完璧商人始祖(総集編)
人知を越えた力を持ち、この世界の経済を司る超人達……
人は彼らを「商人」と呼んだ……!
「ハワッ!」
完璧商人始祖の一人、正義マンは手にした「裁きの天秤」の傾きを知った。
裁きの天秤は一方に傾いている。
善意と悪意、それを測る裁きの天秤は、悪意へと傾いていたのだ。
これは人の世に我欲をはじめとした悪意が満ち満ちている事の、証明に他ならぬ。
市場経済における「神の見えざる手」である正義マンだが、彼の介入を以てしても、世界経済は落ち着く素振りがない。
悪意に満ちた暴力が世界を不安定にさせているのだ。
さすがの正義マンも憂いを感じぬわけにはいかなかった。
が、その一方で信じるものもある。
女性によって命は産み出され、意思や概念は男性によって受け継がれていく。
正義商人ケリーマンの闘う魂は「永遠の形」だ。
それを目の当たりにしてしまった正義マンだからこそ信じる。
半ば不老不死の正義マンだからこそ信じる。
有限生命体である人間の進化が、この宇宙を救う事に……
彼が人間の中に見た「永遠の形」の感動はーー
人間が神仏など人知を越えた存在に遭遇したのと、同じくらいの感動があった。
だから正義マンは信じるのだ。人間の中にある「永遠の形」を……
**
サンタさんの住むログハウスは寒冷地にあった。
雪の降り積もる人里離れた山間の地にあるログハウス内で、サンタさんは壁に貼ったタペストリーを腕組みして眺めていた。
タペストリーには「七人の悪魔商人」の一人ミス・パーコーメンと、「運命の五人」の一人ビッグボイン、更にサンタさんの三人が並んで写っている。
ミス・パーコーメンはチャイナドレスの美女であり、ビッグボインは世界一(何が)とも称される美女である。
左右を高名な美女商人に挟まれて、サンタさんも照れ臭そうに笑っている記念の一枚だ。
なお、サンタさんは巷にあふれる穏やかな老人の姿ではなく、銀のマスクのような光沢を放つ面に、鍛え抜かれた若々しい肉体を持つ。
老人の姿として世界の人々に認識されているのは、世を忍ぶ仮の姿であると同時に、その理念の象徴であるからに他ならぬ。
ーーボタボタボタ
腕組みしたサンタさんは威厳にあふれていたが、彼は大量の鼻血を流し、滴が床に落ちていた。
ミス・パーコーメンのチャイナドレスのスリットからのぞく脚線美と、ビッグボインの巨大で深い谷間ーー
それが完璧商人始祖たるサンタさん(真の名を「白銀マン」という)に、少年のような感情を思い出させている……
「ニャガニャガ~」
その時、ログハウスの窓を勝手に開けて侵入してきたのは精神マンだった。
狂気の道化師じみた顔に浮かぶ歪んだ笑みが恐ろしい。
「サンタさん…… 私というものがありながら……」
完璧商人始祖たる精神マンは、サンタさんの手を取って自身のたくましい大胸筋に押し当てた。
精神マンは男だが、男であるサンタさんが好きだ。愛しているのだ。
「ほわああああ!」
「お久しぶりですねえ、サンタさん♥️」
「ツアッー!」
サンタさんは殺意を秘めて精神マンに飛びかかった。
「ニャガニャガー、サンタさんてばー!」
サンタさんの猛攻を必死の形相で防ぐ精神マン。さすがは共に完璧商人始祖といったところだ。
「シャババ~、何事だー!」
台所から廊下を駆けてきたのは、一つ目のトナカイ(302cm、580kg)だ。
凄まじい体にエプロンをつけているトナカイは、朝食の準備をしていたのだ。彼はサンタさんの身の回りを世話している。
また、このトナカイもただのトナカイではない。
正体は完璧商人始祖の一人、眼マンだ。最近は人里へ降りて料理教室に通ったりもしている主夫である。
「あー、貴様はー!」
「ニャガニャガ~、トナカイさんお久しぶりですねえ。サンタさんと同居していて、彼の下着も洗っている貴方に軽く殺意を持ちますよ」
「シャババ~、私とサンタさんはそういう仲ではなーい!」
エプロン姿の眼マン、いやトナカイは巨体に似合わぬハイキックを精神マンに見舞った。
「ツアッー!(意:殺す!)」
サンタさんはトナカイと背中合わせになって担ぎ上げると、駆け出した。
「エルクホルンコンプレッサー・トレインー!」
サンタさんとトナカイのツープラトン技が、精神マンに向かって放たれた。
**
暗黒サンタは思い出す。
商人の神であった「ザ・漢」との対決を。
“いつの日か、お前がその技で私を倒すのを楽しみにしているぞ”
数億年前、ザ・漢は微笑しながら暗黒サンタにーー
完璧商人始祖の一人、黄金マンに言ったのだ。
それを成し遂げるまでの長き苦悩の年月と、達成した時の充足……
死の覚悟、全身全霊、最高の一手……
あの一瞬は黄金マンにとって永遠だ。
そして、あの一瞬もまた「永遠の形」の一つかもしれぬ。
自ら体現した「永遠の形」を、黄金マンは決して忘れぬ。
「優しさを他人に押しつけてはならぬ。いかに命を懸けようと、他人に見返りを求める優しさなど偽善というものだ。優しさだけでは救われぬ。余計に惨めになるという事を忘れるな」
黄金マンは配下の悪魔商人たちに告げた。それは弟、白銀マン(サンタさん)の信念の否定であった。
「プレゼントをもらうに相応しいか、転生するのに相応しいか、今一度自問してみればいいのだ」
黄金マンの厳しさは子どもに通じるだろうか、また昨今の異世界転生物への痛烈な皮肉をこめて黄金マンはつぶやいた。
さて、彼の配下の悪魔商人達は年末に向けて何をするかと……
「年末にはシングルを発売するアルよ!」
ミス・パーコーメンは、最近は宣伝ばかりだ。まあ、営業は大事である。
「年末は試合だ!」
六騎士の一人、阿修羅マンは年末のスペシャルマッチに向けてトレーニング中だ。
「ニンニン~」
残忍者は何も告げずに場を去った。今では「強敵(とも=友)」となった鴉マンと共に、年末は山で修験者の修行だという。
「クリスマスには特別メニューを用意するぜ!」
「七人の悪魔商人」のリーダー、猛牛マンは牛丼市場を把握するがーー
クリスマスに一人で御来店のお客様には特別メニューを用意するという。
「く、優しいな……!」
猛牛マンの心遣いに感涙したのは、同じく七人の悪魔商人の一人、バネマンだ。おそらく彼は今年もシングルベルだ。
(私も待っているぞ、お前たちの内の誰かが、私を倒すのを……)
黄金マンは配下の悪魔商人らを見回した。
そして、同時に今年のクリスマスは猛牛マンの店でシングルベル特別メニューを楽しむ事に決めた。めでたし、めでたし。
**
クリスマスイブにサンタさんと暗黒サンタは対決した。
サンタさんの正体は完璧商人始祖の白銀マンである。
そして暗黒サンタの正体は、完璧商人始祖にして白銀マンの実兄、黄金マンである。
「世界中の子どもを祝福したい」
それが白銀マンの主張だ。分け隔てなく子どもを祝福するべきだと。
「選ばれし者にこそ祝福がある」
と主張するのは黄金マンだ。己が未来に確かな目標を持つ者にこそ祝福が与えられると。
「衝突は避けられぬなゴールド、シルバー」
市場経済における「神の見えざる手」であり、闘争の「裁きの神」である正義マンがレフェリーとなり、黄金マンと白銀マンの対決は始まった。
「ニャガニャガー、白銀マンさーん!」
サンタさんに生暖かい声援を送るのは精神マンだ。
「行けー、白銀マン!」
「一つ目のトナカイ」こと眼マンも白銀マンを応援する。
暗黒サンタの戦いを見守るのは、世界の鶏肉市場を司る完璧商人始祖・鴉マンと、悪魔商人にして商人血盟軍の一人・残忍者……
他に猛牛マン、ミス・パーコーメン、阿修羅マンといった悪魔商人たちであった。
「ツアー!」
白銀マンは得意のパーフェクトディフェンダーで黄金マンのミドルキックを受け止め、弾き返し、更にエルボースマッシュで反撃に出る。
黄金マンはそれを受け止めるや、白銀マンをつかみあげて、ボディスラムでリングに叩きつけた。
白銀マンはすぐさま立ち上がり、黄金マンをロープに振った。
返ってきた黄金マンへ白銀マンは左腕のシールドでぶち当たる。
が、黄金マンはすぐさま体を軟体化させて、白銀マンの攻撃を受け流した。
更に黄金マンは白銀マンの首に己が両足を絡ませて、ヘッドシザースで投げた。
ダダアン!とリングが揺れた。
黄金マンも白銀マンもすぐさま立ち上がり、リング中央で対峙した。
二人の金属じみた面には、充実の笑みが浮かんでいる……
兄弟揃って、互いに互いを最大の難敵と認めあっているのだ。
尚も続いた熱き戦いには、商人の神である「ザ・漢」も言葉を失った。
「グロロロオ~……」
ザ・漢は目元を拭った。彼が望んでいたのは、このようなものではなかったか。
愚かさゆえに絶滅させられそうになった商人だが、運命は味方した。
商人は数億年の時を経てなお健在であり、そしてその魂を輝かせている。
黄金マンにいたっては、ザ・漢を倒し、彼を隠居に追い込んでいる。
ザ・漢は望んでいた光景を目の当たりにし、魂の慟哭を抑えきれぬ。
商人は素晴らしい。
戦う魂は永遠の形――
信じた道の正しさを黄金マンと白銀マンは証明した。
ザ・漢はそれに感動したのだ。
「将軍様ー!」
猛牛マンの声援に力を沸かせた黄金マンは、ラリアットで白銀マンをガードごと吹き飛ばした。
「サンタさーん!」
精神マンの声援に、白銀マンは無心の力を発揮し――
黄金マンの眼前に踏みこみ、タックルして捕らえた。
そしてブリッジの勢いで、黄金マンを宙高く浮かせた。
「こ、この技は……!」
黄金マンは空中でうめく。白銀マンも跳躍し、ブリッジの連続で黄金マンを空へと放り上げていく。
これは白銀マン最大の必殺技「尊大なる閃光」へのプレリュードではないか。
「よくぞここまで……!」
窮地に陥った黄金マンだが、彼は満足していた。
ザ・漢も黄金マンの成長と、自身の敗北を心地よく受け入れた。
そのザ・漢の気持ちが、今の黄金マンにはよくわかる。
弟の白銀マンは、兄である黄金マンを越えようとしているのだ。
「ツアー!」
白銀マンは空中で黄金マンを複雑な固め技にとらえた!
「こ、これは!」
「『尊大なる閃光』ではない!」
「あ、あれは『筋肉の閃光』だー!」
白銀マンは黄金マンに最大の慈悲たる技、自身の目指した理想である『筋肉の閃光』をしかけていた。
黄金マンと白銀マン、二人の祝福が世界中を包んでいった。
**
時は少々巻き戻るーー
オメガの六槍角が希望を探すため、旅立たんとした時ーー
「チ、チックショウ…… モテ期来たと思ったのにー!」
六槍角の一人、雹マンは絶叫した。
雹マンは仲間のル・騎士とギア達人と共に、旅立ちの準備をしていた。
そこへ女性が数名、やってきた。
何事かと思えば、彼女達は海賊マンを慕っている者達であった。
「ど、どうか海賊マンさんをよろしくお願いいたします……」
女性たちはなりふり構わず、雹マンらに海賊マンを守ってくださいと懇願したのだ。
「カキカキ…… な、なんであいつばっかりもてんだよ~!」
雹マンは後ろにのけ反って悶絶した。
同じ六槍角の一員として雹マンも命がけだが、海賊マンと何が違うのか。
海賊マンは巨体を活かして女子どもを災害から守る盾となることが多かった。
しかも見返りを一切求めず……
「ガウガウ、安心しな」
「ギアギア、海賊マンは我らが必ず連れて帰る」
ル・騎士とギア達人は女性たちを安心させるために、笑顔で応えた。
「女性のためにやる、それが騎士の務めだ」
「ギアギア、男冥利に尽きるな」
ル・騎士とギア達人は雹マンのように嫉妬することなく、彼女達の懇願を受け入れた。
女性らの必死の思いに感心し、そして男の使命に改めて気づいたのだ。
「チ、チックショウ、俺もそっちかよル・騎士…… おまえら帰ってきたら女の子紹介しろよな!」
「ムマムマ、早くしろお前たち!」
泣き顔の雹マンに、海賊マンが準備を急がせた。宇宙船の操縦は海賊マンが担当していた。
「か、海賊マン様お気をつけて!」
「うむ、我らは必ずや希望の力を手に入れて戻ってくるからな」
女性たちの気持ちに気づかぬ海賊マン。ストイックな彼を、果たしてどれだけの女性が慕っていることか。
知らぬは本人ばかりである。
「チックショウ~!」
「ムマ!? 何をする雹マン! 吾が輩の頭に噛みつくな!」
「お前なんかにモテない男の気持ちがわかってたまるかー!」
「ムマムマ~! お前には辟易させられてばかりだ!」
「キャミキャミー! 早く来い! アリステラが怒ってるぞ!」
そこに天道マンが姿を現し、海賊マンらを宇宙船へと誘った。
彼らが女性たちからもらったのは、勇気であったかもしれぬ。
そして彼ら「オメガの六槍角」は故郷を救う希望の力を求めて旅立ったのだ……
**
北の大地にあるサンタさんのログハウスでは、精神マンと眼マンが言い合っていた。
「ニャガニャガー、海ですよー!」
完璧商人始祖の一人、精神マンは海に遊びに行こうと主張していた。すでに水着と浮き輪も用意していた。
「シャババババー、山だー!」
すでにリュックを背負った登山スタイルの眼マン。
彼もまた完璧商人始祖の一人だが、とにかく昔から精神マンとは仲が悪かった。
今では二人揃ってサンタさんのトナカイ役を務めているがーー
「…………海」
サンタさんはーー
完璧商人始祖の一人である白銀マンは、腕組みした尊大な態度で二人を眺めていた。
「海……!」
白銀マンは鼻血をダラダラ流しながら行き先を決定した。
すでに白銀マンの脳裏には、海で遊ぶ水着姿のうら若き乙女達の姿が思い浮かんでいた。
「ニャガニャガー、海ですよー!」
「シャババババー、くそー!」
喜ぶ精神マンと悔しがる眼マン。
それには構わず、白銀マンはさっさと身支度して海へと出かけるのであった。めでたし、めでたし。
**
宇宙の彼方にある惑星オメガ。
そこに当主のアリステラらが帰ってきた。
地球で手に入れた「希望」の力を携えて……
「よし、星の中心へ運ぶんだ!」
「我輩も行く!」
「キャミキャミ…… た、頼むぞアリステラ……」
アリステラはザ・漢から授かった禁断の石升を手に、海賊マンと星の中心へ向かう。
瀕死の天道マンは直ちに病院へ運ばれた。
故郷の慌ただしい様子を、雹マンとギヤ達人、そしてル・騎士の魂が見下ろしていた。
“カキカキ……”
雹マンはぼんやりと慌ただしい様子を見下ろしていた。これで故郷オメガの星は救われるーー
ならば自分の死も無駄ではなかったと雹マンは思った。
が、眼下で泣いている女たちを見ると何やら悔しい気持ちも生まれてくる。
“なんだよ、チクショー! ちゃんと海賊マンは帰ってきたじゃねえか!”
雹マンは憤った。彼ら六総画が地球へ向かう前、眼下で泣いている女たちは頼みごとをしてきたのだ。
海賊マン様を守ってくださいと。
六総画の一人、海賊マンは巨体を活かして女子供の盾となり、災害から守っていた。
それゆえに多くの女性から慕われていた海賊マン。彼の生還を女たちは喜んだが、同時に雹マンとギヤ達人、更にル・騎士の死亡を悲しんでいたのだ。
“カキカキ……”
雹マンは女たちの思いを知り、大人しくなった。
“ギヤギヤ、男冥利に尽きるな”
“ガウガウ、騎士は貴婦人の願いに応えるものだ”
三者三様の思いが胸中に渦巻く。
ギヤ達人とル・騎士は満足しているが、雹マンはそうではない。
“バカ女ども、俺なんかのために悲しむなよ……”
雹マンにしては珍しく落ち込んだようだ。女たちは海賊マンの無事を望んでいたが、雹マンらの帰還も願っていたのだ……
と、その時だ、彼らの頭上から何かが飛来したのは。
それは先端に巨大なティーパックを取りつけた鞭であった。
そのティーパックの鞭が、意気消沈していた雹マンの首に絡みつく。
“うぐぐぐ……!?”
雹マンからは見えなかったが、ティーパックを投擲したのは、彼らより少し上空に漂っていた紅茶マン(の魂)であった。
“何を落ち込んでやがる! 故郷を救うんだろ!”
紅茶マンの魂は、死闘を演じた雹マンへ激励を送っているようだった。
“こ、この野郎……”
雹マンは紅茶マンのティーパック鞭をほどこうとするが、全く駄目だった。
魂だけの存在になった紅茶マンと雹マンに、商人強度の概念はない。
今なら両者の試合は、間違いなく名勝負になるだろう。
“我々も及ばずながら手伝いに来たぞ!”
“これも捲土重来だぜ!”
“下水の整備は任せろ!”
場にはカレーcook、インディアンマン、エラードの魂もやってきていた。
彼らは死しても正義商人、オメガの危機を救いに来たと見える。
“ガウガウ、お前たち……”
“ギヤギヤ…… 手伝ってもらう事は山ほどあるぞ”
“おい、てめえ! 鞭をほどけ!”
ル・騎士、ギヤ達人、そして雹マンの魂は、正義商人の助力を受けて、オメガの星を救わんと奮闘する――
**
悪魔商人を率いる暗黒サンタは、海で強化合宿を行った。
「ファイオー、ファイオー、ファイオー!」
波打ち際をランニングする悪魔商人たち。
猛牛マンにミス・パーコーメン(※遠い親戚がエジプトにいる紅一点)、残忍者や阿修羅マンといった強者たちだ。
彼らは客のいない民宿を数軒貸切り、二週間もの間滞在した。
病魔の影響で困っていた民宿の方々には有難い事であったろう。
暗黒サンタのーー
真の名は完璧商人始祖の一人、黄金マンの真意は測り知れぬ。
「シャバババー、もっと持ってこーい!」
海の家では、完璧商人始祖の一人、眼マンが大量の料理を平らげていた。
「ニャガニャガ、店員さん、この眼マンさんは一日に百キロ以上も食べるんですよ」
眼マンの隣には同じく完璧商人始祖の一人、精神マンがいた。
眼マンも精神マンも「サンタさん」に仕えるトナカイ役であった。
「さ、眼マンさん遠慮せずに食べてください。私のおごりですから」
「シャバババー、貴様に言われんでもわかっておるわー!」
「ニャガニャガ…… 店員さん、支払いはカードで」
「すいませーん、うちはカード使えないんですー!」
「え……」
料理を運ぶのに泣きそうな女性店員、青ざめた精神マン。
眼マンは店主(女性店員の兄だという)の作った料理を次々と食べる。とっくに限界を越えていた。
客の来ない海の家を救おうとする眼マンと精神マン、その真意もまた測りがたかった。
「…………」
サンタさんはーー
完璧商人始祖の一人、白銀マンは波打ち際に一人腕組みしてたたずみ、海の彼方を悲しい顔で見つめていた。
(水着のお姉さんがいねえ……!)
白銀マンが海に来たのは、水着のお姉さんたち目当てであった。
だが混沌のもたらした病魔の影響で、海水浴場はどこもかしこも閑古鳥が鳴いていた。
絶望した白銀マンは砂浜に頭を埋めて逆立ち状態になった。ゴーストキャンバスで自分の首をねじ切りたくなったのだ。
「超神ども来るなら来るがいい……」
黄金マンは情けない弟を一瞥し、青い空を見上げた。
平和な一時は、束の間の休息だ。
**
人知を越えた力を有し、世の経済を司る超人達……
人は彼らを「正義商人」、「悪魔商人」、「完璧商人」と呼んだ……!
北の大地にあるサンタさんのログハウス。
その凍てつく大地のリングで、サンタさんは修行に励んでいた。
「ツアッー!」
サンタさんはーー真の名を白銀マン(220cm162kg)というーーは、スパーリング相手の眼マン(302㎝580㎏)に、渾身のミドルキックを叩きこんだ。
充分に体重の乗った重い蹴りだが、眼マンには効いた様子もない。
「シャババー!」
体格ではるかに勝る眼マンは、白銀マンのミドルキックをガードするや否や、僅かに身を屈めて右肩からタックルした。
「く!」
白銀マンは咄嗟に両腕を持ち上げ、完璧防御で眼マンのタックルを防ぐ。
僅かに身をずらして直撃こそ避けたものの、眼マンの圧倒的なパワーの前に、白銀マンはコーナーまで吹っ飛んだ。
銀に似た光沢を持つ厳かな面には、焦燥が浮かんでいた。
「ニャガニャガ~」
精神マン(206cm102kg)は倒れていた白銀マンの首に両手をかけた。
そして、いわゆるネック・ハンギング・ツリーで白銀マンを持ち上げる。
白銀マンに比べ細く見える精神マンだが、その握力は完璧商人始祖の中でも特筆ものだ。
「うぐぐ……!」
「ニャガニャガ~ サンタさん、こんな事で倒れてどうするんです? 貴方は世界中の子ども達を祝福する身なんですよ?」
苦しげな白銀マンへ、精神マンは喝を入れた。
そう、白銀マンはサンタさんなのだ。
もうじきクリスマス、その時にはサンタさんは世界中の子ども達を祝福しなければならない。
ましてや今年は混沌のもたらした病魔によって、世界中が不安という名の暗黒に包まれているのだ。
それを打ち払い、子ども達に喜びと希望を与えるのが、サンタさんの使命なのだ。
「……ツアッー!」
白銀マンは両手を伸ばし、精神マンの両手首をつかんだ。
精神マンの手首の関節が、グキグキと嫌な音を立てる。
「痛っ……!」
思わずうめいて体勢を崩した精神マンを、白銀マンは両手で突き飛ばした。
そして眼マンへと突っ込み、左右の肘打を連続して叩きこんでいく。
「シャババー、それでこそサンタさんだー!」
白銀マンの猛攻に気圧されながら、眼マンは両手を伸ばしてつかみかかる。
「ツアッー!」
白銀マンは素早く眼マンの懐に飛びこみ、その右腕を捕らえると、素早く体を回して投げた。
渾身の一本背負投でリングに叩きつけられた眼マンは、悶絶して言葉もない。
「ニャガニャガー!」
精神マンの攻撃ーー
鋭い刃のごとしドロップキックを避けると同時に、白銀マンはカウンター気味のラリアットで精神マンを吹っ飛ばした。
倒れた二人を前に、白銀マンは息も荒くし身構えていたが、
「……お見事! サンタさん!」
眼マンは身を起こして親指を立てた。精神マンも起き上がり、同じように親指を立てる。
白銀マンは「ふう~……」と息を吐き出した。ようやく満足のできる戦いが出来たのだ。
「……流石だな、白銀」
林の陰には完璧商人始祖の一人、正義マン(209㎝136㎏)も潜んでいた。
彼はサンタさんを心配していたが、どうやら安心したようである。
「ちょっと、そこの! 後方彼氏ヅラしないでくださいよ!」
精神マンはぶちギレ寸前だ。特訓を盗み見していた正義マンは、確かに後方彼氏のポストだ。
「やれやれ……」
白銀マンは空を見上げた。
混沌の脅威、未だ収まらず。
ましてや超神らの侵攻も始まっている。
彼らの戦いの行き着く場所さえ見えてこない。
それでも、やるしかない。
誰もが己の使命を果たすのだ。
欲望に負けた時は、麻薬浸けのごとき混迷の日々が待っている。
明日へ向かって、
闘将!! 白銀男!!
**
白銀マンはクリスマスに向け、最後の調整に入っていた。サンタクロースの正体は「完璧商人始祖」の一人である白銀マンだ。
「メリイークリスマアスッ!」
220cm、162kgの白銀マンは吹雪の中で石を山積みにしたトロッコを引いていた。
気温は氷点下25度、風速37Mの中では体感温度は氷点下62度……
その過酷な状況での修行は、クリスマスを祝福する為の強い意思を養うものだ。
「メリイークリスマアスッ!」
白銀マンを叱咤激励し見守るのは、サンタの相棒にして「一つ目のトナカイ」である眼マンた。
「メリイークリスマアスッ!」
白銀マンを見守るのは「二人目のトナカイ」である精神マンだ。
白銀マンの体には氷雪がまとわりつき、白く染まっている。
命すら危うい状況で白銀マンを見守る眼マンと精神マン、二人は命がけで付き添っているのだ。並大抵の友情ではない。
「メリイークリスマアスッ!」
白銀マンはトロッコの鎖を引っ張る。重さ四トン近いトロッコが動き出した。
「メリイークリスマアスッ!」
白銀マンの気合いが寒空に響く。トロッコに繋がる鎖を引く白銀マンの両手から、熱い血潮が流れ出した。
「メリイークリスマアスッ!」
白銀マンの気合いと共にトロッコは少しずつ動き出した。
そうだ、物事を動かすにはーー
運命や天を動かすには、命をかけねばならないのだ。
ましてや白銀マンは概念や存在の意義を守る者だ。
クリスマスの守護者である白銀マンが、子ども達を祝福するのに命をかけられぬわけがない。
「ツアッー!」
白銀マンの烈火の気迫。トロッコはゴトゴトと、ゆっくり動き出した。
眼マンと精神マンは普段は仲が悪いが、今この時ばかりは、互いに氷雪に白く染まった顔を見合わせた。
**
クリスマスは近い。「暗黒サンタ」である黄金マンも最後の調整だ。
しかし黄金マンにも迷いがあった。世界は混乱と貧困、そして悪意と暴力が満ちあふれてきた。
それは目に見えない刃と化して人の世に潜んでいる。
この状況下で、自分は果たして子ども達に夢と希望を与え、祝福する事ができるのか。
明るい未来を創り出すのは、夢や希望に燃える未来の大人(現在の子ども)なのだ……
「テハハハ~」
トレーニングルームに響く声。しばし物思いにふけっていた黄金マンが我に帰れば、そこには朋友たる痛覚マンがーー
安眠枕市場を司る「完璧商人始祖」の一人が、相変わらずの気さくな笑顔を見せていた。
「お前は頭が固すぎる、もっと私のように柔らかくならんとな」
「……そうだったな、痛覚マンよ」
「モガハハハハ、未熟なり黄金マン!」
いつの間にか、トレーニングルームにはもう一人現れていた。
パーフェクトザルールの異名を持つ「完璧商人始祖」の一人、ジンギスカン鍋市場の支配者、奈落マンである。
「お前がそんなザマなら、俺が代わりに世界中の子ども達にプレゼントを配っちまうぜ~!」
「……無理だな、お前は顔が怖すぎる」
「なんだと、テメエー!」
奈落マンの怒りも、同じ完璧商人始祖の絆の現れだ。厳かな黄金マンの心中は安らぎを得ていた。
「クア~、行くぞ黄金マン。世界最速の翼に振り落とされるなよ」
鶏肉市場の支配者、完璧商人始祖の鴉マンの引くソリに乗り、黄金マンと痛覚マンと奈落マンは出陣した。
世界中の子ども達を祝福し、導くために。
今ごろは白銀マンも、眼マンと精神マンの引くソリに乗り、世界中を飛び回っている事だろう。
サンタである白銀マンは、子ども達にプレゼントをーー
暗黒サンタである黄金マンは、子ども達に祝福と導きを与えている……
「ちょっと待て、奈落マンと痛覚マンは下りろ」
「テハハハハ、たまには高みから地上を見下ろしてみるもんだ」
「モガハハハハハハ~! 人がまるでゴミのようだぜ!」
「ソリから下りろ貴様ら!」
「重量オーバーだが頼む、時間が……」
珍しく泡を食った黄金マンは、痛覚マン、奈落マン、鴉マンと共に世界中の空を駆け回り、子ども達に夢と希望を配った。
サンタクロースたる白銀マン、暗黒サンタの黄金マンの二人は、聖なる使命を無事に終えた。世界中に喜びの波動が伝播した。
「いい仕事だった…… よくやった黄金マン」
完璧商人始祖のリーダー、慈悲の神たるザ・漢は微笑しながら拳で軽く黄金マンの胸を打った。満身創痍の黄金マンも頷いた。
「テハハハハ~……」
奥の部屋では痛覚マンが大の字に寝ていた。その彼の体を安眠枕にし、奈落マンと鴉マンが眠っていた。
クリスマスの祝福は終わった。そして世界は始まる。
未来を守り、未来を創る戦いは、まだ始まったばかりなのかもしれない。
**
「暗黒サンタ」の黄金マンは思い出す。
かつて彼は商人の神であるザ・漢に「その技一つでアンタを倒す、それができねば奥義とは呼べぬ!」と言った。
ザ・漢は応えて言った。
「その技で私を倒す日を楽しみにしているぞ黄金マン」
と。それは数億年の歳月を経て達成された。
ーー満足だ……
黄金マンの人生は満たされていた。
大願を叶えた事よりも、長きに渡る挑戦の充実に満たされたのだ。
その充実ゆえに黄金マンは、いつでも人生を終える覚悟ができた。
そして新たな「現在」がある。
「将軍様に栄光あれ!」
黄金マンの前にかしずく悪魔商人たち。
猛牛マンを筆頭にした「七人の悪魔商人」。
阿修羅マンと残忍者が所属する「悪魔六騎士」。
彼ら十三人の選ばれし者を率いて、黄金マンは今日も世の経済を司るために働く。
**
年は明け、世には一時の平和が訪れた。
町中には参拝客があふれている。
「ツアッー!」
白銀マンは参拝客に混じったバカップルへ襲いかかった。
かつて完璧商人始祖が悪行商人を成敗した際、兄の黄金マンと並んで多数の者を殺害した事から「虐殺王」とあだ名された白銀マンだ。
「ド外道がー!」
白銀マンは血涙を流しながらバカップルを襲い続けた。
完璧商人始祖として数億年も使命を果たしてきた彼は、彼女いない歴も数億年であった。
クリスマスには世界中の子ども達へプレゼントを贈ったサンタクロースである白銀マンだが、バカップルには容赦がない。
「ツアー!」
バカップルへ必殺の「尊大閃光」を放つ白銀マン。もはや彼を止められる者はいない。
新春早々、世界は混乱に満ちているようだ。
**
「ハワッ!」
「裁きの神」と呼ばれる正義マンの手にした天秤が揺れる。
この天秤は世界の「正義」と「悪」を測る天秤であった。
その天秤は「悪」の一方へと傾いた。だが「正義」は0ではなく、存在しているのだ。
「人類の求める…… 永遠の形……」
正義マンはつぶやく。市場経済における「神の見えざる手」を司る完璧商人始祖である正義マンは昨年、悪意の実体化した大魔王を塩試合で完膚なきまでに叩き潰した。
だが大魔王は言った。必ず再びよみがえると。それは映画「魔界○生」のラストで天○四郎が放ったセリフと、ほとんど同じであった。
この世に人間がある限り、魔性は不滅なのだ。それを討ち滅ぼす為に正義マンも存在し続けてきた。
同時に人類の愛と勇気の概念も存在し続けた。有限生命体である人間の、後世に受け継いでいく愛と勇気、その意思もまた永遠の形だ。
「……大自然からの試練か」
正義マンは尚もつぶやく。
今年は大自然からの試練が人類を襲うだろう。これもまた混沌のもたらした「大いなる災い」だ。
しかも、すでに人類を滅ぼすために「調和の神」を筆頭にした超神たちが受肉して地に降りてきているのだ。
世の経済を司る超人である「商人」は、正義・悪魔・完璧の壁を越えて一致団結し、立ち向かっている。
だが、これだけ闘いながら討ち滅ぼしたのは「憤怒の神」のみ……
クリスマスの守護者である白銀マンと黄金マンは、今はパワーを使い果たしている。
彼らの協力者である眼マン、精神マン、痛覚マン、奈落マン、鴉マンも同様だ。
残る完璧商人始祖の歌唱マンも、クリスマスとニューイヤーでパワーを使い果たした。
「夏の誘惑」たる幻影マンは夏まで眠りについている……
「慈悲の神」であるザ・漢の指揮の元、筋肉男(正義商人筆頭にして白銀マンの子孫)やその兄の兵……
更にブロークンハートに闘将麺なども参戦しているが、劣勢は否めないように思われた。
「知性の神」の名代のスーパー不死鳥、「剛力の神」の名代のビッグボインもタッグを組んで挑む。
また悪魔商人の阿修羅マンも戦場に馳せ参じた。
だが、と正義マンは思う。
「これは人類が自分達の未来を守る闘いなのだ……」
正義マンは目を閉じ瞑想した。
商人達が超神を倒しても、人類に悪の心がある限り大魔王は再び現れる。
一昨年は命を失った者達が多かった。
それは世界を覆う病魔との来るべき闘いに向け、肉体を捨てた者達が多かったからだ。
だからこそ、この國は守護られているのだ。
自分は病魔の影響など受けていない!と豪語する者達も、死した後、命を捨てた人々が「あの世」で病魔という運命を食い止める闘いをしていた事実を知れば、唖然とする事だろう。
「正しく永遠の形…… そして世界はまた割れる」
正義マンは気づいていた。
世界は秩序と混沌、そして中立の三つに別れた事を。
世界の平衡をも司る守護者の正義マンには、中立に属する者達の動向が未来を決するように思われて仕方ない。
**
人類未曾有の危機ーー
人類を滅ぼすべく、受肉して地に降り立った超神達。
大いなる生命の源である海もまた、人類に試練を与える。
災禍の中心で戦いの雄叫びを上げるのは、正義と悪魔の垣根を越えた超人達ーー
人知を越えた力を有し、世の経済を司る商人によって結成された商人血盟軍だ!
「いざ血盟の御旗を世に掲げん!」
正義商人である兵とブロークンハート。
七人の悪魔商人の首領である猛牛マン。
悪魔六騎士の残忍者と阿修羅マン……
彼ら五名は血よりも強い絆で超神達に立ち向かう。
罪の世界で生きてきた者が、天から使命を与えられる……
人それを召命という!
サンタさん(正体は完璧商人始祖の一人、白銀マン)の住むログハウスの近くでは、眼マンと精神マンが人里に現れた人食い巨大熊と戦っていた。
「シャババババ~、下界は大騒ぎのようだな」
一つ目の商人、眼マンはどこか浮きだっていた。
「ニャガニャガ、そうですよ。正義と悪魔が共に手を取り、未曾有の危機に挑む…… これこそ閻魔さんや私の望んだ世界ではありませんか」
精神マンもまた機嫌が良さそうた。眼マンも精神マンも完璧商人始祖であり、地上の平和を調停すべく、数億年も活動してきたのだ。
商人は素晴らしい。
それを証明すべく、かつて慈悲の神「ザ・漢」は受肉して商人となった。
「我々はこの世界の平和を守る……」
「完璧商人始祖だー!」
精神マンは眼マンと背中合わせになり、彼の巨体を担ぎ上げた。これぞ二人の最強のツープラトン技、
「くらえー、エルクホルンコンプレッサー・トレインー!」
眼マンを担ぎ上げた精神マンは、人食い巨大熊に突き進んだ。
**
世間はホワイトデーだ。
完璧商人始祖である眼マンと精神マンは、最果ての北の大地に立つログハウスで、ホワイトデーのお返しを準備していた。
「シャバババ~」
眼マンは丁寧にお返しをラッピングしていく。もらったチョコレートは二十八個だ。
主夫として料理教室に通っている眼マンは、そこの女生徒からチョコレートをいただいていた。
「ニャガニャガ~」
精神マンは手作りのお返しのラッピングを終え、一つ一つを小綺麗な袋に詰めていっている。
彼がもらったチョコレートは二十四個。眼マンには劣るが、彼がサンタさん(※白銀マン)の従者となったのは最近の事だ。
精神マンは短い時間でサンタさんの従者として、近隣住民から人気を集めていた。
「シャバババ~、来年は負けんぞ!」
「ニャガニャガ~、こういうのは勝ち負けじゃないんですよ。己の行いに結果が出るんです」
眼マンと精神マンが準備を終えて、ログハウスを出ようとした時だ。
白銀マンが寝室から出てきたのは。
ーーシャキィーン
白銀マンはフェイスガードを下ろした臨戦態勢である。全身から発される闘志に、眼マンと精神マンは震え上がった。
白銀マンはバレンタインの守護者「バレンタイン・エビル」からチョコレートをもらったきりだった。
仕方がない事だ、サンタさんの真の姿を知る者は、この世界で僅かなのだから。
完璧商人始祖の一人、白銀マンこそがサンタさんの正体だとは、普通の人間が知るわけがないのだ。
「ツアッー!」
白銀マンは眼マンと精神マンを瞬殺(※死んでません)すると、人里へ向かった。
**
ハロウィンが近づき、クリスマスも射程距離に入り――
混沌の波動を受けた悪行商人らが世界を乱していく。
それはさながら、かつてのハロウィンの夜のようだ。
今でこそハロウィンは人々の憩いの祭だが、かつては「向こうの世界」から「こちらの世界」へ無数の妖魔が現れる夜だった。
妖魔は人々の不安と恐怖を糧にして存在する……
「ヒャッハー!」
今もまた、町外れに生じた「時空のねじれ」から妖魔の群れが飛び出してきた。
ハロウィンには時期尚早の招かれざる客たち。彼らは小物の妖魔だが、人間の心に取り憑き支配することができる。
空には雷雲が漂い、先の不安を象徴していた。
雷が大地へ落ちようとする、その時だ。
「ニャガニャガー!」
気合いと共に、何者かが雷を手で受け止めて妖魔らへ投げつけたではないか。
「完璧商人始祖奥義、サーベル・サンダー!」
空中から妖魔へ雷を投げつけていくのは、完璧商人始祖の精神マンだ。
「シャバババ~!」
地上では一つ目の巨漢超人が妖魔を蹴散らしていく。頭部に巨大な角を生やしたこの超人もまた完璧商人始祖の一人――
眼マンだった。
「そこまでです、悪しき者たちよ」
精神マンは道化じみた笑みを消し、使命を全うする決意に満ちた顔で、妖魔の群れを見回した。
「シャバババ~、この世に闇ある限り、我らは必ず現れる! 貴様らの悪行、いつまでも続くわけがない!」
「なぜならば…… この世には、我ら完璧商人始祖がいるのですからね!」
眼マンと精神マン、二人の迫力に妖魔の群れが気圧される。
そう、この世界には光と闇がある。
妖魔ある限り、この世の調停を司る完璧商人始祖もまた不滅なのだ。
「待て、その者らの相手は私がする」
雷雲が割れ、一条の光と共に地上に降り立ったのは、市場経済における「神の見えざる手」を司る正義の顕現たる正義マンだ。
「それが我ら完璧商人始祖の使命なのだからな」
裁きの天秤を手にした正義マン。
一つ目の巨漢超人、眼マン。
道化じみた容貌にして雷を自在に操る精神マン。
十一人しかいない完璧商人始祖のうち、三人までもが今この場に集うとは。
妖魔らの恐怖こそ推して知るべしだ。
「ニャガニャガ、帰ってくださいよ! 私一人で充分ですから!」
精神マンは抗議した。元はバレンタインの守護者たる「バレンタイン・オメガ」だった精神マン。
今は愛するサンタさん(※完璧商人始祖の一人、白銀マン)の「二人目のトナカイ」である精神マンは、眼マンと正義マンとは仲が悪い。
「シャバババ~、何を言うか! ド下等どもは殲滅せねばならんのだ~!」
眼マンは声を荒げる。太古の昔よりサンタさんのトナカイとして、その務めを果たしてきた眼マン。
そんな眼マンは、サンタさんと精神マンと一つ屋根の下で暮らしているが、精神マンとは非常に仲が悪い。
「ハワー!」
二人を無視して、正義マンは襲いかかる妖魔にミドルキックをお見舞いした。
「ニャガー、聞いてるんですかー!」
「シャバババー、一人占めはさせんぞー!」
仲の悪い眼マン、精神マン、そして正義マン。
そんな三人だが、見事なまでに息を合わせて妖魔を蹴散らしていく。
今年のハロウィンは、きっと楽しくなる。
**
馬小屋の中から産声が聞こえた。
無事に主は生誕したのだ。
馬小屋の外では、完璧商人始祖の三人が――
黄金マン、白銀マン、正義マンの三人は安堵していた。
「む!」
その時、黄金マンは主を狙ってやってきた魔物の気配を察知した。
「ハワアーッ!」
正義マンもまた魔物に気づいた。彼を含めた三人は、即座に頭は真っ白に――
守るために戦う意思によって、無の境地へ達していた。
「フンッー!」
黄金マンは魔物の一体を捉えると、スピン・ダブルアームの姿勢から、脇へと放り投げた。
そして放り投げた魔物の背に乗り、サーフィンのように滑空し、魔物の頭部を巨木へと叩きつけた。
「ハワアッー!」
正義マンは魔物を宙高く放りあげた。
そして自らも宙高く舞い上がり、ヘッドバットの連続で魔物を更に高く浮かせていく。
そして変形式のパイルドライバーに固めて、地上へと降下した。
「有罪!」
正義マンの変形パイルドライバーで魔物は大地に頭を叩きつけられ、KOされた。
黄金マンも正義マンも、魔物を殺してはいなかった。今日は聖夜である。聖夜に殺生は控えたかった。
いや、それよりも二人の心身に走った衝撃はどうだろう。
主を守らんと、そして主を産み出した聖母を救わんとした時、彼らは突き抜けるような感覚に包まれた。
白紙の心、無の境地。
その感覚は黄金マン、正義マンが体感した事のない新たな境地を切り拓いた。
「ツアーッ!」
そして白銀マンもまた、新たな境地へ到っていた。
彼はブリッジの姿勢から、魔物を腹筋の力で空へと打ち上げた。
それは白銀マンの必殺技「尊大なる閃光」の序章であった。
が、違っていた。白紙マンは似て非なる技をしかけている。
「なんだあれは!」
「尊大なる閃光ではない!」
黄金マンと正義マンの驚愕に構わず、白銀マンは無心に技をしかけていく。
「ツアーッ!」
白銀マンは空中で魔物を捉え、背中合わせになった。
そして自身の両腕と両足で、魔物の両腕と両足もロック。
その姿勢で空中高くから落下し、魔物を腹部から大地に叩きつけた。
これは白銀マンの必殺技「尊大なる閃光」ではなかった。
白銀マンは技を解き、魔物を見下ろした。
「ガハアー!」
魔物は吐血し、その飛沫が白銀マンの白い衣服を朱に染めた。だが魔物は生きている。
黄金マンと正義マンの倒した魔物もまた生きていた。
「今夜は無益な殺生はしたくない」
というのが白銀マンの意見であった。今宵は主の生誕であり、いかに魔物であろうと命を奪いたくなかったのだ。
常に「倒す」という意識を以て完璧商人始祖は戦ってきた。
だが今宵は「主を守る」という意思に導かれて戦った。
そうして繰り出された技は、彼らですらが思いもよらぬ技であり、威力であった。
三体の魔物は消えていく。死んだのではなく、主の暗殺をあきらめたのだ。
「シャバパパー、終わってしまったのか、つまらん!」
慌てた様子で場にやってきたのは、巨大な角を持つ単眼の眼マンだ。
「ニャガニャガ、さすがは白銀マンさんですよ〜!」
もう一人現れたのは、同じく完璧商人始祖である精神マンである。
この世の調停を司る完璧商人始祖の一人であった。
「あ、あなた達は……」
馬小屋から出てきた男は、彼らを見回して恐る恐るたずねた。
「……希望にあふれる未来の守護者だ」
正義マンはそう言って背を向けた。
「メリークリスマス!」
白銀マンもまた男に背を見せた。返り血に濡れた己の姿を見られたくなかったのだ。
「これが聖夜の贈り物……」
男は完璧商人始祖を見送り、夜空を見上げ感謝の祈りを捧げた。
後世には、こう伝わる。
主の生誕に三賢人が現れ、祝福した。
子どもの未来を守るために戦う守護者は、真っ赤な衣服をまとい、トナカイの引くソリに乗って現れる。
その守護者はよく似た風貌の双子であった。
そして、道化師のイメージもまた精神マンの風貌から生じたものであった。
「ニャガニャガ、なんですかそれは…… まあ、いいでしょう。この世に悪は栄えない、なぜならば私達、完璧商人始祖がいるのですからね!」
精神マンが締めて、この件は一時中断となる。
**
人知を超えた力を有し、世の経済を司る超人達……
人は彼らを商人と呼んだ……!
とある北の国、人里離れた地に住む商人がいた。
「シャババババ〜」
一つ眼の商人、眼マンはソリを整備していた。
このソリはサンタクロースを乗せて、聖夜には世界を飛び回る。
今年も聖夜は近いのだ。
「ニャガニャガ〜」
もう一人の商人、精神マンはサンタクロースの衣装の手入れをしていた。
道化師じみた風貌には喜びの感情がある。精神マンも眼マンと同じく、サンタクロースの協力者だ。
そして始まりの商人「完璧商人始祖」の一人でもある。
「……ツァッー!」
屋敷の中から気合の一声と共に筋骨隆々たる人物が現れた。
220センチ、160キロの鍛え上げられた肉体。
「平和の神」として人々の信仰と崇拝を集める者。
かつて悪行商人を誅戮した時は、返り血によって全身を真紅に染めた「虐殺王」。
完璧商人始祖の一人、白銀マン。
彼こそがナザレ生誕の際に現れた三賢人の一人であり、サンタクロースの正体でもある。
「ド外道があー!」
白銀マンは血涙を流しながら、青空に咆哮した。
彼はハロウィンナイトに集ったバカップルを次々と成敗した。
彼女いない歴数億年の白銀マンには、世のバカップルが妬ましい。その割にはマッスル族という子孫がいるから、不思議である。
「白銀マンさんには私がいるじゃありませんかー! ……ニャガ!」
精神マンは白銀マンに抱きつこうとしたが、エルボースマッシュで奥歯をへし折られた。白銀マンの説く友情とは如何に。
「シャバババー、さあクリスマスに向けて特訓だー!」
眼マンは巨体を揺すって、来たるべき聖戦へと、白銀マンの魂を誘うのだった。
**
かつて主生誕の際、東方の三賢人が現れて祝福したという。
それは完璧商人始祖の黄金マン、白銀マン、正義マンの三人という事だ。
そして、三人は主の命を狙ってやってきた魔物を撃退した。
三人ともに咄嗟に放った無心の一手であり、型があるわけでもない。
だが、白銀マンはそこに着目した。
自身の放った無心の一手は、魔物にすら慈悲を与えた。
いつもならば確実に敵を殺しにかかる白銀マンには、ありえない事であった。
(あれこそが主からの贈物だったのだ!)
直感で信じた白銀マンは、己と兄、そして戦友の放った技を壁画に残した。
一つ、筋肉の復讐。
一つ、筋肉の地獄。
一つ、筋肉の閃光……
その技を追求する白銀マンは、クリスマスの守護者サンタクロースでもあるのだ。
北の最果ての地にて、白銀マンは精神マンとのスパーリングに及ぶ。
「ツアッー!」
白銀マンは「完璧ディフェンス」で精神マンの攻撃を防ぎ、前蹴りで彼をふっ飛ばした。
「あなた、それでこそ…… 私の知る白銀マンさんですよ!」
精神マンは薄気味悪く笑った。完璧商人始祖の彼だが、精神がちょっと危ない人だった。
「シャバババ〜」
二人の友情を微笑ましく眺める眼マン。彼もまた完璧商人始祖の一人であり、クリスマスには白銀マンの乗ったソリを引くトナカイの役であった。
眼マンの一つ眼は全てを見抜く。
この時、眼マンは白銀マンの秘めた真理を見透かしてしまった。
「いかん!」
眼マンは白銀マンから視線を逸した。精神マンは嫌いだが、気の毒すぎて何も言えぬ。
「これが僕らの友情だよ、わかってくれたかい?」
「ニャガニャガ、わかりましたとも! クリスマスには、あなたのソリを引くトナカイになりましょう!」
白銀マンと精神マンの二人の間に満ちているのは、欺瞞であろうか。
**
24日の夕方。
サンタクロースである白銀マンは、ログハウスでまだ眠っていた。
「ド外道どもが〜……」
夢の中でも白銀マンはイブイブに浮かれるバカップルへ、制裁を加えているようだった。
彼の従者であり、ソリを引くトナカイ役である眼マンと精神マンもまた、バカップルを制裁して大いに活躍した。
そして三人揃って酔い潰れ、夕方まで寝ているというわけだ。
商人の神であるザ・漢が訪れたのは、そんな時であった。
「……おや、どうしました閻魔さん?」
精神マンは寝ぼけたまま言った。その様子にザ・漢はブチ切れした。
「どうしたもこうしたもない!」
ザ・漢の怒声によって、白銀マンと眼マンは目覚めた。
そして白銀マンはサンタクロースの衣装を身につけ、眼マンは庭に出て急いでソリを準備する。
「ニャガニャガ〜」
精神マンはメイクをして、更にトナカイの着ぐるみに身を包んだ。愛する白銀マンのためならば、彼は苦難の道を進めるのだ。
「ブロロロオ〜……」
慌てて出発した白銀マンらを見送り、ザ・漢は夕焼けを見上げた。
クリスマスの祝福は間に合うのか。
すでに白銀マンの兄である黄金マンこと暗黒サンタは、世界中を飛び回っているというのに。
「人類の未来は……」
ザ・漢は暮れゆく夕陽の中でつぶやいた。人類が歴史をつなぐのか、ピリオド打つのか、それはこれからだ。
**
クリスマスは終わった。
世界中の子ども達を祝福するという難事を成し遂げた黄金マンと白銀マン。
更に、黄金マンを支援した奈落マン、痛覚マン、鴉マン。
そして白銀マンを支援した眼マン、精神マン。
彼らは揃って休息していた……
「グロロロロ〜……」
ザ・漢は彼らを微笑ましく見回した。
自身の目に狂いはなかった。商人達は人類の未来を守るのだ。
「今は休むがいい…… 全ては目を覚ました時から始まるのだ……」
ザ・漢にとっては、これで終わりではない。人類の未来は未だ負の方向を向いている。
商人は、そして人類は未来を守るのみならず、創っていかなくてはならない。
全ては今から始まるのだ。
**
クリスマスの夜、白銀マンと黄金マンは世界中を祝福した。
白銀マンはサンタクロースとなって、子ども達にプレゼントを。
黄金マンは暗黒サンタとなって、人々を導いた。
「貴様の愛とは、その程度なのか?」
暗黒サンタである黄金マンはソリから降りて、一人の青年に呼びかけた。
「なぜ躊躇した!」
暗黒サンタは青年にドロップキックを炸裂させた。もちろん威力90%減の、軽いドロップキックだ。
「もう一度聞く! 貴様の愛とは、その程度なのか!」
暗黒サンタは再度問う。青年が手にした小箱には、結婚指輪が入っている。
青年は長くつきあっていた彼女に結婚を申しこもうとしたが、ためらってしまったのだ。
今は、彼女も含めた仲間達がパーティー会場で楽しんでいるのを横目に、日も暮れた夜空の下で寂しく小箱を握りしめていた。
「悔しかったら!」
暗黒サンタは傍らの奈落マン――完璧商人始祖の一人にして、今夜は暗黒サンタのアシスタント――の巨体を肩に担いだ。
「モガ、黄金マン、てめえ!」
「言葉一つでこやつを倒せるくらい、徹底的にプロポーズを磨いてみせろー!」
暗黒サンタは奈落マンの巨大を青年に向かって投げつけた。
体重二百キロ近い奈落マンの巨体が、青年に向かって凄まじい勢いで飛んでくる。
「お前は何をする者だー!」
黄金マンの問いと、身に迫った命の危機に、青年の魂は目覚めた。
「うおおおー、俺はー!」
青年は必死の気迫で奈落マンの巨体に立ち向かった。
「……テハハハハ、久しぶりだな、こんなに集まるのは」
痛覚マンはほどよく酔っていた。場には完璧商人始祖が八人も集まっている。
黄金マン、奈落マン、痛覚マン、鴉マン。
白銀マン、精神マン、眼マン。
そして聖夜に現れた悪意を片っ端から撃破していた正義マンである。
「カラ〜、歌唱マンは来んな」
「シャバババー、歌唱もクリスマスが本番だからな」
「モガ、モガ! 幻影マンは夏が本番だしな! まあ、多少はいい奴だがな」
「ニャガニャガ、奈落マンさん、チキン食べ過ぎですよ。みんなの分が足りなくなるじゃありませんか」
「なんだと、テメー!」
「ニャガニャガ〜」
「やめなよ、精神マン」
と、始祖達が酒を飲んで騒ぐのを静かに見つめる黄金マン。黄金のマスクのような彼の顔にも微笑が貼りついている。
悠久の時を過ごしてきた彼ら完璧商人始祖。数億年に渡る長いつきあいの中で、これだけの人数が揃うのは、ここ数万年の間でも数える程度しかない。
「人類の未来か……」
黄金マンは目を閉じ瞑想した。今年もうまくいった。だが果たして来年はどうなるのか。
いつの間にか隣に来ていた正義マンと共に、黄金マンは人類の未来へと思いを馳せる。
**
人知を越えた力を有し、世の経済を司る超人たち……
人は彼らを商人と呼んだ……!
「テハハハハ〜、こいつはいけねえな……」
痛覚マンは苦笑した。今、完璧商人始祖は、人の意識の及ばぬ世界で会議中であった。
「モガモガ…… 人類の世界まで壊すんじゃねえぞ、石頭野郎の弟子……」
奈落マンは泉を覗きこんでいる。この泉は水面に遠くの状況を写し出すのだ。
そして彼らは商人の神である「ザ・王」の話を聞いていた。
「ニャガニャガ、見てくださいよ! 私が回想シーンに登場しましたよ!」
精神マンは少し興奮していた。顔も赤くなっている。まさか他の始祖を押しのけて、彼がピックアップされるとは。
巨握の掌で大木を握り潰したシーンには、奈落マンも筋トレしている様子が描かれている。
「やめなよ精神マン…… 人気No.1は僕だから」
と、さり気なく白銀マンはとんでもない事を言う。
「ふむう…… どう見る黄金マン?」
「……」
眼マンと黄金マンは、水面に写った猛牛マンを見ている。
そして神々は、ザ・漢とザ・王は何をしようとしているのか。
戦死した神の席も含め、その座をかけて商人らに戦わせる気なのか。
何もわからない。わからない事が恐ろしい。
人類の未来は未だ闇の中にある。