーンソーをバベルに向かって振り下ろした。
ケンを守るためにヒューイットは必死だ。
「チィッ!」
バベルは舌打ちしながらも、自身のギター型チェーンソーを振り回した。
二つのチェーンソーの刃が激突し、夜闇に火花を散らす。
「――え、バイト先の先輩なの?」
「そうなのよ、ケンちゃ〜ん」
「この子、入ったばかりだけど、すんごい女王様だからね。で、ケンちゃんの事を話したら、仕事放り出してお店を飛び出しちゃって」
「いいのよ、ちょうどいい放置プレイでしょ。というかケン君の彼女があんなオバサンなんて許せないわ!」
ケンとお水系お姉さん二人、更にあやめを含めた四人は、死闘を半ば無視して話しこんでいた。




